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召喚失敗勇者の異世界放浪旅  作者: 転々
一章

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22/220

召喚失敗勇者の養護院訪問

 毎回毎回あの人は、いつも私をイライラさせる。

 いつも礼儀がとか、話し方がとか、色々文句を言ってくるあの人は好きじゃない。

 私たちを助けてくれたシクラさんに使えているらしいけど、いつも私に文句を言っているあの人がシクラさんの侍女なんて、本当に務まっているのか疑問です。

 シクラさんは、私達を助けてくれたことをセクメトリー様のお導きですと言って、自分のしたことは当たり前のことみたいに言う聖人みたいな人なのに、その侍女がアイリスさんなのはわかるけど、あの人まで同じようにしているのは気に入らない。

 あまつさえ、私が冒険者になっているのが気に入らない様だけど、根回しはしっかりしておいたから、文句を言われる筋合いは無いのよね。

 シクラさんは今日は泊って行ってくれて、あの人は家に帰るみたいだから、シクラさんに色々話を聞きたいな。

 byクリス

 シネラリアさんの仲裁もあり、俺はそのまま養護院に泊まることになった。

 カトレアは流石に実家の方に戻るそうだが、明日の朝には迎えに来るそうだ。


 養護院には流石にお風呂は無い為、裏庭にある井戸の所で手ぬぐいを使い体を洗うのだが……井戸の周りは周りから丸見えなのである。

 一応衝立の様な物はあるが、俺の腰辺りまでの高さしかなく、上半身は周りから丸見え状態になってしまうような所なのだ。

 養護院の井戸は独立しているから良いのだが、普通の家の場合は何件かの家と共用なので、誰かと鉢合わせになることもあるそうだが、この世界の人はそれが一般的なためあまり気にしていないようだ。

 城での風呂は、本当に俺に気を使ってくれていたのがようやく分かった。


 俺が体を洗い建物に戻ると、シネラリアさんが待っていた。


「シクラ様、部屋までご案内いたしますので付いて来てください。」


 シネラリアさんに連れられて、二階に上がり部屋に案内される。

 この養護院は、一階が食堂の一部屋で、二階も二部屋しかないようで、片方が小さめの部屋でもう片方が大部屋になっている様だ。

 そしてシネラリアさんは、俺を小さめの部屋に案内した。


「少し狭いですが、この部屋をお使いください。」


 扉が開けられた部屋は、どう考えても客間というより個人の部屋にしか見えない。

 おそらくこの部屋は、シネラリアさんの寝室なのだろうな。


「あの……この部屋って、もしかしてシネラリアさんの部屋ですか。」


「申し訳ありません。この建物にはこの部屋と子供たちの部屋しかないので、私の部屋になりますがシクラ様がこの部屋をお使いください。」


「えっと、そうなるとシネラリアさんはどこで寝られるのですか。」


「私は子供たちと同じ部屋で寝ますので問題ありません。あの子たちが小さい頃には、よく一緒に寝ていましたし。」


 あーうん、流石にこの部屋に泊まる勇気がわかない。

 いくら本人が良いと言っていても、他人の部屋でそれも本人がわざわざ別の部屋で寝るとか、流石に悪い気がして気が引ける。 


「シネラリアさん、俺は子供たちと同じ部屋で良いですよ。」


「しかしそれでは、私が怒られてしまいますので。」


「じゃあ、俺が子供たちと遊んでいる間にそこで寝てしまったって事にしておいて下さい。」


「ですが……」


「流石に急に伺って、シネラリアさんのベットを借りるわけにはいきませんので。俺はどこでも寝られますから問題ないですよ。」



 シネラリアさんは、流石にカトレアが関係している俺が子供たちと雑魚寝では問題があると思っているようで、なかなか承諾してくれなかったが、無理を言って子供たちと同じ部屋寝させてもらう事にした。


 扉をノックして子供達が寝る部屋に訪れると、まだ子供たちはみんな起きていて、俺が扉から顔を覗かせると年少組がわらわらと集まり、手を引いて中へ招き入れてくれる。

 シネラリアさんが、子供たちに俺がこの部屋で寝る事と、ご迷惑を掛けない様にと言って部屋から出ていく。

 この後の子供たちに、滅茶苦茶玩具にされた。


 この養護院には、さっきゴロツキに襲われた五人の他にも三人子供が居るようだ。

 年少組の男の子と女の子一人と、クリス達よりも少し年下の様な女の子が一人いるようだ。

 この子たちは、俺とは初対面で他の子供たちから話は聞いていたようだが、見ず知らずの人が部屋に入ってきて少し警戒している様子だったが、クリスとカウの二人が三人にいろいろ説明しているみたいだ。

 男女共に四名ずつで、クリスとカウともう一人の女の子が子供たちの面倒を見ている様だ。


「兄ちゃん兄ちゃん、今日は泊って行くんでしょ? 遊ぼうよ! 」


「ぐぉ……。あ、ああ、そうだな。」


 さっきゴロツキ共に襲われていた男の子の一人が、俺に猛烈なタックルをくらわしながら飛びついて来た。

 軽くプロレスの様な事をしたり、絵本を読んであげたり……夜も結構遅いのに子供たちはパワフルだ。

 しばらく遊んであげていると、年少組は眠くなったのかうつらうつらしだしたので、布団に運んで寝かしつけてあげる。


 年少組を寝かしつけた後、まだ起きている年長組の三人と色々話をした。

 この養護院の子供たちは、クリスが最年長の十七歳、一つ年下のカウが十六歳、養護院に残っていた少女のベリーが十四歳で、この子たちが基本的には年少組の様子を見てあげているようだが、最近銅ランクになったクリスが外出することが多いので、元気な子はカウが面倒を見て、おとなしい子はベリーが面倒を見ているとの事だ。

 ベリーは、赤毛のショートヘアーでおとなしそうな雰囲気で、何か守ってあげたくなるような女の子だ……ちなみに、この子も結構可愛い。

 この世界に入ってから、物凄く不細工とか見たことないんだが……何かバランスおかしくないか。


 それはさておき、カウは一応冒険者に登録しているが未だ薄銅ランクの為、街の雑用の様な仕事や近隣での薬草採集くらいしか受けていないので、クリス程養護院を開けることは無い。


「それにしてもカウ、いつになったら銅ランクに上がってくるのかしら。」


「いや~、なかなか装備買うお金が溜まらなくて。」


「あんたは使い過ぎなのよ、ちょっとお金が入ると皆にご飯おごったりしてるでしょ。そんなことするより、ランク上げて狩りが出来るようになった方が皆の為でしょ。」


 カウは冒険者として稼いだお金の殆どを養護院の皆にあげていて、冒険者としての装備をなかなか購入できず、ランクが上げられずにいるようだ。

 クリスは、薄銅ランクの時にある程度は養護院に居れていたようだが、少しずつお金をためて今のナイフと短弓を買い、そのおかげで銅ランクの試験に合格して養護院にそれなりの金額を入れてあげている様だ。


「さっさとランク上げなさい、ランクが上がれば収入も増えるのだから、皆に今より美味しい物食べさせてあげられるわよ。」


「でもな、俺ってあんまり戦闘が得意じゃないんだよな。」  


「あんたね、そんな事じゃいつまでも養護院に迷惑が掛かるでしょ! さっさと自立できるように努力しなさいよ。」


「無茶言うなよ。」


 クリスとカウ、二人とも冒険者だが向かう先が全く違うようだ。

 クリスは魔物などの討伐を主とした戦闘型で、カウは運搬や採集などを主とした非戦闘型を目指している様だ。

 戦闘が出来るほうがランクの上りは早く報酬は良いが、魔物との戦闘で負傷したり、最悪死亡したりする危険が伴う。

 しかしカウの目指す非戦闘型は、緩やかにしかランクは上がらず報酬も少ないが、怪我の心配は少なく危険が少ない。

 どちらも良い所と悪い所があるので何とも言えないが、俺としてはカウの方を応援してしまいそうだ。


 二人とも結構ヒートアップしながら話しているが、側で見ているベリーがニコニコしながら見ていると言う事は、このやり取りはいつもの事なんだろうな。


「シクラさん聞いていますか? 」


「あ、ごめん聞いてなかった。」


「もう。聞いてなかったんですか。」


 楽しそうだなって眺めていて、話を全く聞いていなかった俺に、クリスは頬膨らませて非難してくる。


「あのですね、カウが採集とかばかりしていて、狩りや魔物退治に一切行かないんですよ。薄銅でも銅や鉄の人と一緒であれば受けられるのに、そう言ったものを一切受けないんです。ベリーはカウが優しいからとしか言わないし、シクラさんからも何か言ってくださいよ。」


「そうだね。俺はカウのやり方も一つの在り方だと思うよ。自分で戦闘が苦手と分かっているから、採集とかをしているわけだし、魔物との戦闘は結構危険が伴うからね。」


 俺が擁護をしてくれると思っていたようで、カウの肩を持ったことでクリスがちょっとご機嫌斜めになってしまったようだ。

 ほっぺたを膨らませて抗議するのは……可愛すぎてちょっと反則じゃない。


「でも、シクラさんはあんなに強いじゃないですか。」


「まあ身体能力は高いけど、俺もそこまで戦闘は好きじゃないよ。それにクリスみたいな可愛い女の子が、戦闘系の冒険者やってるのが俺はびっくりだよ。」


「か、かわ……。」


 可愛いと言われて少し固まったようだが、首をぶんぶん振って再度俺に話しかける。

 クリスもカトレアと血が繋がっていることもあって、整った顔立ちをしている。

 顔つき自体は西洋風だが、目元などはカトレアとよく似ておりちょっときつそうだが、小さめの顔大きめの目、短く整えられた金髪……元の世界でもこれほどの美少女は少ないだろうと思われる顔立ちをしている。

 それに、この国は結構日本人の血が混じっているようなので、西洋風の顔立ちと言ってはいるが、実際はハーフの様な顔立ちの為、俺の日本人としての感覚でも美男美女ばかりである。


「で、でも、アイリス様は綺麗ですけど、魔王討伐を勇者様と行った程強い方ですよ。」


「アイリスは……まあ、それなりに強いけど、悪魔とかだと一切相手にならないよ。」


「「「え!」」」


 な、なんだ? クリス達がなんかすごい食い付いて来たんだけど……俺、なんか変な事言ったか?

 さっきまで会話に殆ど参加していなかった、ベリーまで驚いているんだが。


「「シクラさん(兄ちゃん)、悪魔が戦ってるところ見たことあるの! 」」


「見たことっていうか、戦って倒したけど……」


「「凄い(スゲー)! 」


「シクラさん、一人で悪魔倒したんですか? それとも誰かとパーティ組んでいたんですか? どんな攻撃してくるんですか、やっぱり凶悪な魔法とか使ってくるんですか! 」

「兄ちゃん、悪魔ってどんな感じ? やっぱり滅茶苦茶怖くて強い? 」


 しまった、悪魔との戦闘は秘密にしておかないといけなかったかもしれない。

 クリスとカウの二人からは質問攻め、あまり話していないベリーからもキラキラした目で見られてしまった。


 子供たちが騒いでいると、バン!と大きな音がして扉が勢いよく開けられる。


「あなた達静かにしなさい! いくらシクラ様がいらっしゃって楽しいからと言っても限度があります! 」


 隣の部屋に居たシネラリアさんが怒鳴り込んできて、子供達に説教を始めた。

 流石に俺は説教はされなかったが「そろそろ遅い時間なので、子供達を寝かせてください」と怒られてしまった。


 シネラリアさんの説教が終わって、年長組も寝ることにしたようでてきぱきと布団を敷いていく。

 部屋の奥側が女の子で、入り口に近い側が男の子たちが寝る様だが、俺用の布団はその間に敷かれていた。

 右隣にはクリス、左隣にはカウと言った感じで寝ることになった。


 カウは直したとはいえ、怪我をしていたのもあったのか布団に入り直ぐに寝てしまったが、クリスはまだ俺と話したいのか小声で話しかけてくる。


「シクラさんってあのアイリスさんよりも強いんですよね。」


「たぶんね。あの時のアイリスは、装備をしっかりしていなかったから、実際の所は良くわからないけどね。」


「それでも、悪魔を倒したのはシクラさんなんですよね? 」


「一応、そうなるのかな。」


 アイリスが現れるまで、俺は悪魔に一方的にやられていたが、アイリスとキスした瞬間に勇者としての力が発現したのか、急に体の動きも、魔法の使い方も段違いにうまくなって悪魔を倒したのだけど、なぜあのような事が起きたのか、今でもよくわかっていない。

 今でも魔法は使えるけど、悪魔と戦った時の様な強力な魔法は使えない感じがする。

 あの時は、何をどうすればどんな魔法が使えるか感覚でわかったけど、今はあの時ほどの全能感は無い。

 皆に聞いても詳しくはわからないとの事だったが、恐らくアイリスは何か知っているのだと思うけど、聞いてもはぐらかされて教えてくれなかった。


「シクラさんってこれから旅をするんですよね? それに一緒に旅をするメンバーを探しているんですよね?

 」


「そうだね、できれば鉄クラス、せめて銅クラスの冒険者を数人雇いたいかな。」


 できるのであれば鉄クラス三人が良いのだが、だめなら鉄一人に銅二人とかで募集したい感じだな。


「だったら、私が紹介してあげます。そのかわりに……私の修行を手伝ってください! 私、強くなりたいんです!」


 寝転がったままだが、真っ直ぐに俺の目を見つめるクリス。


「そうだね、一度その人達と合わせてもらっても良いかな? 訓練にてつだうくらいなら手伝ってあげられると思うよ。」



 この返答が、後々問題になるとは今の俺は全く気がつかなかったのである。

いつも読んでいただきありがとうございます。

次回も月曜日更新になると思います。


前書き追加修正しました。

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