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第4.5話 蒼のランタンと恐怖の緑

「お前が宇宙人だという証拠を見せろ」


 その言葉を聞いて、蒼のⅡ(以下、蒼と記述)は頭部を少し捻り、そして取り外して見せた。そして蒼は頼まれたわけでもないのに、その頭を床に転がす。蒼の頭部は物言わぬ表情のままだ。もちろん、人間では無しえない所業であるそれは、本田を納得させる。ただ、気を悪くしたみたいに真っ青な顔で。


「もう良い。戻せそれ」


 蒼はただただ黙ってそれを拾う。無表情で頭を捻って首を繋げる姿に本田の気分は休まることが無い。


「これで君は関係者だね」


 蒼はまっすぐな瞳で本田を覗く。下手に感情の機能がない分、蒼の表情は純粋で曇りがない。


「関係者?」


「ドールには数人までの現地生物との干渉を許可されてる。蒼のⅡはほぼ完ぺきなプログラムで動いているが、それでもその場の社会環境に適応できない場合があるからね。いわばガイドとして、滞りのない行動の為に君も害獣の駆除に付き合ってもらう」


「害獣……? アライグマか何かか?」


「簡単に言えば、この名古屋にドラッグを蔓延させている生物」


「ははっ、宇宙人が名古屋に来てまでやることが薬物の密売で一儲けだなんてずいぶんと宇宙は俗物なんだな」


「金銭が目的じゃない。これは支配。彼らが行っているドラッグインベーダは、まず自己の細胞を含ませた薬物で宿主の細胞の書き換えを行うもの。それは一度だけなら微弱だけれど、宿主はドラッグの依存性により何度とそれを吸収し、最後には脳の機能を奪うまでに寄生側の細胞が支配をする。武力としての脅威は薄いが、人類の発展を妨げる可能性は高い上、宇宙でも危険度の高いその細胞が人類レベルの研究機関に渡った場合、暴走は不可避と判断されたため、それを完璧に回収または駆逐できるドールが派遣された」


 本田はその少しばかり荒唐無稽な話よりも、蒼の言葉と谷口のメモの内容が一致することに気をかけた。マトリである谷口は、確かにドラッグの流通に詳しい。しかしなぜメモに記してまで、それを表に出さなかったのかという疑問が本田にはあった。だが、蒼の言葉が正しいのであれば、谷口がそれを表にしなかった理由も、いくらか見当がつく。


「谷口太という名前に覚えはあるか?」


「……まったくない。そもそも、蒼のⅡは君以外の現地人とは接触をしていないから」


「そいつはな、突然自殺したんだ」


「へぇ」


 蒼にとって、人間の死はとりたて重要な事態にも感じれないため、それに対する反応は薄かった。ドールとして、彼女は論理的思考を可能にするプログラムを施されている。人間の死に感傷または同情することはそれに含まれていなかった。


「でも、人間は自害が多数みられる生物だろう? この惑星では珍しいことにね。人間は文明の発展より個人の幸福を優先させることが多いし、君達からしてイカれた考えというわけでもあるまい」


「馬鹿が付くレベルの馬鹿で、給料日前に自殺しなければ、俺もそう思えたかもな」


「つまり、谷口太の死は、植物の大元__マザーによって起こされたと?」


「そうだ」


「マザーの能力では、それは難しいと思うけれど。それに、プラントの依存下ならば自殺を強いるとは思えない。兵隊をみすみす殺すわけがないから」


「だが、実際に俺は谷口が残したメモ帳によって、ここに来れたんだ」


 本田が件のメモ帳をポケットから取り出し、蒼に良く見えるよう晒す。


「ちょっとそれ貸して」


「は? いや、構わないが」


 本田は少し困惑したようにメモ帳を渡すと、蒼はマジマジとしてそれを観察した。本田はガラクタを宝石として見るような蒼の姿に、若干の理解不能を抱きつつ、そしてどこか、蒼の表情に好奇心か何かの表情を錯覚しつつ、蒼の返答を待つ。


 そして蒼の返答を待つ間もなく、傍らで倒れていた春巻が、蒼へ目がけて飛びかかって来た。


 春巻は白目のまま、涎を飛ばしながら、「げえええ!」と声にならぬ奇声を喚き、蒼の細くて諸そうな首を絞めかかろうと両手は伸びる。まるで獣のごとしだった。本田は反応が少し遅れ、蒼を庇うには距離が足りない。


 しかし蒼はそれを苦にすることなく、最善最小の動作でそれをひらりと受け流し、脛へとけたぐり、体勢を崩して転がる春巻の脇腹へ重い一撃を食らわせる。そして続けざまに蒼は春巻の頭に左拳を力いっぱいに叩きつける。


 本田は途中までは見惚れていたほどだったが、蒼の強烈な打撃の際に、少々の違和感を覚えた。春巻に強烈な拳骨を叩いたものの、その手ごたえが無さ過ぎた。それは攻撃をした蒼はもちろん、傍らで見ていた本田でさえ、ほんの違和感を見て取れた。


 そして、その違和感はファンタジーな姿で現出する。


春巻は頭から肉が潰れるような音を鳴らし、小刻みに振動しだした。相当な痛みがあるのか、両手で頭を抑えるように抱えるが、震えは一向に収まらない。ついに発生するのにすら困難し、「あっ、ああああ、ううう」と嗚咽を漏らす。


「お、おい。なんだこれ」


 本田が愕然とするのも無理はなかった。


 春巻の頭部の一部が、緑の蔓になっていたからだ。蒼に殴られた後頭部は通常の人体ならば脳が抉れててもおかしくないほどに凹んでいた。


「ま、マーっ、まザーのかおぃっ」


「もう駄目だね。この人間の細胞はほとんどがインベードされている。少なくとも、人間レベルの科学技術ではどうしようもない。さっさと抹殺しないと、むしろ人間が絶滅の危機となる」


  顔が緑化していく春巻の様子を、蒼は冷静に観察し、完璧な診断を施した。


本田から見れば、春巻は薬物中毒者であり、ロクな人生を送ってはいないだろうが、死をもって償わなければならないほどの罪人ではないと思っていた。普通ならば、生死を軽視する発言にカチンと来てもいいだろう。しかし、彼は今の蒼のセリフに倫理を説くような真似はしなかった。春巻の化け物みたいな顔は、人間が手を施せるレベルの外にいたからだ。流石の熱血漢も、この場合だけは全体の利益によるマイノリティーの軽視に賛同できる。


「もしや……名古屋には、こんなのがウジャウジャいるのか?」


「まだ人間が脅威を感じないレベルだけれどね」


 蒼の発言が終わる間もなく、緑顔の春巻は蒼から逃げるように距離を取り、窓を突き破って部屋から脱出した。


「おい! 逃げられたぞ!」


 本田はだいぶ遅れて春巻を追いかけるが、二階から飛び降りる度胸がなく、ただ彼の背中を眺めるしかなかった。しかし、易々と飛び降りて春巻の首を持って来れそうな蒼はそれに無関心といった様子で、


「いや、追いかける必要はない」


「なんでだ?」


「彼の行く先の宛があるから。マザーのテリトリーである、有野高校さ」




失礼しました

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