龍は子狐と出会った 2
突如出合った名を持たない1人の龍。何のためにココに来た、そういった話は何も聞かず、アルダートは行動を共にするかのように、寄り添い歩いていた。
しばらく歩き、彼らはとある廃ビルへとやってきた。
「・・・ココなら、人目にあまり付かないな。」
ストレンジャーと呼び名を貰った彼はそう言いつつ、ビルを眺めていた。四階立てのそのビルにはガラス窓等は無く、外見だけの廃ビルだった。
「どうするんですか?」
「寝泊り場所だ・・・ ・・・苦手か。」
「あ、いいえ。 気にしないで下さい。」
アルダートは何のためにココへ来たのか知らず理由を聞き、そう答えた。彼の行く場所なら着いていきたい。元々もう行く先が無かった彼にとって、何か目的がありそうな行動をする彼に魅かれるのは不思議ではなかった。アルダートの了解を得た後、ストレンジャーはゆっくりとした足取りでビルの階段を上っていった。その後を、アルダートも軽く駆けていった。
しばらく歩き、三階部分へとやってきた彼らは広間へと向って歩いていった。およそ畳三十畳以上の広い場所がそこにあり、仕切る扉等も無い場所だったが、普通にいる分には申し分無い広さがそこにあった。
「・・・少し、そこにいな。」
「あ、はい。」
ストレンジャーにそう言われ、アルダートは元は扉があったのだろう階段付近に待機し、ストレンジャーを見ていた。すると彼は、軽く翼を羽ばたかせ目に付く埃を全て吹き飛ばすと、アルダートを中へと入れた。
優しく出来るかどうか分からないと言っていたが、彼なりの配慮だったのだろう。アルダートは嬉しそうな表情を浮かべていた。
「広い場所ですね。 ココが、僕達の新しいお家ですか?」
適当な場所に腰を下ろしつつ、アルダートはそう問いかけた。軽く頷くストレンジャーを見て、彼は再び笑顔を見せた。
「仮だがな・・・ 食料を持ってくるから、ココで待っててくれ・・・」
「はい。」
問いかけに答えストレンジャーはそう言うと、アルダートをその場に残し再び外へと出て行った。元々店等が無く自然も乏しいこの街に食料確保の手段があるのかと少し疑問に思ったが、彼はそれでもストレンジャーの帰りを待っていた。
彼が今居る街は、お世辞にも治安が良い街とは程遠い世界でもあった。一度外に出れば薄気味悪い風が彼らをそよぎ、追っ手に見つかり捕まれば牢獄行きの酷い世界。アルダートはそんな世界になる前の世界からこの街に住んでおり、最近代わって行ったこの街が嫌いだった。それでも、彼は何か大切な物があると思い、この街にとどまっていた。一部の異変を察した存在達はこの街から早々に去ってしまい、自分の知らない外の世界へと向っていってしまった。
今でも彼はそんな外の自由を求めており出ようと試みたが、時既に遅し。彼らの敵が全ての出入り口を封鎖しており、地上空中共に閉鎖されていた。文字通りの牢獄のような地獄の街に彼は閉じ込められてしまい、逃げる毎日だった。だからこそ、こういった優しい存在に巡り合えた事は心から喜んでいた。
自ら行動を共にしようとする存在はいなく、彼は1人きりだった。皆が思い描くようなヒーローはこの街には居ないため、彼らに希望は無かった。自らはそんな街を『英雄達の消えた街』と言っていた。平和も希望も無い、寂しく残酷な街と言う意味を込めて。
「・・・おまたせ。」
しばらくして、アルダートの待つ廃ビルにストレンジャーが戻ってきた。出て行った時と変わらない格好のまま戻ってきた彼の手元には、持てるだけの食料が手にもたれていた。主にサンドイッチやおにぎりと言った『携帯出きる食事』が、そこにはあった。
「凄い・・・ こんなに、何処にあったんですか?」
運んできたたくさんの食事を見て、アルダートはストレンジャーに問いかけた。
「外に居た先ほどの連中から貰ってきたんだ・・・ 追っ手ココまで来たようだが、今は大丈夫。 誰も居ない。」
「そうだったんですか・・・ ・・・」
「さ、食べな。 食べれるだけ、今は平和なはずだ・・・ その後、少し休めばいい。」
「あ、ありがとうございます。 ・・・頂きます。」
持っていた食事を一時床へと置き、ストレンジャーはそう言い食事を促した。アルダートはその言葉を聞きその通りだと思い、持って来てくれたたくさんのサンドイッチを1つ手にし、食べ始めた。
「・・・美味しい。久しぶりに、ちゃんとしたご飯を食べれた気がします。」
「良かったな・・・」
静かに食べていた彼はそう言うと、無邪気に次々に食べ始めた。よほどお腹が空いていたのだろう。 ちゃんと噛んで食べているにも関わらず、次々と食事が消えていった。ストレンジャーも手にしたサンドイッチを開封し、食べた。
食事を終えた頃には、街は夜の闇に包まれており、薄暗い雲間から指す月明かりがビルを照らしていた。再び外へと出向いたストレンジャーが調達した布地を彼らは床に敷き、寝床を作った。
「ストレンジャーさん。」
「・・・どうした。」
「貴方は、この街にどうして来たんですか? ココは、とても平和や治安のいい場所ではないのですが・・・」
カーペットを2重にして作った寝床に横になりつつ、アルダートは問いかけた。
元々自分意外の存在は、捕まっていたり他の場所に身を潜んでいたりとしているため、彼のような存在を見たら噂が耳に入ると思っていた。
だが彼の様な存在の話を耳にした事が無かったため、外から来たのだと彼は思ったのだ。
「・・・探している人が居てな。」
「人、ですか?」
「ああ・・・ ・・・名前も姿も分からないその人を、俺は探している・・・ とても大切な人だったはずなんだが、覚えていないんだ・・・ 何処に居るのかさえ、分からない。」
問いかけに対しストレンジャーはそう話しつつ、窓辺の先に見える月を見ながらそう呟いた。彼には彼なりの目的があってココに居る様で、自分では到底叶える事の出来そうにない目的を持っているようだった。
「・・・君は、どうしてこの街に居るんだ。 自らが理解してるほど、いい場所ではないんだろ。」
「はい・・・ ・・・元々僕は、この街の住人でした。 昔はもっと平和な場所だったのですが、今では地獄のような酷い街になってしまった。 僕は、掴めるか分からない自由が欲しくて、外へ出てきました。 ですが、貴方に会う前に追っ手に見つかってしまい、追いかけられていたんです。」
「そうだったのか・・・」
変わって今度は、ストレンジャーが彼にココに居る目的を問いかけた。昔からこの地に住んでいた事を彼は話し始め、平和だったあの頃が街に戻って欲しいと願っていた。自らの手で得られるか分からない高望みの願いでも、彼は叶えたいと願っていた。
「いつもいつも、寂しくて日の光の差さない地価に居るのが嫌だった・・・ もっと皆が笑顔になれる場所が欲しくて・・・」
ポンッ
「ぇ・・・?」
そんな事をいつしか涙目で話していたアルダートを見て、ストレンジャーは優しく頭を撫でた。
「・・・心配するな。 目的は違えど、君とあったのは何かの縁だ。 俺が、しばらく君と一緒に居るよ・・・」
「ストレンジャー・・・さん・・・」
「さ、早めに寝な。 ・・・また見つかったりしたら、時によっては君も走らないといけないからね。」
慰め励ますように彼はそう言うと、アルダートに寝るよう勧めた。これ以上寂しい思いを胸に抱いたまま起きているのは辛いだろうと思ったのだろう。彼なりの、心遣いだった。
「・・・はい。 ・・・お休みなさい、ストレンジャーさん。」
「お休み。」
共に居てくれるという言葉を聴いて安心したのか、アルダートはそう言うと目を閉じ、寝てしまった。そんな彼をしばらく見ていたストレンジャーは、身につけていた上着を脱いで、彼の上にかけた。軽い寝息を立てて休んでいるアルダートの寝顔を見て、ストレンジャーは安心したような表情を見せた。
『何かを求めて集まるこの地は、願うものがあると言っていたな・・・ ・・・何があるかはわからないが、君の様な寂しい思いをした存在が、まだ居るのか・・・』
彼なりにこの地に居る存在達が、皆共通点を持っていることをその時理解した。追っ手達も理由がある事を食料を貰う際に絞めた時に知り、アルダートの言葉を聞いてようやく分かった。この地には似た存在達が集まっている。そして、何か大きなものが彼らを酷い仕打ちの籠に閉じ込めているのだと。
『・・・貴方が居たら、そんな事にはならなかったのでしょう・・・ ・・・俺の探す、あの人が居たなら・・・』
ストレンジャーは軽くそう呟くと、再び外に浮かぶ月を見た。丁度雲間から出てきた月は三日月で、ぼんやりとだが綺麗に輝いており、こちらをほのかに照らしていた。寂しさを恐れる存在達を、優しく照らすかの様に。