子狐の持つ希望 3
初回の戦いを終えた後も、ストレンジャー達に戦いを要求する者達は後を絶たなかった。
「力・・・! よこせぇやあ!!」
皆が皆外へ出る事を望んでおり、そのための力を蓄えたい。ゆえに、他者が持つであろう強力な『流星石』を皆は探していた。強者と戦い、強いと思われる力を手に入れるために。
バッ!!
「!!」
そんな相手と対峙しても、ストレンジャーは決して相手に背を向ける事は無かった。今の彼を信頼する者が居る事もあるが、彼の望む願いを叶えたい。ただそれだけで、今の自分が出来る事を行い敵を倒し続けていた。
「・・・貴方の負けだ。」
バシッ!
「グァアッ!!」
無論、倒すと同時にもう1つの願いである『他者への怪我』を最小限に抑えた戦い方をしていた。大体の戦い方は流星石で牽制し、その間に接近し相手を素手で威圧し力を使えなくする。それと同時に、初めて戦った相手が言っていた『言葉』の力も使おうとしており、一言言いつつ相手を倒すことが多くなった。
これ以上戦う必要がない事を伝えるのと同時に、軽い怪我をさせてしまう事へ対する詫びの言葉。1つ1つを確実に行い、彼は敵対する存在達を1人1人相手し、その場から早々に退散させるのであった。
「ぇっと・・・ コレは杖で、こっちは・・・」
そんな中、彼の戦いの最中邪魔にならない所で彼の様子を見つつ行動するアルダート。彼はストレンジャーが相手をし、負けを認めた存在達が置いて行った『流星石』を保持し管理していた。元々石自体には興味がある様子で、1つ1つを見比べどんな効力があるのかを調べていた。
大体が原石の外見で分かるが、戦いの際に見せた攻撃の仕方等で把握をするのが一般的のようだった。少しずつ彼の身に着けているジャケットのボリュームが増すものの、さほど重さを感じていない様子で彼も行動をしていた。
そんな2人の行動は、彼等の居る地域では軽く有名になりつつあった・・・
「・・・ん~ どれどれ。」
そんな彼等の噂を耳にし、1人の存在が行動を起こしていた。適当な灰ビルをジャンプしたり、足元をジェット機のように変換しながら飛ぶ奇妙な存在。手にはこれまた小さな双眼鏡が持たれており、それで存在達1人1人の行動を見ながら行動している様だった。
その日も存在は噂の大本となる存在を探し、とある壊れかけの家の屋根から様子をチェックしていた。軽く陽ざしの元昼寝をする猫のような姿を見せているものの、猫耳以外にも兎耳も生えており、少々愛らしいと言うよりは小ばかにした感じの存在。それこそが、先ほどまで城で『ニャンニャン』言っていた『茶色の猫』だった。
「・・・ ・・・おぉ、あれかニャ?」
そんな猫モドキの存在が双眼鏡を覗いていると、とある存在の姿を見つけた様子で呟いた。猫が見ている存在、それは一度住処である住居へと戻った『アルダート』と『ストレンジャー』であった。
空色の狐と蒼色の龍が、街で存在達から多くの流星石を回収している理由は詳しく分からないが、自分達を街から出してくれるような事を言っている
それが、彼等の耳に入った噂であった。
無論その噂が本当かどうかを、猫自身もいろいろとリサーチをしていた。初参加に等しい彼らが倒した相手は、およそ16人。そのうちの8割を軽傷で倒し、残りの2割を噂で釣られ喧嘩を挑まれ、返り討ちに。
一部は彼等の話に耳を傾け、自ら流星石を差し出したものも居ると報告を受けていた。街の存在達にとっては希望の星ではあったが、猫達から見たら邪魔者の様子だった。
「ん~・・・ あんまりプリンセスの望む考え方に類似はしニャいし、あれが無双の落武者とは思えないニャ。」
軽く双眼鏡を覗いていた猫はそう呟きつつ、その場に立ち上がりながら軽く見ていた方角を見つめていた。それと同時に何処からか風が吹き、猫の着ていた衣服と尻尾、そして兎耳を軽く揺らしていた。
「・・・大分集まりましたね。 流星石。」
「そうだな・・・」
外での連戦に一息つこうとし、彼等は住処である灰ビルの一室でその日の戦利品を見ていた。元々外へ出た理由が争いごとの終息ではあったものの、必然的に流星石も溜まる一方であった。小さな瓶とはいえ個数が溜まれば荷物になると、ストレンジャーは一時帰宅を提案したのだ。
カーペットの上へと移動したアルダートは、ポケットに入れられるだけ入れてあった流星石を丁寧に取り出し並べていた。道中で拾ったものも含め、その数約30個。元々持っていた物も含め、結構な数が集まったとされていた。
「こんなにたくさんあると、いろいろ調合とかで整理していかないといけませんね。 使用回数がある奴なら、回数を補充しないといけませんし。」
「そうだな・・・ ・・・いつの間にか、俺達は噂の存在になりつつあったな。」
「そうですね。」
軽く楽しそうに流星石を見ていたアルダートに対し、ストレンジャーは呟きながらそう言った。彼等も街に流れていた噂を耳にしており、それを理由に喧嘩を挑んでくる存在も少なくはなかった。逆に話を求められ、自分達の考えを聞き自ら流星石を託す存在も現れるほどであった。
理由はともあれ、少なくとも街の存在達から見ると『希望』になりつつある事をストレンジャーは悟っていた。
『希望が、少しずつ溜まり出してる・・・ ・・・それゆえに、街が明るく静かになりつつあるのも事実だ。 だが・・・』
「・・・? ストレンジャーさん?」
軽く体制を維持したまま考えていた彼を見て、アルダートは声をかけた。少しだけ真剣な表情をしていたため、何か気になるところがあったのだろう。心配そうな眼差しを、彼は向けていた。
「? なんだ・・・」
「なんか、心配な事とかありましたか・・・? 難しそうな顔をしていましたけど。」
「・・・ ・・・噂で俺達が希望になっていると言う事は、それを邪魔する存在が現れてもおかしくないと思ってな・・・」
声をかけられ、ストレンジャーは先ほどまで少し考えていたことをアルダートにも話した。今では自分のパートナーとなっている存在であるがゆえに、隠し事はなるべく減らそうとしたのだろう。嘘偽りはなく、それでも掻い摘みながら話していた。
「邪魔を・・・?」
彼の言った事に対しそういうと、ストレンジャーは軽く頷いた。何か心配しているのは事実であり、それに加えて強敵が現れそうな気がする。と、彼は予想していた。
すると、
「ぉ~・・・ 意外と、頭が回る噂元みたいだニャッ」
「!!」
彼等しか居ないと思っていた部屋に、何処からともなく声が聞こえてきた。声を耳にし、彼等はその場に立ち上がり声の主を探していた。出来る限りの警戒をしており、互いに背中を合わせポケットに入れてある流星石を軽く掴んでいた。
「・・・何処だ。 姿を現せ!」
「こっちだニャ~」
ストレンジャーの問いかけに反応し、返事をする声と共に1つの影が浮かび上がった。彼等が向けた視線の先、それは朝日が入ってくる大きな窓辺付近の場所だった。
そこには小柄な猫の様な存在のシルエットが浮かんでおり、声の主はその人物だと彼は悟った。
・・・しかし、
「・・・小さいですね。」
「ああ。」
「ニャッ!! 一番のクライマックスになんて反応をするニャッ!!!」
予想外の相手の登場に、アルダートとストレンジャーは今までには無い平凡な返事を返していた。さすがにそれには予想外だったのだろう、影の主は軽く奮起していた。
「一番良い中ボスポジションに対して、なーんてことを言うのニャっ!! この愚か共めッ!」
「猫・・・でしょうか。 ストレンジャーさん。」
「多分な。 ・・・で、お前。 何か用か。」
「スルーされたニャっ・・・!」
しかしそれでも反応を変えないアルダート達を見かね、影はその場で項垂れつつも話た事に対しての反応に嘆いていた。無理もない。 せっかくのシリアスシーンにこんな対応では誰もが嘆く。
何はともあれ、それでもストレンジャーは何しに来たのかを彼に問いかけていた。
「フッフッフッ・・・ ともあれ、よくぞ聞いてくれましたニャッ」
「・・・聞かないと帰らないだろ。」
「我がニャは『ネコS・バニー』!! この街を統括する、プリンセスを守る忠実なる下部なのニャっ!!」
すると、待ってましたと言わんばかりに影はそう言い少し前へと移動した。それと同時に影に日の光が当たり、彼に色が付き始めた。
桃色の兎耳を揺らし、茶色の猫耳とショートカットの髪の毛。簡素なシャツにズボンを纏う、二足歩行する猫であった。そして、自らが中ボス立ち位置に居る事を宣言していた。
「プリンセス?」
「下僕・・・な。」
「下部なのニャッ!!」
アルダートが一瞬驚く中、それでもシリアス感は皆無な様子で3人のやり取りは続いていた。クライマックスに値するシーンにはあり得ない反応とパロディ振りである。しかし、それが猫である。
軽く真面目ではあるが、ストレンジャーの言った事も事実である。下部と言うよりは、使い走りの下僕に等しいその外見。シリアスの欠片もない兎のつけ耳では、どうしようもない。ましてや語尾に猫語。 これまたギャグである。
「・・・まぁいいニャ。 そんな話よりも、ニャーにはする事があるからニャッ」
「?」
「君達も、この街に流れている噂を耳にしただろうニャ。 ニャーはそんな噂元である、君達に会いに来たのニャ。」
「僕達に会いに?」
「そうニャッ」
さっきまでのパロディは何処へやら。急に猫は突っ込む事を止め、急に真面目そうにそう話をしだした。彼にもやる事があり、今日はその事柄を消化するためにやってきた、と。
そして、噂元であるストレンジャーとアルダートに会いに来たと言っていた。
「街で無双する落武者であり、街の存在達から流星石を回収していると言う。 1人の蒼い龍。」
「・・・」
「そして、そんな龍を慕い行動を共にし街から出る事を望んでいる。 1人の空色の狐。」
「・・・」
「まさに君達のようだニャ。 街に希望の波を起こし、まさにナポレオンの如く疾風を巻き起こした独裁者。 ん~我ながら面白いフレーズだニャッ」
『真面目なのか・・・? コイツは。』
軽く噂の正体が君達だよ、と言わんばかりに猫はそう言いつつ彼等の周りを駆け回り一周した。小さな足を一生懸命動かし走り回り、その後締めと言わんばかりに一言言い惚れ惚れするかのように言っていた。急に変化する話し方の温度差に、ストレンジャーは真面目にやっているのか小馬鹿にしているのかわからない様子だった。
それでも、自分たちに用があると言う事だけは理解した様子であった。
「さてと。 それじゃ、ニャーがちょっとばっかし試してあげるのニャ。」
そんな温度差も束の間。再び猫はその場から歩きだし、再び窓辺へと移動しながらそう言った。
「試す・・・?」
「さっき言ったニャろ? ニャーは中ボスであり、プリンセスの忠実なる下部ニャ。 この街から出たいのニャら、ニャー達を倒すのニャ。」
「えっ! じゃあ、さっきのプリンセスって・・・!!」
「この街の、中心であり統括する『主』なのニャッ。」
そして彼等の敵である事を宣言し、街から出たければ自分を倒せと言った。その言葉を聞き、先ほどから気になっていた様子でアルダートは気になっていたフレーズを問いかけた。問いかけに対し猫はそういうと、右手を前に出した。
その後、
パチンッ☆
軽く指を鳴らし、何かが始まる事を知らせるかのような仕草をした。すると、
ゴゴゴゴッ・・・!!
「ぇっ!」
「地震・・・!?」
彼等の居る場所付近から物音が聞こえ、足もとが少しずつ揺れる感覚に陥った。それと共に部屋の光が失われだし、窓枠に黒い物体によって光が遮れだしたのを彼等は悟った。目を窓枠に写し、そして目の前に映った物体に彼等は目を疑っていた。
『・・・機械兵・・・!』
窓枠付近に映った姿、それは。彼等よりも大きく、ビルよりも大きい巨大な機械兵の姿であった・・・