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召喚失敗勇者の異世界放浪旅  作者: 転々
第五章
201/220

失敗勇者とサタナス

 魔王となったシクラが悪魔達を全て蹴散らした。

 対タケミカヅチとの戦いに参加した者達は、既に殆どがシクラによってイオリゲン王国へと送られている。

 残っているのは神のセクメトリー、八咫烏、竜神の三柱と、アオイちゃんに憑依したアカリとヒエンだ。

 殿を務めなければ恐らくここにラグノーラも加わっていただろう。

 実力的には前鬼後鬼もここに残っていてもおかしくは無いのだが、彼らはタケミカヅチと戦うには力不足と言うことで竜神により帰還させられた。


「竜神様。本当に帰らせて宜しかったのですか?」


「かまわぬ。あれらの力ではタケミカヅチと戦うには力不足だ。それに、本来の役目は別にある」


 二人の本来の役目とは、娘であるヒナノの護衛の事だ。

 竜神自身この陣営で挑んでタケミカヅチに負けるとは考えていないが、万が一の場合に備え二人を共生的に帰還させたのだ。

 

「それに、あやつらが夢幻大陸に帰ればこちらの状況を詳しく把握できるだろう」


 人種陣営は壊滅してしまったが、神側はシクラが浅井後に少し出張って疲労した程度で万全な状態。

 逆にタケミカヅチ側は守りとなっていた悪魔達が全滅したことで、戦力的には多少落ちている計算になる。

 ただ、階位が上がった状態でどこまで強さが増しているのかという不確定要素があるため、夢幻大陸に出来るだけ戦力を残したかったのだ。


「さて――そろそろか」


 竜神のそのつぶやきに反応するかのように、彼等の目の前にまばゆい閃光と共に一筋の雷が落ちた。

 そこには――良く分からない物がいた。

 それが現れた瞬間全員に緊張が走る。

 気配はタケミカヅチのものだが、その形状が人のそれではない。

 黒変色したその何かは、人の形を取ろうとしたのかグネグネと動くがそれっぽい形になるが、影で作った人のように顔も――何も無かった。


「あ、あれは――いったい……」


「恐らくタケミカヅチだった物だろう……」


 真っ黒にな色をした人方はその後も不規則に動き回った後、何かを話すかのような手振りをする。

 そのちょっとした動きだけでこの場にいる全員が何かを感じ取る。

 危機感を抱くと言ったレベルではなく、本能的にあれには勝てないと感じたのだ。


「あれはいったい……」


「あれほどおぞましい物は見た事が無いぞ」


 セクメトリーと竜神は何とか会話できているが、アカリとヒエンは驚愕の表情のまま固まっている。

 八咫烏は彼らとはまったく違い表情は良く分からないが、雰囲気的に忌々しく思っているようだ。


「あれが侵略者に乗っ取られた者の末路だ。タケミカヅチの分け御霊は完全にあれに乗っ取られたようじゃ」


「!?」


 驚きの表情でソレを見つめる二柱。

 一見すると黒く蠢く粘液体のようにも見えるが、それが放つ力は既にタケミカヅチの者ではなくなっている。

 

「あのようなおぞましい感覚のものは初めてだ……」


「竜神がそう言うのならタケミカヅチはこの世界に来た時には侵略者の何かを持ってきたと言う訳ではなさそうだな」


「そのようだな……と言う事はタケミカヅチがああなったのはこっちに来てからと言う事か。しかしいつ――」


 全てはタケミカヅチの分け御霊が行った事と思われていたのだが、その前提が崩れてしまった。

 竜神と共にこの世界に降り立ったタケミカヅチは未だ侵略者に何かされた様子はなかったが、この世界の神々を悪魔にする呪いはタケミカヅチから借り受けた力を受け取ってからと()()()()()()


「……もしかすると、この世界に始めから侵略者が侵入していたと言う事ですか?」


「それしか無いであろう。――ふむ、そう言えばなぜ七神は呪われておらぬのだ?」


「それはタケミカヅチが世界をまとめるのにその方が良いと考えたのでは?」


「いや、それではおかしいのだ。それであればタケミカヅチが呪われ、他の六神が呪われていないのが不自然ではないか? 」


「っ! と言う事は、六神の内の誰かが既に浸食されていたと!?」


「状況的に考えればそれ以外にあるまい」


 八咫烏の言葉にセクメトリーは当時の状況を思い出そうとする。

 タケミカヅチが新たにこの世界に降臨した際、圧倒的な力に恐れおののく我ら神々はどうしたものかと集まったはず。

 その時この世界でも上位の神々である者達の殆どが集まったが、一部自領域から出てこない変わり者も居た。

 しかし、大部分の神々はタケミカヅチにとの対談に参加し……そこで呪いを植え付けられた――はず。

 思ったよりも友好的で安心した我らは、彼の神の力を借り大騒ぎしていた覚えがある。

 あの時――最初にタケミカヅチから力を受け取ったのはハイペリカム。

 最初に神になったとも言われており、当時神としては最大の力を有していたハイペリカムがまず受け取った。

 そして、当時から力のある順番にフロックに私――と言った形で力の強い順に受け取ったはず。

 そう考えると――。


「……恐らく第七神サタナスが浸食されていたのではないかと」


「そう考えるのが妥当だな。それ以降の神々が全て浸食され、最後に力を戻したタケミカヅチが浸食されたのであればサタナスと言う者が当時浸食されていたのだろう」


「とは言え、サタナスは既にタケミカヅチに吸収されてしまったようなので真実はわかりません」


「まあそうじゃろうな。っと、皆の者かまえろ。そろそろ奴が動き出すぞ」


 その言葉に全員の意識が粘液体に向けられる。

 先程までの不定形だった物が徐々に人の形になって行く。

 それはタケミカヅチをベースにしてはいるが、腕には植物が生え、髪は炎になり、体は岩に、足は猛禽類を思わせ――顔はスライムの様な形状に納まった。


「――あれは取り込まれた神の力をそのまま表しているようですね」


「六神全ての力を扱えると思った方が妥当かの」


「属性的には火と土と水――それと雷は無効化されそうですね」


 タケミカヅチの分け御霊だった者が、ぐりんと気持ちの悪い動きでこちらを見た。 


「っ! 」


 直接目が合うと先程の様に全身に気持ちの悪い感触がするが、先程よりも幾分かマシになった様にも感じる。

 それは恐らく間違いではなく、アカリやヒエンもあれを見ることが出来ている。

 形状が定まったことによってその不可思議な危機感が減ったのか、もしくはそれがおかしくなる程強烈な危機感で麻痺してしまったのか。

 

「どちらにせよやることは決まっておる!」


「竜神とアカリが前衛、八咫烏様とヒエンは援護を」


 竜神は最初から全力で行くようで、人と竜が交わったような姿に変化する。

 アカリは剣を構え、ヒエンからの支援魔法で強化する。

 セクメトリーは後衛から魔法で攻撃するようだが、殆どの属性が使えない現状風と氷でしか攻撃手段が無さそうである。

 しかし、風属性は生物にはある程度効果はもたらすがそれ以外には阻害効果程度しかなく、氷属性も火と水が無効な相手には効果が薄いと考えられる。

 恐らく魔力をそのまま打ち出す無属性で攻撃しようと考えているのだろうが、無属性は衝撃や魔力を散らす効果が高いが攻撃としての効果はいまいちなのだ。

 八咫烏は未だ姿はそのままに、相手の様子を伺っているように思える。

 

「ギィィィィィイイイヤァァァァァァアアアアアアア!!!」


 不定形のそれは金切声のような叫びをあげると、こちらへ向かって来るのだった。

 セクメトリー達へと向かって歩き始めるタケミカヅチの分け御霊だった者――そしてこの場に居るもう一人は動くこと無く成り行きを見守っているのだった。

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