表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/26

第12話 MajiでKoiする5秒前

2月2日 4時00分


“恋が始まる予感。貴方も感じるでしょ?”

「おいっ! おいっ!?」


「はっ!?」


 めぐりは飛び起きるように覚醒すると、「うわぁあああ!!」と悲鳴を上げ、手当たり次第に辺りの物を道雄に投げつけた。バッグや、カラオケマシーンのコントローラやマイク。仰天しつつ、道雄は反射的に回避する。遠慮はないが、パニックになっているので、それらはほとんど道雄を狙ってこなかったのが幸いだった。ついにめぐりは投げつけるものを失い、それでも叫びながら大きく手を振って、辺りのものを拒絶する。


「おい! 落ち着けよ!」


 道雄は強引にめぐりの手を抑え、顔を接近させる。


「な? 俺だよ。悪夢でも見たのか? 飯でも食おうか? いや、煙草が先か?」


「ああ、ああ。はぁ……はぁ……。ミルチー……」


  道雄は落ち着いためぐりにひとまず安堵し、手を放した。そして事前にドリンクバーから持ってきたと思われるコーヒーと、煙草の箱とライターを道雄は渡す。めぐりはまだ上手く喋ることがつらいのか、遠慮がちにコーヒーを一杯、次に煙草を咥えた。深呼吸をするように大きく吸って、長々と白い煙を出す。


「あ、ありがとう。だいぶ楽になった」


「ほんと、大丈夫か? 汗がヤバいぞ」


 めぐりが首筋や、額、こめかみ辺りを手で確認すると、泥のような汗がべったりと手に付いた。少し後に、体の高揚がしていることに彼女は気づく。


「ちょっと、変な夢を見てた。怪物が出てくる夢。ワニとか恐竜みたいな怪物」


「やっぱり、クスリのせいじゃないのか?」


「かも。でも、もう大丈夫だから。タバコとミルチーがいればね」


 そのミルチーにマイクやらコントローラやらを投げていたじゃないか。そもそも、煙草の方が先に名前が挙がるのか、などと不満を抱きつつ。


「なら、うん。いいんだが」


「てか、今何時?」


「5時過ぎ」


「ふぁっ!?」


 めぐりの体がつい微振動し、煙草の先から灰が落ちる。彼女の目はぐぐっと大きく開き、つい白い煙がぽっぽっと漏れた。道雄はそんな姿を見ても、少し呆れた顔くらいをしただけだった。


「本当にそんな時間に起こしたの!?」


「だから昨日言ったじゃないか」


「意味わかんない! もう煙草吸ったから眠くもなくなっちゃったし!」


「じゃあ良かったじゃないか」


 道雄は忘れつつあったコーヒーを一飲み。随分とぬるくなっていたため、ゴクゴクと喉に通る。


「そういえばさ、本当にタバコで何とかなってるのか? 医学とか、俺には全然詳しくないからわからないが」


「……うん? でも煙草も麻薬と似たようなものって聞いたから、何とかなると思って。ていうか、何とかなってると思うし」


「呆れるくらいのポジティブさだな。しかし、どうにかなっているのだから笑いごとだ」


「どうにかなっているかな?」


「どうでもいい、というのが本音だな」


「それってしっつーれい! ミルチーって女の子と一緒に喋ったり、ああ、例えばどっちの服が私に似合う? みたいな会話になった時、どっちでもいいよー! とか言っちゃうタイプでしょ」


「別に、そういうことを言いたいわけじゃなくてだな」

 

 道雄は殻になったコーヒーカップに残っていた少量のコーヒーを物乞いみたいに執着した様子を見せ、ほっそりとだが皺を作った小難しい顔をしていた。


「今がそこそこ楽しいだろ? バイクでちょこちょことその辺を動き回って、たまにおいしいもの食べて、ゲテモノも食べたな。琵琶湖のいい景色を見て大騒ぎ。インドの映画だったら楽しく踊っているだろう最中に、やれドラッグだのやれ単位だの留年だの、くっだらないヒールの出番はないね。むしろ彼らも巻き込んで踊ってしまおう」


「ええっと……」

 

 めぐりは原稿用紙三行以上の文章になると拒否反応を起こすのか、意味を上手く理解できずに目を泳がせていた。道雄はそんな彼女の姿を見て、やれやれ、と思いつつ。


「つまり……、ああっとな……タバコ貸せ」


 道雄は机に会った煙草を強奪するように手に取ると、カチカチと乱暴にライターを鳴らし、煙草に火を付ける。道雄は勢いよくスーッと吸い込んだと思えば、間もなくゴヘゴヘと咳き込んだ。


「煙草が旨いだろ? ならそれでいいじゃないか。……いや、マジで今のは味が少しわかったぞ」


「プフッ、決まらないね」


 しばらく、2人は馬鹿のように笑った。


 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ