第5話『大丈優一の戦い』
今回は優一VS桜&磔です!
毎度毎度、優一先生にも颯人先生にもファム先生にもご迷惑おかけします……
端っこの方のブルーシートにて……。
「え? 俺と戦いたいって?」
「ああ。 前に負けて、それっきりだろ? そろそろお前にも勝ちてえ」
「あら、いいじゃない。私も混ぜてくれるかしら? 磔……いえ、今は白だっけ? ま、どっちだっていいわよね。2人で戦った方が、勝てる可能性もあるわよ?」
「……まあ、いいか」
零と共に酒をちびちびと飲んでいた優一に対して、話しかけてきたのは磔と桜だ。
それに対して、嫁である神姫に酒を注いでもらっていた零は、優一を揶揄する。
「ああ、姫ちゃん悪いね。それにしても少年、モテモテじゃないか」
「まぁ、あんた達夫婦に好んで挑もうなんて馬鹿は霊斗ぐらいだろうよ」
「考えてみれば、確かにその通りだ。ま、んなことぁどうだっていいんだ。少年、受けてやるのか? ほら、若いお2人さんキラキラした目で見てるぜ」
零は優一の指摘に対して、少し考えてから肯定した。『違う幻想郷』から送り込まれてくる戦士。その誰もが零達夫婦とは戦いがらない。大抵は自らの手で「暇つぶし」なんていって連れてくるのだ。
それに関して神姫は全面的に肯定のようで、うんうんと頷いている。
「ま、そう言われちゃあ仕方ない」
優一はそう言うと、酒の入ったコップをブルーシートに置き、頭をガリガリと掻きながら立ち上がる。その動作にはどこか粗野さを感じさせるが、優一の全身から溢れている闘気が、その乱雑さをかき消して優一が紛れもなく強者であることを感じさせる。
「お前ら、移動するぞ」
ここじゃ場所が手狭だ。そんな意味を含ませながら、優一は次元の穴を開けた。
◇◆◇◆◇
そこは宇宙の端。ただ酸素と、人間が生きていくのに水以外の適当な環境がある、そんな惑星。
そこに、優一と磔と桜、そしてなぜか零が、降り立っていた。
「じゃあ──始めようか」
ニコリとも笑わず、優一はそう宣言すると同時に構える。次の瞬間、息がぴったりな磔と桜が、同時に肉弾戦闘を仕掛けてきた。
磔の上段への回し蹴りをしゃがんで回避した途端、桜によるローキックが優一に迫る。優一はそれに対して、磔に足払いをかけると同時に服の裾を引いて転ばし、桜に対する盾にする。
それを見た途端、桜はバク転で無理やりに攻撃を停止し、逆立ちの状態のままその両手に魔力を込める。
「お見事」
途端、マグマが優一の足元から噴き出してきた。その全てを優一は「五式『氷結界」」と宣言し、氷の結界によってマグマをただの岩石へ変える。マグマが急速に冷え固まると同時に、優一は下から吹き上げてくるマグマから変わった岩石に乗り、桜と磔に迫る。
優一は次元の穴から命剣と呼ばれる黒い剣『泉』を取り出し、桜に思いっ切り振り下ろした。桜はそれを己のソードブレイカーと呼ばれる特殊な形状の剣で受ける。片刃の剣の背に生えた、剣を折る役割を持つ棘。そこに泉を捕らえた桜は折りにかかるが、しかし泉は折れない。逆に、桜のソードブレイカーの方が折れる始末だ。
「なんで硬さ……!」
「桜、剣から離れろ!」
磔はそう言うと、縮地を用いて優一と桜のすぐそばに迫る。その速度から放たれる磔の木刀での横薙ぎの一閃が、剣から転がって離れた桜の上を通過し、優一の肉を断たんと迫る。
「うおっと……!」
優一は声を漏らしながらも、しかし優一の肉体に傷がつくことはない。
磔の木刀の一撃は、優一の胸の前に現れた結界に阻まれた。
「八式『無限結界』。……ここまで使う気はなかったんだがなぁ」
そうは言いつつも優一の顔に浮かぶのは憂ではなく、笑顔だ。
「ここまで引き出させたこと、褒めてやるよ」
次の瞬間、磔と桜のどちらもが、何か、巨大な衝撃波によって弾き飛ばされた。
「こっからはちょっと本気だ……見せてやるよ、次元妖怪の戦い方」
宣言すると同時に舞台となっている大地が隆起し、磔と桜に迫る。磔は宙に逃れるが、桜は隆起した大地の槍の合間を縫うように優一に向かっていく。
「威勢がいいな! 結構なことだが……」
言い終わる前に、桜の腕が弾け飛んだ。一瞬怯むも、桜は止まらない。次の瞬間、桜が爆散した。直ちに彼女の肉体は蘇生されていき、再構築されると同時に再び桜は優一に向かって駆け出した。だが、一向に優一との距離を詰められる気配はない。
「桜、手を貸せ! 俺に霊力のパスを繋げろ!」
「はぁ!? もう! わかったわよ、しょうがないわね!」
その様子に磔は桜が不利と見ると、磔はすぐさま桜に指示を出す。
桜はそれに従い磔に霊力のパスをつなげた。
磔には現在、とある呪いがかけられている。その呪いによって自身の霊力を使えないが──自身の霊力でないならば、話は別だ。例えば、世界から供給される力である霊衣がそれに相当する。他には、今回のように霊力の供給を他者から受けることでも、霊力の使用は可能だ。
桜からの無尽蔵にも思える霊力を受け取った磔は、その霊力を用いて弓と矢を作り出す。
思い出されるのは、かつて霊斗に課された課題のうちの一つだ。
超技術の会得に有用なのは、全身に神経を巡らせて肉体の全てを制御下におくこと。そして、万全の状態から出される最高の集中力──気力と呼ばれるもの。
その双方をまかなう課題が、弓道であった。
弓も、矢も、尋常の重さや強さではない。それを使いこなし、通常20メートル程度の距離をその5倍、100メートルの先にある的に中てること。それこそが霊斗から出された課題。それを達成した時のことを思い出し、全身の力を抜いて自由落下に身を任せる。
落下する中、弓と矢をつがえ、構える。狙いは良好、その射形に一切の不足なし。
全身の力が矢に伝わりきり、全身の力が抜ける極限まで、矢をつがえ弓を構えた『会』の形は解かない。
その秒数、凡そ7秒。
7秒間の会を終え、弦から手を離す。これを『離れる』と言うが──最高のタイミングで放たれた矢は、射の後に行われる『残心』の中でも、圧倒的速度と威力を伴って優一に向かっていった。優一が、放たれた矢に気づく時には既に遅く、その一本は優一の胸を貫いていた。
「見事……!」
優一はそのどこまでも澄んだ極限の一本を賞賛しながらも、無理やりに、胸を貫いて今もなお刺さっている一本を引き抜いた。
「まだまだだぜ!」
優一が宣言したその瞬間。隠密術によってその身を隠した桜が、再生したソードブレイカーを使って、優一の首を斬り落とした。
◇◆◇◆◇
「へーぇ。ほーぉ。少年、やられたか」
この戦いを見届けた最強の男、神谷零は、その結果を見て面白げに目を細める。
その隣には、零によって復活した優一の姿があった。
「ああ。なすすべなく……って感じだったな」
「次元を管理する能力も超え得る一手か……あの矢はどうだったよ。結界で受け止めたが、次元能力じゃなんとかならなかったのか?」
「バカいうな、あのスピードを目で追えるなら俺は苦労してねぇ」
その答えに、零は「それもそうか」と言ってコロコロと笑う。
そこにとどめを刺した桜も凄まじく、目を見張るものがあった。あの技術、それは己に足りないものだろう。そして、それは零の明確な弱点でもある。
「まぁ、なんだ──お疲れ様、とでも言っておこうか。さて、見てるんだろう終作。ちょっと付き合えよ」
「うげっ……まあ、ここなら制限かかんないし、いっかぁ!」
ということで、次回は終作VS神谷零です!




