失敗勇者の武器
何という事だ……この世にこんな物があるとは……勇者の料理とはすばらしいものだ。
シクラが提供したレシピを元に、料理人が多少手を加えて提供したもの、プリンなる物食した国王は感激していた。
このイオリゲン王国には、デザートとなる料理はほとんど存在せず、甘味と言えば少し酸味のあるフルーツばかりである。
そもそも、砂糖がイオリゲン王国では生産せておらず、南方のウグンジセイ王国か、西方のヤシイタモズイ王国でしか生産されておらず、調理法自体が確立していないのである。
このみたらし団子なるものや、あんこなる物も素晴らしい……なぜ過去の勇者様達は教えて頂けなかったのか。
ん? これ、やめぬか。それはワシが楽しみに残しておいた大切なみたらし団子だぞ、あ、あ、あああああ! ……つ、妻よ酷くないか……私の最後の楽しみを……。
おい、娘達……そこにあるのはワシのあん団子ではないか? いつのまに、皿から無いのだが、そ、そなたら、やめてくれぇぇぇぇ……嗚呼、ワシの……ワシのデザートが……。
国王は、この事件で少しの間機嫌が悪かったそうだが、シクラが他にもデザートの作り方が分かったら教えてくれると言ったおかげで、国王の機嫌が直ったとの事だ。
夕暮れの中、城の帰るりながら今後の事を考えてみる。
路銀と移動手段は手に入れたから、後は装備と食料や雑材と……仲間だな。
でも、仲間と言ってもどうしたものか……冒険者や傭兵を雇って行っても良いんだけど、ウグジマシカまで行くまでの護衛だけでも金貨がいるほどの出費になってしまうしな。
低ランクの冒険者等であれば、雇う事は可能だろうけど……流石に心許ない。
そんなにすぐに見つかる訳は無いから、地道に探すしかないかな。
一旦城に帰ったら、カトレアやアイリスに相談してみるのも良いだろうし、日を改めてトラオウさんを訪ねてみてもいいかもしれないな。
装備に関しても、騎士団で訓練しているときは借り物から自分の物ではないし、買うにしてもどの程度の物を買ったらいいか見当もつかないんだよな。
野営訓練の時の様な剣があればいいんだけど、魔法鉄の剣って言ってたし、かなり高いんだろうな。
魔道具もそうだけど、この世界は武器や便利な道具は異常に高いから、なかなか買うに買えないんだよね。
う~ん、実際の値段がわからないと考えようがないな……そう言えば、実際に武器とか売ってる店見てないな、この間歩いた辺りには売ってなかったし鍛冶屋街の方に行けば店があるのかな、少し寄って行ってみよう。
鍛冶屋街は街の西区にあり、騎士団駐屯地や練兵場が中央寄りにあり、鍛冶屋街は城壁側に集まって居る。
この国で使われている装備のほとんどがこの鍛冶屋街で製造され、騎士団の正式装備から、冒険者向けの癖の強い装備まで様々なものを扱ってる。
トラオウさん達が泊っていた、陽光宿は東区の中央寄りにあった為、教会を迂回して直ぐに西区に入ることが出来た。
俺が一人鍛冶屋街に歩いていると、騎士団駐屯地から帰りなのか、数名の騎士たちが正装ではなく普通の服装で出て来た。
「あれ、シクラ様じゃないですか。体はもう大丈夫なんですか。」
「流石に訓練には参加できないけど、普通に動き回ることは出来る様にはなったよ。またそのうち、全快したら訓練に参加させてもらうかもしれないから、その時はよろしくね。」
この後、たわいもない会話をして騎士団員のみんなと別れて、鍛冶屋街に向かう。
この時に、一応良さそうな鍛冶屋を教えてもらったけど、騎士団員はあまり自分用の装備を買う事がないので詳しくわからない様だった……一軒だけ良い店を知っている様だけど、店主が気難しい人らしくあまりお勧めできないとの事だった。
日が落ち始め、辺りが暗くなって来ているが、この鍛冶屋街からは煙が何本も立ち上り、ガンガンと金属を叩くような音がそこら中から聞こえてきている。
この時間帯でも、店はやっているようで、鍛冶屋街は冒険者や商人達がそれなりに歩いていた。
近くの店を覗いてみると、綺麗に磨かれた件が幾本も並べてあるが、値段から察するに普通の鉄製の剣のようだ。
ぶらぶら歩いていても埒が明かないので、さっきの騎士団員に教えてもらった店を何件か見て回るが、練兵場で使うような装備が並んでいる店が大半で、たまに魔物の素材出てきている変な武器とか売っている店もあるが、魔物素材の武器は値段が半端なく高かった。
例えば、クイーンビーの毒針を使った短剣金貨十枚とか、ミールタイガーの牙を使った槍金貨五十枚だとか、金額がでかすぎて意味が分からない。
めぼしいものが見つけることが出来ず、最後に店主が気難しいと言っていた店に行ってみる。
鍛冶屋街の奥の方にあり、外壁のすぐそばにあるこじんまりとした店だが、店の中からは金属を叩く音がしているので、まだ営業はしているのだろう。
「おじゃましま~す。」
扉を開けて店の中に入ると、魔道具で照らされた店内、目の前に傘立ての様な物に建て替えてある武器類、壁際には鎧掛けが無数に並んでいて、皮鎧からフルプレートメイルまで様々な者が並べられている。
目の前に並べられている剣は、鞘自体は華美に装飾はされておらず実用性重視のデザインで、持ち手も装飾などされておらず、ただの武骨な剣のように見える。
少し気になって、留め金を外して剣を抜いてみる……剣は、シャリっと金属が擦れる音がして鞘から抜ける。
磨き抜かれてその刀身は、魔道具の光を反射して光っているかのように磨き上げられ、持ち手も鞣して柔らかい皮が丁寧に巻かれており、訓練で使っている剣とは持った感覚が全く違った。
「これが俗に言う、手に吸い付く感覚って事かな……それにしても、なんだろう……この剣他の店の物となんか違うな。」
重量は……まあ、俺が持つと大体の剣は軽く感じるんだけど、この剣はその剣よりも重く感じるが、いろんな角度に持ち手を変えても、手にフィットする感触がしてとても持ちやすかった。
他の店と何が違うんだこれ? 持ち手のが良いのはわかるけど、全体的にバランスが良いのかな。
俺が剣をいろんな角度から眺めていると、キィと音がして店の奥から誰かが出てくる。
「おう、小僧てめぇ何者だ。」
奥から出て来たのは……たぶんドワーフだと思うんだけど……でかくない?
普通のドワーフは、子供の身長位の大きさで、樽の様な体つきをしたガチムチのおっさんが多いんだけど、このドワーフは……身長が俺と同じくらいで、腕とかは俺よりも遥かに太く、まるでプロレスラーみたいな体系の引き締まった体をしていた。
そして俺は、勝手に店の物を手に取って、しかも剣を抜いていたのを思い出した。
「あ、す、すいません。み、見事な剣だったのでつい。」
「ああん! そんなこと聞いちゃいねぇ! てめぇは何者だって聞いてんだよ! 」
「あ、えっと。今王宮で世話になっている者で、自分の武器を持って居ない物でして、良い武器がないか探しに……。」
「そうじゃねぇ! お前さんが今持ってる剣は、そこらの有象無象が片手で軽く持てる剣じゃねぇんだよ! それを片手で持ち上げるなんざただもんじゃねぇって事だよ!」
「そ、そうなんですか。何というか、力だけはある方なので。」
こ、この剣ってそんなに重いの!? 訓練用の剣より少し重いな位には思ってたけど。
ドワーフのおっさんは、ずんずんと凄い勢いでこっちに歩いてきて、俺が持っていた剣取り上げた。
「ふん。小僧、手を見せてみろ。」
「あ、はい。どうぞ……うぉ! 」
オッサンは、俺が差し出した両手の手首をつかみ、掌を上に向けた状態でじーと俺の手を注視してくる。
俺の手は、悪魔討伐以降剣を握っていないが、それまでは騎士団で地獄の特訓をしていたため、掌には豆れたりして結構硬くなって、一応剣を振る人間の手にはなっていると思う。
というか、力強く握られ過ぎて痛いんだけどこのオッサン。
「ふん……良いだろう。どんな剣が欲しいんだ。」
じっくりと俺の手と睨めっこしていたオッサンが、俺の手を離しながら聞いてくる。
「そこまでお金があるわけではないので、できれば金貨十枚までの範囲で買いたいのですけど。」
手持ちには、金貨三十枚と銀貨などの少しあるだけなので、他の装備の事も考えると最大でも金貨十枚までしか出せない……だけど、この店の剣は他の店とはランクが違う気がするので、手持ちで買えるかどうかが何とも言えないんだよね。
「ふん。それで、どんな剣が欲しいんだ。(手を)見た感じだと、片手でロングソードを使っている様だが、手先はそこまで器用じゃねぇ感じだから、少し長めのショートソードと盾持ちにした方がいいんじゃねぇか。長剣を片手で振りまわせるのはすげぇが、おめぇさんの技量じゃ怪我するだけだ。魔物相手なら問題ないだろうが、人種の強い奴には勝てねぇだろうな。」
俺は自分の武器を当てられて、普通の騎士団員相手なら問題ないけど、ヒューズさんクラスだと簡単に躱されたりしてるのがわかるんだよ……それにしても、このオッサンのどこが気難しいんだ?
俺の手を見ただけで長剣使ってるのわかるし、技量もそれなりに見抜いているような凄腕の鍛冶師なだな気がする。
なんで、騎士団員がはこのオッサンが気難しいって言ったのかわからないな。
「で、どうするんだ。そのまま慣れたロングソードで戦うのか、少し短めにして盾持ちにするのか。」
「そうですね、ロングソードだけだとやはり少し不安なのですが、盾を使った戦い方をしたことがないんですよね。一回それぞれの武具を見せてもらってもいいですか?」
「ちょっとまってな、良さそうな物見繕ってやるから」
オッサンは、さっき出てきたドアへ戻って行き、奥からドタンバタン盛大なと音がしている。
それにしてもそうだよな、いつもは訓練用の剣でしか訓練していないし、悪魔倒した時も手元にある武器だったし、なんの武器が俺に向いているかわかってないんだよね。
室内にはロングソードやショートソードのほかに、レイピアの様な細剣やハルバードの様な重量級の武器まで様々な武器が並べられている。
どの武器も綺麗見磨き上げられ、そのまま持って行けば使用できるレベルの品物のようだ。
「それにしても色々な武器が置いてあるな……あれ、そう言えばどの武器も値札が付いていないけど、どうなってるんだ。まあ、俺は予算を言ったから大丈夫だと思うけど、値段がわからないのは困るんじゃないかな。まあ、いいんだけど。」
どの武具を見ても、値札の様な物は一切ついておらず、何の金属で作られているかすら書いていないが、どの品も他の店とは比べ物にならない程品質は良さそうだ。
「待たせたな、お前さんに合いそうなのはこれだな。」
オッサンが、奥の扉から剣を三本と盾を持ってやってくる。
まずは、さっき見ていたようなロングソードを渡してくる。
剣を受け取ると、さっきの剣と同じような重みがする、少し重めの剣のようだ。
柄を握り剣を抜きだすと、さっきの剣よりも少し薄めの刀身があらわになる。
持ち手の部分は相変わらず手にフィットする感じで、刀身自体は少し細めだけど、振った感じのバランスも良く、なかなか良さそうな気がする。
「軽々と振るいおって。まあいい、次は盾持ちの方を使ってみな。」
剣を渡し、新しい剣と盾を受け取る。
盾は左手の腕をわっかに通して、持ち手を握って使用するカイトシールドで、盾だけで上半身が隠せそうなほど大きくて動きづらいが、その代わりに剣が少し小さめの物になっていて、攻防一体で戦えそうな装備のようだ。
盾が大きくて多少阻害感はあるけど、弓とか使われたか剣だけじゃ防ぎようがないし、金属製なので斬撃自体も受け止められそうな程頑丈そうなので、これもありといえばありなのかな。
ロングソード一本で行くか、それとも盾持ちで行くか悩みどこだな……ロングソードのみなら、動きの阻害もなく素早く動くことができるが、盾持ちなら相手の攻撃を受け流しながら戦うことができる利点がある。
「悩んどるようだな。小僧、最後にこの剣持ってみな。」
そういえば、さっき部屋に入ってきた時、何故か三本の剣を持ってきていたんだっけ。
三本目に渡された剣は、持った感じは先ほどのロングソードと変わらない感じなんだけど、何故同じような剣を渡してくるのかわからなかったが、一応受け取って剣をお抜いてみる。
重さはさっきのロングソードより軽く、刀身は先ほどより太く一般的なロングソードと変わらないように見える。
振ってみた感じは、いつもの剣に近い感じはするが、さっきおロングソードの方が動きやすさなどを考えるといい気がする。
「小僧、剣を構えてこう言え、『出でよ!我が敵を弾く盾、ソードシールド』って。」
「それって言わないといけないんですかね……。」
俺がそういうと、おっさんの顔が急に怖くなっていく。
「ああん! 俺が言えって言ってるんだから、その通りに言えばいいんだよ!ささっと言いやがれ! 」
ものすごい剣幕で言い寄られて、びびった俺は頑張って厨二フレーズ言うことにした。
「わ、わかりました。えーと、なんでしたっけ。『い、出でよ! 我が敵を弾く盾、ソードシールド。』……なんだこれ。」
呪文唱えた俺の目の前に現れたのは……
前書き作成しました。
次の更新も月曜日に出来ると思います。




