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第X話 duvet 

“I am falling

I am fading

I am drawing


Help me to breath”

彼がバイクに乗っているとき、色々なことを考える。それは車でも例外じゃない。


 大学の課題はいつやろうか、自作小説の展開をどうしようか、明日は休みだから少しお酒でも飲もうか、そういえばレンタルしたいと思っていた映画があったとか、少し高いコミックを買おうかどうかだとか、そして死んだ女の子を脳内で蘇らせて会話だとか。


「結局は、自浄効果って言葉に惹かれたんだ」


「自浄効果?」


「つまりは、俺は俺の意思ではなく、人類の意思でマザーを倒したいと思っているんだ」


「私のことを思ってとかじゃ……」


「ない」


「私、そんなに好きじゃなかったの?」


「いや、好きだ。恋と愛があるならば、俺がお前に抱く感情は愛だ。ヤリたいと思うのが恋で、そしてずっと一緒にいたいと思うのが愛だと思う。だから俺はめぐりのことを愛していたよ」


 まぁ、流石にタバコの味がするキスは嫌だからな。と言って、俺は性的な感情を否定した。これは俺の潔癖性を晴らしたかったのかもしれない。だから強気で否定する。別に性感情は本当になかったのだから、そこまで強気にならなくてもいいのに。


「……」


 それに関するめぐりの反応はなかった。と言うより、反応を俺が決定したくなかった。俺がめぐりに「嬉しい」と言わせるのが、あまりに人形劇過ぎるからだ。めぐりが俺の事なんかを愛していたんだろうか。そんな自信が無いからだ。


「まぁでも、それでも俺はお前の事なんてどうでもよかったように振る舞っている」


「それは、演技なの? 強がってるの?」


「違う……。ああ、なぜだか全然見当違いなんだよ。その答え」


「じゃあ……」


「なんでなんだろう。ショックだったんだ。お前を失って。お前の死体を見た時、怒りに任せてあの学生服を殺そうとした。それは事実だ。だが、それまでだった」


「それまで?」


「ああ。お前が植物化していて、そして感染者の子供を宿していたならば……もうそれは死ぬ運命だから仕方ない。そう思った。そう思うと、悲しいという感情は、どこかに消えた」


「そうだね。だから、ミルチーが悩んでいることは、あたしが死んだということじゃなくて、死ぬまでにあたしが幸せになれたかどうか」


「幸せだったか?」


「……」


 ああ、まただ。そうだよな。こんなこと、俺が決めれる事じゃない。


「長野、行きたかったな。イナゴ料理だけじゃない。色んな昆虫の料理がお店で売ってる。あそこ、良い人が多いけどちょっといろいろと変な文化がある。ネカフェやカラオケとかあるのかなぁ。たぶん、あんまりないだろう」


「ラブホは?」


「そのネタ、本当にやめてくれよ……」


 自分で言わせておいて、自分ではにかんだ。あのネタ、本当に強烈だった。


「東京も言って見たかっただろ? 良く分からんけど、渋谷ファッションとか好きそうじゃん、お前」


「なんか、女子高生の事全然わかってなさそうな発言だね」


「うっさい。俺は女子高生となんて喋ってことないんだ。男性高校生だった時もな」


「かっわいそー」


「べー」


 けらけらとめぐりが笑ってくれた気がした。まぁ、たぶんそれは錯覚なのだろう。その笑いが俺に作られたようにしか見えないからだ。


「辛かったよな、お前」


 もしかしたら、リアルで見せたあの顔も、作られたものだったのかもしれない。いや、めぐりはそんな器用な奴じゃない事くらい知っている。だが、どうしてもその考えが抜けない。


「……」


「やっぱり、その辺は俺には全くわからない。紅と俺の予想できる範囲でしかわからないんだ。だが、お前がつらい思いをしたことだけはわかる。怖かったよな、俺なんかより全然……不幸だったんだ、お前は。俺なんかは、ただ不幸に振る舞って、色んなことから目を逸らしていただけなのに」


「……」


「生きててごめんな」


「……」


「すまない、本当に」


「……謝られても困るよ」


「それは、俺が言わせているだけ」


「ミルチーに言わされてるだけでも、本当の私だって、きっとそうやって、ミルチーを慰めてた」


「綺麗事。それは死んでいないメーグのイメージだよ」


「だとしても、あたしがそう言うとしか思えないってわかってるんだったら、そう言う事なんだよ」


「……」


「マザーと闘って、死んでもいいと思ってるでしょ?」


「……」


「でもさ、ミルチーごときが死んでどうなるの。ああ、メーグはきっとこんなことは言わない。たぶん、これはミルチーの本音。たぶん、メーグだったら……死ぬのはつらいし痛いことだよ。止めなよ」


 まったくもって、考えの浅い説得だ。


 死にたいと思うくらいの人間に、誰かが生きるように強制することなんて、なんて冒涜的なんだろう。生きることの方がもっとつらいかもしれない。誰にだって功利的に生きる資格があるはずだ。自殺をすることで、苦しみから逃れる方法だって、賞賛されるべきだ。


「でもさ、そんなことしちゃダメだよ。だって、自殺はいけない事なんだから」


「……」


 そうだな。


 別に、これはめぐりが言ったセリフじゃない。ただ、もし俺がめぐりとこんな会話をしたならば、そう答えるだろう、って思うだけ。


 だが、めぐりがそう答えると思うのならば、不幸の中にいながら、いばらの道を行きながら、俺の進む道をほんの少し明るくしてくれた彼女の為に、俺は生きなければならないのかもしれない。


 俺の意思じゃない。欲望でもない。ただ、彼女がそう願うだろう、って俺が思うだけ。あある意味で、俺は何者よりもエゴイストかもしれない。死人の意思を決めるなんて。


「もし、もう一度ミルチーと旅に出れるなら、あたしもバイクに乗りたいな」


「ぬかせ。お前はまず原付からだ」


「原付―っ? なんかダサそう」


「可愛いのだってあるさ。そうだな、俺はレッツが好きなんだけど、やっぱヤマハかね。ジョーグとかどうよ」


「ふふっ、でも旨く運転できるようになったら、ミルチーを追い抜かしちゃうかも。カーブとかで」


「いや、原付で250ccバイクを抜くのは無理だろ……」




 


 



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