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召喚失敗勇者の異世界放浪旅  作者: 転々
第四章

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失敗勇者と出港

 俺はシャケ、由緒正しき海神の末裔だ。

 俺達は海を自在に泳ぎ回ることが出来、海中戦闘では大型の魔物ですら引けを取らない一族だ。

 しかし海神様が姿を眩ませた後、俺達一族は街を追われ今や海中築き上げた都市以外では殆どいなくなってしまった。

 俺達は水中でも陸上でも活動は可能だが、本来の力は発揮できるのは水中だけで陸上では半分も力が出せないせいで、他の種族から海へと追いやられたのだ。

 しかし最大の理由は、我々にはわからないが魚臭いと言う事らしい。

 そのせいで我らの一族はまともに暮らすことが出来ず、男たちの殆どは海賊稼業を生業にして暮らしている。夢幻大陸行きの一部の船からは通行税として毎回食料を貰っているが、それ以外の船は見つけ次第勝てそうなら襲っている。

 そしてまた……新たな獲物が俺達の領域を通過しようとしている。

 船が数隻居るようだが、遠くから確認した限りでも女子供も乗っているのに護衛のような者が殆ど乗っていない様だ。

 状況からしてそこまで金品は乗っていないかもしれないが、それでも簡単に攻略できそうな船を見逃す理由は無いな。


 そして海神の末裔は一味を率いて船団を襲撃するのだった。

 







 ――翌日、俺とグランツはベットの上で二日酔いと戦っていた。

 昨日は勢いで飲み過ぎてマリア達に怒られてしまったが、なんだかんだ言いながら俺達を部屋へと運んでくれたんだよね。

 そして、朝一番にマリア達がやってきて。


「二人とも少しは反省しなさい! 」


 開口一番お叱りの言葉を頂いたのだが、その声が二日酔いの頭に響く。

 

「ぐぁ! あ、頭が!」

「マ、マリアさん、もう少し声を抑えて……頂けませんか……」


 俺達の様子に呆れた様子を見せたが、一応最後に救いはあるようだ。


「はぁ――昼には薬を持ってきてあげるから、それまで我慢しなさい!」


 バタン! と勢いよく扉を閉められ、再び俺とグランツは頭を抱えた後――痛む頭を押さえながらベットに潜り込んだ。


 どの程度たったか分からないが目が覚めた。

 部屋のお窓から見える太陽の光の具合から、恐らく昼前位だろうと思う。

 そして、隣のベットにはグランツが大いびきををたてながら未だに眠っている。

 

「あはは、流石に昨日ははしゃぎ過ぎだな。それにしても喉が渇いたな、はぁ下まで降りるか」


 俺は少し痛み引いた頭痛に感謝し、重い体を引きずるようしながら着替えを持って部屋からでた。

 階段を降りて裏口の扉を開けると、周りを垣根に囲まれた井戸がそこにあった。

 この井戸は釣瓶式になっているので、桶を落として水を入れて引っ張り上げる必要がある。

 元の世界の様に蛇口をひねれば水が出ると言う事は無いので少し面倒だけど、飲み水を得るにはこの方法しかないので仕方なく縄を引っ張る。


 引っ張り上げた桶をそのまま口元に運び、豪快に水を一気飲みする。

 豪快に飲んだせいで服もびしょびしょになっているが、少し火照りの残る体に冷たい井戸水が気持ちが良い。


「ぷっは~! あ゛ー生き返る!」


 のどを潤した後再び桶を下ろして水を汲み、今度は頭から水を全身に被り――ようやくまともに頭が働きだす。

 アイテムボックスから一般的に石鹸として使われている物を取り出し、服を脱いで全身を洗った後持ってきた服に着替えて、脱いだものを井戸に立てかけられている桶で洗う。

 洗った後は垣根の脇にある物干し竿の空きスペースに服を適当に掛けて、その横に部屋号室が付いた札をかけて洗濯終了だ。

 この札を付けておけば、後で店の人が部屋まで運んでくれる。まあ、畳んではくれないんだけどね。

 

「さっぱりした! あ、グランツにも水を持って行ってやるか……あ」


 そう思ってアイテムボックスから水袋を取り出すと、重みのある水袋には未だ水が入っていたのだ。

 基本的に水袋には常に水を入れているのだからそれを飲めば良かったなと思いつつも、結局体を洗うためには井戸まで来ないと行けなかったなと思ったりした。


 少しぼーっとしていると、宿の扉からマリアが出てきてこっちに歩いて来た。


「こんな所に居たのね」


「さっき目が覚めたから、目覚ましついでに水浴びしてたんだよ」


「残念、もう少し早く帰ってきたらよかった」


 マリアはそう言いながら笑っているが、それって覗きですよねと少し思ってしまった。

 元の世界の頃とは違って見せられない様な身体つきではないけど、流石に見られたら恥ずかしいので本気でやらないでいただきたいです。


「というか、俺を探してたんじゃないのか?」


「ああ、そうだった。はいこれ」


 マリアが差し出してきた物は封蠟のされた手紙で、受け取って差出人を見てみるとそこに書かれていた名前に驚いた。


「カトレア=ミュラーって、ヒエンさんの代理人ってカトレアなのか!」


「そのカトレアさんって言うのは一体どこのどなたなのかしら?」


 マリアが恐ろしい笑みで見つめてきて後ろに一歩後ずさってしまった。

 彼女の笑みは、まるで浮気をした旦那を問い詰めるかのように迫力があり、何も悪い事をしていないのに背筋に冷たい汗が流れる。

 そして、マリア達に夢幻大陸に向かうと言う事を話していなかったことを思い出し、その辺りの事情もしっかり誠実に説明した。


「そうなんだ。そのカトレアって人はトマの侍女をしていた人で、侯爵家の令嬢なのね。それで、白虎の人が言っていた面会してほしいって人がその人って事なの?」


「そうみたい。明日その辺りの事を話したいから領主の屋敷まで来て欲しいって書いてあるね」


 なんとかマリアの誤解を解くことに成功し、手紙の内容を要約して伝える。

 手紙は挨拶から始まり、皆俺の心配をしていたと言う事とヒエンさんにこちらへ向かうように言われ、道中トラオウさんが持っていた手紙を読んで何故ここに来させられたか分かったとの事だった。

 そして、クリスと面会して準備が終わったので、明日の朝俺達と出発の段取りをしたいと書かれていた。

 

「それにしても夢幻大陸に行くなんて……グランツが不憫だわ」


「あはは……まあ、その代わりに昨日は酒を奢らされたんだけどね」


 グランツとイザベルは過去に船酔いで酷い目に合ったことがあるらしく、二人とも船恐怖症のような状態になってるんだよね。

 

「そう言えば、イザベルにはまだ伝えてないんだけど……大丈夫かな?」


「多分大丈夫だとは思うけど、グランツから伝えてもらった方が良いかもね。でも前回は船なんて大丈夫だって言って酔い止めを飲まなかったから酷かったけど、その辺の準備をしたら大丈夫じゃないかな?」


 なるほど……それなら俺が買った酔い止めの薬を先に飲んでもらえば大丈夫だろうし、確か体を船に密着させれば酔いにくいとか聞いたことあるから、その辺も試してもらえば良いかな?

 最悪緩和薬を使えばいいだろうしね。


「その辺の話はグランツから話してもらおうかな。そう言えばマリア達はこの後どうするんだ?」


「ん~そうね……誰かさん達が二日酔いで倒れている間に用事は終わったから、特に用事は無いわね」


「そっか。じゃあとりあえずグランツにこの話をして、これからどうするか決めようか」


「イザベルが薬を飲ませていたけど――あの様子じゃまだ唸ってるかもしれないわ。まあ、ダメそうだったら先に昼食ね」


 そして二人で部屋に向かったんだけど……グランツは未だ二日酔いで唸っていたので、グランツ以外のメンバーと一緒に食事をする事にした。

 その際に俺の知り合いが来ているみたいだから、明日みんなで領主の館に向かう事だけ伝えておいた。

 イザベルは何故自分達も行くのかと聞かれたが、その辺りはグランツから話しがあると思うよとだけ伝えておいた。

 ベロニカさんは二つ返事で了承してくれたので良かったよ。

 アオイちゃんとチュンちゃんだが、アオイちゃんは領主の館自体には興味が無いらしいが、チュンちゃんが行くなら付いていくと言った感じだった。


 昼食を食べている最中にグランツが食堂まで降りてきたので、一緒に食事をしながら夢幻大陸行きの話をしてもらった。

 イザベルは少し嫌な顔をしていたが、準備を万端にしたら問題ないだろうと言うグランツの意見に渋々同意した。


 食事を終えた後、アオイちゃんとチュンちゃんは街を散策してくると言って出かけ、残りのメンバーで夢幻大陸に向かうのに必要そうな物を買出しに向かった。

 ただ、船に乗って行く以外何が必要か分からなかったので、船で必要な物以外はダンジョンに行く際に使う物などを買い集めて一日が終わってしまった。


 翌日、皆が身だしなみを終えた後領主の館へと向かった。

 領主の館は港の近くの広場付近にあり、周りを塀に囲まれたユピリルでは珍しく大きな建物だ。

 入り口には普段門番が二人立っているのだが、今日は三人立って――ってあれはハルさんか。


「おーいボウズこっちだ」


 門番だと思っていたハルさんが俺達に気が付いて手を振りながら呼んでいた。


「おはようございますハルさん。こっちのみんながパーティメンバーです」


 一瞬皆を見渡しチュンちゃんを見た瞬間、表情には出さなかったけど微妙に手が震えたように見えた。


「ほぅ……まあまあと言った所か。――それで、そっちの二人が例の方か?」


 ハルさんは見ただけで鉄の盾のメンバーの力量を見抜き、チュンちゃんとアオイちゃんの異常さも見抜いたみたい。

 流石白虎で斥候をしているだけのことはあると感じた。

 まあ、普段はアルルさんにアプローチばかりしていて抜けた感じがするけど、やっぱり実力はあるんだよね。


「は、はじめまして。私が鉄の盾のリーダーをしているグランツと言います。この三人が……」 


「紹介は後で良い、どの道この後また同じこと言わないといけないからな。ま、とりあえず付いてきてくれ」


 グランツの言葉を遮り、ちょっと強引に俺たちを案内する。

 その反応に皆微妙な顔をしたが、多分こんなな場所でチュンちゃんの説明をさせるわけには行かないからだろう。

 まあ、本当に後でもう一回あるからかもしれないけど、ハルさんの性格から考えればそうではないと思う。


 とりあえずハルさんに付いて行くのだが……屋敷の壁沿いに少し歩いた後屋敷から離れる行っている。 

 裏口に回るのかと思ったら全然別の所へ向かっているので、皆困惑している。


「あのハルさん、何処へ向かっているんですか?」


「うん? ああ、既に皆違う場所で集まって居るからそっちに向かってるんだ。ま、みんなあんな堅苦しい屋敷にあまりながいしたくないのさ」


「はぁ……」

 

 少し釈然としないが、ハルさんがわざわざ嘘をつく必要もないので付いて行くと、そこは港だった。

 港には大小様々な船が停泊しており、前にマリアと一緒に入港祭の時に来た時以外は遠目で見るだけだったので、久しぶりに間近で船を見たな。

 まあ、本当の大型船であるガレオン船は港には入って来れないから、少し沖の所で停泊してるんだけどね。

 ハルさんはそのまま桟橋の方へ歩いて行き、桟橋の入り口の人に何かを見せた後俺達を手招きし桟橋を歩いて行く。

 そして一隻のキャラック船の前で立ち止まり、船乗りっぽい人と話をした後船に乗り込んでいく。

 続いて俺達も船に乗り込むと、船員が係留されていた縄を解いていきなり出港した。


「あのハルさん、本当にここで良いんですか?」


「いや、この船からあっちの船に乗り換えて、そっちで話をする感じだな」


 ハルさんが指を指しているので、沖に停泊している大型のガレオン船だった。

 皆動揺している(チュンちゃんとアオイちゃんは気にしてない)が、船はそのまま沖の船へと向かって行った。

 数分後、ガレオン船に横付けした船の後部に向こうの甲板に上る為の渡し板のような物が掛けられる。

 

「さ、ここの先が目的地だ。一応言っておくが、ここにいる人達は俺たちと船員以外は皆それなりの立場の人だから、対応に注意しておけよ。まあ、ボウズと――そこの二人には関係ないかもしれないがな」


「ハルさんみんなを脅さないでくださいよ」


「ま、一応事実だからな」


 ハルさんは肩を竦めながらそう言うが、カトレアは侯爵家の三女だがそこまで気にする必要は無いと思うんだけどな。

 彼女は俺の身の回りの世話をしてくれる侍女頭といって良い存在だったし、あのアイリスや他にも癖のある侍女たちを纏めていたくらいだしね。

 まあ、妹ともめていた彼女が素なのだろけど、彼女なら表裏の使い分けはしっかり出来ると思う。

 それに、彼女は妹が居る養護院にも度々訪れていたから、そこまで気を使わなくても大丈夫だと思うんだよね。


「それじゃあ順番に行くぞ。流石に子の面子では無いとは思うが……落ちるなよ?」


 全員が気を引き締めた顔をして肯いた。

 船と船の接触を避ける為、横付けしているといっても五メートル程の距離があるし、高さも十メートルは無いがそれなりの高さがあるからね。

 女性陣から順番に一人ずつ慎重に渡り、最後に俺が渡って誰一人落ちることなく乗り移ることが出来た。

 乗り移った先の甲板には幾人もの船員とクリスことクリストフ=アイヒホルンが居た。


「あれ? クリスも居るのか?」


「ようトマ! それと鉄の盾の皆、お前達を待っている人たちがこっちに居るからついて来てくれ」


 彼は先を急ぐかのように船室へと向かう扉へ向かって行ってしまうので、皆で顔を合わせた後ついて行く。

 船員たちは俺達の顔を――というか、俺の顔をじっと見ている気がしたがクリスについて行くのが重要なので、とりあえず気にせず歩いて行く。

 扉の先は直ぐに階段になっていて、そこを降りると正面に扉と左右に分かれる通路があった。

 クリスはその正面の扉をノックした後、中から()()()()()()()女性の応答が聞こえ、扉を開いて中に入る。

 そこにはこの場に似つかわしく無い様な服装をした女性達が俺達を待っていた。


「ようこそ鉄の盾の皆様、そしてお久しぶりですねシクラ様」


 柔和な笑みを浮かべたカトレアと、カトレア以外にも俺の身の回りの世話をしてくれていた侍女達がアイリス以外そろってこちらへと頭を下げた。

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