後日談4話『地獄にて』
更新なりて。今回はアルマVS剛です。
『──!!』
声にならない雄叫びをあげながら、触手を身に纏うその魔法使いの少女は手を横に振るう。それと同時に、大量のエネルギー弾が生成され、それらは炎、氷、あるいは風へと姿形を変える。
それら一つ一つに込められた魔力は無尽蔵であり、同時に世界を滅ぼし得るだけの威力を誇るだろう。それに対して、師は変わらぬ剣を持ちながら、安心させるように俺の方を向いた。そうして言葉を発する。
「これが最後の共闘になるだろうが──まあ、頼りにしてるぜ」
「そっくりそのまま返す。──行こう」
お互いにそう言って、刀に手をかける。
ずっと遠くからこちらを心配する僧侶の姿が、ふと脳裏に浮かんだ。不定期に来る千里眼はやめてほしいところだが──俺はあまりに想像通りなその姿に苦笑いしながら、真っ正面の敵に意識を向けた。
「──」
それと同時に、大量の弾幕が広範囲にこちらに襲いかかって来る。
俺はそれに対して大剣を振るい、弾幕を削る。
「──!」
だが──流石は、俺たちと一緒に冒険してきただけある。その魔法は俺以上、到底、刀の一振りで防げるような弾幕でもなかった。
次の瞬間、師──霊斗の取り出した霊剣が、大量の弾幕を展開して少女の弾幕を相殺する。それどころか、これ見よがしに俺に道を示すようにトンネルも作りやがった。
「さぁ、行け──この世界の勇者はお前だ」
霊斗が言うよりも早く、俺の足は動き出していた。超技術の速度に俺の魔力と身体能力を上乗せして、少女に紙一重まで迫る。
それに対して、触手は自動的に攻撃を展開する。
その太い何本かが俺の肉体を貫くが──その分のダメージを乗せたカウンター攻撃を、少女にぶつける。
触手はそのダメージに怯み上がり、必然的に隙が生まれる。そこに足りない最後の一手はもちろん──。
「『マスターソード』」
──俺の師が、補ってくれるに決まっている。少女の肉体は、因果を切り裂くその斬撃によって真っ二つに分かたれた。
◇◆◇◆◇
「準備はいいか?」
「まずまず……といったところだな。それにしても、なんでお前が俺に勝負を仕掛ける?」
「なんでだと思う?」
「さぁ……覚えがねぇな」
ヘラヘラニヤニヤと嘲笑を顔に貼り付けた魔王、桐月アルマに対して、対象的に生真面目な顔で剣に手をかける勇者、鶫 剛。
その様相はまさしく、魔王を倒さんとする勇者の姿そのもの。もっとも、整っているといえば聞こえはいいが、はっきり言って剛の顔は怖い。だからどちらかといえば、顔だけなら剛の方が魔王寄りだ。
まあそんなことを言えばアルマの嘲笑はかませ犬的な顔となってしまうし、キリがないのだが。
そんな両者が対峙する。お互いに油断はなく、かといってその戦闘能力にそこまで大きな差があるわけでもない。
「じゃあ、始め!」
審判を請け負った磔が宣言すると同時に、剛は一気呵成にアルマとの距離を詰めるように動く。その速度は段々と加速を重ねていく。
その反対に、アルマは剛と距離を置くように、剛から目を離さないように前も向かずに飛翔して離れていく。
「武装『殺陣聖殲』」
「『氷華鯨拳』」
アルマがスペルカードを宣言する。それと同時に武器──主に剣を模した弾幕が、雨のように剛に降り注ぐ。それを見た剛は一瞬のうちに右手に絶対零度の力を纏わせ、拳を振り上げることで空間ごと剣の雨を凍結させる。
その後、ある程度で空間の凍結が静止したことで生まれる巨大な氷の球を、剛はアルマに投げつけた。その直径、視界に映りきらないほどであり──およそこれが隕石として降ってきたなら、地球の甚大な被害は避けれないほど。
「マジかよ! ギヒッ、こりゃ凄え! 道先『滅亡の最短距離』」
アルマはそれに対し、爆発と文字通り光速移動のスペルカードで対応する。赤い道を作りながら光の速度で剛の投げた球の射程範囲外まで逃げると、そのまま一直線に氷の反対側にいる剛に突撃する。
被害が甚大だと判断した磔が氷の球の最も弱い部分をある程度の憶測で判断し、氷の球を殴り砕く。
そうして初めて、この戦いを観戦する面々は何が起こっているのかを把握した。
赤い閃光と青い稲妻が互いにしのぎを削っている。空間を跳躍し、絵を描くように光が空間を彩り、衝突と離脱を繰り返す。
「……アルマってこんなに強かったの?」
「ふふん、当然じゃない。いくら平和主義とはいえ、桐月アルマは魔王なのよ」
桜の疑問に、パルスィが自慢げに答える。むしろ大概なのは、スペルによって光速を超えたはずのアルマの速度についていっている剛の方だろう。相手と同程度以上に成長する身体能力こそが、剛の能力の本質だ。対して、アルマの能力では際立ったものは『感情』の力だが、それがなくともアルマの技の一つ一つの威力は凄まじく、目を見張るものがある。
父から継承した『異法」と呼ばれる肉体を武器に変化させる術然り、感情がなくても強い数々のスペルカード然り……彼もまた、ここまで共に戦って、成長してきた戦士なのだ。
光速の接戦はやがて終わりを告げる。
強い衝撃と共に、身体能力が成長することでアルマの力を追い抜いた剛によって、アルマは地面に叩きつけられる。
「ぐっ……! 動けねぇ!」
「これで決める! 『獅子古竜撃』!」
地面に埋まり、移動することも能わずに腹を見せるアルマに対して剛は容赦なく追撃の構えをとり、天空から突撃していく。その拳には獅子や古竜の力が纏われ、普通に使用するだけでもその威力はありとあらゆる階級の頂点に君臨する『王』の名に相応しい。
「感情『感情解放・暴食』」
アルマはそれに対し、スペルカードで自身に暴食の感情を纏わせる。
その直後、自身の外見が変化している間に剛の拳はアルマの腹に直撃した。高度による位置エネルギーを加えた、シンプルながらも高威力の一撃。その威力にアルマは血を吐きながらも、しかしその顔からは決して余裕は消えない。
アルマはニタリと笑う。元々の笑みをさらに釣り上げ、舌を出すことでこれ以上ないほどの嘲りを表現すると同時に、今の一撃に蓄積された威力を拳に宿す。
「そのダメージ、もらった!」
咄嗟に剛は全身にありとあらゆる防御を施す。回避ではなく防御を選んだのは、自らの今の体勢では逃れ得ないことを瞬時に悟った故だろうか。
次の瞬間、剛の頬を地面に埋まっていたはずのアルマの拳が無理やりに振り抜いた。
剛はその威力に宙に舞う。幸運にも、宙に舞ったことでその威力はアルマが受けたほどではなく、ダメージを逃すことに成功した。
「やっべ」
「今度こそ、終わりだ──! 霊符『マスターソード』!」
剛は宣言すると同時にどこからか現れた大剣に高いエネルギーを纏わせ、それを一気に振り抜いた。
◇◆◇◆◇
「お前、凄えな!」
唐突に肩を組まれる。剛は久々に経験したそれに困惑しつつ、しかし喜んでそれを受け入れていた。
戦いが終わるやいなや、剛は宴会の面々に絡まれている。
話題は剛の強さに関して、そして霊斗との関係についてだ。
その一方で、悔しそうな表情を隠さない幻真と、感情を押し殺す──否、別の感情で塗り替えているアルマの周囲に、慰める会が形成されつつもある。
そんな中、見えない影がちらほらと。それに気づかないで、宴会の夜は更けていった。
ひとまず剛回は今回でおしまい、次回からはまた別のキャラクター達にズームしていきます。