失敗勇者の侍女の都合
変な客が居た。
両手用のロングソードを片手で持ち上げて、剣を眺められるような変な奴だ。
見た目は、貴族のボンボンの様な格好をしているが、体はしっかりしてて剣士としての肉体は出来ている様だな。
この店は、ガンツ武具店。巨大なドワーフのガンツがやっている店だ。
ガンツの店が周りからなんて呼ばれているか本人も知っているが、身の丈に合わない装備を売るような半端者達になんて言われようが気にしていなかった。
しかし、今いる客は本当に変な客だ。どの武器を渡しても平均以上の扱いが出来、あまつさえ秘蔵の剣を扱えてしまう謎の少年だ。
あの剣はガンツが作った武器ではなく、先代の勇者が置いて行った魔剣で、扱えるものに売って欲しいと言われて預かっていたのだが、本当に現れるとは驚いたわ。
しかもあの性能、下手な魔剣と比べても比較にならぬ程の力がある魔剣だが、勇者との約束だから売ったんだが、普通であれば金貨二百枚は超えるような値段がする剣だったのだがな。
まあ、使ってやらねば剣が可愛そうだし、何となくあの剣も嬉しそうな気がするからまあいいかの。
それにしても、ドアの修理はワシがせにゃならんのかな……おっかあに怒られる前に直しておくか。
「あれ、カトレア? 何で養護院に居るの? 」
予想外の所で予想外の人に会い、俺とカトレアは立ち尽くしている。
「え、兄ちゃん、カトレア姉ちゃんの事知っているの? 」
カウの言葉に頷くと、クリスが少し不機嫌そうな顔をしているのに気が付いた。
「そうなんだ。ねえねえ、この兄ちゃんカトレア姉ちゃんの彼氏? 」
「え? シクラ様と私はそんな関係ではないですよ。どちらかと言うと、アイリスの方がそうなんじゃない? ね、シクラ様。」
「いや、そんなことないよ。アイリスは、只仕事をしてくれているだけだから。」
カウの言葉に動揺もせず俺に振ってくるのは、どう考えてもカトレア本人だろうな……それに、アイリスの事も知っているし。
カウや他の子供たちも興味津々だったが、クリスだけは憮然として軽蔑の視線をカトレアに送っている。
「こんな道端ではあれですので、シクラ様中にお入りください。みんなもおかえりなさい。」
「「「ただいまー」」」
子供たちは元気に建物中に入って行くので、俺も手を引かれて一緒に中に入る事になった。
後ろから不思議そうな顔をしたカウと、物凄く不機嫌なクリスが入ってきて微妙な雰囲気が漂っている。
建物は養護院と言うより、ちょっと大きめのボロ……じゃなくて、趣のある民家のような建物だった。
中には、大きな木製のテーブルを長椅子が囲っており、大人数での食事をするのには便利そうな作りの食堂のようだ。
子供たちのただいまコールが聞こえたのか、奥から一人の女性が出てくる。
「あらみんなおかえりなさい。遅かったわね。それの、その方はお客様? 」
年齢は四十前後だろうか、長い茶髪をまとめた落ち着いた奥様って感じの人だ。
子供たちは、俺と手をつないだままその人の所まで引っ張って行き、さっきの出来事をかなり俺の活躍に脚色が入った話をし始め、女性は「うんうん。まあ、それはすごいわね。」と、子供たちの話を聞いてあげている。
「みんな、お話も良いけどそろそろお腹空いているんじゃない? 先に、ご飯食べちゃいましょうね。」
「「「はーい。」」」
子供たちは、この女性の言う事はしっかり聞くようで、まだ話したかったようだが自分たちの食器の準備をするため、棚の方へ走って行く。
「カウもクリスも、おかえりなさい。あとで何があったか教えて頂戴ね。カトレア様もそんなところに立っていないで、お掛けになりませんか。」
「は、はい。申し訳ありません。」
「そちらの……シクラ様でよろしいですか? 騒がしい所で申し訳ありません。よろしければ、お掛けになってください。」
入り口で立ち尽くしていたカトレアは長椅子の端の方の席に着き、ついでに席を進められた俺もその横に腰を掛ける。
年少組の子供たちは夕食の準備を終え、年長組が席に着くのを今か今かと待っている。
年長組の準備が終わり席に着くと、子供たちの「「「いただきま~す」」」と大合唱をして食事を始める。
子供たちが食べ始めたのを機に、養護院の女性が俺とカトレアに紅茶を出してくれる。
「シクラ様どうぞ。私はこの養護院で子供たちを見ている、シネラリアと申します。この度は、子供たちを助けていただたそうで感謝いたします。」
「いえいえ、たまたま声が聞こえたので気になって向かったのですけど、間に合ってよかったです。」
「シクラ様。もしよろしければ、詳細をお聞きしてもよろしいでしょうか。」
俺はシネラリアさんに、俺が見聞きした事、カウとクリスが言っていたことを端的に説明した。
「そんなことがあったのですか。シクラ様、この度は子供たちを守って頂きありがとうございます。何分こんな所なのでお礼に差し上げるようなものがありませんが……。」
「いえいえ、お気になさらずに。助けられたのは神様のお導きと言う事で、感謝を神様に祈ってあげてください。」
「そうですね、セクメトリー様は調和の神。シクラ様をお導きになったのは、神の御意志なのでしょう。 ただ、何か恩返しが出来ることが無いでしょうか。何かお困りごとなどがあれば、私で出来る事であれば致しますので。」
いや、神様に感謝して祈ってもらうのが一番うれしいんですが。
信仰心が高まれば高まる程、俺の帰還が早くなるしこの世界は安全になるんだけど……そんな事言えないしね。
それに困っている事って言っても、一緒にウグジマシカ神聖国まで一緒に来てくれるような仲間を探してはいるけど、養護院じゃどうしようもないしね。
「特に今は困っていることはありませんね。カトレア達、周りの皆も良くしてくれていますしね。」
「そうですか……そう言えばカトレア様は、シクラ様の侍女をなさっているのですよね。シクラ様はこう仰ってますが、何か困っている事などは無いのですか? カトレア様? 」
「あ、え。シ、シクラ様が困っていらっしゃることですか。」
何故か機嫌悪く食事をしているクリスを見つめていたようで、カトレアにしては珍しく話をしっかり聞いていなかったようだ。
カトレアは少し考える素振りをしてから答える。
「そうですね。身辺は特にお困りになるような事は無いかと思いますが、暫くしたら旅に出られますのでその際に仲間となって頂ける様な方はご存じありませんか。」
「カトレア? それは、シネラリアさんを困らせてしまうんじゃないか? そうそう一緒に来てくれる人なんて居ないだろうし。」
「シクラ様、ここは養護院ですよ。過去にここに在籍しており、今は冒険者や傭兵などをやっている者もおりますので、もしかしたらシネラリアさんなら、協力し貰える人をを紹介して頂けるかもと思いまして。」
そうか。別に今現在在籍している子だけじゃなくて、過去にも在籍していた子達がそれなりにはいるはずだから、その中で一緒に来てくれそうな子を紹介してもらえばいいのか。
でも、報酬として支払える金額はそれほど多くは無いから、そんな都合よく来てくれる子なんて居るのかな。
剣を買った残りが金貨二十枚、ウグジマシカ神聖国までは普通に行けば二十四日だが、途中で何かあった場合を考えて三十日だとすると、食料など必需品だけでも金貨一枚は必要だし、白虎クラスの白金等級だと、それ程危険では無ければおおよそ週に一人銀貨五十枚。
片道の護衛だと、往路にかかる代金が五割増しで増えるから、一人七十五枚にもなってしまう。
ウグジマシカ神聖国までの道のりだと、一人でもおよそ金貨三枚……三人雇えば残りは十枚ほどになってしまう。
これが金等級になると週五十枚になり、銀等級だと二十枚ほどになるが、ウグジマシカ神聖国までの長距離の護衛ともなると、銀等級以上のクラスだと受けてくれないことが多いそうだ。
「そうなのですか。旅に出られるのでしたら護衛は必要ですが、お囲いになっている護衛などはいらっしゃらないので? 」
「いやいや、俺はそんな大層な身分でもないのですよ。護衛等に伝手が無いもので、冒険者か傭兵でも雇いたいのですがどなたか紹介して頂ける様な方はいませんかね。」
シネラリアさんはカトレアの方を見て少し首を傾げ不思議そうにしているが、カトレアが首を小さく振ったのを見てそれ以上聞かないでくれるようだ。
「それで、シクラ様はどこまで旅に出られる予定なのでしょうか? それによってはご紹介出来るかもしれませんし。」
「とりあえずの目的地は、ウグジマシカ神聖国までになりますね。」
「ウグジマシカ神聖国までですか。そうなると、鉄もしくは銅等級になるのですけど……鉄等級の子達は王都に殆どいませんのでそうなると銅等級になるのですが、私が紹介して差し上げられそうなのは……クリス位でしょうか。」
シネラリアさんはちらっとクリスを見ながら言うよ、カトレアが驚愕して椅子を蹴倒して立ち上が。
「うぉあ! いてぇ。」
一緒に座っていた俺は、長椅子が急になくなりゴチンといい音がする程の勢いで頭を地面にぶつけた。
実際にはそんなに痛くはないが、条件反射で声が出てしまった。
「シ、シクラ様申し訳ありません。」
「大丈夫、それ程痛いわけじゃないからさ。」
カトレアは謝罪をしてくれたが、どうもいつものカトレアらしくない。
クリスが銅等級を取っていたことが、それ程問題なのだろか?
「そ、それでシネラリアさん、クリスが銅等級になっているのですか? そんな話私は聞いていないですが。」
「言っていないですからね。それに、最近カトレア様がいらっしゃらなかった間に、クリスとカウが冒険者の登録したんですもの。その後、依頼を何件か受けてクリスは銅等級になったんですよ。」
「最近こちらに伺えてなかったのは事実ですが、なぜそんな急に冒険者に……。」
「二人とも、少しでも養護院の足しになればと言っていたわ。クリスのおかげで、今日のスープにもお肉が入っているんですよ。それに二人とも今年で成人になったのですがから、私から何か言うのは間違っていると思うのよね。」
楽しそうに話すシネラリアさんとは対照的に、かなり焦って様子のカトレア。
年少組は、こちらの騒ぎを気にせず黙々とご飯を食べており、カウとクリスの年長組は、こちらの事を伺いながら食事をしているが、クリスはカトレアと視線が合うと、フンと言うような感じで首を振って視線を合わせようとしない。
カトレアは、少しイラっとした感じだったが、シネラリアさんはあらあらと言った感じで気にしていない様だ。
この二人が仲が悪いのは、今に始まったことじゃないみたいだな。
「それに、クリスが直接旦那様にご許可を頂いたようなので、問題はございませんよ。」
「お父様の許可を!? 」
なんでクリスが冒険者になるのに、カトレアのお父さんの許可が必要なんだ?
もしかして、カトレアとクリスって……。
「なあカトレア。もしかして二人って……。」
「はい。父親は同じですが母親は違う、腹違いの姉妹です。」
それでか……妙にクリスがカトレアに絡むのはそれが原因か……でもそれだと……。
「何でクリスは養護院に居るんだい? 」
俺の不用意な一言で、シネラリアさんとカトレアが固まった。
やっちまったなと思ったが、当の本人であるクリスは何故かそこまで気にしていないようだ。
「「「ごちそうさま~」」」
そんなこんな話ている間に、子供たちが晩御飯を食べ終わったようで、シネラリアさんはいそいそと食器の片づけにむかって行った。
カウもさっさと食べたのか、既に子供たちと一緒に別の部屋に行ってしまっていて、残ったのは俺とカトレアとクリスだけになった。
クリスも食事は終わっていたが、食器を片付けた後もこの場に残っていた。
カトレアとクリスがにらみ合うように見つめ合っているのを見ると、物凄く場違いな場所に居る気がする。
「クリス。あなたはなんでそんな勝手なことをするの。勝手に冒険者になって、しかも既に銅等級になっているとか。」
「あなたには関係ない事でしょ! 」
「関係なくなんてありません! 私はあなたの姉なのですよ! 」
「あなたを姉だなんて思ったことは一度もない! いちいち関わり合いを持とうとするのはやめて! 」
二人とも少し感情的になって、俺が居ることを忘れている気がするんだけど。
ううむ、流石に家庭間の問題に俺がかかわるのは良くないだろうし、そろそろいい時間だから流石に帰らないとまずいよな。
「よいしょっと。カトレア、流石にそろそろ帰らないとまずいだろうか、俺はシネラリアさんに挨拶をしてから帰るね。」
「あ、申し訳ありませんシクラ様。恐らくこの時間では王城の城門は閉じてしまっていますので、帰ることは出来ないかと思います。」
「え、マジで。俺無断外泊になるんだけど、大丈夫なのか。」
「あまりよろしくは無いでしょうが、一泊位であれば問題ないと思われます。それに私も居りますので、そこまで問題にはならないでしょう。」
カトレアは、いつものように恭しく対応してくれるが、さっきの姉妹喧嘩を俺の前でしてしまった事もあり少し顔が赤い様だ。
まあ、一応カトレアが居るから従者と一緒なら問題ないって事なのかな。
「でも寝る所はどうするんだ? 今から宿なんて取れるのか? 」
「この時間では流石に宿は満員でしょうから、私の実家に泊まられてはいかがでしょうか。」
「え、あ、いや。カトレアの実家って……流石に俺が泊るのはまずいんじゃないか。」
「そうですよ。あんなところに泊まる必要ないですよ。シクラさんはここに泊まって行けば良いよ。」
「クリス、シクラ様の事は様ををつけて呼びなさい。それに、屋敷に泊まって頂いた方が色々問題が無いですから。屋敷の者も居りますし、私以外にもお世話を出来る者も居りますので。」
「あんな屋敷のどこが良いのかわからないわ。シクラさん、みんなも喜ぶと思うから泊って行ってよ。」
姉妹の間で、見えない火花がバチバチと散っているのがわかる。
この二人の攻勢は、シネラリアさんが戻ってくるまで続くのであった。
いつも読んで頂きありがとうございます。
次回も、月曜日更新になると思います。




