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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

【GL/オリジナル】10年来の大恋愛

作者: 真尋

しばらく執筆活動から離れておりましたが、久々に書いてみたくなりアカウントを作成しました。

誤字等あるかもしれませんがご容赦ください。

最後まで読んでいただけると嬉しいです。





ーーおでこに大きなニキビができている。


放課後。

何気なく手を洗いながら自分の顔を眺めていると、前髪の隙間からぷっくりと赤いニキビが顔を出しているのに気づいた。

幸い前髪に隠れてあまり目立たない。



ーー帰ったらニキビ対策をしなくては。



そんなことを考えながらトイレを出ると、誰かにぶつかった。

くしゃり、と音が鳴る。



「……さい……」

「あっ、待っ…」



小声で呟いて逃げるように去っていった小柄な少女の背中を眺めながら、私は手の中の便箋を握りしめた。



◆◆◆◆◆



やってしまった!

よりによって学校でも目立っている佐々木にぶつかってしまったのだ。

急いでいたとはいえ軽率だった。



美麗は早歩きで廊下を歩きながら、眉間に皺を寄せた。


ぶつかった時の佐々木の顔といったら、まるで汚いものを見るかのようだった。

当然だろう。ボサボサの髪、ソバカスだらけの顔。それに分厚いレンズの眼鏡。

スカートは規定の高さよりも長いし、オシャレなんて一度も意識したことがない。


いつも小綺麗にしてクラスの中心にいる佐々木から見たら自分なんて虫けらのような存在だ。

そもそも私の存在は佐々木に認識されているのだろうか。

いずれにせよ今日認識されてしまった。明日から私は佐々木にいじめられてしまうのだ。きっとそうに違いない。





事の発端は一通の手紙だった。


ーー美麗さん

本日の放課後、図書室に来てください。

お話したいことがあります。



差出人は不明、見るからに怪しい手紙だ。

当然いたずらだろうと思ったが、その下の文章に目を奪われた。



ーー裏山に埋めたタイムカプセルの中身についてです。




10年前。

私は確かにタイムカプセルを埋めたのだ。


ーーケイちゃんと。




◆◆◆◆◆



ケイちゃんは幼少期を共に過ごした幼馴染である。


栗色の猫っ毛を襟足で切りそろえ、お気に入りのキャップを被っていた。

膝にはいつも絆創膏を貼っている、そんな活発な男の子だった。


一方私はと言うと、当時から眼鏡であったが、今よりも数倍活発であった。

スカートでジャングルジムを駆け登りたり、ブランコから飛び降りたり。

その頃はうまく笑えていた気がする。


そんな時隣で笑いながら付いてきてくれたのがケイちゃんだった。



「なぁ、美麗。けっこんって知ってるか?」

「けっこん?」

「好き同士が一緒にいるって約束するんだ。死ぬまでずっといっしょなんだ。」

「わぁ、すてき!」

「ぼく、美麗とずっと一緒にいたい。大人になったらけっこんしてくれるか?」

「うん、けっこんする!ケイちゃんとずーっと一緒!」

「じゃあ約束だぞ!」



そんなことを言い合った数日後、ケイちゃんは遠くの地に引っ越していった。



ーー正直カプセルに入れたものについては全く思い出せない。

結婚も子供の口約束だ。ケイちゃんもきっと覚えていないだろう。


それでも。

それでももう一度、私はケイちゃんに会いたかった。



◆◆◆◆◆



図書室は3階にある美麗の教室から階段を下って渡り廊下を超えた旧校舎にある。

老朽化が進んだ古い建物だが、蔵書の数が多いことと取扱い方を間違えるとページがバラバラになってしまうような古い資料も多数あったため、すぐに新校舎に移すことが出来ずいまだ図書室として使用されていた。

取扱いの容易な比較的新しい本はすべて新校舎の資料室に格納されているため、よっぽどの物好きでないと旧校舎の図書室には来ない。

図書委員も人員不足のため、新校舎の資料室に張り付いているといった状況だ。



ーーつまり邪魔されることなくケイちゃんと話が出来るということ。


ケイちゃんとの別れを境に、私はみるみる内気になってしまった。

ケイちゃんが私の元から離れて言ってしまったのは、きっと嫌われてしまったからだ。そうに違いないと。

変わり果てた私を見て幻滅するだろうか。

会わないほうがよかったと言われたらどうしよう。



嫌な考えが渦をまき、ジトっとした汗が滲む。


ここまで来たならケイちゃんの顔だけでも覗いてみよう。

気づかれそうになったら逃げればいいのだ。


私は図書室の扉を開けた。




◆◆◆◆◆



入口付近の本棚の隙間から室内を覗くと数人の男子生徒がいた。

皆互いに頭を寄せあっていて顔が見えない。

何やら話をしているようだ。



「あっ!」



つま先立ちで様子を伺うつもりがバランスを崩し男子生徒たちの目の前に躍り出てしまった。



「あの、もしかして、美麗さん…?」



◆◆◆◆◆



「なんだよ拍子抜け。」

「お前同じ学校なのに顔も見たことなかったのかよ。」

「知らねーよ、見てたら呼び出したりしねーわ。

しかも名前が美麗だぜ?ぜってー美人だと思うじゃん」

「せっかくなら中原先輩とか、黒木とか、佐々木先輩とかの綺麗でエロい感じの人に来て欲しかったよなぁ。」

「あーあ、帰ろ。」



「あの、どういう、こと、ですか…?」



ゾロゾロと移動を始める男性陣に声を掛ける。



「あ?あー、なんかタイムカプセル?俺たちが普段つるんでる場所にあったんだよね。」



どうやら彼らは普段から小学校の裏手にある山で溜まっており、喫煙や飲酒に興じていたという。

ある日タバコの火を消した足先に違和感があったので掘ってみると、

私たちのタイムカプセルが出てきてしまったというわけだ。


ご丁寧に日付を記載した手紙が同封されていたため、

きっと同世代に違いないと、近隣の高校をしらみつぶしに調べていたら、私にたどり着いたということだった。



「そんな、私ケイちゃんに会えると思って来たのに…」

「あのさ、本当に会えると思ってたわけ?

10年以上も前の口約束だよね?

俺達が掘り起こさなかったらケイちゃんとやらの存在も忘れていたわけでしょ?

仮に彼に会えたとしても、美麗さんのビジュアルじゃ、ねぇ」



嘲笑。

いてもたってもいられなかった。

後悔ばかりだった。



ケイちゃんに会えるなんて思わなければ。

図書室に来なければ。

こいつらが裏山にたまっていなければ。


ーーケイちゃんを完全に忘れてしまっていれば。




「っ…はぁ、ここにいたんだ。」



◆◆◆◆◆



「あっ、えっ、さ、佐々木さん?!」


勢いよく扉が開くとそこには佐々木が立っていた。

少し呼吸が乱れている。走ってきたのだろうか。



「さっき柊さん手紙落としてったから、悪いなとは思ったんだけど、急いでる様子だったし中身見ちゃった。」



バツの悪そうな表情を浮かべ謝る。

その後仁王立ちで部屋を見渡し、ずんずんと彼らの前まで進んだ。



「で、これはどういうこと?」

「えっと…」

「なんで柊さんが泣きそうな顔してるの?」



やめろ佐々木。

これ以上惨めにさせるな。

これ以上みっともなくならないように必死に堪えているんだ。

どうせお前も私のことを馬鹿にしに来たんだろう?



「…だぃ、じょぅぶ、ですから…

もう、出ていって…ーー?!」



口に暖かく柔らかな何かがあたる。

それが人の唇で、自分が佐々木とキスしているということを認識したのは2秒経ったあとだった。



「ちょっ、佐々木さん…?!」

「ふふっ、やっとこっち向いた。」



してやったり顔の佐々木に唖然とする一同。



「私の婚約者がなんで泣きそうな顔してるか聞いてるのよ!」



男性陣に向かって叫ぶ。



「えっもしかして、佐々木さんって…」

「景子だよ。佐々木景子。」



幼い頃の記憶が走馬灯のように蘇る。



ーーぼく、あんまり自分の名前が好きじゃないんだ。ケイって呼んで。

ーーうん!じゃあケイちゃんだね!

ーーケイちゃんってお前…。まあいいや…。



「あの頃は私、言葉遣いとかも男っぽかったけどさ、周りがファッションとかメイクとか好きになっていって、

その影響でこんな感じになっちゃいました…。あはは…。」


「見た目は結構変わったかもだけどさ、転校してからも、ずっと美麗ちゃんが好きだったよ!」



男性陣はそそくさと逃げ出し、私は腰が抜けたまま呆然と佐々木を眺めていた。



「柊美麗ちゃん。

美麗ちゃんは私に気づいてなかったみたいだけど、私は入学式の日に一目見ただけで美麗ちゃんだって気づいたよ。」



笑みを浮かべた佐々木は、次第に真剣な表情となった。


「絶対に幸せにするからね。」


唇が軽く触れる。

ファーストキスだけでなく2回目までも奪われてしまった…。

佐々木の腕の中で薄れゆく視界。

目を覚ました時には今まで通りの日常が戻ってきますようにーー。



◆◆◆◆◆



「ありゃ、やりすぎちゃったかー」


気を失ってしまった彼女を抱きしめたまま頬を撫でる。

大きな眼鏡も小さな背丈も、本当に何も変わっていない。

私は本当に幸せ者だ。こうやってまたこの子と触れ合うことが出来た。

もう絶対に離さない。



ーー10年来の大恋愛だ。

そりゃ、おでこのニキビもおっきくなるわな。


これからも成長するであろうニキビを思うと頭が重くなるが、

愛しの彼女を振り向かせるためにも、早く治してしまわなければ。


「これからはずっと一緒だよ。」


アルミ缶に忍ばせた、小さなプラスチックの輪っかを握りしめて、にししと笑った。

拙い文章失礼しました。

ここまでお読み頂き誠にありがとうございました。

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