失敗勇者と従者達
話し終えたフリーダーに休んだ方が良いと勧めると、彼はそのまま横になり暫くすると寝息をたてていた。
やはりかなり無理をしていたようだ。
……それで――だ、俺の横で怒りに震えるベロニカさんに話を聞いた方が良いだろう。
ゲルメルトとの名前を聞いた瞬間からずっとこの様子なので、何かしらの因縁があるはずだしね。
「ベロニカさんはゲルメルトをご存知なのですね?」
「――はい。あいつはシクラ様の前の勇者であるアカリ様の時にもイオリゲン王国で問題を起こしまして、その時ももう少しの所で逃げられてしまっていまして」
なんでも、セクメトリー教の司祭である事を良い事に人身売買に加担していたらしく、王都の孤児などを違法に他国へ売買していたらしい。
当時はアカリもまだ召喚されたばかりで上手く捕まえることが出来ずに逃走され、その後騎士団の方でも追っていたが他国に逃走されてしまったとの事だ。
それ以降も何度かアカリの邪魔をしていたらしく、魔王討伐の作戦に魔導騎士団員として参加したベロニカさん達にも嫌がらせの様な事をしたりと、なかなか粘着質な奴らしい。
「そう言う事なのね。ベロニカといったかしら、私が悪魔の時にシクラの邪魔をするようにとかあなたを操る様に契約したのはそいつよ」
ガーネットが明かした衝撃の事実にベロニカさんは激怒しそうな顔をしたが、ガーネットに憤っても仕方がないと考え直し気持ちを切り替えたようだ。
「あいつは一体何のために私達の邪魔をしているのでしょうか」
「流石にそれはわからないわ。私も当時は生贄を貰ったからその分の仕事をしただけだし、理由なんて確認する必要もなかったしね。ただ……悪魔と時の私の上が誰なのかが未だに謎なのよね。最低でもアメトリン以上の元神々になると思うのだけど、そこまでの神って意外と数が少ないのよね」
「あーやっぱりアメトリンってそれなりの神様だったんだ……まあ、人格――というか神格? は適当だけど」
「そうなのよね。あれでも神としてはかなり上位なのよ。そうでもなければ六神の呪いを解呪できるほどの浄化の力があるわけないじゃない」
oh……説明を聞くとかなり上位の神様っぽいじゃないか。
実際どの位の神が悪魔化せずに残っているか分からないみたいだけど、六神の支配地域では殆ど存在していないと思うとの事だ。
アメトリンみたいにダンジョン奥深くに元々いたり、タケミカヅチ神の領域であれば残っている神は居るらしい。
ただ、ダンジョンの場合はその神の力次第では悪魔化している可能性が在るから、最下層に行く際は注意が必要になりそうだ。
「それはさておき、今後の対応をどうするか確認したいんだけど。このまま街に戻ると鉢合わせしそうな感じがするからさっさと移動した方が良いと思うんだけど」
「そうですね、移動するのは賛成なのですが、シクラ様の元々の予定ですとこのまま南に向かう感じでしょうか?」
「そうだね。イオリゲン王国を回避してウグジマシカまで向かうには、街道沿いに南下してから東部へ向かう必要があるみたいだしね」
グランツ達と相談した際、そのルートが一番補足されにくいと思っていたんだよね。
今回がたまたまなのか、それとも始めから仕掛けていたのかわからないけど、流石にもう少しルートをしっかり考えた方が良いかもしれないな。
「そうえいば、何でそのアイリスって人はトマを追ってきてるの?」
「なんでって……勇者フェチだから? 」
「……流石にそれは違います。彼女はセクメトリー教の信仰者ですし、確信はありませんが前のシクラ様と同様の状態になっていると思われます」
「前のってどう言う事?」
ベロニカさんが言っている前の俺って――ああ、急いで元の世界に帰らないといけないと思い込まされていた時の事か。
あれって自分で選択しているようにその時は思っていたけど、今思うと何故あそこまで急いで帰らせようとしてたのか――ああ、セクメトリーに信仰心を集める旅をしようとしてたんだよな。
その時の状況を知らないマリアに簡単に説明をした。
マリアは「何それヒドーイ」と憤慨した後小さな声で「でも、そのおかげで……」と、後半は聞き取れなかったけど俺を見つめた後顔が真っ赤になっていた。
何を考えているのか何となくわかるけど、まあそこは何も言わない方がいいだろう。
「ま、まあ、とりあえずアイリスって人と会わないようにした方が良いって事よね? でも勝手に移動したらグランツ達と合流できなくなっちゃうんじゃない?」
「そうだよな。アメトリンさえ平気だったらグランツ達に直接話に行けるんだけど……」
そう言いながら寝かされているアメトリンを見るが、ひどく辛そうな顔をしたまま眠っている。
神様でも寝るんだなと変に感心をしたが、この状況で起こして送ってくれとは流石に言い難いね。
「なあガーネット、アメトリンはどの位休まないといけない感じ?」
「流石にそれはわからないわね。こんな事になったことというのは見たことも聞いたことも無いし。でも、恐らく数日は無理させることが出来ないと思うわ」
「やっぱりそうだよな」
そうなると――やっぱり誰かが戻って二人に連絡するしかないのかな。
でもこの場所からイカヤザムまで戻るとなると、急いでも十日程かかっちゃうんだよね。
まあ、心配されるだろうけど仕方ないか。
「今後の方針を決めるにしても、グランツたちとの合流はしないといけないから、休息をとってからイカヤザムへ向かおう」
「それならアメトリンが目覚めてから戻った方が早くない? 一瞬で目的地に着いちゃうんだし」
「それも考えたんだけど、アメトリンが目覚めた後すぐに力を使ってもらうのもどうかと思うし、そもそもゲートを繋げることが出来るかわからないし。もし繋げてもらえるようなら途中で呼び出してもらって、無理そうならそのまま行けばいいかなって」
流石にフリーダーを浄化するのに力を使い果たした彼女のこれ以上負担をかけるのは気が引ける。
俺とベロニカさんが街に入るとアイリスと鉢合わせした際に面倒が起きるので、グランツ達に説明してもらうのはマリアに頼むことになりそうだけどね。
その後も細々とした打ち合わせをして、この方針で行こうと考えていると……。
「前に来たシクラの知り合いに話が出来ればいいのですか?」
「え、そうだね。グランツかイザベルのどちらかと話が出来ればもんだいないけど……」
「念話程度であれば私の力で繋ぐ事が出来ますよ。まあ、私が合ったことがある者しか繋げないですが」
そんなことが出来るならもっと早く行ってくれれば良かったのに……とは思ったけど、ガーネットは今現在信仰するものがほぼ居ない神様なのであまり力を使う事が出来ないんだよね。
一応その事を聞いてみたんだけど、この程度であれば特に問題は無いとの事だった。
それと、悪魔化した時にベロニカさんにしたことについて流石に罪悪感があるらしく、その罪滅ぼし――とまではいかないが、彼女の負担を減らすことへ協力をしてくれるそうだ。
俺を探すために世界を半周しているし、馬車に乗っているだけとは言えこの世界の旅は疲労がたまるからね。
「……ってなわけで、いったんユピリルに戻って集合って事で良いかな?」
俺は今までの経緯とこれからの事をガーネットを経由してグランツに伝える。
ガーネットを経由しての念話は、彼女と手を繋いでいるだけでいいのだけど内容は彼女に駄々洩れになるらしい――まあ、今話していた無い様なので特に問題は無いけどね。
「ああ……とりあえずそれしか無いだろうな。俺達が戻るまでそっちはどうするつもりなんだ」
「数日ダンジョンでみんなの力量の確認をした後、グランツ達が戻ってくるのに合わせてユピリルにもどるよ」
「そうか。じゃあ俺達はエリク達の様子を見た後そっちに行くことにするは」
グランツは念話ですらわかる程疲れている様だったので、せめて一日ゆっくりしてから来るようにと伝えておく。
ギルドの方には俺達の事は誤魔化しておいてくれると言っていたので、よっぽど問題にはならないだろう。
念話を終えアメトリンに感謝を伝えた後、俺達も今日はガーネットの領域で休むことにした。
翌日、ガーネットとフリーダーは今だ目を覚ます感じではないため、二人の事をガーネットに頼んで俺達はダンジョン最下層へと向かった。
シクラ達がセクメトリーとごたごたしていたころ、白虎を護衛としてユピリルに訪れていた一行は領主の館にある応接間に居た。
応接間のソファーに座る女性が二人、その後ろに立っているのは白虎のメンバーの他に二人の女性だ。
一人は茶色の髪を後ろの束ねた品の良い女性に、銀色の髪をしたまだ幼い少女だ。
後ろに立つ女性は侍女服を着た澄まし顔の女性と、騎士のような金属鎧を着込んだ女性。
その両サイドに白虎の面々が立ち、正面に座る領主は内心かなりビクビクしていた。
(な、なぜイオリゲン王国の侯爵令嬢がわざわざこんな僻地に……それに、隣の少女は髪の色からしておそらくハイエルフ。後ろの侍女と護衛もそれなりの立ち位置のものだろうが、他の四人に比べたら格段に落ちるのだが。)
隣国の高位貴族の令嬢が面会を求めてきたので応じた領主だったが、目の前にいる者達は子爵位を持つ彼にとっても異常なメンバーだった。
「本日はお忙しい中お時間を作っていただきありがとうございます」
「いや気にする必要はない。イオリゲン王国でも有数なミュラー侯爵のご令嬢が我が街にいらしたとあれば、代理の者にさせるわけにもゆきますまい」
正直他の者で相手にできる人がいれば逃げたいのだがと考えているのだが、交易が盛んな為子爵領となってはいるが、こんなど田舎に他の貴族が住み着いたりする事がないので彼が対応する他ないのだ。
その後も当たり障りのない貴族の挨拶を永遠とした後、ようやく本題に入ってくれた。
「私達は少々訳あって人を探しておりまして、その方がこちらに戻られるまで私共がこの街に逗留させて頂きたく存じます」
「ほう、人探しですか……。いえ、逗留の件は問題ありません。我が屋敷にはそう言った方の為の別棟がありますのでご自由にお使いください。もし、何か困ったことなどがございましたら屋敷の者に申してください」
侯爵令嬢がわざわざ最高位の冒険者を雇って他国に人探しとは、相手はいったいどのような人物なのか。
彼の頭の中に一人の人物が思い当たるが、彼とこの令嬢は同国出身ではあるがわざわざ彼を探しに来たわけではないだろう。
もし彼に用事があるのであれば、私の所には挨拶のみで終わらさえていたはずだ。
ふむ、もしかしたらその人物の事も重要だが、隣の少女のことを考えるにあの大陸に向かうつもりなのか? 彼女がいれば大陸に行くことはできるだろうが――しかし、一体何の為に?
いや、あまり深くかかわらない方が良いかもしれない。
彼女は見た目は普通の淑女だがあのミュラー侯爵の娘だ、一筋縄ではいかぬあいてであろう。
そう言った相手にはこちらから何かしらアクションを起こすのではなく、相手方からの何かあった時に便宜を図る方がよいだろう。
彼女らはその後「こちらはお礼と手土産です」と言って魔法の鞄をを執事に手渡した。
その中身に少し興味はあったが、この場で確認するのはマナー違反なので後で確認させてもらうとしよう。
そして彼女らは屋敷の者に別棟へと案内させた。
「御当主様こちらを」
「ああ……っ! な、なんだと! 」
「いかがなさいましたか!?」
「いやなに。ははは……流石は大国の侯爵令嬢と言う事か」
執事から渡された鞄の中には金貨百枚と、子爵の必要としているとある品が入っていた。
鞄からそのある品を取り出す。それは特殊な魔法で転写した、先代勇者の姿絵だった。
その姿絵はどのような魔法なのかは一子相伝の秘密で、彼の様な子爵でもなかなか作ってもらえない程貴重なもので、さらに今回の姿絵は先代勇者であるアカリだ。
写真立に入る程度の大きさであればそこまで貴重と言う訳ではないが、この絵画サイズの物はイオリゲン王国でもそれ程数が出回っていなかったはずだ。
隣国のあの方に献上するにはこれ以上の品はないだろう。
暫し眺めた後写し絵を鞄へと戻し、側に控える執事に指示を出す。
「必要ないかもしれないが、彼女らへ護衛の手配をしろ。それと、何かあった際にはお前の判断で行えることは全て応えてやれ。それ以上の事の場合は至急私の所へ話を持って来い」
執事は主の命に従い、各部署へと手配に向かった。
誰も居なくなった部屋で子爵は交易品の一つである秘蔵の蒸留酒をグラスに注ぎ、グイッと一気に飲み干した。
「まあいい。面倒事は余程ないと思うが、あれだけの品だ特別な事情があるのだろう。それにしても、私が欲しがっている者をピンポイントで持ってくるとは……流石ミュラー侯爵か」
再びグラスに注いだ酒を一気に飲み干し、窓から外を見ながらつぶやく。
そして数年後、彼は隣国キサガナ王国との友好が認められ伯爵に昇爵するのだった。




