失敗勇者と白虎と鉄の盾
「おやおやお前は――いつぞや見たどこぞの神の使い走りでじゃの」
謎幼女は憐れむような表情をしながら、チュンちゃんを見下すように言い放つ。
その言葉にイラっとしたのか、チュンちゃんが反撃をした。
「そう言うお主は、竜神のペットじゃの。 竜神の分け御霊とどこぞへと消えたかと思ったのじゃが、お主にお似合いの辺境住まいなのじゃな」
二人の幼女が火花を散らしそうなほど睨み合っている。
謎幼女は一人だけど、チュンちゃんはアオイちゃんを後ろに控えさせているんだけどね。
「はぁん? わらわの様な立派な体躯を持たぬ鳥がなにを囀っておるのう」
「役に立たない図体ばかりでかくても意味は無いのじゃ。――それに、これだけの時間を生きてなお神格が得られぬとは……格が違い過ぎて相手にするのも悪い気がするのじゃ」
「――くそ鳥が!」
「――蜥蜴ぶぜいが!」
「はいはいストップ!」
いつまでも続きそうな二人の言い争いを止めたのは、いつの間にかこっちの船にやって来ていた白虎アルルさんだった。
アルルさんは杖を二人の方へ向けており、不測の事態が起きた場合に備えている。
他の白虎メンバーも勢ぞろいしており、各々いつでも武器を出せる様な状態で構えていた。
「マウントドラゴン様も――ええと、チュン様? もここで争うのはお互いに利益にならないと思いませんか?」
「ヌ、お主は……ふん! 鳥、その者に感謝するのがいい」
「そちらこそ、命拾いした様じゃな」
「だから喧嘩しない! 」
再び舌戦? を始めようとした二人の間にアルルさんが入って仲裁をするが、二人ともなかなか引く感じがしなかった。
「――焼き鳥にして食うてやる!」
「――全身バラバラにしてアオイ装備に変えてやるのじゃ!」
「……そろそろ黙ろうか?」
「「ッヒ!」」
静かに――しかし、かなり強烈な殺気を放ちながら言った一言に、二人とも恐怖を感じたようだ。
怯えた様子の二人に――このあとめちゃくちゃ説教されたのだった。
「――喧嘩するなとは言わないけど、これに懲りたら場所や状況を考えて喧嘩しなさい。わかったかしら?」
「「は、はい!!!」」
十分ほどにわたる説教により、二人ともかなり従順になった様だね。
その様子を確認したアルルさんは振り返って、いつもの雰囲気でこちらへ話しかけてくる。
「ふぅ……それじゃあ皆さん、そろそろお話しして頂いて大丈夫ですよ」
「「「……」」」
「あら? ちょっとやり過ぎたかしら?」
誰も彼もが近くの人と顔を見合わせた後、苦笑いをしている、
その様子にアルルさんは少し苦笑いしていた。
その後、恐る恐る近づいて来た船長が謎幼女に話しかけ、一旦船室の方へ案内していった。
部屋に行く前船員に、カトレアたちに部屋に来るようにと伝言を頼んでいた。
謎幼女と言っているが、チュンちゃんとの会話の内容からあの子はマウントドラゴンなのだろう。
何でも、マウントドラゴンとの交渉をする際にリリーがハイエルフの血を引いているということが理由らしいが、ハイエルフとドラゴンになんの繋がりがあるのだろうか。
「まったくボウズが居ると色々と事件が起こるな」
「だな。それにしてもさっきのは生きた心地がしなかったぞ」
「ははは……」
心外だ、俺自体は特に問題を起こさないように生きているのに。
たぶんこれって、勇者の加護か何かヶ理由なんじゃないかと思うんだとね。
まあそんなことは良いんだけど、俺は久しぶりに会った他の白虎の人に挨拶に行く。
「お久しぶりです。アルルさん、ミモザさん」
「久しぶりねシクラ。あなたは――いえ、あなたも色々あったみたいですね」
「んふふ~久しぶりねトマ。それにしても立派になったわね」
二人そろってある人たちを見ながら含みのあるような言い方をしてくるが、何のことかわからないといった感じで頭をかしげてみせた。
その様子にくすくすと笑っていたが、その顔は姉が弟を見守るような表情だったが何に対してなのかは――余り気にしないで置こう。
微妙に嫌な予感がするので、話題を変える為に先ほどのアルルさんとマウントドラゴンとのやり取りについて聞いてみた。
「それにしても、アルルさんはマウントドラゴンと知り合いだったんですね」
「え、ええ――昔の知り合いといった感じですね」
何かをはぐらかすかのようなしぐさで話しているので、言いたくないことなのだろう。
マウントドラゴンと知り合いってことは、もしかしたらアルルさんも夢幻大陸出身なのかもしれない。
そうなると――アルルさんは妖精種か魔人種ってことなのかな?
いや、主だった種族がそれであるということだけで、交易もしているから普通に人種も居るだろう。
ま、良くわからないけど、アルルさん達がその辺りのことを話さないのはわけがあるのだろうから、勘ぐるのはよくないだろう。
「そ、そうそう。シクラは冒険者のパーティに入ったって聞いたけど、メンバーを紹介してもらっても良いかしら?」
「もちろんですよ。ちょっと呼んできますね」
グランツは甲板に出てきているが、他の女性陣はみんなまだ甲板には来ていないので呼びに言った。
ちなみに、女性が船の甲板に出るのがダメという話があったが、それは航行中がダメなのであって停泊中など帆をたたんでいる状態なら出てきて良いらしい。
シクラが仲間を呼びに行ったあと、二人だけ少し離れて話をしている。
「ねぇアルル、シクラには色々説明しておいても良いんじゃないかしら? シクラはそういったこと言いふらす子じゃないんだし――それに、あの子もいるからそのうちバレるわよ?」
「……そうなんでしょうね。ただ、あの子から言ってしまうのであれば問題ないのですが、私からシクラに伝えるのは色々と問題があるんです」
「そうでもないと思うけどなー。それと、アルルの今の姿なら気が付かれないかもしれないけど、あっちの人達にバレたくないならこれからは出来るだけ街ではフードを被りなさいよ」
「わかってるわよ。はぁ……戻ったらミュラーの坊や文句を言わないと」
カトレアの父親であるミュラー侯爵の事を坊やと呼ぶアルルに対して、ミモザは苦笑いをしていた。
暫くした後、シクラは鉄の盾の仲間たちを連れて戻ってきたときには、二人は何食わぬ顔でトラオウ達と一緒に待っていた。
「お待たせしました。こっちが俺の仲間の鉄の盾のメンバーです。グランツは知ってると思うけど、この人達が白虎の人達だよ」
「――ほう。坊主も隅におけねぇな。おっと、俺はトラオウだ。」
「俺はハルレクターだ。男二人に女三人のパーティか。他の奴らもそれなりに実力があるっぽいな」
「私はミモザよ。あらベロニカお久しぶりね……そっちに居るって事はあなたシクラの――」
「こらミモザ。そう言った話をする時間じゃないわよ。ごめんなさいね、私はアルルよ。よろしくね」
白虎の挨拶に、鉄の盾のメンバーは自分の名前だけ言うという完全に定型文で挨拶を返した。
「グランツです……」「い、イザベルです……」「あ、あの、マリアと言います……」
俺は首を傾げながら「みんなどうしたんだよ?」と問いかけるが、こちらへ向けられた視線は今まで見た事のない驚きすぎて瞳孔が開き、無理やり笑顔を貼り付けたような顔をしている。
しかも、トラオウさんやハルさんと既に顔合わせしているはずのグランツまでも固まってる。
「はぁ……みなさんお久しぶりね。貴方達はこの付近ではかなり有名なんですから、もう少し気を遣ってあげたほうがいいわよ。ほら、みんなおかしな顔になってるわよ」
指摘をされ何とか表情を戻そうとしているが、なかなか元に戻せないようだ。
マリアとイザベルは、それぞれ俺とグランツを縦にしながら顔を赤くさせていた。
「白虎の人たちはみんないい人達だからそんなに緊張しなくて大丈夫だよ」
「むむむ無理です! 白虎の方々はあの辺では英雄なんですよ! 魔王討伐に参加もされて、その働きによって認められたい白金級冒険者!そんな方々が勢揃いされてい緊張するなって……あ、でも、戻ったらみんなに自慢しよう!」
白金級に上がるにはギルドだけではなく、国からも承諾が得られなければ取ることのできない最高ランクの冒険者資格。
そんな人がこんな辺境から出たとあれば英雄扱いされるのも無理はないかもね。
「あ、あの、ミモザさん……ですよね? 私ミモザさんに憧れて双剣使ってるんです!」
「あらそうなの? それじゃあここ――じゃ不味そうね。大陸に着いたら見てあげるわ」
ほう、マリアがなんでわざわざあんな細腕で双剣を使ってたのかと思ったがけど、ミモザさんに憧れて双剣使ってたのか。
従者としての加護があるから双剣を扱う力はあるんだけど、ミモザさんの様に流れる様な双剣捌きは出来ずに片手剣二刀流の力技だから、ミモザさんに教えてもらえば今よりも強くなれるだろう。
二人はその後も双剣について語り合っているし、グランツとイザベルはトラオウさんとハルさんに色々話を聞いているみたいだね。
アルルとベロニカさん――なぜか少し離れて内緒話しているので近づくのは止めておき、あまり興味は無かったけど双剣使いの二人の話を聞きながら時間を潰した。
十数分経った頃――甲板に戻ってきた船長が船を出発させるという話になったので、船員達はあわただしく動き出し女性陣も戻らないといけないので顔合わせ会は終了となった。
「シクラ様少しよろしいでしょうか?」
「ん? カトレアか。大丈夫だよ」
先程船長とマウントドラゴンとの話し合いの内容を教えてくれると言うので、彼女と俺の部屋へと向かった。
「それじゃあ話し合いの内容を教えてもらっても良いかな?」
「畏まりました。お二方の話し合いの内容ですが……」
結果から言うと、船長がマウントドラゴンにこの船団が通過するのを許可してもらいたいと言い、マウントドラゴンが許可を出してくれたようだ――ただ……。
「あの鳥――チュンちゃんが居るのは気に食わないけど、貢ぎ物を出せば通してやるって事?」
「はい。あのお二方の間には何か昔にあったようですが、今の所マウントドラゴンが何かしてくる様子はございません。それに、話を聞く限りでは悪人が乗っている場合はそうでもないそうですが、マウントドラゴン自体が船団の邪魔をしていたわけではないらしく、あの海賊たちが襲っていた様です」
「あー、あの強さなら普通の船団相手なら殆どの所に勝てるだろうし、最悪水中に引き込みさえすれば負けることは無いだろしな」
あのシャケとか言う海賊は相手がアオイちゃんだったから弱く感じたかもしれないけど、実力的にはトラオウさん達に近い強者のはずだ。
しかも苦手な陸での戦いであの強さであれば、水中なら滅茶苦茶強かったんじゃないのか?
「船長は、海賊についてもマウントドラゴンに確認されたようですが、『矮小なる人のいざこざ如きに我が出る訳なかろう』とのことでした」
マウントドラゴンもわざわざ小競り合いの様な物には参加せず、終わった翌日に来たのだから特に関係性が在る様に思えない。
まあ、彼女がわざと見逃していた可能性もあるけど、当分あの海賊団は襲いに来ることはなさそうだから問題ないだろう。
「それにしても――いや、それだったら貢ぎ物出す必要ないんじゃないか?」
ちょうどいい噂と餌があるから一緒に貰ってしまおうと言う魂胆が見えるのですが。
俺はそう思っていたのだが、これには一応理由があった。
「それについてですが、船長が始めに貢物があると言う事を言ってしまった事もあるのですが、その代わりマウントドラゴンの目の届く範囲であればこの船に害なす者を排除して頂けるとの事でした。まあ、通過するたびに貢物を出さないといけないのですが、貴重な航路の安全が確保できるとあれば安いものだそうです」
なるほどね。
夢幻大陸とユピリル間には一応貿易自体はあるけど、それは専属の船団が独占状態にある。
恐らくあの海賊と船団が秘密裏に裏取引をしていたのだろうが、一般的にはマウントドラゴンが許可のない者の通行を許さないとなっているから、この船団もその恩恵を受けられると言う建前が出来るからだろうな。
「ま、強要されたりしたわけじゃなくて相互に利益がある事だから問題はなさそうだね」
「はい。――あと、最後にもう一つだけ……」
先程まで普通に話していたカトレアが急に話しにくそうにしている。
何故か嫌な予感がしつつも、それを聞かないわけにはいかないので頷いて話を促すと。
「マウントドラゴンの分体――先程のあの人の形になった者も夢幻大陸まで一緒に向かう事になりました」
「……マジ?」
「本当でございます」
チュンちゃんと仲が悪そうなマウントドラゴン幼女が同乗しての航海に――俺が不安を覚えたのは当然の事だろう。




