街の力は流れ星 2
夜明け後の街の散策を終え、戦いに勝利したストレンジャー 新たな敵が沸く前にと、その足で一度アルダートの居る仮住まいへと向かって行った。手には2つの瓶型の武器があり、落とさぬよう持ちながらビルへと入って行った。
『結局、朝飯じゃなくて別の物を見つけちまったな・・・ ・・・まぁ、邪魔にはならないだろう。』
しかし彼が外へ出て行った理由は、こういった武器を手に入れるのではなく食糧を手に入れるためだ。昨日と同じ輩を相手にしていたのにもかかわらず、今日は別の物を手に入れてしまった。ストレンジャーは軽く残念そうに思いながら、階段を上り目的のフロアへと入って行った。
「・・・あ、ストレンジャーさん! 何処行ってたんですか? 心配したんですよ・・・?」
部屋へと入ると同時に、彼の耳に軽快ながらも心配そうに話す青年の声が聞こえてきた。声の主はアルダートであり、すでに目を覚まし身支度を済ませた雰囲気を出しつつも、起きたと同時にストレンジャーの姿がなかったことに対して心配していた。
軽く涙目になっており、それだけ目覚めた後の1人だと言う感覚が苦手なのだろう。心なしか、声も震えていた。
「すまない、1人にさせて・・・ ・・・食料を取りに行ったんだが・・・」
そんな彼を見て、ストレンジャーは軽く言葉をかけながらアルダートの頭を優しくなでた。声をかけずに出て行った事もだが、そんなに自分が居なかったことに対して心配していたのかと思うと、そうせずにはいられなかったのだろう。軽く詫びつつも、頭を撫でられ表情が明るくなったアルダートを見て、彼の表情も少し明るくなっていた。
「ぁ・・・そう・・だったんですか? 良かったぁ・・・ てっきり、僕みたいなのがお隣に居たら邪魔だからって。 行っちゃったのかと思いました・・・」
「・・・ごめんな。」
「ううん、大丈夫です。」
訳を聞き納得した様子で、アルダートはそう言った。元々2人で寝ると言う事自体が久しぶりだったからか、寝る前に居た優しい人がいない事がとても寂しかったのだろう。詫びを聞き、もう大丈夫だと言いつつ彼は笑顔を見せていた。
その笑顔を見て、ストレンジャーも安心した様子で頭から手を離した。
「・・・ぁ、そうだ。 コレ、ストレンジャーさんのですよね?」
頭から手がなくなると、不意に思い出したかのようにアルダートはそう言い、持っていた上着を取り出した。それは彼が寝た後にストレンジャーがかけた上着であり、丁寧にたたまれ大事そうに持たれていた。どうやら起きた後にかけてもらった事を知り、とても大切に管理していたようだった。
その証拠に、先ほどからずっと肌身離さず持っていた。
「ああ・・・ ・・・寒く、なかったか。」
「はい、ありがとうございました。 おかげで、グッスリ寝ちゃいました。」
「・・・そうか。 良かったな。」
上着をもらうと、ストレンジャーは羽織りつつ彼に寒くなかったかと聞いた。すると笑顔でアルダートはそう言い、久しぶりに温かい布団と毛布で寝られたと嬉しそうに話していた。休息もろくに取れていなかったのか、その日の笑顔は彼をとても眩しく感じていた。
まるで水をろくに浴びていなかった植物が、水分を得たかのように。
そんな話をした後、2人は一度寝床として使用していた場所へと戻り、そしてもう一度出かけてくると言い、ストレンジャーは席を外した。
「・・・ただいま。」
しばらくしてストレンジャーが戻ると、今度は手に大量に持たれた食料があった。昨日とは比べ物にならないほど大量に持たれており、それでもさほど重さを感じていない様子で平然と彼は立っていた。
「お帰りなさい、ストレンジャーさん。 ・・・昨日もでしたけど、凄い量ですね・・・」
「・・・今回のは、奴らからの詫びも入っているらしい。 しばらくは、調達しなくて済みそうだな。」
「そうですねっ」
今度は寂しくなかった様子で、アルダートは彼の元へと移動しつつ持たれていた食料の量に驚いていた。先日と違い、今度はドリンクまでついており何処から拾ったのかビニールに入った代物もありと、当分食糧に困りそうにないほどの量が持たれていた。おまけにお菓子も入っており、これではいつどの時間に消費したらいいのかわからないほどだ。
一部の食料を代わりに持つと、2人はもう一度寝床として敷いたカーペットの上へと座った。
「うわぁ・・・ お菓子なんて、ご飯の次に久しぶりです。」
「・・・本当に、いつ食べたらいいんだかな・・・ こんなに。」
持っていた食料を一度並べると、アルダートはそれらを見つめながら無邪気にはしゃいでいた。ご飯もそうだが、お菓子を見ると言う事自体彼には久しぶりであり、それだけ何も食べていなかった時期が長かったのが読み取れた。
ストレンジャーも軽く驚いており、貰った時もそうだが軽く呆れていた。
そんな大量の食料を得たのは。彼がビルから出た、すぐさま敵と合流した時だった。
『また、来たのか・・・』
上着を新たに羽織り対峙するストレンジャーは、ポケットに閉まってあった瓶を軽く掴みながら敵に言った。すると、敵達は持っていた大量の食料をその場に置き、膝をついてその場に土下座した。
『・・・』
『すまない、俺達が間違っていた・・・! 力があれば、なんでもできるって思っちまったんだ。』
その体制のまま、3人のリーダーである男はそう言った。
『俺達の暮らしがどれだけ荒んでたかは分からないだろうけど、でも・・・ それでも!』
『お前の言ってたあの言葉で、何かが開けた気がするんだ。』
『言葉・・・?』
次々に部下達もそう言い、ストレンジャーが言った言葉が胸に響いたと言っていた。しかし彼にはなんの覚えもない様子で、不思議そうに彼らの発言を聞いていた。
『自覚は無し・・・か。 本当、お前は真の強者だよ・・・ 弱者に響く言葉を、無意識のうちに言っちまうんだからさ。』
『・・・』
『詫びってわけじゃねぇけど、これは俺らが蓄えていた食料全部だ。 お前と、あの狐に託す。』
『何か開けた今なら、もうこんな生活を続けていなくても大丈夫な気がするんだ。 だから、もうコイツはいらねぇ。 貰ってくれ。』
どうやら彼らなりに何かをしたいと思えるようになったらしく、蓄えていた分の食料はいらないと言いだした。それだけ【籠っている】という生活をしなくても良くなった様子で、再び立ち上がりながら3人は言った。
『こんなには・・・いらない。 ・・・せめて、一袋くらい持って行け。 2人分にしては、余計だ・・・』
しかし3人で抱えていたに等しい量であり、それを1人で持っていくにはいささか往復しなければならないと彼は思った。その上冷蔵庫のように食料を保管できる場所もないため、腐らせるのが落ちだと思ったのだろう。
一部は貰うが、それ以上はいらないと言った。
『いや、全部だ。 食えなかったら、腐らせても良い。 お願いだ。』
『・・・』
『お前なら、変えられるって思ってるから。 俺らはするんだ。 ・・・いらねぇなら、このまま置いといてもいい・・・頼む・・・』
『・・・ ・・・分かった。』
それでも彼らは考えを変えず、貰ってほしいと必死に頼み込んでいた。次第に彼等はお辞儀をしており、軽く涙が流れたのか顔から水滴が流れ、地面に落ちた。それを見たストレンジャーは、しばらく考えた後全て引き取ると言った。
その声を聞き、彼らの表情は一変した。
『・・・お前らの努力は、無駄にはしない・・・ ・・・道中、気を付けてな・・・』
『ああ・・・ ああ・・・!!』
そう言いつつ、ストレンジャーは一部の食料を拾った後彼らに笑顔を見せた。声と笑顔を見て、彼らも嬉しそうにそう言い再度頭を下げた後その場を走り去って行った。軽く後姿を見た後、ストレンジャーは冷静に持ち方を検討しつつ再びビルへと戻って行ったのだ。
「・・・ジャーさん。 ストレンジャーさんっ」
「・・・?」
軽く先ほどまであった事を思い出していると、彼の耳に自分を呼ぶ声が聞こえてきた。ふと我に返り声の主を見ると、アルダートは座ったままの体制で彼の事を見つめていた。
「どうしました? 先ほどから、ずっと黙ってましたけど・・・」
心配そうに彼はストレンジャーを見ており、先ほどから何度も外へと出て疲れたのだろうかと心配していた。
「・・・いや、なんでもない。 ただ、アイツ等が無事に新しい道へと向かって行けただろうかって、思っただけだ。」
「アイツ等・・・?」
「・・・なんでもない。 さぁ、食べよう。 腐らせるのも、もったいないからな。」
「ぁ、はいっ いただきまーすっ」
そんな彼に一言言いつつ、先ほどあった事を掻い摘んで彼に言った。しかし誰の事かが分からないアルダートの様で、軽く頭にハテナを浮かべてるかのようは表情をしていた。表情からしてわかっていないと思ったのか、ストレンジャーは話を切り上げそう言い食事をし出した。
アルダートも話の流れでそうなり、自分の元に置かれていたおにぎりを手に取り、食べだしたのだった。
そして、遅めの朝食を終えたのだった。