失敗勇者と海賊シャケ
一つの大きな街ほど巨大なサイズの龍が……目の前に現れた。
背には樹木が生い茂り、遠目では只の島の様に見えるのだが――だんだんと距離が近づくにつれ、それはまさしくドラゴンと言う事が分かりだした。
水面から出ている部分は上あごの部分で、口の殆どの部分が水中部分にあるようだ。
時折洞窟だと思っていた部分の流れが奇妙に変わり、大量の海水を吸って吐いてと繰り返し行われている様だ。
まあ、なんにしても一言いいたいのが。
「本当にどでかいな!」
俺の言葉に船員たち以外は頷いて同意してくれている。
流石異世界――と言うにしてもこのサイズは想像以上だった……
「それはともかく、こんなのとどうやって話をしたり交渉したりするんだ? 近づいただけであの口に吸い込まれそうだし、そもそここっちの声聞こえるのか?」
「それはだなボウズ、向こうから大体気が付いてくれ――な、なんだこの揺れは!?」
話をしてる途中で突如船が不規則に暴れだし、連続してジャバンと大きな水音が辺りに響き渡った。
「全員何かに掴まれ!」
誰かが咄嗟に叫び声を上げたおかげで船から落ちた人は居なかったが、何人かが船体に体をぶつけて呻き声を上げていた。
「大丈夫か!」
「あ、ああ。なんとか」
「まずそうだな……ボウズ達そいつを抱えて後方まで下がるぞ」
俺は頷き、近くで倒れている人に肩を貸しながらトラオウさん達に着いて走って行く。
船の後方には甲板に居た船員が集まっており、けが人は階段から下へと運ばれて行っている。
「一体何が起きやがった!?」
「わからんが――が、あまり良い事じゃなさそうだな!」
どこからか銅鑼の音が聞こえてきて「戦闘が出来る者は直ぐに甲板に集まれ! 急げ!」と叫び声とあわただしい足音が聞こえてきた。
それと同時に船の前方に鉤付きのロープの様な物が投げ込まれ、わらわらと何者かが上がってくるのが見えた。
それは、顔が魚の様な見た目をした異形の人型――半魚人といえそうなその姿は何とも言えない気持ち悪さを漂わせていた。
二足歩行の人型ではあるが全身を鱗で覆われている様だが防具を装備していて、防具の隙間から見える胸の辺りにあり三本切れ込みのような物は、恐らくはエラか何かだろう。
そして、手には水かきの様な物が付いてはいるが五本指で、その手には銛を大きくしたような槍を携えている。
装備や態度、船員たちの反応から見てもどう見ても友好的な相手ではない事は確実だ。
しかも、統率が取れている様な動きからして何らかの人種である事は間違いないだろう。
その集団の先頭に立つ日時はがっしりとした体系の者が居る。
恐らくそいつがリーダーか何かなのだろうけど、他の人達よりもひと際大きな槍を携えている。
他の者達の槍が二メートル程なのに対して、その者の槍は三メートルはありそうな長さで倍以上の太さがある。
そしてこいつとその背後にいる数人だけは、他の者達とは違い全身防具を装備している。
こちら側の船員たちが体制を整えている間に、相手側も準備は整ってしまったようだ。
こちら側の先頭には船長が立っていて、その後ろに白虎と俺達と船員達――何故かマリアやアオイちゃん達まで出てきている。
チュンちゃんが居ないなと思ったら、アオイちゃんの肩の上にスズメの状態で乗っていた。
流石にカトレア達は出て来てはいない様だ。
「お前たちはいったい何者だ! 」
相手が大体何者か分かってはいるが、船長は一応誰何した。
まあ、夢幻大陸にに行ったことは無いのでその守備兵と言われても分からなくもないが――流石にここまで無法なやり方かしてこないとは思う。
「オレはシャケ。海神の末裔にして氏族の長。そして――お前達から全てを奪う者だ!」
「やはり海賊か! 迎え撃て!」
「「「おお!!!」」」
シャケと名乗った男が放った言葉と共に、控えていた魚人達が一斉にこちらへ攻め入ってきてて船員達と乱戦が始まった。
船員達と一緒に突撃しようとした俺の肩手を置いて止めた人が居た。
「ちょ! トラオウさんなんですか! 」
「待て待て。ボウズが出ていくにしても未だ早すぎる。一応俺達はこの船からしたら客扱いだから、何かしら因縁などが無いと勝手に参加するのはまずい」
「トラオウの言う通りだ。それにお前は回復魔法が使えるんだから、怪我して下がってきたやつをそれで癒してやってくれ」
「……わかりました」
渋々ながらも遠目から船員達と海賊の戦闘を眺めつつ、怪我をした人たちに回復魔法で支援していく。
船員たちは海の男らしい格好と表現するのが適切な気がするほど、防具と言う防具を付けておらずほぼ半裸の状態で相手と戦闘をしている。
それに対して相手は多少なりとも胸などには防具を付けており、他の部分もまあ魚の様な鱗が全身を覆っているので多少防御力はありそうな気がするが、船員達の持つ曲刀がかすったりすると普通に血が滲んでいるので防御力はお互い似たり寄ったりかもしれない。
後方に残っていた船員少数も回復魔法が使えるようで、その人たちに合わせて俺も回復魔法を使うのだが、相手側にも回復要員が居るようで膠着状態に陥っていた。
暫く膠着状態になっていたが、時間が経つにつれこちら側が劣勢に立たされていく。
お互い紙装甲の様な状態で切り結び回復魔法で傷だけは治しているのだが、流れ出た血は回復魔法では戻すことが出来ないからだ。
布一枚の防御があるかないかの船員と一応鱗で守られている海賊では、やはり多少怪我の程度の差が出てきてしまっている様だ。
「行きます!」
「ま、仕方ねぇな。船長、悪いが参加させてもらうぜ」
「……すまん。頼む」
徐々に攻撃を食らう物が増えて行き、かなりの劣勢になり我慢できずに俺は飛び出していった。
それを見かねたトラオウさん達は一応船長に許可を得て参戦してくれるようだ。
「ちっく……しょう。この……魚野郎め!」
「大人しくさっさと死ね」
ふくらはぎを槍で貫かれた船員にどこからか回復魔法が飛んできて傷は徐々に治って行ったが、血が立ち無くなっているのか顔面蒼白で上半身だけ起こして抵抗を試みているが、海賊は無慈悲にも船員の一のを絶とうと槍を振りかざした――しかし、その槍は船員に刺さることはなかった。
ギィイイインと金属が擦れ合う音が響き、海賊の持っていた槍は何かに弾かれて海に落ちていった。
何が起こったか直ぐにはわからなかった海賊だが、手にしていた槍が無くなったと言う事は理解できたのか、直ぐ飛びのいてに腰に据えていた呼びの剣を抜いた。
そして、自分と船員との間に人が割り込んでいたことに気が付き一瞬驚愕した表情をしたが、すぐに表情を戻してこちらへ叫んでくる。
「っち! 何だキサマ!」
「お前に名乗るななど無い――よっと!」
「っな!!」
話しながら俺は一気に間合いを詰め相手の剣を力任せに弾き飛ばした後、蹴り飛ばすのではなく押し出すように回し蹴りをして船外は吹き飛ばす。
海賊は何が起こったか分からない内に何故か空を飛ばされ、数舜後海へと墜落していった。
ふぅ、走りながら身体強化をかけていたおかげで問題なく船から落とすことが出来たな。
「大丈夫ですか? 一人で下がることは出来そうですか?」
「あ、ああ……大丈夫だ、一人で戻れる」
船員はそう言うと、足を引きずるように後方へと下がっていった。
回復魔法を受けてはいたようだけど、流石に傷の深かったあの足を完全に治すことが出来なかったようだ。
ま、それは後で俺が回復魔法をかけてあげれば問題なく回復できるだろうか、まずは他の危ない人を助けに行かないとね。
そして一人、また一人と、海賊が空を飛んで海に墜落していった。
俺は吹き飛ばしているけど、トラオウさんとハルさんはガチで切り捨てている。
トラオウさんはその大剣の一撃を持って袈裟切りにして、ハルさんは後方から矢で体制を崩させたり隙を生み出させトラオウさんを援護している。
グランツは大盾で他の船員達の援護をしながら協力して海賊たちの相手をしている。
マリア達は流石に前線には出てこなかったが、後ろに下がる船員達に手を貸して後送を手助けしている。
――ただし、問題児が一人……というか、一神と一人がいた。
「こいつらをぶちのめして我の眷属を増やすチュン!」
「はいチュン様! えい! やぁ! とう!」
ユピリルで購入したばかりの装備を着たアオイちゃんは、その掛け声とは全く合わない威力の一撃で海賊たちを星にしていた。
流石に一気に人数が減って行く海賊たちは浮足立ち、徐々に船首の方へと追い込まれて行ったのだが。
今まで動かなかったシャケと名乗った海賊の頭と、その側近らしき三人が前線へと飛び出してきた。
彼らは他の海賊たちとは異なり体格も良く、強者としての貫禄がある様に思えた。
そして彼らは当然といえば当然に、他の船員などは無視し俺たちの方へと向かってきた。
シャケと名乗っていたやつは俺の目の前――ではなく、アオイちゃんのところに行ってしまった。
「ッフ、お前の相手はシャケ様の右腕のマースだ。死にゆくものに名乗っても意味はないかもしれないが、一応一定以上の戦士への礼儀と挨拶だから覚える必要はないぞ」
俺のところへやってきたのは少し細っそりとしているが、他の者達と違って無駄な筋肉がついていいなような感じのやつだ。
キザっぽいセリフを言っているみたいだが、魚頭のため完全にギャグになっている。
残りの二人はトラオウさんとハルさんのとことに向かっていったので、問題なさそうだね。
とりあえず会話はできる相手みたいだから、ちょっと聞きたい事があったんだよね。
「まあ、どうでもいい事なんだけどさ……あの頭悪そうな筋肉バカっぽいのが頭で大丈夫?それとその魚臭さはどうにかならない? 風呂にしっかり入ってる?」
「……っ! ぶっ殺す!」
一瞬何言われたかわからなかったマースだが、徐々に内容を理解し顔を真っ赤にしながら激昂した。
おちょくったらプライド高そうなこいつはやっぱり怒ってくれたね。
わざわざ怒らせたのは、その方が相手の方にミスが起きやすく動きも単調になって倒しやすそうだからだ。
一般海賊達の強さは銅からギリギリ鉄クラスの強さだったから、それよりも上の幹部と言っても流石に強くても銀等級程度だろうから問題にはならないだろう。
マースは槍は構え、その穂先は俺の心臓へと向けられているようだ。
ただ、本当に心臓を狙っているかはわからないと言うのが現実の対人戦というものだ。
彼自身にどの程度自信があるかわからないし、どのような力があるかわからないから見た目や言動などで相手のスタイルを予測するしかないです。
マースの見た目パワータイプではなくスピードタイプ、そしてプライドが高く恐らく何らかの自信のあるわ技などがあるだろうからそれを使ってくる気がする。
まあ、槍の時点で突きか薙くらいしかまともな攻撃手段はないとは思うから、速さで来る相手はおそらく突きで来るだろう。
まあ、あとは相手の突きをどうやって躱すかだけど……ぶっちゃけ普通に避けられる気がするんだよね。
身体強化をした時に集中すると体感時間も遅くなったりするから、よっぽど負けることはないんだよね。
「さ、どこからでもかかって来い」
「……」
すごい形相で睨んでくるが、流石にもう反応はしてくれないみたいだ。
お互い無言のままマースに睨まれ続けーーそして勝負は一瞬でついた。
マースは予想通り神速と言っていいほどの速さで突きを放ったが、それは心臓ではなく俺の右足へと向かってきた。
速さはそれなりにあるけど回避しやすい足を狙う理由はわからなかったが、軽く飛び退き攻撃を回避しながら反撃をしようとしたらーー床に突き刺さった穂先を支点にして石突の部分が脳天に襲いかかってきた。
「うぉ! 危ねぇ!」
「ほう、これを避けるか。だがこれはどうだ!」
その後も変則的な動きで連続で突きを放ってくるが勝負が着く前に大変なことが起った。
それは、アオイちゃんとシャケが戦っているところから聞こえた叫び声で全ての人の動きが止まったのだ。
「チュン様に何をしようとしてるんですか!」
「っへ? うぉおおぉぉぉぉ……」
チュンちゃんに何かしようとしたのかわからないけど、アオイちゃんがシャケを吹き飛ばしたのだがーーシャケが飛ばされた先がなんとマウントドラゴンの口の中だったのだ!
そして、シャケが飛び込んだ瞬間にマウントドラゴンの口が閉じられーーゴクンと喉が動いたように見えた。
それを見た海賊達から絶叫のような悲鳴が全員から上がった。
「「「か、かしらー!!!」」」
頭であるシャケがマウントドラゴンに食べられてしまった海賊達はどうしていいかわからず顔を見合わせいたが、幹部三人視線を合わせて意思疎通をして「全員撤退」と指示を出したことで全員海に飛び込んで逃げていった。
海に逃げ込んだ海賊達は流石に魚、そのまま潜っていってしまいすぐに見えなくなってしまった。
とりあえず頭をなくした海賊は当分襲ってこないから大丈夫だと思うけど、それよりもまずは怪我人の治療が最優先ということになり、俺はかなりギリギリまで魔法を使うことになってしまった。
治療を終えたあとマウントドラゴンが口を閉じたことで変わってしまった景色を眺めつつ、一息つけたとは夕刻前になっていた




