街の力は流れ星 3
「・・・ぁ、そうだ。」
食事を終え、しばらくした頃。ストレンジャーは不意に思い出したかのようにそう言い、上着にしまっておいた先ほどの瓶容器を1つ取り出した。
それは彼らが持っていた装飾が施されている瓶であり、軽くデザインが工夫されている代物だった。もう1つの液体が青い方は未だにポケットに入っており、それも続けて取り出した。
「さっきの連中が持っていたんだが・・・ これは、何かわかるか?」
「? それって、もしかして・・・ 【流星石】ですか?」
「リュウセイセキ?」
出された瓶を見つつ問いかけると、アルダートは何か思い当たる節がある様子でそう言った。そしてその瓶の事を『流星石』と言い、この地方では名の知れた物体であることが分かった。
「この街特融の素材なんですけどね。 それぞれの瓶に、力が宿ってるんです。」
アルダートは軽くそう説明しながら、着ていた上着のポケットに手を入れ、別のデザインの流星石を取り出した。それはストレンジャーの持っていた瓶とはまた違い、今度は瓶ではなく栓にデザインが施された流星石だった。
栓は十字架に近い形をしており、瓶の中身自体は透明の液体だった。
「僕も別のを持ってるんですけど。 これは個々で使えるものもあれば、使えない物もあるみたいなんです。 栓を引くと、効果が出るんですけど・・・」
彼はそう言いつつ、持っていた流星石の栓を引き抜いた。
キュポンッ
「・・・!」
すると、栓に続いて中身の液体が連なって出てきた。そのまま液体が触れていた栓を先端に液体が固まりだし、1本の剣となってその場に構成された。先ほどまでの無形の代物ではなく、こちらは固有の代物のようだった。
すでに剣は固くなっており、軽くアルダートが振っても液体は飛び散らなかった。
「凄い・・・ これが、アイツらの言っていた力か・・・」
「この街には、外からの物資以前に何も手に入らないんです。 ですが、いつしかこの瓶が街の至る所で見つかるようになって、僕も手に入れられるようになったんです。 使い道は、無いですけど・・・」
「そうなのか・・・」
軽く出来上がった剣を見ていると、アルダートはそう言いつつ再び瓶の中に剣をしまった。瓶の口に剣先が触れると液体になりだし、そのまま最初のような香水に近い形になり剣は徐々に元の姿に戻って行った。
「剣そのものって事で、僕はこの流星石は『ソード』って呼んでます。」
「なるほどな・・・ ・・・それじゃあ、これらにも呼び方があるってわけか・・・」
一通りの説明を受けると、ストレンジャーはそう言いつつ出してあった2つの瓶を彼に見せた。差し出された瓶を受け取り、アルダートはしみじみ外見や中身を見てこういった。
「この、青いのが『グライア』で。 もう1つは、きっと『レーム』ですね。」
「レーム?」
「【刃】です。 振ると、カマイタチに近いビームを出して攻撃するんです。 グライアは【氷】です。」
「レームに、グライアか・・・」
新たな知識がいろいろと入って行く中、アルダートの言った言葉を聞きなおしながら彼は瓶を見た。簡単に見ただけで力の推測がつく様子で、彼は興味津々に見ていた。
パッと見で分かる事もそうだが、興味がなければすぐに答えが導き出せるとは思えない。ましてや戦いを苦手とする、彼なら。 なおの事だ。
「ぁ、そうでした。 流星石って、混ぜる事も出来るんですけど・・・ 知ってますか?」
「ぇ・・・ 混ぜられるのか?」
話を聞き彼の説明を聞いていたストレンジャーは、不意に問いかけられそう聞き返した。するとアルダートは頷き、さらに持っていた様子で別の瓶を3つ取り出した。どれも持っている瓶とは別の物であり、デザインが微妙に違っていた。
「はい。 色つきの奴みたいに、出来ないのもあるんですけど・・・ 大抵は、混ぜて使用回数を増やしたりパワーアップさせる事が出来るんです。」
「使用回数・・・」
「液体なので、中身がなくなったら使えなくなっちゃうんです。 さっきの【ソード】みたいに、固定の物でしたら関係は無いんですけどね。」
軽く実験に近い雰囲気が出つつも、ストレンジャーはその成り行きを座ったまま見ていた。アルダートはそう言うと、一通り持っていた武器を見比べ。 先ほどの【ソード】の流星石と、別の流星石を取り出した。そして両方の瓶を先ほどとは違いゆっくり引き抜き、中身を丁寧に移し替えて行った。彼のそんな行動を、ただ不思議そうにストレンジャーは見る事しか出来なかった。
容器を移し替えると、瓶の栓を閉めアルダートは数回中身をシェイクした。すると、
ポワッ・・・!
「!!」
瓶から光が漏れ出し、強い光で包み込んだかと思うと。 光は急に収まってしまった。何が起こったのかわからずストレンジャーは瓶を見直すと、そこには栓のデザインは十字架で何もなかった瓶から、瓶自体に装飾が施されていたのだ。海藻が絡まるかのように数本の金属が瓶に絡まっており、美しくも新しい流星石が完成していた。
注ぎ中身が空になってしまった瓶は、光と共に消えてしまった様子で手元から消失していた。
「成功すると、さっきみたいな光が生まれて別の瓶が出来るんです。 空になった方は、そのままにしておくと消えちゃうんですけどね。」
「・・・凄いな。 初めてやったにしては、手つきが慣れてるな・・・」
「元々手先が器用な方なので。 で、出来たのがこれです。」
一通りの説明をすると、アルダートはストレンジャーに褒められ照れつつも出来上がった流星石を彼に手渡した。渡された瓶を一通り見た後、ストレンジャーは栓を引き抜いた。
シャキンッ!
するとそこには、先ほどとは違いしっかりとした剣刃を持った剣が出来上がっていた。どうやら剣に何かを加えられた様子で、切れ味が上がっているかのように見えた。
「多分、さっきのは【収束】ですね。 攻撃を一点に収束させる力が備わって、威力が大幅に上がってるんだと思います。」
「コンデスに、ソード・・・ 呼び方も、変わるのか。」
「大体の呼び方はそれぞれですけど。 単純に【一点集中】って呼びましょうか。」
「・・・ それにしても、凄いな・・・」
一通りの出来事を目の当たりにした後、ストレンジャーは再び剣へと視線を移し眺めていた。剣からは小さな黄色い粒子が所々から出ており、普通に振っただけでも普通に切れてしまいそうなほどの代物に見えた。
使い道はさておき、誰が使っても触れただけで切ってしまいそうな代物だった。
「・・・」
「せっかくですから、ストレンジャーさんも作ってみませんか?」
「え?」
美しくもあり素晴らしい剣を見ていると、不意にアルダートはそう言った。元々こういった事をするにも1人だったからか、なんとなく一緒に共有したいのだろう。心なしか彼の尻尾が上下に揺れており、ちょっと楽しそうな雰囲気を出していた。
「僕のでよければ、残ってるのを使ってもらっていいので。 ぜひ、やってみてください。」
「しかし・・・悪いだろ。 いくら拾ったのだと言っても、一応お前のだからな・・・」
「いいえ、気にしないで下さい。 それに、ストレンジャーさんにはたくさんお世話になってますから。 そのお礼って感じで、見てもらっていいので。」
「礼・・・ か。」
そんな彼に言われたものの、ストレンジャーとしては他人の物には変わりないため持っている2つ以外を使う気にはならない様だった。たとえ相手が一緒にやってほしいと思っていても、だからと言ってアルダートの持っている瓶を使うわけにはいかない。彼なりの配慮であり、そう言ったところを気にしていた。
しかし彼からしたら、街で助けてもらった事や寝泊りや食事の面でサポートしてもらった恩がある。一緒に体験したりして楽しみたい事もあってか、純粋な気持ちでお願いしていた。アルダートにそう言われ、半ば頼まれる感じで彼は呟きつつ頷いた。
「・・・」
その後手を止めていた食事を再開したのち、ストレンジャーはその場にあった瓶を手に取り他の瓶と見比べていた。先ほど軽く説明してもらった事も踏まえ、自分なりにどれがどういう力を持っているかを把握したかったのだろう。アルダートが見守る中、いろいろ検討しながら分析していた。
『・・・ストレンジャーさんって、真面目なんだ・・・ 僕のために、ちょっとだけ嬉しいや。』
そんな彼を軽く見つつ、アルダートは笑顔でその光景を見ていた。自分が頼んだ事もあるが、彼自らが乗り出してやると言うのは少し意外だったのだろう。
元々1人でなんでもやってしまいそうな雰囲気があったためか、軽く問いかけられながらもその様子を見ていた。そして、自分のために1回だけでもやってくれるその優しさが、何よりも嬉しいと思っていた。
「よし。 じゃあ・・・これを貰うぜ。」
そんな事を思っていると、不意にストレンジャーはそう言いアルダートの私物である1つの流星石を見せつつ言った。軽くその事に同意するように頷くと、彼は軽く笑顔になった後瓶の栓をゆっくり抜きつつ液体を移し替える作業に入った。
しかし手先に関わる作業をしたことが無いのか、軽く苦戦しているのか表情が渋かった。とりあえず液体をこぼさないようにしようとしている様子で、瓶同士を近づけつつ頑張っていた。そう言った表情を見て、クールな彼の裏を見たかのようにアルダートは軽く苦笑していた。
そんな軽い苦笑に気付く間もなく、ストレンジャーはようやく瓶の液体を移し替えた。その後栓をした後、先ほどのアルダート同様に軽く中身を混ぜるように上下に振った。
すると、
ポワッ・・・!
「ぁ・・・」
中身同士が調和した事を知らせる光が飛び交い、彼の手には別のデザインの流星石が握られていた。
「成功ですね、ストレンジャーさんっ」
「あ、ああ・・・ ・・・どんな力が、あるんだろうな・・・」
その光景を目の当たりにした後、アルダートは声をかけ成功した事を喜んでいた。彼にそう言われ、ストレンジャーはようやく緊張感が解けた様子で表情を戻し瓶を見つめていた。
出来上がった流星石は、液体が青色であり栓のデザインが変化した代物だった。アルダート曰く使用回数がある物だと言う事のため、ストレンジャーは中身の効果が気になりつつも一時自分の身に着けていたジャケットの中へと入れた。
使う機会がない事を、祈りつつ。
「・・・それにしても、何のためにこの石が・・・」
カラァーン カラァーン・・・
「?」
「・・・鐘の音・・・?」
調合を終えたのも束の間。彼等の耳に、乾いた音であり何かを知らせるかのような鐘の音が周囲に響き渡った。その音を耳にし、2人はその場に立ち上がり音のする窓辺へと移動した。
「・・・ぇっ!」
そして、その場に広がっていた光景を目にし、ストレンジャーは驚いた様子で表情を変えた。
彼らの目の前に広がっていた光景。それは、
キラキラキラ・・・
カァーンッ カァーンッ・・・
「空が・・・ 光ってる・・・」
周囲の太陽の光さえも吸収したかのように、小さな粒子が街に浮いている雲間から次々と振ってくる光景だった。光に反射して振ってくる物体はとても小さく、まるで指輪にはまっているくらいの宝石が雨のように降り注いでおり紙吹雪よりも美しい光景だった。よくよく見てみると、それは1つ1つが別々の流星石である事が分かり、屋根やビルに当たり時々金属音が周囲に響いていた。
外に見とれていると、彼らの居る場所にも3つほど別の流星石が転がり込み、軽く地面にぶつかりつつも部屋の中へと侵入してきた。全て別々のデザインの物であり、ストレンジャーが先ほどまで持っていた青い流星石も1つ落ちていた。
「こんなに、大量の流星石が・・・」
「鐘の音が聞こえると、まるで雨のように天から降ってくるんです。 瓶自体は固形物質なので、ちょっと霰よりも当たると痛いんですけどね。」
軽く壁際へと移動しつつ感想を言ったストレンジャーに対し、それを解説するかのようにアルダートは言った。先ほどまで持っていた瓶が大量に振ってくると考えると、確かに氷の塊である『霰』よりも痛いだろう。下手したら怪我をしかねないほどの、物体である。
『アイツらは、この時に・・・ ・・・そう考えると、鐘は不定期に鳴るのか・・・』
そんな幻想的な光景を楽しんでいたストレンジャーは、先ほど別れた連中がどうやって瓶を手に入れたのかを考えた。自分がまだ一度しかこの光景を目にしていないとはいえ、彼らの言動からも軽く推測する事は出来た。頻繁に起こるのではなく、稀にこうやって振ってくるのだと。
「でも・・・」
「?」
そんなことを考えていると、不意にアルダートは何かを呟いた。急だったためストレンジャーは聞き取れず、再度聞くように彼の顔を見た。すると、先ほどまでとは違いとても暗そうな表情をしていた。
まるで最初に出会ったときのように、おびえるように。
「流星石が降ってくるのが止むと・・・ いつも街は賑やかに・・・なるんです。」
「賑やかに・・・」
「でも、平和の賑やかさじゃないんです・・・」
「ぇ・・・?」
軽く彼の言った事を聞き喜べそうな環境になると、ストレンジャーは軽く考えた。しかし彼の考えている雰囲気の『賑やかさ』ではない事を知らせるように、アルダートは再度その言葉に言葉をつけたした。
どうやら、別の理由が含まれているようだ。
「この街での力は、流星石・・・ そして、その力が無防備にも空から降ってくるとなると・・・ ・・・」
「・・・」
アルダートはそう言いつつ、空が止んだと同時に静かに外の様子をうかがった。その様子を見て、ストレンジャーも同様に横へと移動し外を見た。すると、
「ぉらぁああ! よこせぇ!!」
「誰がてめぇなんかに、力を渡すか!!」
「来ないで!! コレはアタシの力なんだから!!」
外は別の活気に満ち溢れており、先ほどまで静かだった街は別の雰囲気に包まれつつあった。何処からともなく殴りあう音が聞こえ、殴られた拍子に何かが倒れる音も聞こえてきた。金属音や肉体同士がぶつかりあう音も聞こえた後、何かが切り裂かれたかのような音も聞こえてきた。
それこそが、アルダートの言っていた心配事の様だった。
「力である流星石を・・・皆は奪い合うんです・・・ 皆、この街から早く出たいから・・・」
「戦争・・・か・・・」
関わりたくないのか、アルダートは寂しそうにそう呟きつつ先ほどまで居たカーペットの元へと向かって行った。少し肩が震えており、この後何かが起こる事に予想が立っている様子だった。そんな彼を見たストレンジャーは、アルダートの隣に座り優しく肩に手を回し、優しくなでた。
「鐘の音が聞こえると、こうやって定期的に流星石が降ってくる・・・ それが、そもそもの始まりでした。」
「・・・」
そして、何故こうなったかを。
アルダートは悲しそうに、話すのだった・・・