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第17話 20th Century Boy

2月2日 10時55分


“your 20th Century Boy”

 春巻の燃えカスは、開いたままのドアによるすきま風に掻き消された。その冷気に何も感じていない紅のⅠ(以後、紅と表記)は、まっすぐな目でめぐりを見ていた。困惑まじりの道雄がそれを覗くが、はたして紅は同情しているのか、哀れと思っているか、それとも何も思っていないのか、なんとも判然としなかった。


「貴方、よく頑張ったと思うわ」


 紅は視線も表情も変えないままに、そう言った。


「……それは誰に言っているんだ?」


「このマザーの手下に立ち向かった貴方よ。それくらい察しなさい。ヒトだってそこまで落ちぶれていないでしょう?」


 それを言い終わると、紅はまた別の方向へ歩き出した。紅はさっきまで道雄とめぐりが座っていたカウンターの席からタバコを少々拾うと、それをさっきと同じようにジーッとだけ見つめていた。


「この有機化合物だけど」


 紅はタバコを道雄へと見せつけるように前に出す。


「摂取していたの?」


 道雄には紅がした質問の意図だとかを探ることはおろか、行動にすら理解が出来ていない様子で、ただ黙っていると


「貴方よ! ぼんやりとしている貴方!」


「あっ! ああ、タバコなら、めぐりが……」


「貴方、めぐりって言うの?」


「い、いや違う。めぐりって言うのは、そこで……死んでいる女の子だ」


「最初からそう言いなさい」

 今度の紅は死体のめぐりの元へ行き、例によってジーッと観察した後、続いて春巻が落としためぐりの子宮とその中にいた食虫植物を観察した。道雄は驚天動地の出来事の連続とめぐりの死体によって、虚無感が影から覗いてくるのが分かった。


「なるほど、これが植物化の進行を防いでいたのね」


 事の真実を知ると途端に煙草に対する興味を失い、紅はポイッとそれを捨てた。


「貴方、名前は?」


「高柳、道雄」


「そう。私は紅のⅠ。正確には、ローカル惑星の生物保護を目的としたインターフィラブル型ヒューマノイド。型名が紅のⅠなのだわ」


「は、はぁ……」


「まぁ、いわゆる宇宙人と思ってくれればいいわ」


 素っ気なく言った一言だったが、道雄は妙に納得した様子だった。もちろん、宇宙人というには宇宙人語を話していないし、なぜ春巻が現れたのかとか、そういった事情もすべて謎のままだったが、もっともファンタジーらしい存在の登場で、すべてが語られたように安心できた。


「さて、ここからが正念場よ。ヒトの道雄」


「はぁ……」


 道雄のガスが抜けたような返事に、紅は呆れたような顔をした。


「わかってはいたけれど、今の人類の状況とか、貴方には全くわかっていないみたいね」


「自分自身すら……」


 自分自身すら、現状が把握できていないのに。と、道雄が呟こうとするも、疲労からかそれを紅へ伝えるのを止めた。道雄から見て、紅は自我がとにかく強いタイプで、弱音を吐くとそれを突くだけで相手にしないと考えたからだ。


「テレビを点けて見なさい」


 紅はそうやって支持をすると、道雄は店の隅で消えたままのテレビの方へ行き、リモコンを探す。しかし、一見してなにも見当たらない。


「あの、店員さん。テレビつけてもらっていいですか?」


 道雄が調理台の方へ呼びかけるも、何も答えがなかった。


「そこの2人なら、警察を呼ばれると面倒だから寝かせたわ」


「は?」


「貴方もヒトなら良く知っているでしょ? この社会の治安維持組織は、何かがあれば書類だとかで時間いっぱいに拘束する上に、ドールのような未知の存在を目にすれば敵とすら見なす可能性があるわ」


「……」


 唖然、と道雄はしたまま黙った。そして、スタッフの休憩室でリモコンを発見すると、テレビを点けた。すると、普段ならバラエティーの再放送をしているチャンネルが、どうにも騒がしい様子でュースを放映していた。


『こちら大曽根駅です! 突如、ナゴヤドームを中心に、謎の緑色の煙が出現して、近隣住民や、イオンモールで買い物をしていた人たちは、そのほとんどの消息が不明! ただ、時折、煙の中心部から正気を失った人間が、襲い掛かって来るとの情報があり、警察は周囲を厳重に警備しています!』


「な、なんだよ……これ」


「マザーが、本格的に動き出したのよ」


「ま、マザー……?」


「説明している暇はないわ。移動しながらしてあげる。そこでだけど……」


 真紅が道雄の顔をまっすぐと見つめ、言葉をつづけた。


「外に止めてある二輪自動車は、道雄のかしら?」


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