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召喚失敗勇者の異世界放浪旅  作者: 転々
第四章

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召喚失敗勇者と大宴会とやらかし

 少し時間遡り、海賊の幹部たちがそれぞれの敵に向かって行きアオイちゃんの元へシャケが向かっていた。


 他の海賊よりも大柄な体躯に筋肉大好きと言わんばかりの膨れ上がった肉体を持つシャケと言った海賊は、その重そうな体に似合わず軽快に飛び上がりアオイちゃんの前へと重そうな音と響かせながら着地した。

 シャケとアオイちゃんが並ぶと体格差もあって子供と大人が相対したかのように見えてしまうが、アオイちゃんは目の前にいるシャケには危機感はおろか興味すらない様子だ。

 まあ、鎧を着けているのわからないけど――どこがとは言わないが立派な


「チュン様なんか変なのが来ましたよ。ちょっと臭いんですけど!生臭いんですけど、あっち行ってくれませんか!」


「チュン。こいつは何か少し混ざった奴だチュンね。まあ、こんな未開の地に居る位だからたいしたこと無いチュンね……でも何かオイシそうな匂いがするチュン」


「え、チュン様!? いくら魚っぽくてもこんなの食べたらおなか壊しそうですよ!」



 アオイちゃんとチュンちゃんの暴言に青筋を立てつつも怒りを抑えるシャケ。


(……この船の中ではこいつが一番厄介そうなのだが、これは俺を怒らせて隙を覗うつもりか。あまりにも自然に罵倒してくるが、それこそがこいつの作戦というわけか……あなどれんな)


 一人と一匹は普通に思ったことを言っていただけなのだが、勝手に深読みして動けなくなってしまっていた。

 無言で威圧しつつも自分を落ち着けているシャケに対して、鼻をつまみながら眉間に皺を寄せて本気で嫌がっているアオイちゃん。

 チュンちゃんは口からよだれが落ちそうになるのを短い翼で拭きつつ、どこの部位がオイシそうか考えていた。


「我が名はシャケ。海神の末裔にして――」


「だから臭いんでしゃべりかけないで貰えます? それにチュン様、よだれが垂れてますよ! 絶対にダメですからね! もし食べたら街に着いたらまた一杯お着替えさせますよ! 」

  

 話している最中のシャケに文句を言いつつも、チュンちゃんが魚臭さのするシャケを食べそうになっているのは全力で止めている。

 アオイちゃんの発言にチュンちゃんは石像の様に塊、スズメの姿なのに器用に首だけコクコクと振っていた。

 チュンちゃんは船内でアオイちゃんが着せ替え人形の様に着替えをさせて来たので、それを回避するために今の形態になったのに同じ事をまたされてはかなわないと言った感じだ。


「こ、小娘……貴様には武人としての矜持は無いのか!」

 

「私はチュン様の従者だけど武人じゃないし! それに武人の矜持とか言うなら、あなたは弱すぎるから戦う必要すら感じら慣れない」

 

 チュンちゃんの従者であるアオイちゃんの実力は、技量は一般冒険者以下ではあるが戦闘能力としては勇者に引けを取らないレベルの強さだ。

 それに引き換え相手のシャケは、一般冒険者よりは強いのことは間違いないが鉄や銀等級と同じ位の強さだろう。

 これがもし水中での戦闘と言う事であればまた別なのだが、現在は船の上――地上での戦闘ではシャケたちはそこまで強くは無いのだ。

 相手との力量差を見極めそれなりにカッコいい事を言ってはいるのだけど、鼻をつまみながら言っているのと最後に小さな声で「……臭い」と呟いていたせいで台無しである。


 そして、そこまで言われたシャケだが――持っていた槍を握りしめながらプルプルと小刻みに震えていた。

 

「(この俺が弱すぎる? そんな馬鹿なことあるか! この女がこの船で一番強いのはわかっているが、それでもここまで言われる程強いわけがない!)」


 理性で怒りを抑えながらも、シャケの頭の中は怒りで既に暴発寸前になっていた。

 そして、それをいつまでも留めておけるほどシャケは強くはなかった。


「ならば貴様を倒し、その肩にとまっているうまそうな鳥を俺が食ってやる!」


「――あ゛ん?」


 シャケの言葉にアオイちゃんが本気でブチ切れ、周囲に物凄い殺気を放った。


「「「――っ!?」」」


 当然それを放たれたシャケは背中に冷たい汗が流れるだけではなく、全力で逃げなければいけないと本能が強烈に警告を鳴らしていた。

 そして、アオイちゃんは戦う者としての訓練がされているわけではなかったので、全周囲にその殺気を放ったしまったので、周囲で戦っていた者達や後ろにいた船員達も被害を受けていた。

 海賊たちの一部の者達は戦意を喪失しそうなほど強烈な殺気に怯え、船員達も味方であるアオイちゃんの殺気に当てられて一瞬戦闘音が周囲から消えてしまった。


「お、落ち着くチュン! アオイその殺気を抑えるチュン!」


 必死にアオイちゃんを抑えようと小さなくちばしでアオイちゃんを何度もつつくと、アオイちゃんから殺気が一瞬で霧散して行った。

 しかし殺気は抑えたがシャケを睨むのは止めず、いつでもブチ殴れるように拳を固く握りしめている。


「……ふぅチュン。少しは落ち着いたチュンか? アオイが戦いたいなら止めないが、今のアオイが本気を出したら船が沈むチュンから、その辺は手加減しないといかんチュンよ」


「……わかりました。では、一撃で仕留めてきますね」


 チュンちゃんに説得されたアオイちゃんはとても不吉な笑みを浮かべ、そのままゆっくりとシャケに近づいて行き――そして……。


「チュン様を侮辱した罪! チュン様を食べようとした罪! チュン様の力を侮った罪! 他にも諸々の罪を合わせてぶっ飛びなさい!!!」


「っく!? お、おいちょっとま――ゴフゥ!? 」


 全身に身体強化を施したアオイちゃんのすこしアッパー気味のボディーブローは、シャケの纏う鎧のに直接撃ち込まれた。

 チュンちゃんの従者としての力をふんだんに盛り込まれた一撃を受けたシャケの鎧には、無数の蜘蛛の巣の様なひび割れが走ると同時に砕け散り、鎧の持ち主であるシャケはそのまま空高く打ち上げられていった。 


「(な、なんだこれ!? 一体俺に何が――何故船があんなに遠くに!?)」


 何をされたか分からず、痛みを認識するよりも先に置かれている不可思議な状況に、無駄に高速に脳が動き走馬灯のようにすべてが遅く感じながら空を飛んでいく。

 まともに動かすことのできないからだ、自分の体が奏でる耳障りな風切り音を感じていたシャケだが、数秒もせずに周囲が暗闇に包まれ何かに押しつぶされそうになっていた。

 しかし、シャケ程度では抗う事の出来ない強大な力に飲み込まれ、シャケの意識は暗転していった。

 

 吹き飛ばされていったシャケを見た海賊たちは船から逃げるように海に飛び込んで行き、そのままどこかへと消えていった。

 そんなこんなで海賊たちを蹴散らしたわけだけど――こちら側の被害もそれなりに大きいように思えた。


「重軽傷者合わせて三十数名か……」


「とは言え、死者は出て居りませぬし怪我は魔法で治療済みですからあなた様のせいではございません。どちらかと言えば、我々は助けていただいた側になりますのでお気になさらずに。それに、この船にあなた様などが居たおかげで他の船の方には襲撃はございませんでしたので」


 手当てを受けている船員たちを眺めながらつぶやいていると、いつの間にか隣にやってきていた船長がそう教えてくれた。

 彼が言うには海賊との戦闘となれば双方にそれなりの死者が出るのは当たり前で、海賊側が上手であれば全滅も当然ありえたとのことだ。

 それに、俺やアオイちゃんそれに白虎の二人がこの船に居て、ここが一番危険だと感じた海賊が他の船を無視してこの船をまず占拠しようとしたおかげで、他の船は完全に無傷の状態だった見たい。

 それを考えると、今回は俺たちが加勢したおかげで無事に切り抜けられたと判断したそうだ。

 

「アレだけの海賊に襲われて誰も死なねぇって奇跡だよな?」


「だな。多少の怪我なら魔法で直るし、骨折しても町に行って寄付出せばどこかの神殿で治して貰えるしな」


「それより見たか? 海賊の頭領ををぶっ飛ばしたあの子、めちゃくちゃ可愛くなかったか!?」


「可愛くてあの貯まらない身体つきも別格だが――」


 あれほどの戦闘の後だと言うのに船員達は普段通り過ごしているし、既に他の事を話しているような余裕もあるみたいだ。

 元の世界とこの世界での価値観の差なのだろうけど、こっちの世界の人は何とも逞しいね。


 本来であれは今日にでもマウントドラゴンの所に行って夢幻大陸への上陸許可を得たい所ではあったが、船の修復やけが人の治療などの問題がある為、マウントドラゴンの所へ行くのは明日以降に持ち越しになった。

 


「……何というか――皆たくましいな」


「あ? 船乗りなんてみんなこんなもんだろ? 男ばかりの所帯で力仕事や危険な作業が多いんだ、荒くれ者が多いのは当然だろ?」


 トラオウさんが何言ってんだこいつ? と言った感じで酒をあおりながら俺を見る。 

 俺が言いたいのはそう言った事ではなく――あれほどの戦闘があり大勢の怪我人が出ていたにもかかわらず、甲板上には見張りを除いたほぼすべての船員が集まっており――全員酒盛りを始めていたからだ。

 何かを敷いては居るが、甲板上で簡易コンロの様な物まで持ち出してバーベキューまで始めてしまっている。

 甲板で火気を使うのはどうかと思うのだけど、これを支持したのが船長なので問題ないのだろう。

 その船長は船員達に混ざってどんちゃん騒ぎの真っ最中だ。


「はぁ……大丈夫なのかな? またあいつらが襲って来たりすることは無いよね?」


「それはないな。頭のいなくなった海賊なんて次の行動は直ぐには起こせんさ。なんせ、次期頭を決めるために今は色々ごたごたしてると思うぞ」


 そりゃそうか。あのシャケって奴が船長だとしたら、マースとか幹部で次期船長を争う感じだろうな。

 

「そんな事より坊主、俺達も混ざりにいくぞ! 」


「だな、船乗りの奴らなんてほっとくと全て食べつくすからな」


 そう二人に促されて、一緒に宴会場へと向かった。

 因みにグランツはここには居らず、イザベル達は食堂にいるので一人往復しながら色々持って行っている。

 一応船長たちからは甲板に出ていいと許可を貰っているのだが、戦闘に参加していないのでその場にふさわしくないとの事で食堂で食べている……表向きはね。

 実際には「周囲が全員酔っ払いでしかも男ばかりの状況に私達が行くと面倒事が起こりそうだから嫌」と言うのが本音だそうだ。

 カトレア達も同じような理由で引っ込んでいるが、アオイちゃんとチュンちゃんはその辺りを気にせず船員達と一緒にモリモリご飯を食べている。

 彼女の価値観はこの世界とは違うので――と言う事もあるが、あの戦闘に参加した人でアオイちゃんにちょっかい出す人は居るはずもなく、幼女バージョンのチュンちゃんを膝の上にのせて餌付け――ご飯をモリモリ食べさせてあげている。

 その顔は――うん、かなり危ない顔をしているのが傍から見てもわかるから、それで皆が避けているのかもしれないね!


 その後は、トラオウさんとハルさんの二人に絡まれながらどんちゃん騒ぎに巻き込まれ、気がついたらいつの間に戻ったのか、俺にあてがわれた船室のベットの上で寝ていた。

 

「……頭いてぇ」


 流石に昨日は飲みすぎたせいか頭がズキズキと痛む。

 トラオウさんとハルさんが隣に陣取って、俺に酒をかわるがわる注いできたせいでどれだけ飲んだか覚えていない。

 まあ、バーベキューで出てきた肉も普段で食べるものよりもかなり上等なものだったし、酒も蒸留酒っぽいものもあったからおそらく船長秘蔵の品とかも入っていそうだ。


 この世界の一般的な酒は、エールやミード、シードルのようなものが主流で、一般人でいいお酒というのがワインといった感じだ。

 蒸留酒は基本的に貴族か上位の商人が祝い事のような時に飲むという高級品なので、船を持っているような船長であれば持っていてもおかしくはないし、もしかしたら本来は夢幻大陸で販売するために持ち込んだものを開放したのだろう。

 

「まあ、あれだけ飲んだり飲まされたらこうなるのも当然だよな……それにしても喉が渇いたな」


 酒を飲んだ後って何故かとっても喉が渇くんだよね。

 

「食堂に行けば水はあるよな……体もだる……はぁ、とりあえず行くかーーあれ、体が動かない?」


 だるい体に鞭を打ち起きあがろうとしたんだけど、両腕に何かがくっついているような感じがして動けなかった。

 何故だかとても嫌な予感を感じつつ左右に顔を向けるとーー俺の両サイドには誰かがいるんだよね。

 何だろう……前にも同じようなことがあった気がーーと考えていたらその誰かがみじろぎする。

 そのせいで布団が捲れ上がりその誰かの顔が見てしまったーーああ、やっぱりそうなのね。

 

「はぁ……今度こそ……やっちまったのか」


 そこにいた二人の女性は、とても見覚えがありこういった事態にならないように努力していた相手だった。


「どうしよう……もういいや、寝よう」


 どうしたらいいかというのも考えるのも気にもならず、現実逃避をするために二度寝した。

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