1話 ゲームの世界に転移した
「よし、今日もやるかー」
俺、斉藤琢磨はヘッドギアを装着し、VRゲーム『ファンタジア・ファーム5』をプレイしようとしている所だった。
異世界での牧場経営がこのゲームのコンセプト
優れたゲーム性と、世界観設定の作り込みの深さ、やり込み要素の多さなどから、最初はそれほど人気では無かったが、徐々に口コミで人気が広がり、全世界で800万本売り上げた大ヒット作となった。
俺もこのゲームの魅力に、はまった者の1人。
現時点で300時間ほどプレイした。
未だに多くのやり込み要素を残しており、まだまだプレイし続けるつもりだった。
目指すは全てのモンスターを集めることと、金を貯めて自宅を豪邸から城に改築する事!
俺は意気揚々とヘッドギアの機動スイッチを押した。
◯
ゲームが始まり、俺はフカフカのベットの上で寝ていた。
このゲーム、始める時は毎回ベットで目覚めた状態から始まる。
やめる時はベットの横にある日記帳の前に行ってセーブしなければいけない。
少し面倒臭いが、家一瞬で戻る魔法があるので、そこまで問題はない。
俺はベットから起き上がり、辺りを見渡しすと、違和感を覚えた。
狭くね?
いや、明らかに家の中が狭い。
金かけてだいぶ増築したのに、初期の頃並の狭さになってる。
そんで服。
もっといい装備を身につけたのに、初心者がつけるしょぼい服を身につけている。
おかしい。
もしかしてデータ初期化されてる?
俺は背筋が凍る。
あんだけ苦労して貯めた金、作った装備、集めたモンスター達、全て消えちまったのか?
慌てて俺は一旦ゲームを止めようとする。
データ復旧は金がそこそこかかるが、できるはずだ。
ベットの横にある日記帳に触れれば、『セーブして続けますか? やめますか?』ってメッセージボックスが出る。
俺は日記帳を探すが、
無い。
どこにも無い。
いやおかしい、無いわけない。
絶対に日記帳だけは何をしても動かせないものだ。
それが無いのはおかしい。
焦って俺は「メニュー」と言う。
こう言うと、メニュー画面が出るはず、そこから強制終了すれば……
出ない。
……これは、どう言うことだ?
おかしい。明らかにおかしい。
そして俺は、今更ながら気付いた。
木で出来た部屋の独特の香り。
匂いがあると言う事に。
現在のVRゲームでは、視覚、聴覚、触覚は再現できているが、味覚、嗅覚を再現したゲームは、まだ存在しなかった。
技術的には可能らしいが、少し調整が難しいらしい。
そのうち実装されるとは言われていたが、現時点では間違いなく無かったはずだった。
この異常さに気付いた俺はある仮説を考えた。
突拍子も無い考えだが、それしか無い。
最後に1つ検証してみる。
このゲームは全年齢対象だ。
そのため体の1部、再現されていない部位がある。
それがあると言うことは、あり得ないことだ。
仮にあったとしたら、ここは……
俺は意を決してズボンを下着ごと脱ぎ、股の下にある物を確かめた。
…………そこにはさんざん見慣れたものが付いていた。
なるほどそうか。
理解した。
ネット小説とかでよくある状況。
どうやら俺はファンタジアファーム5の世界に転移してしまったらしい。
信じられないが、そうとしか考えられない。
よくよく周りの物を見てみたり触ってみたりすると、ゲームではありえないほど現実的だとわかる。
VRゲームの技術は日々進歩しているが、現実と全く同じにするのは、現在の技術では不可能だった。
これからどうするか。
恐らく現在はゲームを始めたばかりと言う状況だと思うが。
って待て、ゲームを始めたばかりならこの状況はまずい!?
ガチャリ。
部屋の扉が開いて、可愛らしい女の子が入ってきた。
その子は入ってきた瞬間、俺の姿を見て凍りついた。
そう下半身丸出しのおれの姿を見て。
参った、どうなるんだろこれ。
いやね、履き直すタイミングを逃してたのさ仕方ないじゃん、混乱してたんだから。
女の子の顔はミルミルうちに赤くなり、そして、
「きゃあああああああ!」
と悲鳴をあげて、扉を全力で閉めた。
なるべく間隔開けないよう更新します。