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第14話 空蝉ノ影

2月2日 8時4分


“逃れることが許されたなら、ただ一人、夢に迷い、誰にも愛されず闇の中朽ちるだけ”

 図書室内には、バッ! バッ! と水素爆発のような音と衝撃が至る所で発生している。黄のⅢによる超音波攻撃のコンパクトバージョン。以前にマザーを攻撃して見せたような高火力は期待できないが、超精密な狙撃精度と装填の速度が約束された新型兵器である。事実、音速をゆうに超えるスピードで移動し、攻撃を避ける蒼ですら、すでにいくつかの直撃を食らっているうえに、超的な分析能力をもってしても、1秒間に30発を超える超音波攻撃に、逃げ場に苦労を強いられていた。


 すでに、蒼と黄の戦闘から6時間が経過している。しかし蒼はいくらか決定打に欠けているだろう。蒼はただ逃げ回るだけで、黄の首に辿り着く様子は全く見て取れない。もちろん、近接格闘ならば蒼は黄より数段上手であろう。だからこそ、黄は一定のテリトリー以内に蒼の侵入を許さない。黄は周囲の空気に含まれる粒子について、とあるプログラミングを付加していた。蒼がその粒子に触れた瞬間、超エネルギーの振動を起こし、小規模の加速器並みに物体を崩壊させることを可能にしていた。もちろん、蒼の分析能力もってすれば、それを推理することはたやすかった。

  

「くくくくっ」


 黄の表情が変わる。まるで人間の歓喜に満ちた笑顔のようである。これはドールに元々なかった機能であり、その為、蒼にはなぜ笑ったのかを理解できなかった。


「いい気味。いい気味いい気味だうっくくくっ」


 ドール特有のコミュニケーションではなく、空気の振動を使った声帯機能によるコミュニケーション。つまり、人間と同じ声による意思疎通。黄はわざわざそんな方法を使い、蒼に語り掛ける。もちろん、その間にすら攻撃の手は緩めない。


「まったくの負け組だおまえ。6時間と42分38秒の間に18発の音波弾を直撃、私には塵1つ傷なし。生きる意味あるか? ないな。私は首を絞めれば死ぬさ、死ぬな。だがお前には絞めれない。はっくくくくっ」


 黄は愉快な笑い声を漏らす。黄には喜怒哀楽の感情さえ機能して追加されているようだ。言語機能はチグハグではあるものの、姿かたち、仕草、感情の山谷は人間そのものと区別がつかないだろう。


 黄はマザーの手下となる改造を受けるにあたり、知能レベルを数段ランクダウンさせられていた。マザーの操作能力は生体システムには抜群の効果を持つが、ドールなどの無機物的な信号回路を持つ者に対しての効果は薄い。それゆえ、黄は大幅な改造が施されており、その際、黄はドール特有のシステムはほとんど失い、代わりに得られたそれは人間と酷似したものだった。

 

 それでは、黄は劣化したのか。とは、一概に判断できない。


 パッ、パパパパパパッ!


 破裂の連続。人間の鼓膜であれば線切れしているだろう振動の衝撃が、蒼の腹部を直撃させた。さすがの蒼もこれには一たまりもないのか、蒼の軽い体は野球ボールのように吹き飛んだ。


「随分と人間のようになったね、黄のⅢ。きみは元々、声帯機能なんてなかったはずだよね。超音操作によって、人間を強制的に強化し、操作するくらいかな。実際、君の能力なら他のドールみたいに協力関係を育むことはない。自身の能力を使う方が合理的だから」


「ああ、ああ、まぁな」


「しかし、今のきみはまるで泥人形だね。作り手の腕があまりにお粗末なんだろう。元々あったお粗末なスペックから大きく性能ダウンをしているね。今の攻撃は何かしたつもりであるのかな?」


 黄の表情が変わる。人間の激昂と同じ、野獣のように顔に皺をよせ、目を細め、顔が真っ赤に染まった。蒼の余裕顔が黄の癇に障る。


 黄は校舎を大きく損傷しないためと、多大なエネルギーの放出は社会的な問題からか控えていたが、今の黄にはおそらくそんなことはお構いなしという風に、自身の周囲にエネルギーを凝縮させた。このレベルなら学校1つ分のコレーターが空くであろうか。


 だが、それを放つことはなかった。その前に、黄の首に数々の鉄パイプが刺さったからだ。


「なっ、ななななぁあああ!?」


「悲鳴も上げるのか。緊急時だというのに。まさに愚鈍な人間になってしまったようだね」


 黄は悲鳴だけではなく、身振り手振りと体を自ら大きく振るってパニックを表現する。パイプを抜こう、抜こうと必死の形相をするが、あまりに間抜けな対応だったので、抜けるものも抜けないだろう。蒼がそれを見てまた余裕顔になる。しかし、今回ばかりは黄も激怒することはない。


「なぜなぜなぜなぜなぜ?」


「***粒子による相応性を利用し**的性質変化を起こした。6時間と57分2.5秒のうちに1076回の試行により、やっと解析を完了した。ドール程度の分析能力では理論を把握していてもプロセッサと命令処理に手間を取った」


「あああ、ああ? 意味わからんわ怒るぞ、泣いてしまいそうだ」


 あああああっ! と本当に涙と鼻水を顔から垂れ流す。


「量子のもつれを利用したテレポーテーションとでも思ってくれればいい。分子を組み替えて、それを位相変化させただけ」


 蒼は、黄の周りで持て余しているエネルギーを凝縮させ、1つの小さな粒にした。これにより、大きなエネルギーは辺りに発散することなく、静かに沈下した。


何か質量をもった粒がどこかで落ちた音がする。


その音から間もなく、黄の悲鳴は聞こえなくなった。


   


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