3話 異世界が大変なことになっているみたいですがよく分かりません
会議が始まるらしい。何の会議か知らないけどね。
元裸男に引っ張られて着いたのは大きな部屋で、そこには大きなテーブルがあり、20人くらいの人たちが座っていた。
皆そろいもそろって髪や瞳の色がカラフルだ。なんか角みたいなのが生えている人もいる。
そんな様々な人たち全員、私が部屋に入るなりこちらを見つめてきた。
視線に戸惑う私とは違い、ひーちゃんと元裸男は「あ、ここ3つ空いてるラッキー」とか言いながら全然気にせずに席に座った。
座っても視線感じる。皆めっちゃこっち見てる。
「……なんか見られてるんですけど、自己紹介したほうがいいのかな」
「みっちゃんの事は皆さん知ってますから、自己紹介はいりませんよ」
「知られてるわりに、すっごく見られてるんですけど私」
「そりゃ、久々に会ったからだろうな。……ん?人数足りねぇぞ」
「あら、ヴィルドがいないですね。彼がいないということは、まだ準備が終わってないんでしょうか」
「ヴィルド?!おいおい、あいついないと会議始められないじゃねーか!しょうがねぇな、ちょっと行ってくる!」
「は?ちょ……あー……行っちゃいましたね」
ひーちゃんが止める間もなく、元裸男は消えた。
そう、文字通りいきなり消えた。
「消えた……」
「ヴィルドは準備が出来次第、異世界から直行で会議に参加する予定なんだから、終わるまで待っていればいいのに」
「え、異世界?え?またあいつ裸になるの?」
「いえ、そちらの異世界ではないから裸にはなりませんよ……そうだ!待っている間に先にみっちゃんにお願いする役の説明をしましょう。会議が終わったらすぐにでも向かってもらいますから」
おかしいな、私確か話を聞いてから、としか答えてないはず。
これ、やること確定している口ぶりなんですけど。
「みっちゃんには、聖剣を渡す巫女の役をやっていただきます。設定としては」
「待って待って待って!そもそも聖剣を渡す巫女の『役』っていうのが分からないんですけど。なんですか『役』って」
「役とは……」
ひーちゃんはそこで言葉を止めると、コホンと小さく咳払いをした。
「……あれですね。そもそも何をしているかから説明しないと分かりません、よね?」
「分かりません!」
即答した。
むしろ分かる人がいたらすごい。
「私たちは主に、世界を崩壊させないために動いているんです」
うわぁ、なんかすごく異世界って感じの話。
「その時々で対応は変わりますが……根元にあるのは『世界の崩壊を防ぐため』なんです」
「そう、なんですね。それは、想像できないけど大変そう」
「はい。世界、と言っても1つではなく、5つの世界があるので、それら全部の崩壊を防ぐためなので、本当に大変です」
ん?5つ?
「ちょ、ちょっと待って。星とかじゃなくて世界?」
「そうです。私のいる世界も含め、異世界が5つです」
どうしよう。最初から分かりにくいかも。
世界の崩壊を防ぐ、というのはまあ、分からなくもない。
けど、そもそも世界が5つってなんだそれ。
ちょっと思っていたよりスケールの規模が大きい。
他の異世界の崩壊も防ぐって……
「それって、私がいた世界の崩壊を防ぐための事でもあるって事ですよね」
この世界の崩壊を防ぐためだけじゃないって事だから、私のいた世界もって事だよね。他の世界も含めて、崩壊を防ぐために何かをしているってわけなんだし。
なんとなく、別の世界の事だからとか他人事だと思っていたけど、自分の生活している世界も関わるとなると、急に重圧がのしかかってきた。
「え?そちらの世界は全く関係ありませんよ?」
「え?」
「そちらも異世界ですけど、こちらとは全く掠りもしないほど関係ないですね。別物です。そちらとは別に、こちらに5つの異世界がありまして、その5つの異世界の事です」
「異世界に別も何もあるんですか?!」
世界が別なら異世界だよね?!あれ?何が違うの?
「異世界にも色々あるんですよ。まあ、私たちが関わる5つの世界がちょっと特殊なんだと思うんですが」
異世界。まあ、字面からして異なる世界だし、色々あるんだろうけど。とりあえず聞かなきゃ分からないから黙ったまま聞くことにした。
「この5つの世界は、それぞれ独立した世界ですが、存在している物質等、共通点がたくさんあります。パラレルワールドが5つあるようなものでしょうか」
共通点がたくさんある……あ、そっか。移動先の世界でも同じ物質があるなら消えないんだっけ。だから移動しても裸にならないって言っていたのね。
「そして……この5つの世界は別々に存在しているにも関わらず『世界の命を共有している』んです。説明していると長くなってしまうのでざっくり言いますと、5つの世界のどれか1つでも地形や生態系に大ダメージを受けたら、他の世界も一蓮托生。他の4つの世界でも天変地異が起き、恐らくですがどれか1つの世界が滅べば他の4つも滅びます」
「それって……」
「ええ。盛大なとばっちりです。迷惑な話ですよね」
いや、確かにとばっちりといえばとばっちりだけれど、なんかもっと大変な事だよねそれって。
「それでですね、その5つある世界の1つでまさにその盛大なとばっちり案件が発生」
「え?!」
「……しそうだったので、防ぐために働きかけている真っ最中なんです」
な、なるほど……?
「ええと、異世界の1つで何かが起こっているってこと?」
「はい。まあ、その時々で違うんですけれど、今回はその5つある異世界の1つで国同士の争いが起こりそうになっていて、状況が悪化すれば世界の崩壊になりそうだったので、それを防ぐために働きかけてます」
「崩壊しそうなほどの争いになっちゃうんですか?」
「小競り合いで終わるならいいんですけどねぇ。何故か地形壊したり、生態系殺戮しまくったり、なんでそこまでする?!ってくらいどんどん暴走して破壊行動に走るんですよ。敵は滅せ!と言わんばかりです。せめて人以外を滅するのはやめていただきたいんですよね。自分の世界だけの話ではないのに、本当に困りますよね」
「困るどころじゃないですね……その世界の人たちは他の世界も崩壊するとか知らないんですか?」
「信じなかったり、その時は信じていても時と共に風化したり、伝わっていても事実だと思われなかったり、ねじ曲がって伝わったり……まあ、つまり伝えても無駄でした。だからといって放っておくと、とばっちりで他の世界も崩壊です。それは大変」
「大変の一言じゃすまないですね……」
破壊行動やら、崩壊を信じないやら……これ、どうやって争いを防ぐんだろう。
「とまあ、5つの世界は運命共同体な感じで、争いごとが起こりかけ始めた時、それを防ぐために動くのが私たち、というわけです」
「正義の味方というわけですね」
とばっちりで迷惑を被るからだとしても、世界の崩壊を防ぐために動くってことは、まぎれもなく正義だよね。
「いいえ?私たちがやってるのは魔王軍的なもので、どちらかと言えば悪役ですねぇ」
「それ崩壊を進めようとしてませんか?!」
「ほら、よくあるでしょう?自分たちより強大な敵が出ると『争っている場合じゃねぇな……ひとまず休戦だ!』『お前、なかなかやるじゃねぇか!』と、なんだかんだで仲良くなるイベントが。それが発生するので最終的には防げるんですよ」
ああ、うん。そういうの確かに見かける。漫画とかアニメとか小説とかゲームとかでね。
ていうか、イベントとか言っちゃってるのが気になるんだけど。
「いがみ合っていても、自分たちよりも強大な敵がいれば手を組まざるを得なくさせる。そこまではこちらが力を示して危機感を煽れば簡単にできなくもないですが、その手を組んでいる間にお互い信頼関係を築かせ、強大な敵を倒した後もその関係性を崩させない様に働きかける事が重要になります。そこで、国同士の繋ぐ役目として、今回は勇者と呼ばれる英雄を育て上げました。世界中と交流し、力をつけて最終的には魔王を倒して終わりです。その頃には、強大な敵が居なくなっても、国同士で信頼関係が築けているので争いごとは起こらなくなっている予定です」
「えーっと……」
なんだか、何というか、まだ分からないことだらけだけど、ひーちゃん達が大事なことをしているという事だけは分かった。
「と、そういう感じでイベントは結構進んでいまして、今勇者は最終決戦目前です。最後の大事なイベントで、みっちゃんには勇者に聖剣を渡す巫女の役をしていただきます。そして、勇者を惚れさせます!」
大事なことをしているわりに、ちょくちょくなんか聞き覚えのあるような単語が混じってるのが気になる。主に漫画とかアニメとか……って、惚れさせる事もやっぱりやることになってる。
「あのー、聖剣を渡す役目って、私じゃないとダメなんですか?」
「ダメなんです。みっちゃん以外にはできません」
「渡すだけですよね?惚れさせるのいらなくないですか」
「……渡すだけ、ではないのよ。みっちゃんでないと絶対に出来ないんです」
真っ直ぐ、真剣な面持ちでひーちゃんは言いながら、束になった書類を渡してきた。
「これは、これまでの出来事を纏めたものです。全部ではありませんが、要点になる出来事は書かれています。巫女役の説明をする前に、一度目を通した方が理解しやすいかもと思って急いで用意させました。ヴィルドが来る前までに、読めるところまで読んでください。読んでいただければ、何故勇者を惚れさせるのかが分かると思います」
惚れさせなければいけないような理由って、なんだろう。物凄く真剣な様子だし、本当に重要事項なのかもしれない。
これは、きちんとしっかり読まないといけないのかも。
最初からこれを渡してくれればよかったんじゃないかな。まあ、今貰えたからいいけど。
書類を受け取り、緊張しながらページを捲ろうとして……手が止まった。
「……『デュエルストーリー ~世界一ピュアな2人~ 』……?」
……何これ。
「今回のストーリーの題名です」
「……題名?」
「ええ。決めるの大変だったんですよ。シンプルかつ一目で内容が分かりやすいようにって。一度決めたら最後まで基本は変更しないので、物語の方向性もこれで決まってしまいますからね」
そう、題名ね。
……
今、一瞬かなり真剣な状況になっていたよね。
きっと、争いを止めさせるための話なんだし、とてもまじめな内容なんだなって、すごく緊張しながら受け取ったのに。
世界の崩壊を防ぐために働きかけていた物語の題名がこれ。
そもそも何故題名が付くのかな?
聞きたいことが色々ありすぎて何から言えばよいのか分からないから、とりあえず読もう。
それしかない。