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召喚失敗勇者の異世界放浪旅  作者: 転々
第五章
175/220

失敗勇者とミュラー侯爵再び

 ヒナノの思いつきのバーゲンセール。

 それを数日中に行うには様々な問題がある。

 物品に関しては現在ヒナノと夢幻大陸の長たちで話し合われているが、問題は開催場所である。

 大陸側で行う市になるのだが、都合がよい場所といえば入港祭りなどを行っていおり唯一の貿易先であるユピリルだ。

 定期的な船の入港の祭りのような物ではなく、初めての夢幻大陸主催の市というのが問題だ。

 ただしこれはカトレアの方で領主への許可を得ること思うとのことなので、夢幻大陸の代表として酒呑童子と一緒に行って貰うことになった。

 鬼族であればゲートを使うことが出来るらしいが、ここまで遠距離となるとかなり上位の鬼族でないと届かないそうだ。

 届かないだけで使えるってだけでも、彼らがこの世界でのかなりの上位者だということは分かる。

 そして、ゲートをつなぐことは出来るのだが、そこからどうやって冒険者達をこちらへおびき寄せるかということだが。


「あの――トマさん。本当にこれを依頼してよろしいのですか?」


「ええ、お願いします」


「……わかりました。依頼内容は、新たに開かれる夢幻大陸産交易品市『バーゲンセール』の手伝ですね。一日百人で三日で三百人まで。依頼料はウグジマシカとユピリル間の片道ゲート使用と銀貨十枚と――優先購入権?これは? 」


「依頼を受けている最中に買い物などは出来ないでしょうから、どれを買うか先に選ぶことが出来る様にしたんです。一日の依頼に対して一人一枚なので、最初から三日依頼を受けてくれる人は三枚最初に配布します。あとはそれで購入する人は一割引きになりますね」


「……そう言うことですか。では、そちらについても記載しておきますね」


「よろしくお願いします」


 市の設営や警備を行うには少ない金額ではあるが、その最大の利点を受付の人気が付いてくれたようだ。

 夢幻大陸産の普段一般にはお目にかかれないレベルの装備品や希少な物品の数々、それが優先的に購入できるとあれば上位の冒険者ほどこれが効いて来ることは間違いない。 


「等級指定は致しますか?」


「そうですね。警備もかねるので鉄級以上を優先して頂きたいですが、枠が余るようであれば銅級でも構いません」


「それでしたら――銅級は一日まで、鉄級以上は限度なしにで募集にしましょうか」


 受付の人の提案に頷いて要項をまとめてもらう。

 その後も細々とした内容確認をした後、依頼金と手数料一割を支払い受付を完了となった。

 ウグジマシカの冒険者のみという指定については一応質問されたが。


「ユピリルとウグジマシカですと、交易船の順番的にあれですから……」

 

 といったら納得してくれた。

 受付の人が納得するほどこの世界では交易船は魔物も出ることからなかなか難易度が高い。

 大陸を反時計回りに色々な船団が動いている為、大陸東部にあるウグジマシカからの交易品は流れてくるが、北西端のユピリルの交易品が流れるのは稀である。

 

「ただ、この依頼で明日からとなるとどれだけ集まるか分かりませんがよろしいですか?」


「ええ、大丈夫です。一応他にも手は打ってありますので」


「わかりました。それではこれで受付完了となります」


 俺は礼をいって冒険者ギルドを後にする。

 そして翌日――酒呑童子が作ったゲートから続々とあふれ出す冒険者は、予定人数一杯の百人だった。

 鉄級以上が半数程で残りは銅級だが――一部には目を血走らせている者達も居る。

 恐らく彼等の場合はカトレア達に頼んだ、商人ギルドに流させた情報のせいだろう。

 冒険者ギルドだけではそれ程の人数が集まらないのではないかと言う話になり、カトレア達が商人ギルドに口利きが出来ると言う事で()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と流したからだろう。

 向こうでは――と言うか、こっちでも初の夢幻大陸からの大量出品になるから低級の冒険者に依頼して購入させに来たのだろう。

 集まった冒険者達の面倒は、カトレア達に任せる事になっている。

 

「私達ではシクラ様方と一緒に戦う事はできませんので、せめてこちら側でのお手伝いをさせて頂きます」


 カトレアからの提案に乗り、彼女らにはユピリルに冒険者を留めるバーゲンセールの取りまとめをお願いする事になった。


「アイリスだけずるーい!!!」


 リリーが若干――と言うか、アイリスだけ俺達と一緒に行くことに不満を見せてこまっていたのだが。


「そう?じゃあ、リリーが一緒に行けるか私と戦ってみる?」


「おばあ――いえ、アルル様!だ、だ、だ、大丈夫です!行ってらっしゃいませ!!!」


 リリーがおばあ様と言いかけた瞬間周囲にいた全員の背筋が凍り付くような殺気を放つアルルだが、流石にリリーもアルルわがままは通用しないと言う事に気が付いたようだ。

 まあ、そんな事もあったが――冒険者達の手配は問題なく進みそうだ。

 

「それでは行ってまります」


「カトレアよろしくね。念のためだけど、鬼族の人達とは揉めないようにね」


「ええ、わかっております。それでは冒険者の皆さんこちらへ」


 俺に礼をした後、冒険者の一団を率いて港の方へと向かって行く。

 カトレア達もそれなりに戦えるレベルになっては来ているが、見た目がお嬢様や侍女の様な感じなので問題が起こらないようにユピリルので知り合った冒険者を護衛に付けている。

 それに、ギルドから貰った情報で一番信用のおける高ランク冒険者にこちらから別報酬を出して全体の取りまとめをお願いした。

 金銭か購入権追加かを聞いてみたのだが。


「「「購入権を!!!」」


 と、そのパーティ全員が言ったので追加で渡しておいた。

 

「あの、もしかして取りまとめを三日間行えば――その……」


「ええ、合わせて三枚に――」


「三日間頑張らせて頂きます!!!」


 と言う事で、三日分の冒険者達のとりまとめもお願いできてしまった。

 まあ、それだけではあれだったので、俺がユピリルに来た当初に泊ったあの部屋を三日分彼等ように予約してあげた。

 その後俺達は夢幻大陸へとゲートで戻った後、マウントドラゴンの配下のワイバーンに乗ってウグジマシカ神聖国へと向かうのだった。

 ぶっちゃけ酒呑童子のゲートで向かえばいいんじゃないかって思うだろうが、ウグジマシカ神聖国からのゲートは開くことはできるがウグジマシカ神聖国へと向かうゲートは開くことができないそうだ。

 これは今に始まったことではなく、ウグジマシカ神聖国が出来た頃からあるタケミカヅチの結界が関係しているそうだ。

 まあ、だからこそこんな回りくどい移動になっているんだなと説明されてようやくわかったのだった。 



 ――ミガーサの街

 イオリゲン王国の最東端にあるアイリスの家が統治する街には、今までにないほどの緊張感が漂っていた。

 アイリスの父親が代理領主としてこの街を治めているのだが、その彼と応接間で相対する人物にアイリスの父親は超弩級緊張を強いられていた。

 

「急な申し出ですまないが、これもあの方々の支援の為だ」

 

 領主であるアイリスの父親に偉そうに言うその男は、カトレアの父であり侯爵であるヒエン=ミュラー侯爵だった。

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