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2話 とりあえず勇者に聖剣を渡すことになるようだけども、詳細な説明がもっと欲しい

「私の事は『ひーちゃん』と呼んでください」

「ひーちゃん?」

「はい。今の名前は一応ありますが、この呼び名はずっと使っているものですので、こちらの方が誰が聞いても私だとわかりますから」

 あだ名、のような物かな。

 でも、今の名前は一応ありますって、なんか変な言い方。

「えっと、私の名前は、佐藤結衣と言います」

「知っています」

「え」

「でも。みっちゃんはみっちゃんなので、そちらで名前を呼ばせていただきますね」

「どこからみっちゃん出てきた?!」

 私の名前のどこにも『みっちゃん』になる要素はかけらもないんですけど!

「ユイちゃん、でもいいんですが、みっちゃんの方が皆呼び慣れていますから」

「……」

 あの裸男もそうだが、このひーちゃんも私の事を前から知っているような態度をしている。

 それに皆って言っているから、他にも私の事を知っている人がいるのかな。

 正直、全然状況についていけてない。

 強制的に連れてこられたけれど、とりあえずは優しくしてもらえているみたいだし、このまま今の状況に身を任せるしかないみたいだ。

 というか、どうあがいてもなるようになるしかないしね。

 自分の部屋から強制転移っていうのかな?させられてるし、逃げ場はない。

 よし、開き直ろう。

 用が済めば帰してくれるらしいし。その言葉を信じるしかない。

 まあ、みっちゃんという呼び慣れないあだ名はあれだ。ニックネームとかハンドルネームだとか、とにかくそういうのだと思う事にしよう。

 そう思えば、みっちゃんはまだマシな方だ。

 これが『終焉を黒衣で結ぶモノ(エンドブラックユイ)』的な名前だったら全力で拒否していたけど、みっちゃんならまあいいか。

 ちなみにこれ、中学生の時に一時期友達内でこれ系のあだ名をつけるのが流行った結果出来上がった過去の遺物だ。一週間ほどで皆正気に戻って封印し、互いに掘り起こしてはいけないと暗黙の了解の元なかったことにされた負の遺産である。

「分かりました。じゃあ、みっちゃん……という事でお願いします」

 そう言うと、美女……ひーちゃんは嬉しそうに微笑んだ。

「ありがとうございます!何といいますか、反応が新鮮でいいですねぇ」

「はい?」

「皆も喜びますねこれは。こんなにみっちゃんが可愛くなるなんて」

「はい?!」

 ひーちゃんはにこにこ笑いながら私の頭を撫でてきた。

 なんなのこれ。

「あのー、私は用があってこちらに連れてこられたんですよね?その用というのは、何なんでしょうか」

 その言葉に、ひーちゃんはハッとして撫でていた手を止めた。

「そうでした!こんなことをしている場合ではなかったですね」

 名残惜しそうに手を下したひーちゃんは、キリっと表情を引き締めた。


「みっちゃんには……勇者に聖剣を渡して欲しいんです!」


 勇者に聖剣……勇者?勇者ってあれ?ゲームとかの主人公だったりするあれだよね。いるんだ勇者。なんか戦いとか起こってる感じなのかな。

 それ、結構大変なやつなんじゃ……

 いやでも、渡すだけならなんとかなる、かな。


「あと勇者を惚れさせてください!!」

「絶対無理です!!」

 何を言っているのこの人。

 聖剣を渡す、はまだ分かる。渡すだけならどうにか出来そう。それを何故私がやらなければいけないのかは分からないけど、出来なくもないと思う。

 でも惚れさせるってなに?!

「ああ、ごめんなさい!要約するとそういう事なんですけど、みっちゃんには説明が全然足りてませんよね」

「足りてない以前に要約してそれという時点で不安しかないんですけど!」

「大丈夫、みっちゃんはただ渡された台本通りに動いてくれるだけでいいんです。高度なアドリブは求めたりしませんから!」

「説明!詳細な説明をお願いします!」

「ごめんなさい、詳細な説明をするほど時間がないの」

「そうそう。話すと長くなるからな。これから会議が始まるし、そこまで時間は取れないんだよ」

 そう言いながらやってきたのは、あいつだった。

「あ、変態だ」

「へ、変態?!」

「あーそうですねぇ。全裸で女子高生の部屋に現れるなんて、変態ですね確かに」

「ひーちゃんまで?!オレ変態じゃねーよ!しょうがなかっただろ急いでたんだから!」

 さっきの全裸男は今度はちゃんと服を着ていた。

 こうしてきちんと身だしなみを整えて改めてみると、結構イケメンだった。

 ただし元全裸だ。初対面があれだったので、私の中で彼のイケメン成分はすべて吹っ飛んだ。

「急いでいると全裸になるんだ……」

「着替える時間が無かったからしょうがないだろ!実は結構気に入ってた服着てたんだぞあの時!」

「え、全裸で気に入っていた服……?」

 実は全裸のようで透明な服を着ていた?いやそれは見えていない時点で全裸と同じだよね。見えていない服を気に入っているなら、やっぱり変態だ。

「あー……その、なんだ。簡単に言うとだな、こっちの世界とそっちの世界じゃ同じような物でも物質が違うっていうの?そんな感じなんだよ。で、そっちの世界とこっちの世界じゃ存在している物質がかなり違う。お互いに存在していない物質は移動すると消えちまうんだよ。移動先の世界じゃ存在していない物は初めからなかった物、つまり、あるわけがないので跡形もなく消える、となるわけなんだ」

「へ?」

「オレが移動前に着ていた服の素材はそっちの世界だと存在していないものだったから、移動した時にオレの服はそっちでは存在できなくて消えた。みっちゃんも同じようなもんだ。こっちに来た時に全裸になってたのは、そっちで着ていた服の素材がこっちじゃ存在していない物だったんだよ。だから来た時に全裸になってた」

「え、服が存在していないってどういう意味?」

 今、私が着ているひーちゃんが持ってきてくれた服は、私の世界でもよくある綿で出来た服にしか見えない。何が違うんだろう。

「肌触りとか見た目だとかが同じようでも、全然違うんだ。まあ、その内分かってくるさ。だから、不可抗力なんだよ!変態じゃねーから!」

「消えない服もあるのに着なかったのはどこの誰でしょうね」

「だから、急いでたって言ったろ!あーもう、ほら会議始まるから2人とも来い!」

 元裸男は私とひーちゃんの腕を掴むと、問答無用で部屋から連れ出した。


 これまでのやり取りで分かったこと。

 ここは私の世界とは違う世界。

 私の名前はこっちでは『みっちゃん』らしい。

 なんか勇者とかいる。その人に私は聖剣を渡すらしい。あと惚れさせる?

 こっちの物と私の世界の物は違うみたいで、同じじゃなきゃ移動すると消える。


 以上!

 

 まとめたところで全然何が何だか分かりません。

 理解があまり進まない中、強制的に会議に参加させられることになってしまったけど、会議って何の会議?それすらも分からないんですけど……








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