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召喚失敗勇者の異世界放浪旅  作者: 転々
第四章

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失敗勇者と先代従者

「はぁ、遂にこの時が来ちまうとはな」

 日に焼けた強面の男は、先程まで話していた優男との会話を思い出しながら空を見上げながら小さく呟いていた。

 その表情はあまりいい物とは言えず、どこかあきらめの様な物も感じ取れた。

 数年前にした約束とは言え、約束した本人は既に()()()()には居ない。

 だが、その約束を引き継いでいる者によって約束は果たされることになる。

「しかし、本当に大丈夫なのか? あの人は大丈夫とは言っていたが、あの原始龍がいるあそこに許可のない船が行けるのか?」

 そう言いながら、男は背に持たれていた手すりを無意識に撫でている。

 男が撫でているのは年代物のキャラック船と呼ばれる船だ。

 ただ、他の船とは違い色々と改造が施されている船ではあるが、それでも神々ですら恐れる原始龍がいるあの大陸に行くのはかなりリスクを伴う……のだが。

「命の恩人との約束は守らないといかんわな。それに、あの人が大丈夫と言ったのだから大丈夫だろう」

 そうつぶやきながら男は手摺から背を離し、歩き出した。





 ギルドを離れた俺達は、ハルさんの先導で路地裏を歩いて行った。

 ユピリルを半年ほど拠点にしていたが、路地裏にはあまり入ったことが無いので少し新鮮な気分だ。


「お、ここだここだ」


 ハルさんが立ち止まったのは、路地裏にある建物の中でその建物だけなにやら作りが違う建物だった。

 この街の家は、基本的に木材が主流で大体が少し古く――いや、味がある街並みなのだが、そこだけ異空間の様に材質の違う建物が建っていた。

 木材でもなく、土壁でもなく……モルタル? っぽい壁を周囲の建物に紛れ込ませるかのように色を塗っているようだ。

 磨かれて艶の出ている木製と思われる重厚な扉をハルさんがリズミカルにノックすると、扉の一部が窓の様にスライドして中から誰かが覗いている。

 その視線はハルさんを見た後、俺をちらっと見て再びハルさんに視線を戻した。


「なんだハル坊かい。どっちの用事だい?」


 視線の主は、老婆の声で淡々と必要な事だけハルさんに問いかける。


「久しぶりだなアミナばぁさん。今日は部屋を貸して欲しいんだ」


「わかったよ、少し待ってな」


 そう言って窓を閉めた後、扉をごそごそしている音が聞こえた後内側に扉が開いた。

 ハルさんが手招きしながら入って行くのでそれについて中に入ると、薄暗い室内には先ほどの声の主と思われる老婆が立っていた。

 室内は何故か暗幕の様なもので先が見えない様になっており、ハルさんが老婆に何か小声で話しながら何枚か貨幣を渡していた。

 種類は暗くて見なくてわからないけど、老婆の雰囲気からそれなりの金額なのだろうと感じた。


「はぁ……ハル坊は仕方ないね。ほら、いつもの部屋の鍵だよ」


「いや、もうハル坊って呼ばれる年じゃないんだけどな」


「ふん、それが嫌ならさっさと相手を見つけて落ち着くことだね」


「その相手がなかなか手ごわくてなぁ」


「そんなのはハル坊がまだまだ良い男に成りきれてないのが原因じゃないか。ほれ、話し終わった後店のほうによって男を磨いていった方が良いんじゃないか」


 その後、世間話をもう少しした後「アミナばぁさんありがとな」老婆から鍵を受け取っていた。

 老婆からカギを受け取ったハルさんが暗幕を捲ると、そこは少しばかり特殊な食事処?だった。

 店が開いていないせいか店内は薄暗いが目を凝らして見渡すと、座り心地のよさそうなソファーと腰を掛けた際に使いやすそうなローテーブル、天井にはそこまで大きくはないがシャンデリアのようなものがついている。

 これは所謂……そっち系のお店なのだろう。 


「……え?」


 その光景に驚きの声を漏らすが、ハルさんに肩叩かれて少しビクッと体を反応させてしまう。

 

「そっちは表だから俺達はこっちだ」

 

 ハルさんは俺の様子を少しにやけ顔で見た跡、横にある通路を指差し進んでいった。

 通路と言っても床には絨毯が敷かれ壁紙が張られた通路は、この世界だと王城やヒエンさんの屋敷の様な所でしか見たことが無い程豪華なものだ。

 まあ、あの店内であるならば……納得できる仕様だろう。


 しばらく歩いて先に重厚な豪奢な木製の扉がある部屋があり、ハルさんはその扉の鍵を開けて中に入っていく。

 恐る恐る中に入るとが中は真っ暗で見えなかい。

 しかし、ハルさんが壁にあるスイッチのようなものを触ると天井にあるライトが点灯し、室内があらわになった。

 そこは先ほどの店内をさらに豪華にしたような部屋だった。

 室内はそれほど広くはないが、俺が寝転がれそうなソファーが対面に置いてあり、その間にはシンプルではあるが高級そうなテーブルが置いてある。

 元の世界では入ったことはないが、恐らくVIPルームとか言われるところだろう。


「とりあえず座ろうぜ」


「あ――ハイ……」


 豪華な部屋に気後れしつつも、ソファーに腰を沈める。

 予想以上に沈み込むソファーに慌てながらも、何とか平静を保ったようにすまし顔でハルさんに向き直る。


「ま、楽にしてくれ。もう少ししたら飲み物もって来てくれるから」 


「は、はぁ」


 流石にこんな部屋で楽にしてくれって言われても困るんだが困惑してしまう。

 当たり障りのない会話で時間を潰しつつ、微妙に居心地が悪いと感じ始めた頃扉がノックされた。

 ハルさんが返事をするとドレスを着た美人の女性が入ってきた。

 その容姿と服装から、やはりここは大人の社交場と呼ばれる店で間違いないだろう。

 しかし、女性はテーブルに飲み物を置いてさっさと退出していった。


 その様子に呆気にとられていると、正面からハルさんの笑いを押し殺した声が聞こえてくる。


「クククク……そういえばイオリゲン王国のときにそういった店に連れて行くって話をしていたな。ま、とりあえずそれは後のお楽しみだな。何にしても、坊主との再開を祝して乾杯といこうか」


 ハルさんに進められ飲み物が入ったジョッキを持って、見かけだけの乾杯をする。

 その飲み物は赤紫色をした液体で……


「ゲホッゲホッ。こ、これお酒じゃないですか!」


「ん? ああ、この店には酒以外の飲み物は基本置いてないぞ。それに、これはただの酒じゃなくて……ってまあ、それはいいか」


「いやいやいやいや、そこまでいってそれいいかって言われても困りますよ!」


 やばいものを飲まされたのかと思い内心あせっていたが、中身はブドウのワインと滋養に良いといわれているものが入っているだけとのことだ。

 滋養に良いというものが何か少し気になるが、特段変なものではないし普通にあるものだとのことだ。

 からかわれたと分かり少しむくれていたが、冒険者の人達は大体こんな感じが多い気がするのであきらめてることにした。


「それにしても、こんな辺境に居るとは思いもよらなかったぞ」


「まあ、ちょっと色々ありまして」


「そう!その色々合ったことを教えてほしいんだよ」


 何故か食い気味で聞いてくるハルさんに驚きつつも、俺がユピリルに着てからのことを色々と省きながら話をした。

 ハルさん達が悪魔のことについてどう思っているか分からないから、ガーネットやアメトリンのことは省いた感じでおおよその流れで説明することにした。


 ゲートの出先が付近の森になっていたようで、近くに居た冒険者とユピリルにやってきた。

 そして、そのパーティと一緒にダンジョンに潜ったりして暮らしていて、依頼があってイカヤザムの街まで行った途中でベロニカさんと会って、パーティの半分だけユピリルに今日戻ってきた。

 と、大体こんな感じで話してみたんだけど……ハルさんは少し釈然としない感で「……そうか」とだけ呟いた。


 腕を組んで何か考えているような仕草をした後、胸元から小さな金属で出来た箱の様なものを取り出した。

 その箱は五センチほどの正方形で、上面の中央に魔石が組み込まれているようだ。

 ハルさんが魔石を押すと、微妙な違和感が室内に広がるのを感じる。


「それはいったい?」


「これはと盗聴防止用の特殊な魔道具だ。範囲は狭いがこの中で話している内容は外に聞こえないようになっている」


 なぜそのような事をするのかわからず首を傾げると、ハルさんはため息をついて脱力する。


「いやなに、ボウズは周囲に漏れるのを嫌がって本当の事を話さないのかと思ってな」


「あの、えっと……」


 どう反応していいか分からず、言葉を詰まらせてしまう。

 本当の事を話さない? それって、ガーネット達の事? それともイカヤザムでの出来事か?

 いやいや、悪魔が元々神だったと言う事は普通の人では知りえない事だろうし、イカヤザムでの出来事を知るにしては流石に日にち的に早すぎる気がする。

 ……いや、ギルドにはギルド間で通信する魔道具か何かがあるはずだからイカヤザムの事かな?


 俺がどれの事だろうと考え込んでいると、再びハルさんがため息をついた。


「……悪魔と神、そしてセクメトリー」


 呟かれた言葉にハッとしてハルさんの顔を凝視してしまう。

 そこには苦笑いを浮かべたハルさんの顔が見えた。

 その表情からは少し寂しさの様な物が感じ取れた。

 一瞬ハルさん達もセクメトリーの使徒の様な物になってしまったのかと危惧したが、その表情と俺の直感がそれは違うと否定する。


「……どこで知ったんですか?」


「おお、怖い怖い。そんなに警戒しないでくれ、聞いたのは前勇者の従者のクリストフ=アイヒホルンって奴だ」


 俺は知らず知らずに声が低くなってしまっていたようで、ハルさんにプレッシャーを与えてしまっていたようだ。

 前勇者――あかりの従者だった人ならある程度知っていてもおかしくないが、最近の出来事まで知っているのは不自然な感じがする。


「クリストフ=アイヒホルンって人は知らないですね。本当に前勇者の従者だったんですか?」


「そうなのか? お前の直接会ったことが何度もあるって事だったが……」


 そんな長ったらしい名前の知り合いは殆どいない。

 というか、確かあかりの従者であればハンナさんの様に貴族階級のはずだから、会っていれば流石に分かるはずだ。

 直感では否定しつつも俺の中での疑惑はさらに深まって行く。


「そうか、確か冒険者として活動している時は貴族の本名じゃなくてクリスって名前だったはずだ」


「はぁ! クリスが貴族!? そう言えばそんな噂もあったけど――本当に?」


「間違いない。あーでも、俺も初めは驚いたが冒険者をしている間は魔道具で姿を変えているみたいだから、それぽく無くても仕方ないかもな」


 なるほど、クリスがあかりの従者だったと言う事であればそれなりに納得できることもある。

 あいつはソロだから常に依頼を受けているわけではないし、暇なときはギルドでダラダラしていることが多い。

 イカヤザムの事件の際となり街であるここに連絡が入っていてもおかしくないし、鉄級のベテランでギルドでだらだらしているクリスに話が行っていてもおかしくはない。

 それに、白虎の面々はあかりの従者達と一緒に戦争に参加したこともあり、お互いの面識もあったはずだハルさんが見間違うはずも無いだろう。

 それに、従者達でアイリス以外はガーネット達悪魔化した神と会ったことがあるみたいだから、その辺りの事を知っていてもおかしくはない。

 だが、なぜイオリゲン王国の貴族である彼がわざわざ身分を隠して――実際には隠してはいないが誰も信じていないだけなのだが――こんな大陸の端っこの辺鄙な所に?

 そう言えばハンナさんも……って、あれ? 何か引っかかる……そうか!

 

「クリス――クリストフ=アイヒホルンは誰かの指示でここに居るって話してましたか?」


「前勇者の指示でここに居るって事だったな。それと、そろそろ自分の役目も終わるとも」


 なるほどな。

 恐らくアイリスやスターと同じく、皆あかりから何らかの指示書みたいなものを貰って動いていて、彼の役目は――俺のサポートとかか?

 クリスのおかげで仲良くなった冒険者とかも居るし、一緒に依頼を受けたりもしたからそのためのサポーター的な役割だったのか?

 まあ、なんでもありのあかりの従者達であればどこに出て来てもおかしくないし、そう言ったことを知っていても特におかしくないからね。


「色々納得しました。あかりの従者だって事ならある程度未来の事を知っていてもおかしくないですし、他の神々の事も知って居ますからね。ただ……ハルさんに――いや、白虎の皆さんは悪魔をどうするつもりですか?」


 悪魔の本来の姿は元々この世界の神々の一神で、ガーネットやアメトリンの達と敵対するようであれば――流石に白虎の人達に詳しい話をする事は出来ない。


「どうするもこうするも、特別何かするつもりはないぞ? というか、神として会うのであればまだしも悪魔として遭遇するのなんてこっちから願い下げだよ」


「と言う事は、敵対するつもりはないって事で良いですか?」


「あん? そんなの当り前じゃねぇか。どちらかと言うと相手方から勝手に攻撃してくるから応戦しているが、出来りゃあ悪魔なんかと遭遇する事なんて避けたいわ」


 そりゃそうか、通常装備では白虎の人達ですら下級の悪魔にも敗北していたし、初めて会った時ミモザさんが腕を失ったのは悪魔との戦闘だったと言う事だから、わざわざ喧嘩を売りに行くことはしないか。


「わかりました。では詳しく話させてもらいますね」


 ハルさんにゲートに入ってから今までの事を、正直に詳しく伝えることにした。

 話を聞いているハルさんは驚きや笑いながらも最後まで聞いて、最後に納得したのか満足顔になっていた。

 そして最後に……


「坊主は相変わらずトラブルに好かれる体質だな」


 と、大笑いしていた。

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