穴の底に蠢く者
カインとアベルは同じ田舎町に住む十才の少年だ。
二人は夏休みで退屈していた。
カインが言った。
「アベル、村外れの森に行かないか?」
そこには昔から魔物が住んでいるという洞窟があった。
「駄目だよ!あそこには行っちゃいけないってお父さんからもお母さんからも言われてるんだ。魔物が住んでいるだよ!」
するとカインが呆れた顔で言った。
「おいおい、アベル。魔物が住んでいるなんて信じてるのか?いるわけないだろう。きっとあそこには何か秘密があるんだよ!知りたくないのかい?」
「だけど…。」
「大丈夫だよ。まだ、昼間だし暗くなる前に帰ればいいじゃないか?行こう!」
そう言うとカインは歩き出した。
あわててアベルも付いていく。
森に着いた。
二人は勇気を出して、森の中に入って行った。
すると、洞窟があった。
カインとアベルは顔を見合わせた。
カインが言った。
「アベル、僕が先にこの洞窟に入るよ!」
「止めなよ!カイン!危ないよ!」
「大丈夫だよ!携帯をつないでおくから、なんかあったら大人の人を呼んできてくれ。」
カインは洞窟の中に入って行った。
しばらくすると、携帯からカインの声が聞こえてきた。
「アベル!逃げろ!逃げるんだ!ここは人間が来てはいけないところだ!早く逃げるんだ!」
そう言うとカインの携帯が切れた。
「カイン?カイン!どうしたの?返事をして!カイン!」
アベルは迷った。
大人を呼びに行くべきか?
それとも助けに行くか?
アベルは迷ったあげく助けに行く事にした。
大人に知られたらひどく怒られると思ったからだ。
「カイン!カイン?返事をして!カイン!」
アベルは恐る恐る洞窟に入って行った。
随分と奥まで来たときに、赤く光る無数の光が見えた。
しかし…。
そこにはカインが横たわっていた。
それらはカインに群がっていた。
その禍々しさは人間の想像をはるかに越える物だった。
「わぁー!」
アベルは叫んだ。
すると真っ赤な目をした禍々しい者達が今度はアベルの方に向かってきた。
アベルは走った。
しゃにむに走った。
そうだ。ここは人間が来ては行けないところだったのだ。
もう少しで洞窟の入口が見えた。
アベルはほっとした。
その時だった。
アベルの足首を冷たく粘着質の物が掴んだ。
そして声がした。
とてもこの世の者とは思えない声だった。
「馬鹿め!友達は死んだぞ!」
アベルは叫んだ。
洞窟の入口に向かって力一杯叫んだ。
「助けてくれー!誰かー!助けてー!」
しかしアベルの叫びも虚しく、体はどんどんと洞窟の奥底に引き込まれていった。
その日以来、二人の姿を見た者はいない。