失敗勇者と半神
なるほどね。この世界と元の世界では神の力の差があるみたいだから、娘と言うだけでもこれだけの力を秘めている訳か。
マウントドラゴンと話をしながら彼女を見ていたせいか、件の女性と目が合ってしまった。
女性はにっこりと俺に笑顔を向けて来た。
俺も笑顔で返すと何故か急に驚いた顔をして隣の二人と何か話し出した。
前鬼と後鬼も俺の方を見つめて女性に恭しくお辞儀をしていた。
そして近くの鬼に何かを言うと、その鬼がこちらへと駆けてくるのが見えた。
俺の元に来た一人の鬼が酒呑童子とマウントドラゴンをチラチラと見ながら、申し訳なさそうに俺に言葉を掛けて来た。
「ご、ご歓談中申し訳ありません。あの、姫様があなたとお話をしたいとの事で――」
どうやら彼女は俺に来て欲しいみたいなので隣の二人に視線で伺うと、酒呑童子もマウントドラゴン笑顔頷きつつ『行け』とジェスチャーしていた。
二人の様子から何かありそうだったので。迎えに来た鬼に頷く。
迎えに来た鬼は安堵した様子をみせた後、表情を取り繕って俺を三人の元へ案内する。
「ヒナノ様。酒呑童子様のお客人の勇者様を御連れしました」
ヒナノと呼ばれた鬼姫は、穏やかな表情で鬼を下がらせた後笑顔で俺に話しかける。
「初めまして今代の勇者さん。私はヒナノ、竜神の末裔よ」
少し子供っぽい話し方に見た目と合ってないなとは思いながらも、そんなことは絶対言う事が出来ない。
なぜなら、今目の前に居る女性ははじめて合った神であるセクメトリーよりも力があるように感じたからだ。
「始めましてヒナノ様。私はシクラ=トウマと申します」
「お呼び立てしてごめんなさい。少しあなたとお話したかったの。あなたは私の家臣でもないのですから、ヒナノと呼んでくださいね」
呼び捨てにして良いのかと少し考えながら彼女の横に居る二人に視線を送る。
二人とも微妙な顔をしていたが、鬼姫の考えには逆らえないのか首肯する。
「でしたらヒナノさんとお呼びしてもよろしいでしょうか」
「――それでいいわ。それと、普通に話して頂きたいの。この二人もそうなのですけど、鬼族の方々は私にくだけた話し方は出来ないみたいで」
「わかったよヒナノさん。それで何が聞きたいの?」
「ありがとう。ええっとね、私はこっちの世界に来てから生まれたから日ノ本の国についてよく知らないから教えてほしいの!」
目を輝かせながら聞いてくるヒナノにどうしようかと悩むのだが、周りの鬼たちも興味津々の様子で聞き耳を立てていたので仕方なく歴史の教科書に載っていることくらいなら話せるかな?と思って話をする。
「そうですね――それではヒナノさんがどの程度知ってるか、日ノ本の国の話を教えてください」
「わかりましたわ。とはいっても私はこの二人や他の方から聞いた話しか知りませんが――」
ヒナノさんが知っている歴史の先を、俺は教科書に載っていた知識を思い出しながら話をする。
鬼たちの知っている日ノ本――日本の歴史の当たりから現代までの話をしようとしたのだが。
「なあなあ、源は平家を打倒したのか!?」
「いやそんなことよりも、坂田の金時が金太郎という名前で物語とか笑っちまうよな。あの酒呑童子を倒した頼光より有名とはな!」
こんな感じでなかなか話は進まなかったが、ヒナノも前鬼後鬼も特に怒る様子はなかった。
というよりも、ヒナノが興味津々で頷きながら話を聞いていたので二人もとめられないようだった。
脱線しつつも喜ぶ鬼たちに話をしていたのだが、酒呑童子が申し訳なさそうな感じでやってきた。
「あー楽しそうな所悪いんだが、流石にそろそろお開きだ」
アレから数時間周りの鬼たちと面白おかしく話をしていたのだが、流石に夜も更けて良い時間になっていた。
楽しい時間が終わってしまったと周囲の鬼たちもそうだが、ヒナノもかなり落ち込んでいた。
「……もうそんな時間なのね。まだまだ話足りないわ。シクラはいつまでこの街に居るのかしら?」
そして色々話している間にヒナノからはシクラと呼び捨てになるようになっていた。
俺たちの様子を見ながら頭を掻く巨大な酒呑童子だが、周りの様子を見えて少し悪い顔をしていた。
「そのことなんだけどよ、こいつは強くなる修行のためにこっちに来たらしくてな。よかったらお前ん所の前鬼後鬼に鍛えてもらえねぇか?」
「二人に鍛えさせる……本当に良いのかしら? あの子達の特訓はかなり厳しいらしいけど?」
ヒナノが俺に視線を向けてくるので首肯する。
俺自身良くわかっていないが先代勇者の妹がそうしろとクリス達に指示を出していたみたいだしね。
――と言うか、クリスの奴は一体どこに行ったんだ?
船から降りる際には一緒に居た気がするんだけど……まあ、あいつなら問題ないか。
俺が無駄な思考している間も二人は話を進めている。
「かまわん。それにあのバ――じゃなくて、あいつもその為にわざわざ来たみたいでよ」
酒呑童子がババア呼びをしようとした瞬間に鋭い殺気が飛んできて呼び方を換えていた。
ヒナノもそちらへ視線を向けると驚いたような表情をした後に、幼子のような笑顔をして喜ぶ。
「ね、ね、あの子ってあの子よね? シクラのためにわざわざ来たの? 本当にそれだけのために? 」
「らしいぜ。ま、本来の立場からしたらありえねぇが――今の立場なら仕方ないんじゃねぇか」
二人が一体誰の事を話しているか分からないが、その視線の先に居るのは俺と一緒に来た人たちだけだった。
マウントドラゴンに交渉するのにリリーが必要……みたいなことを言っていた覚えがあるけど、流石にリリーは無いな。
酒呑童子にババアと呼ばれたのはマウントドラゴンと――多分白虎のだれかなのだろう。
ただ、そちらの方から異様な雰囲気が漂っているので気が付いてはいけない気がした。
ま、そうだよね。
酒呑童子がビビるような相手なのだからと思い、俺は考えるのは止めておいた。
「そうね……わかったわ。ついでにシクラと一緒に居る子達も面倒を見てあげれば良いのかしら?」
「マウンティは俺が面倒見るが、他の奴らはお前らに任せた方がよさそうだしな。本人たちが特訓したいと言ったら面倒を見てやって欲しい」
「そうね……わかったわ! じゃあシクラ行きましょう! さあみんな家に帰るわよ!」
俺の話をしていたはずなのに、俺が話をする前に俺たちの今後が決定してしまった。
しかも行きましょうっていったいどういう事だ?
今からヒナノの家とかその修行場に行くと言う事なのか?
流石に船旅で少し疲れているし、酒呑童子の旅館の様な屋敷でせめて今日一日くらいは休みたいという気持ちがあり、ヒナノの事を止めようとする。
「えっと、ちょっと待ってくれないか」
「どうしたのかしら? シクラは強くなる為の特訓に来たのよね? だったらこの二人に鍛えてもらうのが一番よ! ああ大丈夫よ、他に鍛えたい子が居たら一緒に――は無理だと思うけど、他の子が面倒見てくれるから」
「そもそも戦闘できるタイプじゃない人も居るんだけど」
「やりたくない子に強制なんてしないわよ。必要なさそうな子達も居るから、私達が鍛えてあげるのはシクラの仲間たちだけよ」
白虎の人達は――まあ俺達と違って完成されていると言っていいので必要ないだろう。
カトレア達だとダイアンが参加したいと言うかもしれないくらいで、他の娘達はそもそも戦闘が出来るタイプでは無いだろうしね。
ただ、俺について来てくれている鉄の盾のメンバーは、これを機にっまっとうな修行をしても良いかもしれないな。
ま、それも本人たちと相談したうえでって事かな?
アオイちゃんは……まあ、チュンちゃんと何かするだろうからいっかな?
ふむ……そう考えると問題なさそうな気がしてきた。
「それじゃあみんなに説明してくるから、ちょっと待っててもらっていいか?」
「あらダメよ? もう術を発動しちゃったから――行くわよ!」
ヒナノがそう言うと庭の地面一面が真っ黒に染まり――その上に立っていたヒナノの取り巻きと俺達が沈む様に吸い込まれて行く。
「え、ちょ――うわ、なんだよこれ! 」
「ダーイジョウブ! 星の数を数えている間に終わる……」
何とも言えない微妙な返答したヒナノだが、それを言い終わる前に俺達はそれに吸い込まれた。
みんなが大丈夫かなと真っ暗闇の中考えるが、直ぐに目が眩みそうな明るさの所にでた。
「――まぶしい。ここは?」
目の前に広がるのは――森と言うよりも原生林と言っても良さそうな樹木が鬱蒼とした森だった。
空を見渡すと青空が広がっていた。
「あれ? 今って夜じゃなかったけ?」
「そうね。外の世界は夜のはずよ」
声がする方に振り返るとそこにはヒナノと前鬼後鬼が立って居た。
そう、その三人と俺だけがその場に居たのだ。
「一体どういう状況なんだ?」
「簡単に説明するなら――あ、そう言えばあなたは私の事をある程度知っているのよね?」
何か試すような視線を向けてくる。
両サイドの前鬼後鬼は何も言わないが、その図体と圧倒的な存在感で威圧しているように感じる。
ヒナノの事で俺が知ってるのは――彼女が竜神と鬼の子供と言う事だけだからあまり知らないと言っても過言ではない。
嘘ついても仕方ないから正直に知っている事だけはなしておこう。
「竜神と鬼との間に生まれた子供と言う事しか知らないよ」
「……そう。でもそれを知って居れば今のこの場所が分かるのではなくて?」
ヒナノの問いに俺は首を傾げる。
どういう事だ?
今居る場所とヒナノの出生に何のかかわりがあるんだろう。
竜神は普通に俺が元居た世界に居た神様と言う事だし、鬼も同様に……あれ?
竜神と鬼の娘……ってことはだぞ、神と亜神の娘と言う事になる。
そうなると亜神よりもさらに神に近しい存在で、元の世界の神はこの世界の神よりも上位の存在なのだから。
俺が考えてたどり着いた答えは、ヒナノは恐らくこの世界に元々いた神達と同等かそれに近しい存在になっていると言う事だ。
そして、この世界の神で知り合いのガーネットやアメトリンが居た世界。
「そうか! ここは神域か!」
「正解よ。良くここが分かったわね」
「いや、二人程神様に知り合いがいてその領域に入ったことがあったからね」
「あら? まだこの世界にまともな神が居たのね。まあいいわ、ここは私の神域でシクラにはここで二人の特訓を受けてもらうわ。それと、区切りがついた時に私の所へ来てさっきみたいにお話ししてほしいの」
前鬼と後鬼はヒナノの言葉に頷いている。
俺としても本気で神に挑むのであれば、亜神でもかなりの強さにあるこの二人に鍛えてもらうのは悪くない事だろう。
ただし、心配事もあるんだよね。
「俺はそれでいいとして、他の人達はどうしてるんだ?」
「今は私の屋敷で預かっているわ。修業したい子が居れば相手をさせるし、必要ないと言えばそのまま客人として迎えるわよ。そうね、たまに外の世界のお話を聞かせて貰うくらいかしら? ここに居る他の子達も外の世界に興味があるわ」
ヒナノが他のみんなの世話をしてくれると言う事であれば問題ないと思う。
まだあってそれ程経って居ないのだが、彼女の事は信じていい気がするんだよね。
鬼たちは俺と同じ世界の出身と言う事で多少思う所もあるし、それに俺の――いや勇者としての勘がここで強くならなければならないと言っている気がする。
「それじゃあヒナノみんなの事をお願いするよ」
「ええ、任せて! あ、そうそう、二人の事をまだ紹介してなかったわね。この二人は前鬼と後鬼よ、あなた達シクラに挨拶して」
「俺は前鬼のハルトと申す。俺はシクラ殿の肉体的な特訓の担当だ」
「同じく後鬼のジンともうします。私は魔法や精神面の担当をさせて頂きます」
野太く低い声のハルトと言った前鬼と、少し高めの通る声でジンと言った後鬼。
見た目は似ているが話し方や立ち振る舞いは全く違う二人だ。
ハルトとジン、二人とも日本風の名前で少しなんだか落ち着くな。
「ハルトさんジンさんよろしくお願いいたします」
二人は俺に頷くとまた元の様にヒナノ横で護衛をする。
俺が特訓を受けようと思ったのには理由があった。
イカヤザムの街でアオイちゃんセクメトリーと対峙したとき俺は教会の外に居たのだが、あの時感じたセクメトリーの力に今の俺では太刀打ちできないと感じたのだ。
神はそもそも地上に本体を降ろすことは殆ど無いのだから、あれは本体ではなく分体であれほどなら本体は今の状態では絶対に勝てない。
いくらチュンちゃんの剣がセクメトリーに有効だとしても、前回の様は不意打ちでアオイちゃんが当てたようだが、普通に戦ったら全く太刀打ちできないだろう。
打倒セクメトリー! とまではいわないが、ガーネットやアメトリンが自由に動けるように交渉できるくらいには強くなりたい。
それに、勇者としての力は仮初の力だから俺自身の力を高めておかないといつか苦労しそうだしね。
「じゃあまずはハルトとの特訓が良いわね。ハルト、特訓がひと段落したら私の所にシクラを連れてくるのよ」
「御意」
ニコニコ笑顔でハルトに指示を出すヒナノに、ハルト恭しく礼をするのであった。




