失敗勇者と鴉龍相見える
――そうだった、昨日あの後鉄の盾の面々に酔っぱらいながら謝ったんだった。
俺が急に変な子と言うからみんなポカンとした表情になったって、その後みんなに笑われたんだったな。
「クククク――お前はそんなこと気にしてたのか。ま、まじめなトマらしいと言えばトマらしいな」
「そうね。実際トマが途轍もなく強いのはわかっていたし、そのおかげでみんなの装備が底上げ出来てランクがあったのは事実ですよ。それに私達が甘えていたことも事実ですから、トマが謝る必要はないですよ」
「ま、まあ、シクラ様が真摯に私達の事を心配しておられたのはわかっていましたし――その、ね、マリアも機嫌治すのよ?」
「……」
皆がにこやかに俺を許してくれたのに対して、マリアだけはとても不機嫌な感じで俺をジト目で見つめてくる。
俺が誠心誠意何度も謝ると、マリアはため息をついて表情を和らげてくれた。
「トマがそんなに誤ってると私が悪者みたいじゃない。はぁ、トマは人種で勇者だから堅物なのかと思ってたのに、私の事をそんな風に思ってたのね」
「……ごめん」
「私がトマより弱いのは認めるわよ。でも、私はこれまでずっと冒険者をやってこれたし結構な数の修羅場をくぐってきたのよ? それに、今ならあれのおかげでそこらの冒険者よりも強いんだから、いつまでもトマに守ってもらうんじゃなくて私がトマを守ってあげようと思ってたのに……」
ちょっとプンスカと言った感じで怒っているマリアを皆がニヤニヤしながら見つめながらも、時折俺に視線で何か訴えてくるのは止めて欲しい。
ベロニカさんは少し苦笑いをしている感じだが、特に諫めるような感じはないんので――内心マリアと同じような事を思っているのだろうな。
マリアが言いたいことも良くわかる。
鉄の盾は俺が出会った時点で鉄級上位で、鉄級と言えば一般的な冒険者の中ではベテランに当たる。
銀級に上がれなかったのは、彼らが危険を冒さず地道に狩りを行っていたので資金的そこまで余裕がなく、実力に装備が合っていなかったせいだ。
今はグランツが俺が買った魔剣を装備し、他の装備は皆銀級にふさわしくミスリル系や特殊な魔物素材の装備をしている。
魔剣は人を選ぶと聞いていたが、実はグランツ以外も全員使う事が出来たので、恐らく魔剣を持つに値しない実力者では使用する事が出来ないと言う事だったのだろう。
――まあ、俺がイオリゲン王国でヒエンさんに勧められた武器はほぼ使えていたので、多分それで合っていると思う。後は、種族や魔法が使えるかとかの特殊な使用条件がある物もありそうだけどね。
そう言った事もあり、実は俺が出会った時点で一般冒険者では最高ランクに当たる銀級の力があるパーティだったのだから、実際には俺が彼らに守られていたというのは間違いではないのだ。
それに、今のマリアとベロニカさんは勇者の従者としての加護もあるので、実力的には恐らくトラオウさん達クラスに近いものはあるのだと思う――まあ、一般人よりはね。
あのクラスは装備もさることながら、聞く話によるとかなり危険なダンジョン探索やそもそも魔王討伐戦に参加している位なので、恐らく自力の差はかなりあるのだと思う。
とはいえ、彼女らが既に単銀級の実力があるのは確かなので、マリアに怒られるのは当然なのである。
段々と意気消沈していく姿の俺に対して、ため息をついたあと真剣な表情をしてこちらに向き直った。
「それで、トマはもうさっき言っていたような考えはないわけよね?」
「――はい、そうです……」
「ならそんなうじうじしないでシャキッとしなさいよ! それと……ここじゃあれだからあなたの部屋で話をしましょう。良いわよね!?」
「は、はい! 大丈夫です!」
「ベロニカも一緒に行くわよ」
何の話があるのか――まあ大体予想はしている。
ベロニカさんは頷き、俺達は部屋を後にするのだが……他の二人も気が付いているのか生暖かいめで見送られた。
俺の部屋に入るとさっきの食堂から持ってきた酒類をマリアは煽り――まあ、今までの事をぐちぐちと文句を言われた。
「トマが強いって言うのは初めて会った時から何となく察していたのよ? 私は獣人の血が混じっているから相手の強さへは敏感だし。それに――トマはカッコいいし優しいけど、私があれだけアプローチしてるのに手を出さない理由があれってどうゆう事よ!」
「マリア、その話は既に三回目ですよ」
酔っぱらって既に同じような内容の事をクドクド怒られているのだが、ちびちびお酒を飲んでいるベロニカさんに窘められている。
因みに、幾ら俺の部屋が広めに作られているとはいえ、小さなテーブルとイスに脚しかないのでテーブルを動かし、俺がベットに腰を掛け二人は椅子に座っている。
「ベロニカだってトマが手を出してこない事に文句言ってたじゃない! 」
「そ、それはそうですが。シクラ様からしたら私は年上ですし、そう言った魅力がある女とは自分では思っていないので……」
「ほら見なさい! だからトマ、私達への責任取りなさいよ!」
顔を真っ赤にしながら、机に酒の入ったジョッキを叩きつけて俺に叫び声を上げる。
真っ赤になっている顔は酒のせいなのか、今の発言のせいなのかわからないけど、こうしてみるとやぱりマリアは可愛い。
ベロニカさんはあまり何も言ってこないが、チラチラと俺の方を見ながら反応を伺っている様だ。
彼女の場合この世界を基準にすれば普通なのかもしれないけど、元の世界基準の俺からしたら確実に美人の域にはいっている。
酒が入って気が大きくなっているせいかもしれないが、俺は二人に対してそれなりに思っている所はあるので、二人さえ良ければ受け入れてあげたいと思う。
「二人共がそう言いうなら俺は――そうしようと思ってる。だけど、二人とも本当にそれで良いの?」
「……え? ほ、ほ、ほ、本当に良いの?」
「シクラ様!? その、マリアだけではなく私も良いのですか?」
「覚悟は決めたんだ。……二人さえ問題なければだけど」
俺の言葉に二人は慌てながらも、目線で何かを会話した後マリアは俺に飛びつくように抱き付いて来た。
倒れそうになりながらもマリアを抱き留め、それを見たベロニカさんもおずおずと俺の隣に腰を掛けたあと、体を預けるように寄り掛かってきた。
「うれしい! 私は問題なんてないわ! 私の集落は強い男に何人も女が嫁ぐなんて当たり前だったし」
「わ、私も問題ありません。もしイオリゲンへ帰った場合でも、シクラ様は子爵位を持っていらっしゃいますので、妻が数人いても表向きも問題ありませんし」
「――わかった! おほん……なんだか二人には迷惑をかけて――いや、これからも迷惑をかけるかもしれないけど、こんな俺で良かったら付き合ってくれないか」
うやむやにしておくべきではないと思うから、少しかっこつけながら俺は二人に正式に交際を申し込み――。
「よろこんで!」
「シクラ様、これからもよろしくお願いします」
そのまま俺は押し倒されるように――二人と愛し合う事になった。
そして、今に至る。
そうだった、俺はこの二人と付き合う事になったんだよな。
二人とは今までいろいろあったけど、本当にこんな風になれるとは夢にも思わなかったな。
「何トマ? そんな顔して」
「シクラ様、顔が緩んでおいでですよ」
二人に指摘されだらしがない所を見せられないので、顔をパンと軽くたたいて少し気合を入れなおした。
「ごめんごめん。でもさ、二人とこうして居るのが夢のようだなって思ってさ」
「私はもっと早くトマとこうしたかったんだけど――」
「マリア、その話は昨日でおしまいにしなさいって言ったじゃない」
「わかってるわよベロニカ。だってこれからはこうしてトマと――一緒に居られるんだから」
マリアは俺の腕を抱き込むようにしながらくっ付いてきて、俺を見上げながら「えへへ」と少し頬赤らめながら瞳を閉じた。
「仕方ないな――」
そう言いながらもマリアの唇に自分の唇を当てて軽くではあるがキスをする。
それをみたベロニカも同じように俺の横に来たので、同じようにキスをした。
「えへへ~」
「シクラ様」
二人共少し恥ずかしそうにくっ付き、俺は恋人二人と朝からいちゃつけている今の状況にとても幸せを感じていた。
その後も少しいちゃついていたが、そろそろ朝食の時間になったので名残惜しいが食堂へと向かった。
俺達が食堂に入ると、中にはグランツとイザベル二人だけ――給仕の人は別として、他の人達は見当たらない。
そして、入ってきた俺達を目ざとく見つけたグランツはニヤニヤしながら挨拶をしてきた。
「よう! お三方とも昨日はお楽しみだったのかい? 」
「はぁ。間違ってはいないが、その言い方はどうかと思うぞ」
「お、マジか! いやー昨日あんな感じだったから大丈夫だとは思ったが、本当にそうなったとはな」
ガハハと笑うグランツに軽く小突いたあと、みんな揃って席に着いた。
「二人とも――いえ、三人ともおめでとう」
席に着くとイザベルが俺達を祝福して来てくれたので、三人で礼を言った後給仕が持ってきた朝食を皆で色々話しながら食べた。
部屋に帰ってからの話などは詳しくはしていないが、二人には簡単に話をしておいた。
「それにしても、今日は人が少なくないか?」
数十人入れる食堂には、今は俺たち以外誰もおらずなんか不思議な感じがする。
「そりゃ、あれだ。お前の知り合いの子達はもっと早く食事を済ませているし、船員たちはちょっと前まで騒いでいたみたいだから早々起きてこないと思うぞ」
「私も流石にうるさすぎて文句を言いたいくらいだったわ」
さっきまでって――いったい何時まで騒いでいたんだよ。
それにしても、俺達も部屋にはいたけどそんなに騒音は聞こえなかったな。
ま、多分あの部屋はだから気が付かなかったんだろう。
他の部屋と違って引くて豪華だから、防音などもしっかりされていたのだろう。
食事を終えた俺達はいったん解散となり、俺とグランツは甲板の様子を確認しに行った。
「……まあ、予想通りの光景だな」
「そうなんだが、大丈夫なのかこれ?」
甲板には一部の見張りの者たち以外寝こけており、そこらじゅうで船員達が転がっている。
白虎の二人は見当たらなかったので、恐らく自力で船に戻っているのだろう。
なんだかなーと思いながら辺りを見渡していると一人の船員が駆け寄ってくる。
足取りも身なりもしっかりしているので、恐らく当番だった為宴会に参加できなかった人なのだろう。
「お見苦しい所をお見せして申し訳ありません。もうしばらくしましたら魔導士達が叩き起こしますので、もうしばらくお待ちください」
申し訳なさそうに言う船員に礼を言って、俺達は船室へと戻って行った。
まあ、特にやることもないのでマリア達話でもと思ったのだが、イザベルと一緒に何やら話しながらキャーキャー言っていたので、直感が巻き込まれてはダメだと言っていたので部屋へと戻って時間を潰すことにした。
しばらくアイテムボックスの中身の整理などをしていると船員が呼びに来たので、船員について甲板へと上がって行く。
甲板に上がった俺は不思議な光景を目にした。
船員達が皆そろって膝を付き、ある方向に対して首を垂れている。
その方向に目線を向けると――着物姿の緑色の髪をした幼女がそこに立っていた。
一瞬チュンちゃんと見間違えそうになったが、髪の色が違うし――チュンちゃんは頭から二本の角なんて生えていない。
「そこのお前、何故お前はそのままなのじゃ?」
「……え?」
よく見ると、俺を先導してきた船員もいつの間にか膝を付いて首を垂れている。
だけどよく見ると皆苦しそうな顔をしていることから、多分あの子に強制させられているのだろう。
不思議そうにしていた少女はそのままトコトコとこちらに歩みより、俺をしたから瞳孔が縦に割れた瞳で覗き込む。
その不思議な瞳を見つめ返していると、段々と嫌悪感の様な物が沸き上がってくる。
「(なんだこの子? それになんだか少しイラつくと言うか気持ち悪い感触は一体なんだ)」
「……お主は――」
少女が何かを話しかけようとした時、何かが少女に衝突して吹き飛ばした。
しかし、吹き飛ばされた少女は空中でクルリと一回転すると空中で制止し、眉間に皺をよせそれを行ったものを睨みつけた。
それと同時に、皆も何かしらの拘束から解かれたのか、体が自由に動けるようになったみたいだ。
「そこの龍よ、わらわが乗る船に何をしておるのじゃ?」
アオイちゃんを引き連れたチュンちゃんが仁王立ちをしながら幼女を睨みつけていた。




