異星にて
遅れて申し訳ありません!今回で完結です!
今回は終作VS零です。
零と終作が互いに向き合う。零も終作も、2人とも不適な笑みは崩さない。張り詰めた空気はロシアのように冷たく、その中で相対する2人を形容するに相応しい言葉は、虎と龍だろう。
人間が干渉することの許されない世界の中枢の猛威と、悪夢のような外宇宙の驚異。共に人間の理解の範疇外の存在である両者の睨み合いは、それだけで星を破壊できそうなほど。
「弾幕『一式』」
突如として、零がスペルカードを宣言する。それと同時に零の左右に砲門が展開され、そこから一挙に大量の弾幕が放たれる。
終作はそれに対して、ただ歩いた。
弾幕が終作の通る道を避けるように──否、終作は能力で「弾幕の通らない道」を見いだし、そこに回避したのだ。
「この程度?」
「いいや? この程度じゃつまらないだろう?」
「デスヨネー」
終作はそう言いつつも多数の弾幕を展開する。それらは零の描くありとあらゆる可能性を見た終作の放つ、不可避にして理不尽、絶対必中の弾幕。
零はそれに対して全く同じ弾幕を展開することで相殺する。その次の瞬間、終作の回し蹴りが次元の穴によって零の目前に迫る。零はそれを迷うことなく両腕をクロスさせることで受ける。
その次の瞬間、零の両脚は次元の穴に捕らわれた。次元の穴の先は移動不能の空間。ありとあらゆる力を呑み込む『力場』が、そこに存在した。
「おわっ!? なんだこれ!」
「隙あり!」
それに足を取られて移動ができなくなった零に対して、終作は容赦なくドロップキックを決める。
足にだけ一切の負荷がかからない状態の零に対してのドロップキックは、零の膝下を引きちぎって零を弾き飛ばす。
「『そんな世界』もあるってことだ」
「へぇ……!」
終作の言葉に対して楽しそうに声を漏らした零は、足から下を再生させて終作の足元に能力をかける。
次の瞬間、終作の足元から多数の岩石の刃が高速で舞い上がり、一斉に終作に対して射出される。
終作はそれらを全て回避──否。回避は不可能。ならば再び次元の穴を繋げる!
終作はコンマ一秒で判断を下し次元の穴を開き直す。その先は強力な重力の渦巻く世界。
次元の穴に岩石の刃が落ちると同時に次元の穴を閉じ、終作は巨大な次元の穴を展開し、それに自らと零、そして置いてけぼりの観客たちを引き込む。
「あいむぼーんおぶまいそーど……体は剣でできていた!」
終作がふざけると同時に、空間に浮かぶ多数の剣が零に向かって射出された。この世界は終作が空間の支配権を持つ世界。波長の合う人物の意識に従ってすべてが構成される。それが当たり前で、普遍で、常識である。そんな世界の猛威が、零に向けられていた。
「紅夜!」
零はそれに対して空間の裂け目から黒刀を取り出し、飛来してくる剣を一本一本破壊していく……が、やがてそれにも限界がくる。零の最大の弱点である技術の不足。特に技術をコピーする相手もいない現状で、それが最悪の形で結果に現れた。
零の肉体に次々と刺さっていく剣。零は能力で刺さった剣、向かってくる剣を消滅させ、自らの肉体を瞬時に回復する。
その一瞬に、終作は浮かんでいる剣の一本を手にとって零に迫る。紙一重の反応で零は終作の剣を紅夜で弾く。
次の瞬間、新たな次元の穴が現れる。
「させると思うか?」
零はそれに対して、能力で無理やり次元の穴を閉じる。その瞬間、能力に感応して新たな次元の穴が出現し、再び零と終作を呑み込む。
持っていたはずの紅夜は失われ、体から霊力の反応は消えている。だが、霊力や能力が消えているのは終作も同様だ。終作は半神半魔の身体能力を生かして、能力が制限されたことで身体能力の落ちた零に対して乱打を打ち込む。
「……っ」
足が宙に浮くほどの威力と速度で叩き込まれた連撃。それの最後の大振りの一撃によって零の肉体は弾き飛ばされる。その肉体はひしゃげ、地に堕ちた零は血反吐を吐いて立ち上がる。
ゆらり、ゆらりとまるで幽鬼のように立ち上がった零は、その眼を強く光らせる。次の瞬間、能力の制限は解除され、零の手元には紅夜が戻ってくる。
「っあー……だめかぁ」
「ダメだな。ダメダメだ」
頭を掻く終作に零は容赦なく一瞬で近づき、紅夜のその刃を以って終作の首を断ち切らんと迫る。
終作はそれに対して顔をギリギリまで反らせることで被害を極限まで小さくする。
頬に一筋の切り傷が入った終作は顔を反らせた勢いのまま零に後ろ回し蹴りを叩きつける。零はそれをモロに受けながらも、零の蹴りも同時に終作に命中する。互いに吹き飛ぶ2人はすぐにムクリと起き上がり、獰猛な笑みを突きつけ合う。
終作は零に向かって駆け、零は終作の放った蹴りを同じように蹴り返す。ビリビリと空間が悲鳴をあげ、その衝撃波は足場にヒビを入れるほど。
次の瞬間、終作と左足を突き合わせた零は、左足を基軸に右足での回し蹴りが終作に炸裂する。
終作はその蹴りの威力によろめく。その隙を見計らって零は終作に向かって飛びかかっていく。空中で振りかぶった拳は終作に迫る。
終作はそんな零に対して、拳を打ち付けて対処しようとする──が。
零は突き出していた右手で終作の腕を受け止め、それによって自分の肉体を終作に引き寄せ、空中で左の膝蹴りが終作の額に命中する。
終作はその場で反撃する直前に、今度は右の膝蹴りが終作のこめかみに命中する。
「づぁッ!」
悲鳴をあげる終作に対し、能力で滞空状態を維持したままの零は一回転して膝蹴りの形になった右足の膝裏で鎌のように終作の首を捕まえると、凄まじい磁力を発生させることでかかと落としの要領で終作の体を顔面から地面に打ち付けた。
その次の瞬間、終作の全身が赤黒く変色する。それと同時に立ち上がり、ニタリと嫌な笑みを浮かべる。
「……負怪魔傀か」
「ご名答。さぁ──第二ラウンド、始めようか」
終作がそう言った次の瞬間、互いに肉体が弾け飛び同時に再生する。
2人の能力は、共に因果のうち因を無視して果を得るというもの。もっとも、今の終作は因を作り出しそのさらに延長線上に果を作り出しているのだが。能力の格の違い──外宇宙に存在する終作の本体である『外なる神』が、全ての種類が一つに統一されることでようやく零の格とは対等に戦えるのだ。
だから、終作は力を生み出してその結果として零が弾け飛ぶ事実を生み出した。それに対して、零は能力で終作の体を爆散させた。この違いは限りなく大きい──だからといって終わるわけでもないのだが。
本気を出せば、零は終作を本体ごと文字通り消すことが可能だ。それをしないのはこれが単なる手合わせであり、殺し合いではなく試合に過ぎないからだろう。負怪魔傀を発動した終作の方がよっぽど本気で戦っているのかもしれないくらいだ。
終始 終作と神谷 零は、互いに同時に踏み込むと、空高く舞い上がる。
零が物理的な威力に長けた礫の群れを能力で出現させ、まるで弾幕ごっこのように終作に向けて撃ち放つ。終作は次元操作能力でそれらを防ぐと次元の穴に消え去る。
一瞬のうちに零の背後に現れて首をかっ切ろうと迫るが、長年培った年長者特有の勘で零はそれを紙一重で回避し、スペルカードを宣言する。
「記憶『剣の世界』」
◇◆◇◆◇
その宣言と共に、世界は一新される。
どこまでも青く澄み渡る晴天の下、円筒状の建物の最上階。そこに、俺たちは立っていた。
終作の手には、黒と赤を基調とした刀。対して俺の背後には四元素のチート剣がフヨフヨと浮かぶ。
水のエクスカリバー、火のクラレント、土のガイア、風のエア。
紅夜は今回はお休みだ。使うと楽しくなくなるし。
終作は憂鬱そうな面持ちで、持ってきた刀を構える。
「はぁ……一本しか持ってこれなかった」
「一本もありゃ十分だろ」
俺は終作と軽く言葉を交わしながら、背後にある四剣の一本、エアを握る。
俺が羽のように軽いその剣を振るうと、無数の風の刃が終作に向かう。
「ふっ!」
それに対して終作は刃を肉体で受け止め、無理やり向かってきた。
「おおっ!?」
これには俺も予想外、終作が無理やり刀を振るうのをエアで受けるが、刀身が俺の肉を断つことはなかったものの、剣のそばまで吹き飛ばされてしまった。うーん……エアは軽いから、どうしても普通の刀と鍔迫り合いをすると押し負けてしまうな。
分かってはいたが、四元素の剣はそれぞれの特性に特化してるせいで一本ではどうにも完璧に程遠い。そこがよくて使ってるわけだが。
俺はエクスカリバーとクラレントの刃を交差させる。そうすることで発生する大量の水蒸気。それはエクスカリバーの冷気に当てられ、霧に変化した。
発生した霧によって周囲が見えず困惑してるであろう終作に対して、俺はエアを振り抜いた。
ただでさえ認知しづらい風の刃が、濃霧で視界をほとんど奪われた終作に迫る。しかし、ギィンという金属音が鳴り響いた。どうやら終作はエアの斬撃を防いだらしい。だが、まだまだ戦いはこれからだ。
「ふっ!」
俺はエアを置いてエクスカリバーを手に取り、霧に向かって振るう。エクスカリバーの冷気を受けた霧は一気に霧の中の異物──終作を中心に凝縮し、終作の形に氷像が生み出された。
俺はそれを滅するべく、クラレントで火の玉を空中に作りエアでそこに向けて風を送る。そうすることであまりにも大きくなったそれを、終作の氷像に向けて撃ち落とした。
終作はそれがぶつかる直前、炎熱によって氷が溶けきらないまでも剣が振るえるようになった終作は一瞬のうちに状況判断をして、終作がもともと持っていた剣を火の玉に向けて振るった。その瞬間火の玉は真っ二つに裂け、その勢いを失って俺と終作の間に落ちる。
瞬間、大爆発が起こって俺と終作を爆風が吹き飛ばした。何が起こった──?
終作のあの剣、確実に何かがある。それが何かは分からないが。だが爆風に終作が巻き込まれているあたり、どうにも使い勝手のいいものじゃなさそうだ。
「終作、その剣は──?」
「それを見極めるのも、戦闘の醍醐味だろう」
「それもそうだな」
俺はその言葉に納得し、俺はエクスカリバーを手に取るとエアと交差させた。その瞬間、氷を纏う風──吹雪のようなものが、終作を襲う。
「ぐっ……!」
終作が剣を盾にそれを防ぐ。俺はその隙に、さらにクラレントを追加で手に取る。
エア、クラレント、エクスカリバー。その三振りを同時に刀身を合わせると、美しい晴天は変貌し地を夜のごとき暗さが覆う。もちろん、闇が直接発生したわけじゃない。発生したのは、とてつもない高さの雲だ。
同時に暴風が吹き始め、非常に強い雨も降り出した。やがて、いたるところから雷鳴が鳴り響き、雲の中を雷が伝うのも確認できる。
「これは……積乱雲か?」
「ご名答」
俺はそう答えながらエクスカリバー以外の二本を地面に突き刺し、エクスカリバーを構えた。
「──ふっ!」
「はぁっ!」
俺はエクスカリバーで氷弾を終作に向けて撃ち出す。それに対し終作は自身の持つ剣で弾く。俺の放った氷弾はもちろん粉々になり、終作の周囲で煌く。──来た!
俺は咄嗟に氷の壁を作り出し、こちらに降るそれの被害をなるべく少なくする。
空から降って来たのは、太古から人々に自然の猛威として恐れられて来た、人を1人殺すのに余りある力。ほとんどの場合、神話等で人を超える力として描かれるソレ。即ち──雷だ。
氷の障壁越しでも感じる、あまりに強い電熱の力。
雷は、終作の周囲に輝く氷に引き寄せられて誘導された。
化学の実験なんかで、静電気に水道から流れる水が引き寄せられる実験がある。即ち、水と電気が引き合うということだが、ソレを応用すれば雷を氷で引き寄せることができるのだ。本来雷が落ちるとき、地面の陽性に引き寄せられて雷は落ちる。だが、今は地面は遠く離れた場所にある。だからこそ今回はできた現象だな。
俺は考えに耽っている間に、ふと一つのことに気がついた。
絶えず雷が一箇所に集まっているのかと思ったら、そうではない──雷が止まっている!?
その隙に、終作は悠々と雷を避けた。あれもまた、終作の剣の能力か──もしかして。
俺は剣をガイアに持ち替え、ソレの能力で終作に岩雪崩を落とす。──だが、それらは終作にぶつかることはなく、終作に当たる直前で動きを止めた。終作が岩の下から動くと、ようやく岩は再び動き出して地面に落ちた。やはり、そういうことか。
「終作、その剣の能力は──時間停止だな」
「……ああ、その通りだ。この剣はありとあらゆる事象を1〜3秒間だけ止められる」
終作はそういうと、こちらに向かって少しづつ近づく。その動きは今までと違い、空間転移を繰り返すようだ。俺はタイミングを見計らって、地面に刺さっていたエアを取って振ると、風の刃が俺を包むようにして終作の攻撃を食い止めた。
どうやら集中してないと使えないらしい。俺は剣が弾かれた終作の動揺をつくように、剣で終作を突く。終作はそれに対して回避行動をとろうとして、その被害を心臓から脇腹にとどめた。その次の瞬間、終作の横薙ぎの一閃が俺の首を断ち切らんと迫る。俺はそれに対して強く踏み込んで宙空を転がって回避──仕切れない。
終作の攻撃は俺の足をふくらはぎから断った。久しいその激痛に俺は顔を顰めながら、俺は宙空で転がったままの状態で、終作に向けて両手のひらを向ける。
負けたくない、穿て───!!!!
この世界は、意思の強さがそのまま力に変わりうる世界。
とある有名なライトノベルの世界だが、だからこそその世界と同じ芸当が可能だ。即ち──意思の力は、世界の法則を捻じふせる。
意思の力は霊力の砲撃となって終作の驚愕に溢れた顔を、大怪我を負った肉体を容赦なく呑み込んだ。
──かくして、俺と終作の戦いは終わりを告げた。
今は、宴も解散し、これからみんなが帰るというところだ。
「みんな、今回はありがとう! 本当に迷惑かけたな」
「なに、気にすんなよ。新しい力も手に入ったし」
大和の言葉に、満足げな顔をした磔が答えた。それに賛同するように、背後にいた幻真や優一といった人々もコクコクと頷いている。
「じゃあ──また、な」
「ああ。またいつか」
大和のその言葉に従って、次々とみんな自分の幻想郷へと帰っていく。そして最後に俺と姫ちゃん、アルマの夫婦たちが残った。帰ろうとするアルマとパルスィに、大和がおもむろに声をかけた。
「アルマ──俺は手伝えないけど、その、なんだ……頑張れよ」
急な大和のその言葉に、アルマはキョトンとした様子を見せ……そして、ニヤッと笑って答えた。
「ギヒッ! ああ、勿論だ」
アルマはそういうと、終作の次元の門に導かれるまま、自分の世界へと旅立っていった。
「──零。あいつの……霊斗のこと」
「異世界の友達のことなんざ、一々考えてられねぇよ。俺は姫ちゃんと仲良く暮らすので精一杯だ」
「もう、兄さんったら……」
俺のその言葉に、なにかを言いかけた大和は口を閉じた。
あいつのことだ。今回みたく、色んな側面が出るだろうさ。
「それに──いや、いい」
俺は口を閉じて門を開く。──約束したからな。いつかまた、どこかで。
俺は、大和の言葉を聞くことなく、姫ちゃんをお姫様抱っこして自分の家へと帰ったのだった。
──完──
はい、というわけでいつにもましてダラダラと続けた今回のコラボ話は完結です。
今後はチマチマと本編を更新していきますので、どんな物語を描いてこの話に至るのか、楽しみに待っていただけると幸いです。
それでは、今回ご協力してくださった方々、ありがとうございました!