第9話『吸&海斗&桜vsティアマト』
「あの2人……どこへ行った!?」
「影に取り込まれたように見えたわ」
「影!? ……くそッ。しょうがない、2人は置いて進もう」
俺の白と聖人を置いていくという選択に、みんなは難色を示しながらも頷いてくれた。
その次の瞬間、パンゲアの中でも一際高い山の陰から、ヌッと超巨大な恐竜のようなものが現れた。
その目はしっかりとこちらを向き、認知しているのが窺えた。
「あれは……!?」
「『勇者達よ。我が名はティアマト──全ての母たるもの。我が召喚者の意思に従い、この星の全てを……ひいては他の世界を残滅します』」
「なんだと……!? 召喚者は何が目的なんだ!?」
そう言っている間にも、恐竜……ティアマトはこちらに向かって突進してきた。
「うお!」
「私に任せて、あんたたちは先に行きなさい! 海斗! 吸! 一緒に行くわよ!」
桜はそう言うと、海斗と吸を無理やり連れて向かってくるティアマトに向かって行った。
「俺たちも!? 魔槍『ロンギヌス-紅-』」
海斗はそう言いながらも、真紅の槍を創り出してティアマトに構える。
「あ! ちょ、ちょっと待ってください〜!」
吸は少し遅れながらも、背中に翼を創り出してティアマトへと向かって行く。
『愚かな……母に歯向かうというのですね』
◇◆◇◆◇
ティアマトが吸に向けて放った魔力弾を、桜がソードブレーカーで打ちはらう。
「ありがとうございます!」
吸はそう言いながらも、天叢雲剣を振るって弾幕の雨を創り出す。
ティアマトは魔力の篭った咆哮をあげてその弾幕の全てを打ち消すと、海斗の投げた紅い魔槍をその爪牙で迎え撃つ。
紅い魔槍は呆気なくティアマトに弾かれ、構成する魔力が霧散していった。
「効かない……だと!?」
『生命ある限り。私は──死なない』
「なに……!? くそっ! 何か手立ては……!」
海斗が声を荒げ、打開策を求めると、海斗の手元にスペルカードが出現した。
それは人類賛美歌、救世主、絶望を切り拓く人類の希望の霊衣。
「これが俺の……!」
「それって……」
桜はそれを見て、思わずため息をついた。
「天元突破グレ○ラガン!?」
「俺のドリルは天を衝くドリルだ!」
「やめなさい!」
桜がそう言って海斗の頭を叩く。
その次の瞬間、海斗と桜に向かってビームが撃ち放たれた。それを吸は左手を盾に変化させて2人の身を守る。
「くうっ……!」
「ご、ごめん吸!」
「桜、一応言うが俺は至って真面目だ!」
「どこが真面目なのよ! どっからどう見てもパクリじゃない、盗作じゃない!」
「しょうがないだろ! 霊衣なんて俺の意思で決めるもんじゃねぇんだから!」
ワーワーギャーギャーと喧嘩を始めた桜と海斗に向かって、再びティアマトからビームが放たれる。それを先程同様に盾で防いだ吸は、いつの間にやら手に握られていたスペルカード……霊衣にやって、どこからか『鋼鉄の処女』を出現させてそれを大きく音を鳴らす。
それにビクッと体を震わせながら吸の方を向く桜と海斗に対して、吸はニッコリと笑顔を向けた。
「喧嘩なんて、やめましょう?」
「すいませんっしたぁぁぁ!」
海斗はそう言いながら、右手の巨大なドリルでティアマトへと突撃して行く。
ティアマトが遠吠えをあげると、大地から触手が発生し、それはティアマトへと突撃する海斗の体を拘束した。
「うぐっ……動けない……!」
その次の瞬間、海斗を拘束する触手は桜によって切り裂かれた。
「さんきゅ、桜! さーてティアマト、ここからだ!」
海斗はそう言って、もともと巨大な右手のドリルをさらに巨大化させ、ティアマトの体へと振るう。
その結果、ティアマトの強靭な鱗にドリルは阻まれる。火花が散ってドリルと鱗が互いを破壊せんと競う。
『無駄なこと』
ティアマトはそう言うと咆哮をあげる。その瞬間、海斗はその風圧によって空高くへ吹き飛ばされる。
「海斗!」
『汝もまた星の子然り』
その直後、ティアマトの前脚が桜へと襲いかかる。桜は真横からの一撃をソードブレーカーで受け止めるが、耐えきれずに吹き飛ばされる。
「桜さんまで!」
『子らに終焉など見せぬ』
ティアマトがそう言った瞬間大地から触手が生え、吸を捕らえて空高くへ吹き飛ばした。
「チッ!」
桜は舌打ちをしながらも、突如手元に出現した自分の霊衣を発動する。
「狐姫『傾国の狐姫』」
桜がそう宣言すると、フサフサの何かが桜を受け止める。
『主人さま、大丈夫ですか?』
「あなたは……?」
『やだなあ主人さま、忘れちゃったんですか? 私は玉藻前。あなたの霊衣にして、星の使者ですよ! 他のお二方も回収に参りましょう』
桜を受け止めた何か……巨大な狐はテレパシーでそう伝えると、次元を超越して海斗と吸を受け止めた。
「悪い……」
「あ、ありがとうございます……」
『さ、参りましょうか。……ところで吸さん、あなたの霊衣、発動してくださいまし。アレは女に対しては、特攻効果を持つんです』
「え? あ、霊衣! いつの間に」
吸はそう言いながらも、スペルカードを宣言する。
「吸血『伯爵の吸血夫人』」
吸の宣言と共に、鋼鉄でできた処刑器具……アイアン・メイデンを出現させた。
『それでは、参りましょう!』
玉藻前はその宣言と共に、3人を乗せてティアマトへと向かっていった。
◇◆◇◆◇
いつの間にか、微睡んでいた。
深い、眠りの中にいた。
何も、感じ取れない。
ただ、意識だけがそこにあった。
無間地獄、断続と連続の間の虚空。
その虚無の中に、ソレはいた。
彼女──ティアマトは、全ての母であり、始祖であり、それと同時に非常に寛大な神である。
世界最古の都市メソポタミア。世界最古の、原初の海として登場する全ての母たる彼女の能力はそれ以降の神話の派生も呑み込むことで極めて高い。
そんな彼女は、実際は微睡んでいることしか出来なかった。
神々に──否、英雄たる神マルドゥクに打ち倒され、世界の礎となった彼女は、再びの顕現に際してその肉体の支配権の多くを奪われていた。
一体、誰が、どこで、なんのために。
ティアマトはなにもかもを忘れた。自分が母であることも、息子たちの姿形も。
自意識もほとんどなく、考えることも、感じることもない。夢幻と現実とを行き交う狭間でしかない。
彼女が微睡むのは、彼女の意思なのかもしれない。ただ一つ言えること、それは──ティアマトの肉体は、最早ティアマトのものではないということだけである。