失敗勇者とマウントドラゴン
久しぶりにやってきたユピリルは変わったところは無かったーーわけでもない。
町の景色はあまり変わってはいなかったが、昔ダンジョンに行っていた時に近くの村の子供に魔法を教えてことがあったのだが、その子がいつの間にか超越魔法が使えるようにまでなっており、シクラとも一緒の冒険者パーティだったらしい。
その子がいつの間に結婚もして、尚且つ子供まで居るのだと言う。
時間の流れの速さを思い知らされるとともに、変わらぬものなどないのだと実感させられた。
依頼とはいえ再びあの地へと向かうことになると思っても居なかったし、護衛をする相手があの子とはね。
久しぶりにあの子とあった時私の事をーーと呼んでしまっていたので、お姉ちゃんって呼びなさいとしっかりと言い聞かせてしまった。
必要な事とはいえ、周りに人がいるところであの事が公になってしまうのは問題があるのだ。
それはともかくとしてて、ハルレクターも相変わらず私の事を想ってくれるのはありがたいのですが、私とあの子では歳の差がありすぎるのよね……悪い子じゃないのは分かっているのだけど、人間と恋をするとまた私は……。
皆の様子を見回った後、俺は部屋に戻ってゆっくりするつもりだったのだが……。
「それで、それで! その後どうなったの?」
「あーうん。その後は物凄い動きをするトロールが現れて……」
戻った部屋の前にはカトレア達――侍女をしてくれていた子達が皆集まって居た。
流石にこの狭い通路で話すのもなんだからと言って、皆を部屋へと招き入れた。
部屋に入ったカトレアが部屋に皆で押し掛けた非礼を謝った後、俺があの後どうしていたか聞きたいとの話になった。
皆はクリスやハルさんから大体の話は聞いてはいたらしいが、直接俺から話が聞きたかったそうだ。
彼女たちは悪魔の正体なども理解している様だったから、ガーネット達の事も隠さず今までの事を話していた。
ただ、半年以上も冒険者としてやってきたのでどこから話していいか迷ったんだけど、とりあえず俺の記憶に強く残っていることを皆に伝えようとしたんだけど。
リリーが冒険譚を聞くかのようにノリノリで、中々話が進まないんだよね。
「そんで、コンラートが超越魔法を使って――ん?」
「トマー! 食事の用意が出来たから食堂に集まってだって」
「わかった。準備していくから先に行ってて」
「はーい。あんまり遅いとトマの分も食べちゃうからね」
話をしている途中で扉をノックする音がして、外からマリアが食事が出来たことを教えてくれた。
「とりあえず今日はここまでかな」
「えー! 今からが面白そうなのに~」
「リリー、シクラ様にご迷惑をかけちゃダメでしょ。それに私達も同じ食事になるから、皆で一緒に行きましょう」
「……はーい」
少し不貞腐れるリリーが昔の妹を見ているようで可愛く、頭を撫でてあげると直ぐに機嫌を直してくれた。
まあ、食堂の料理を食べられたら自分のアイテムボックスから何か出して食べればいいんだけど、流石に船で火を使う事は難しいから、使わなくて食べられる携帯食だけになるのは寂しいからね。
カトレア達と部屋を出て食堂へと向かうと、そこには鉄の盾の皆とチュンちゃん達が既にそろっていた。
グランツは俺の方を見てニヤニヤしながら手を振って、隣に座るイザベル横腹でもつねられたのか痛がっているし、チュンちゃんは何故かぐったりした様子だがアオイちゃんはとてもいい笑顔をしている。
マリアだが……部屋に入った瞬間は俺に手を振ってくれていたんだけど、後ろを歩くカトレア達を見て表情が固まり、次第にかなり冷たい視線を俺に向けてくる。
そのとてつもない威圧感をに皆がギョッとしてマリアを見て、その視線に気が付いたアリアはプイそっぽを向いてしまった。
はぁ……後で何かフォローしておかないと後々面倒な事になりそうだなと思いながら席に向かうと、マリアの隣に座っていたベロニカさんがマリア少し耳打ちしていた。
何を聞いていたのか分からないけど、マリアは顔を真っ赤にしながらベロニカさんに抗議をしていたが、それも既に想定済みだったようで更に耳打ちをするとマリアは耳まで真っ赤になっていた。
なんだか面倒な事になっている気がするのだが、今はどうする事も出来なさそうなので諦めて席に着いて食事をした。
出てきた料理はパンとかなりとろみの付いたスープに良くある干し肉だった。
パンとスープはまあまあだったのだが、干し肉だけはかなり固く引きちぎるのにブチッと音がする程固かった。
俺の食べ方に船乗りたちが唖然としていて何事かと思ったら、皆スープに干し肉を浸して柔らかくして食べていたんだよね。
俺からすると干し肉ってジャーキーみたいな感じだからそのまま食べたくなるんだけど、後で聞いた話で船の干し肉は日持ち優先で固いから、基本的にはスープに浸したりして柔らかくしてから食べるのが普通みたいだ。
それ均そうと教えてくれればいい物のと思ったんだけど、この世界ではそれが常識だったから知って居る者と思っていたみたい。
因みに食事はカトレア達も同じものを食べていたので、船旅でこういった料理なのは当たり前みたいだね。
終えた後部屋に戻ると、カトレア達がまた来たこととマリア達も部屋に来てちょっとごたごたしそうになったけど、カトレアが気を聞かせてか「皆様から見たシクラ様の話もお聞きしたいですわ」と言って、結局鉄の盾全員を集めて今までの話をする事になった。
ただそうなると俺の部屋では流石に狭すぎるので、再びさっきまで居た食堂へと戻って話をする事になった。
因みにこの話を一番楽しんでいたのは幼いリリーや戦闘が得意なダイアンでもなく、アネモニだった。
彼女の実家は商会で様々な物を扱って入るのだが、俺達が何を買ってどう使ったとか魔法であれこれしたとかの話をかなり真剣に聞いていた。
初日はその後も俺達の話だけで終わってしまった。
そして数年後、クライン商会から面白い魔法巻物が販売された。
それは両側が壁があるところで使用すると、地面から十センチほど隙間を開けて石壁を作るだけの魔法巻物だった。
高さは任意調整できるが普通に考えれば特に利用価値がなさそうな物だったのだが、一部の冒険者達がこぞって買う品物になった。
それはダンジョンに長期間潜る冒険者達だった。
ダンジョンは両サイドが壁になっている通路が多数あり、袋小路になっているとこでこれを使用すると安全地帯を作ることが出来、勝てない魔物が居た際に逃げ切るまでの時間を稼いでくれる画期的な物だった。
まあ、そのおかげで一時期ダンジョン内で壁が出来まくって問題になったが、メインの通路に生成しない事をギルドが徹底して問題はなくなったみたい。
俺の話を聞いてアネモニの実家である商会が販売した物で、同業他社が類似品を作り出すまでは独占状態で販売し、多額の売り上げを上げた恐ろしい商品だった。
その後も、簡易トイレ型になる岩壁など様々な物がクライン商会から販売される事になり、商会は冒険者から絶大な人気を誇る事になる。
翌日、俺とグランツだけ甲板に上がってだだっ広い海を見つめていた。
だだっ広い海原には、俺達が乗る船と随行する船が三隻居るだけで周りには何も居ない様だ。
なぜ俺達だけかと言うと、基本的に運行中の甲板に上がれるのは男性だけだからだ。
船乗りはほぼ例外なく男性のみで構成され乗組員に女性は存在していないのだ。
その理由は、基本的に船の名前は女性の名前が付けられており、船の神様が女神だと言われているから。
そして、その女神様が嫉妬をしないように上から見える所には女性を出してはいけないと言うのが船乗りたちの伝統らしい。
リアルに神様がいる世界でそんなこと言われた流石に女性陣も出てくることは出来ないんだよね。
まあ、船の名前を女性にしていない船などは女性が甲板に上がることが出来るらしいが、そう言った船は渡し船のような物や国が所有している船が多いみたいだね。
「ふぁ~、それにしても暇だな……」
「しょうがないって、流石に船の上じゃやれることなんてほとんどないからね」
昨日はあの後夜遅くまで話をしていて、リリーが船を漕ぎだしたのでお開きになった。
今日も話をして欲しいと言ってきそうな感じだったので、グランツを連れて甲板までやってきたのだ。
「それにしてもよ、トマは相変わらずモテるよな」
「ないない。カトレアは侯爵の娘だしアネモニは――結婚相手を探してるとは言ってたけど、彼女は商人の家系だからそれなりの人しか狙ってないと思うぞ」
「それなりね――」
グランツが含みのある顔でこちらを見てくるが、アネモニからしたら俺程度では相手になれる気がしないんだよね。
この世界では成人は十五ではあるが、ダイアンとリリーは流石に年が離れすぎているので俺からの対象外と言った感じだ。
まあ、流石に五年後とからな……いや、そのころには既に二人とも結婚して居そうな容姿だから相手にされないだろうな。
「ま、それはさておき、マリアとベロニカのどちらかと何か進展はあったか?」
「っ! あ、あるわけないだろ! ま、まだ俺はどちらとも付き合っていないんだし……」
「っかー! 青くせぇな! あんまり言うとイザベルに怒られるかもしれんと思って言わなかったが、どちらもお前に好意があるのは見え見えだろ! 」
「……まぁな」
二人ともそう言ったアプローチをしてくることがあるのでわかっちゃいるが、こんな状況下では色々と面倒な事になりそうなので流石に自重中なのである。
セクメトリー教のフリーダー司祭がゲルメルトと言う奴に洗脳され、俺達に襲撃をかけて来てからそれ程日にちも経っていない。
今後もセクメトリーや他の神々からの襲撃があるかもしれない状況で、恋愛をしていては色々と問題が起こりそうな気がするんだよね。
そんなことを考えながら海原を眺めていると、隣からため息が聞こえてきたが聞こえないふりをしておいた。
俺の反応を見て頭をガシガシ掻いた後、縁に肘を付きながら海原を見つめる……そして。
「……暇だな」
「そんなに暇なら相手をしてやろうか?」
どこかで聞いた覚えがある声が俺たちの上の方から聞こえた。
グランツの呟きに反応したのは俺ではなく声がしたほうへ二人で顔を向けると、真っ青なそれのほかには船のマストがあってそこに二人の人影が見えた。
逆光でうまく見えないが、一人は人でもう一人はかなりガタイの良いジュウジン族のように見える。
二人は躊躇することなくマストから飛び降り、俺たちの目の前に結構良い音を立てながら着地した。
その音に船乗りたちは何事かとこちらに視線を向けてくるが、二人を見ると各々仕事へと戻っていく。
そして、目の前にいる二人は――。
「ハルさん――トラオウさん! お久しぶりですね!」
「おう、ボウズ! 久しぶりだな! 」
白虎の斥候担当のハルさんことハルレクターさんは少し前にあったが、トラオウさんと会うのはイオリゲン王国以来だ。
昨日もアレ以降ハルさんと会わないなと思ったり、白虎の人が護衛として来ているはずのに会わないなと思っていたんだけど、実は白虎の人たちは別の船に乗っていたそうだ。
「あの後色々と大変だったが、無事でよかった」
「皆んさんにご心配をかけてすみませんでした」
「ま、良いってことよ! それよりも暇を持て余している様なら俺達が相手をしてやるぞ」
そう言ってトラオウさんは愛用の大剣を指さしながら言ってきた。
トラオウさんは体験を装備し、ハルさんは弓ではなく剣を腰に挿した状態でやる気満々の様子だ。
「俺達もやることが無くてどうしようかと思ってよ。そしたらトラオウが手合わせでもしに行くかって話になってな」
「ボウズの成長を見たいって事もあったが、仲間の実力も見ておきたくてな」
「お、おれ――いえ、自分はトマ程実力は無いのですが……」
「そう硬くなるな。銀等級と言えばいっぱしのベテランパーティだし、そのリーダーとなれば実力よりどれだけまとめられるかと言う事はわかっている。だが、それでもそれなりの実力が必要だとは思うからな」
虎の獣人であるトラオウさんが知ってる人からすればニヤリと笑っているように見えるのだが、グランツは肉食獣に睨まれた草食獣の様に少し怯えているように思えた。
大丈夫かな――と心配していたが、最終的にグランツは白虎の人に相手にして貰えると言う事で、緊張はしてたが少しうれしそうにしていた
「よし! 船長に許可を貰ったら少しやるぞ!」
トラオウさんはそのまま船の中に入って行き、数分後許可を貰ったと言って出て来た。
俺は二人分の装備をアイテムボックスからから取り出し、装備を整えた後手合わせをした。
俺達の装備を見て、俺の相手はトラオウさんでグランツの相手はハルさんに決まった。
「相変わらずの馬鹿力だが、まだまだ足りんぞ!」
俺の一撃を重そうな大剣で受け流し、態勢が崩れた俺の胴を蹴り飛ばす。
わざと鎧のある胴に蹴りを入れているのでダメージはそれ程ないので、転がりながら立ち上がって再びトラオウさんへと向かって行く。
「っぐ! まだまだ!」
「っへ! そう来なくっちゃな!」
やや下からの横なぎに斬りかかった俺の剣を、軽くバックステップして距離を取った後剣の腹で殴られて甲板を転がって行く。
「相手がいつもいつも剣を受けてくれると思うな! 賢い魔物なら逆襲してくるぞ!」
俺の方はかなりスパルタな感じの戦闘訓練だったが、横目で見たグランツの方は素早く動き回るハルさんに翻弄されてはいたが、流石に長い間冒険者をやっていただけあって上手く盾と剣を使って立ちまわっていた。
日が傾き夕暮れが近くなったころ、ようやく手合わせが終わった。
俺もグランツは最終的にはかなりボロボロにされてしまったが、白虎の二人はピンピンして俺達にどこを治すべきか色々と教えてくれた。
その日の夜は昼間の訓練の疲れから夕食を取った後すぐに眠ってしまし、翌朝またトラオウさん達が来て日が暮れるまで訓練を繰り返した。
そして数日後――俺達の船の進路の先に、巨大な山のが現れその麓には巨大な洞窟の様な者があった。
船員たちはあわただしく動き回り、甲板には様々な物資が運び込まれて行った。
「巨大な山に巨大な洞窟か。あれが夢幻大陸なのか?」
「さぁ。俺も夢幻大陸に行くのは初めてだからわからんな」
「あれがマウントドラゴンだ」
「――っえ?」
多分あそこが目的地だと思うのだが、あんな巨大な山どうやって上るんだろうと考えていると背後から声がして振り返ると、トラオウさん達がいつの間にか背後に立っていた。
トラオウさんは「まだまだだな」と首を振っていたが、その様子にハルさんが肩を竦めていた。
「あれがマウントドラゴンって、どう考えても山にしか見えないんですけど」
「そりゃそうだ。原初龍マウントドラゴンは山の如き大きさの龍で、あそこの洞窟の様に見える所が口だ」
そう言われて洞窟を凝視するがまだ距離があって何とも言えないのだが、上の方には巨大な鍾乳石の様な物が綺麗に並んでおり、よく見ると口に見える気がした。
「……マジかよ」
となり呟くグランツの呟きに同意しつつも、流石にあのサイズは反則でしょと考えてしまった。




