子狐の持つ希望 2
住処にしていた灰ビルの階段をアルダート達が駆け降りると、外は先ほどとは違い賑わいを見せていた。しかしそれは平和な賑わいには程遠い光景であり、皆が皆『流星石』を片手に対峙しており、相手の力となる流星石を奪い合っていた。
戦い、勝ち残り、負けたものの力を奪う。それが、この街でのルールとなっていた。
「・・・ぅぅっ」
ビルから外へと出たものの、その光景を目にしたアルダートは軽く足がすくんでしまった様子でビルの壁に隠れてしまった。元々こういった争いごとを好まない性格のためか、自らが改革する以前に行動する事も苦手のようだ。
いくら自分にも戦う手段があるとはいえ、なかなか行動を移すことが難しいようだった。
「怖いか、アルダート・・・」
そんな彼を見ていたストレンジャーは、軽くアルダートの元へと近寄り言葉をかけた。アルダートが今の外を好まない事を知っているため、外へ出たくても出られない。その手助けをしようとしている様子が見えた。
「・・・ゴ、ゴメンなさい。 やっぱり、今の外が怖くて・・・」
「無理もない。 さっきと違って、今は皆の様子がおかしいからな・・・」
「・・・」
再びストレンジャーにフォローされ、アルダートは申し訳なさそうに隠れたまま詫びた。力になってくれると言ってくれた相手に対し、やはり今の自分は頼りがいが無いと感じていたのだろう。どうしても、動きたくても動けない様だった。そんな彼に一言言いつつ、2人は再び外を見た。
街中の至る所に流星石と思われる瓶が点々と転がっており、街のビル周辺には負けて気絶してしまっている存在の姿が見えた。勝ち残っている存在も手足に怪我を負っており、戦いを続けて力を手に入れる前に、体力が持たない様にも見えた。もちろんどこかで無双をしている存在が居ても、おかしくない様にも見えた。
「・・・僕・・・」
「1人でやろうと、無理はしなくていい・・・ ・・・俺のそばにいて、援護をしてくれ。 大体の敵は、俺が片づけよう。」
そんな怪我をした存在も見かね、アルダートは再びその場で俯いた。彼の様子を見たストレンジャーは、何も自分一人で全部を背負わなくても良いと言った。
今は彼1人ではなく、自分も居る事を伝え協力する事を改めて言った。それだけ、彼の考えに同意できる点があり力になりたいのだろう。
「ストレンジャーさん・・・」
「・・・さ、行くぞ。 ここに居ても、何も変わらないからな。」
「は、はいっ」
再び外へ出ようと話を持ちかけ、ストレンジャーは軽く彼の手を取った。そして、それに引かれるようにアルダートも足を動かし街中へと出て行ったのだった。
タッタッタッ・・・
「・・・やっぱり、たくさんの人が怪我を・・・」
「争いが必然的に起きるなら、居てもおかしくは無いと思ったが・・・ ・・・酷いな。」
「・・・」
しばらく街中を走りながら様子をうかがい、アルダートは周囲に倒れている人々を見て呟いた。怪我をしてまでどうしてやるのかが分からないこの戦いに、やはり違和感を感じているのだろう。彼の呟きを聞きストレンジャーは言うと、アルダートは再び黙りつつも彼の後ろ姿を見つつ走っていた。
そして、
キキキッ・・・!
「・・・っと。 ・・・」
「ぁっ・・・」
不意に前方を走っていたストレンジャーが急ブレーキをかけ、走るのを止めその場に立ち止まった。彼の行動を見てアルダートも走るのを止め前を見ると、そこには1人の人影が見えた。手には瓶が持たれており、どうやら敵対する存在のように見えた。
「ぉっと、随分と小柄な奴がまだ残ってたか。 こりゃあラッキーだな。」
「・・・」
「さてと。 雑魚が最後まで残るのは厳しいし、俺に力をよこせや。 そうしたら、怪我せずにリタイア出来るんだぜ?」
敵意を見せつける相手を見て、ストレンジャーは軽く右手を上着ポケットに入れ流星石を握った。いつ相手が襲ってきても良いように、今の時点で体制を取っているのだろう。背後に居るアルダートは怖がっており、ストレンジャーの後ろに隠れその様子を見守っていた。
どうやら相手は体系が小さい存在ほど『雑魚』と認識している様子で、余裕の表情を見せつつ軽く瓶をお手玉のようにして遊んでいた。
「・・・あまりこの街のルールを知らないが、勝者はどうしたら良いんだ。」
「ってことは、初参加って奴か? ハッハッハッ! こりゃあボーナスチャンスってやつだなぁあ! おい!!」
軽くストレンジャーが相手に問いかけると、問いかけに対し相手は爆笑しながら勝利を確信していた。しかし相手の態度は別に気にしない様子で、ストレンジャーは問いかけに対する答えを気にしていた。
「勝った人は、負けた相手から流星石を奪う。 個数はともかく、相手の戦意を喪失させたら勝ちです。」
「なるほどな・・・ なら、怪我はやり方次第ではゼロでも可能か。」
そんな相手の様子を見て、背後に居たアルダートは軽く彼の近くで呟き簡単な仕組みを説明した。審判者は居ないものの、相手が負けを認めた時が勝利の時と認識し、ストレンジャーは相手の怪我はやり方次第でいくらでも軽減できることを知った。そして、相手を殺して終わりにしても良いと言う事も同時に知った。
「・・・さぁあ、雑魚は一掃してやらぁあ!!」
高笑いしていた敵はそう言い、瓶の栓を抜きストレンジャー達の居る場所へと駆け出し襲いかかってきた。その様子を見たストレンジャーはアルダートに下がるよう言い、右手に掴んでいた流星石を取り出し栓を抜いた。
取り出した瓶は『刃』であり、手始めにそちらの使い方を知る様子だった。
『怪我をさせずに相手をやる事は難しいが、まずは相手を倒す事が優先・・・ なら、まずは出来る限りの情報収集をしないとな・・・!』
「破ッ!」
パシュッ!
いろいろ考えている様子で、ストレンジャーは戦いを意識しつつもアルダートから離れ無いようにしつつ相手を攻撃した。争いが起こる前に得た流星石の他の特徴を知ろうとしつつ、敵に向かって攻撃した。
「クッ!!」
無数の見えない刃が飛んでいくと、目視出来ない敵は特攻を仕掛けていた事もあり全身に軽い傷を負っていた。相手の瓶の栓は抜かれているものの、それでも攻撃を仕掛ける前だったためか何もできずやられていた。
「・・・!」
バッ!
相手が攻撃で軽くひるんでいるのを見て、ストレンジャーはその場から駆け出し一気に敵との間合いを詰めた。そして、瓶を持っていない左手でお得意の手刀を相手の首元にお見舞いした。
「ウグッ・・・!」
「悪いが、俺は負けるわけにはいかない・・・」
パシンッ!
「!!」
急な行動からの攻撃に受け身も取れず、相手はそのまま攻撃を受けてしまった。そんな彼に耳元で軽くつぶやくと、ストレンジャーは相手が瓶を握っている右手の手首にも同様に手刀を当て同時に瓶を叩き落とした。
軽く手が麻痺した事もあり、流星石は簡単に彼の手元から離れ地面へと落下した。
「な、何ッ・・・! 俺が・・・ !!」
「・・・他のルールを知らないが、俺はお前らを傷つけるつもりはない・・・ その栓を置いて、俺等から離れてくれないか・・・」
「ヒ、ヒィィーーッ!!!」
勝利を確信していたのにも関わらず手元から力が消えてしまい、敵はストレンジャーからの言葉と軽く無表情に近いその顔を見て、叫びながら栓を捨て何処かへ逃げてしまった。これ以上戦わなくて済む事を確認すると、ストレンジャーは栓を拾い落した瓶も同様に回収し、栓をした。中身は赤い流星石であり、どうやら属性付きの物のようだった。
「ストレンジャーさんっ 大丈夫でしたか・・・?」
戦いの一部始終を見ていたアルダートは、敵が逃げた事を確認しストレンジャーの元へと駆け寄った。攻撃は受けていなかったと思いつつも、身体に怪我がないかどうかを確認していた。
「ああ・・・ ・・・1つだけ、回収した。 手荷物が、徐々に増えそうな戦いだな・・・」
「でも、凄いですねっ 街で怪我をして倒れてる人ばかりなのに、あんなに無傷に近い状態で勝てるなんて。」
拾った流星石を軽く見つつ、ストレンジャーは軽く呟いた。戦いに勝利すると、使用制限はあるものの相手から別の流星石を手に入れられる。と、言う事は。 必然的に手荷物が増えていく計算になる。軽くその事を改めて思い、後の事を気にしている様子だった。余計な力の荷物は、移動の邪魔なのだろう。
そんなストレンジャーの心配をよそに、アルダートは彼の戦い方に尊敬の眼差しを送っていた。街中では重症に近い怪我を負った人達が多いのにも関わらず、早々に相手の戦意を喪失させただけでなくほぼ無傷に等しい状態で勝利を収めた。その事がとても嬉しいのか、穏便に近い状態で済んだ事を喜んでいた。
「君が望まない戦いを、するつもりはないからな・・・ ・・・不慣れではあるが、アイツ等から託された事もある。 俺は、叶えるために行くつもりだ。」
「わかりました。 ・・・僕も、お荷物にならないようにしますねっ ・・・ぁ、そうだ。 瓶は僕が一部を持ってましょうか? 結構ポケットに入るので。」
「あぁ、済まないな・・・」
「いいえ、気にしないでくださいっ」
アルダートの考え方を順守し、行動する事をストレンジャーは改めて伝えた。やりかた以前に戦い方が上手な事もあり、素手でも勝ち目がある彼ならではの一言である。そんな彼の言葉を聞き、アルダートも負けないように手伝う事を伝えた。
そして、先ほどから彼が時折見ている流星石の事を気にし自分が管理すると言った。ダッフルジャケットに近い衣服を着ているためか、思った以上に瓶をしまう場所があるようだ。外側のポケットに加えて、内ポケットも何個かありどちらかと言うとサポートの彼のため重荷とは思わない様子だった。
アルダートの提案を聞き、ストレンジャーは今は使わないであろう『炎』の流星石を彼に託し、次の相手を警戒しつつ歩を進めるのであった。