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第7話 夢の恋人

2月1日 12:41分


“君だけは、夢の恋人のまま……”

清志と蒼の2人は喫茶にいた。


 時刻は春巻が逃亡して約6時間後。つまり、この時間は彼らにとって午後のティータイムと言ったところか。蒼の特性からか、2人の間には無言が多い。清志も機嫌の問題か積極的に陽気になるはずもない。彼はタバコを吸っては、珈琲を啜る。長時間滞在しているらしく灰皿には数えきれないほどにタバコの吸い殻が溜まっている。もちろん、蒼はそれを気にする様子はない。まさかドールが副流煙で寿命が縮むなんて、妙な設計が為されているはずがないからだ。


「散々に薬物中毒者を馬鹿にしていたが、俺も谷口も喫煙者なんだよな」


「とりたて滑稽に思うようなことでもないよ。そもそも人間は個人の幸せを追求する生き物だからね」


「随分と達観してるな。でもお前の星だって、他人に迷惑をかけることは悪だろ?」


「善や悪なんて無い。ただ賢い行為と愚かな行為があるだけ。確かに、無益に同族の殺し合いなどが起きれば、大きな損失が生まれる。だから望まれていない。ただの薬物も蔓延すれば人類の大きな損失になる」


「じゃあやっぱダメじゃないか」


「しかし、君たちはどうにも、この世が自然や神による絶対的な制限や不自由があると思っているみたいだけれど、そんなことはない。決められ、信じられる倫理や法律という物が単に人類の利益から成っているだけさ。誰にだって殺人はできる。セックスも、薬物も、強盗も。みんなが禁止しているだけ。おそらく、罰則を恐れる恐怖が潜在意識にまで届くほどの抑制に昇華されているのさ。だから、好きにすればいいんだ。その行為は、他人が勝手に悪と呼んでいるだけなんだから」


 この蒼のⅡの口から本田へと語られることもなかった事実を、ここで紹介する。


この蒼のⅡを製造した文明には、そもそも法律などの制限がない。なぜなら、皆が皆に全体の利益を優先させるからである。稀に、長い歴史のうち数回程度だが、いわゆる無益な殺人や暴行行為が発生はあった。しかしその際は行為の損得を計算し、損と見なせばその個体を放置し、得と見なせれば処分させられる。逆に全体の損失を起こしかねない個体はその行為が発生する前に処分される。もちろん、その個体がそれを拒絶することはない。全体の利益は誰もが望んだ行為であるから。法や憲法のように、明文化されたルールはない。論理的な集合体の決定であることは確かだが。


 その文明によって作られた蒼のⅡには、ある程度に人類を理解できるようインプットされていた。例えをするならば、完璧ともいえる論理性を持ったAIが人間を観察し、人間の非論理性を理解しつつ、任務を完璧にこなす理知的なプログラムを作るようなもの。それにはどこか矛と盾の問題じみていて、兼ね合うことのない二つのピースが不格好に組み合わさっていると言える。


そんな不格好な二つのピースは、この蒼に対し、妙な哲学を生んでいる。人類を理解する反面、どこか嘲笑し、尊重しているとも見て取れる。地元の生物のコミュニケーションが重要だと知りつつも、表情は不器用で、味方のサインを作るのに不慣れであるとか。


そして蒼だけでなく、この後に登場する紅と黄という蒼と同じヒューマノイドも、大なり小なりにそれによって歪んだ哲学を持っていた。そして、紅は道雄へと、そして黄は過去に谷口へと、何かしらに影響していくのだが、それはまた後の話。


「妙な考え方だな」


 といっても、本田にそう言った哲学趣味はない。それにオカルトマニアでもなかったから、別段、人類とは違った文明に対する興味もない。ただ、ああそうか、とタバコの味を半分に返事をするだけだ。


「そうだね。全く持って価値観が違う。海を隔てただけで言語が違うのに、宇宙を隔てればもっと理解はできないさ」


 蒼が一口ほどアイスティを口に含む。


「そもそも、なんでお前たちはそんな人間を守ってくれるんだ?」


「宇宙全体の連合が決めた保護対象にキミらが含まれているからだよ。そもそも、プラントたちは僕たちの文明の産物でね。責任を取るという意味も含まれているかな」


「地球に仲間は一人もいないのか?」


「2体。私と同等と言えるスペックを持つヒューマノイドがいる。紅のⅠと黄のⅢ」


「そいつらはどこにいるんだよ」


「もちろん別行動だよ。そもそも、仲間ですらない」


「は? 仲たがいでもしたのか?」


「いや、もともと3人はそれぞれに別の組織から派遣されているのさ。ヒューマノイドを製作する3つの企業が、それぞれの自信作を選出し、どれがもっとも成果を上げれるか競争をしているんだ」


「おいおい。そんな遊びみたいな」


「君たちだって戦争で技術革新していっただろう? ちなみに紅のⅠは攻撃特化。蒼のⅡはバランス型。黄のⅢは索敵型。おそらく黄のⅢは脱落しただろうね」


「なぜだ?」


「瀕死の状況になった場合のみ、紅と蒼にのみ受信できる信号を発生させるんだ。3日前に、それが観測された。そのおかげで、敵の根城が特定できたのさ。敵の発見がいくら早くても、戦闘能力は紅と蒼に比べ、数段劣るから、おそらく単騎で乗り込んで破壊されたんだろう。戦略がまったくなっていないと噂だからね」


「お前たちのせいでドラックが地球に来たのに、まったく責任を感じていないんだな。協力すればすぐに解決できたかもしれないのに」


「言わせてもらうと、アメリカとソ連が結託して宇宙開発をしていたかな? ある程度の競争は発展の一助となるのさ。君たちは他人をミラーし、同情的になる生物だから冷酷に感じるかもしれないけれど、君たちを同情したところで僕たちには一つの利益にもならないんだ。宇宙の連合によって、君たちを救うというミッションがあるのは確かだけれど、確実に救うよりも少しリスクはあるがヒューマノイドの実践テストを行うほうを取った」


「お前たちみたいな考え方が宇宙でグローバルじゃないことを願うね」


「どうぞお好きに」


 蒼はおしゃべりで乾いた喉を潤すようにアイスティを一口。


「しかし、難儀な話だな。ドラッグが活発になる夜まで待たないといけないなんて」


「半分は君が提案したんだけどね。人込みの中無理に侵入すればパニックになるから夜を待とうって。しかし、パニックに紛れて逃げられても仕方ないか」


 

 




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