後日談3話『とある世界にて』
おひさの更新です。
今回はVS幻真ということで。
今回のコラボ全体の話は見返せば見返すほど恥ずかしくなってきます…うぬぬ。
この四肢が千切れようとも。
この喉が張り裂けようとも。
この屍肉が消滅しようとも。
この意識が慟哭しようとも。
俺は貴様を、ここで殺す。
そんな覚悟の元、動く死者となった英雄はその男に飛びかかる。
男の後頭部に向かって飛びかかるも、呆気なく英雄の肉体は男の蹴りによって弾き飛ばされる。
再び、今度は正面から英雄は男に襲いかかる。
男は間合いを図ることもなく一瞬のうちに英雄の首を蹴り上げ、がら空きになった肉体を自らの拳で穿つ。
「ガアッ」
英雄は飛ばされながらも吼える。その直後英雄は立ち上がり、三度男に襲いかかる。
男は左足で英雄の頬を蹴り飛ばす。
「……ほう、威勢がいいな。どうだ、呪いの女王。俺と交渉でもしないか」
「交渉……だと……?」
「そうだ。俺は今日、貴様の命を狩るべく城の正面から全ての兵の命を切り落としてきたわけだが──」
男は奥の玉座に肘をつく女王に向かって語る口を止めず、四度目に背後から襲いかかってきた男を難なく左手で払いのける。
「彼の──英雄、鶫 剛の命……俺に預けろ。そしたらお前の命は奪わん」
「ほう」
玉座に座る女王は、その男の提案を聞いて英雄の方を向く。
「……良かろう。その男は好きにしろ」
「──!」
男の交渉に応じ自らを売る女王に、英雄は怒りを燃やす。
「まあ、そうカリカリするな。いずれ時は来る」
「はいはーい。君はこっちだよ」
どこからか現れた少女はそう言って、怒る死体となった英雄を捕まえる。自由を奪われた英雄は、自らの意思も介在しないままに男と少女について行く。
──初めは、そんな最悪な出会いだったなと、英雄はふと思い出した。
自らを救い世界をも救った師と、その従者を自称する悪辣な神──博麗霊斗とグランヒルデ。
そして今、英雄は霊斗を探すために『幻想郷』と呼ばれる土地に来ていた。
「……ここが、霊斗の痕跡が一番多いな」
そう言って英雄が足を止めたのは──宴会が執り行われている博麗神社。
「おいこっち酒が足りねぇぞ!」
「うるせー今準備してらァ!」
ギャアギャアと、大人数が騒ぎながら食事をとっている。
「宴会か……考えてみれば久しぶりだ」
華やかな宴会芸も、見飽きたような手品も、芳ばしい香りを放つ食事も、どれをとっても見事なまでに普通の宴会だった。
「お? 大和、客が来てるぜ」
「へぇ? ……いや、知らない奴だ」
「なんだ、また襲撃者か? 俺はもう飽きた」
「まあそう言うなよ。無事に霊夢も助けられたんだ」
そう言いながら少年──日向大和は、英雄の前に立つ。身長差はおよそ20センチで、大和が英雄──剛を見上げる姿勢になる。
「お前がこの団体の代表か? ……宴会か、いいな。混ぜてくれよ」
「お? なんだ、もちろん大歓迎だぜ」
大和はそう言って剛を博麗神社の中へと招く。
次の瞬間、霊夢が警戒するように奥から出てきた。
「……大和。そいつ誰よ」
「さあ? ただ、宴会に混ざりたいらしい」
大和と霊夢が言葉を交わす、その次の瞬間。
剛はなんか物凄い歩法で霊夢との距離を縮めた。
「……質問だ。博麗霊斗という名前に覚えは?」
「へぇ? あんた、霊斗のこと知ってるのか」
剛の問いに反応したのは、聞かれた霊夢ではなく、話題である霊斗の弟子の1人──幻真。
「丁度いいや。相手してくれよ」
「……分かった、いいだろう」
剛は『霊斗の周りには戦闘狂しかいないのか』と思いながらも、幻真のその提案に頷いた。
◇◆◇◆◇
──移動した先は、零によって作られた擬似世界。草原のような風景の中で幻真と剛は、一対一で向き合っていた。周囲には、観戦する磔や桜などの宴会にいたメンバーたちが浮かんでいる。
「よし、やるか」
幻真が短剣を手に取り、剛は徒手空拳で構えを取る。
「……お前、素手なのか」
「いんや。だが、今はそんな気分だ」
「ふぅん……なんでもいいが」
幻真はそう言いながらスペルカードを取り出し、宣言する。
「これくらいは耐えてくれるよな? ──合成『ソウルドライブモード2』」
幻真は肉体強化スペルを宣言すると一瞬のうちに剛の目の前に出現し短剣を袈裟に振り下ろす。
剛はそれに対して、一歩下がって回避すると同時に、自身の肉体を武装硬化して幻真に拳を振るう。
幻真はその一撃を、一回転することで空いている左手で裏拳のように弾くと左脚で蹴り上げようと勢いよく脚を振り上げる。
しかし、その攻撃は先ほどの短剣の攻撃同様に空かされ剛の格好の餌食に──なることはなかった。
幻真は瞬時に右脚に力を込め、左脚の高さを利用したかかと落としへとシフトする。
剛はそれに対して、障壁魔術によって幻真の攻撃を防ぎ、一瞬のうちに幻真から距離を取る。
「距離をとったか! だが、俺から逃げれると思うなよ! 焔雷『ボルケーノサンダー』!」
幻真は両手のひらを剛に向け、焔と雷による極太のビームを放出する。
剛はそれに対して、どこからか大剣を取り出して構える。
「セイッ!」
掛け声と共に振るわれた剣による斬撃は、幻真の両手から放たれるビームをまるごと切り裂いた。
「まじかよ!? こりゃあすげぇ!」
幻真は驚きを露わにしながら、大量の弾幕を展開する。それに対して、剛は霊力を体に纏って幻真へと迫る。
霊力の膜は幻真の弾幕を無効化し、剛はそれによって最短距離で幻真へ迫る。
「チッ! どんだけの膜だよ!」
幻真は悪態をつきながら、刀を振り下ろす。
その刃は剛の持つ大剣とぶつかり合い、衝撃波が空間を揺らした。
幻真は刀がぶつかり合う威力に思わず吹き飛ばされる。
「はぁ──!」
剛はその一瞬を見逃さず、氷の魔術によって流星群のように氷を降り注がせる。
その攻撃は幻真に襲いかかり──次の瞬間、幻真の周囲一帯が強いエネルギーによって弾かれた。
「なんだ!?」
「見せてやる──望龍『望みの双龍』、終域『ソウルドライブモード3』」
幻真の肉体は双竜を象った鎧が纏われ、その肉体からは抑えきれないエネルギーが溢れ出す。
「一撃で決めてやる──! 終域『ラストインフェルノ』」
「応えてやる! 『獄炎聖剣』」
幻真から放たれる、炎の極太レーザーが星すらも貫ぬかんとする勢いと威力で剛へと迫る。
それに対して、大剣を天に捧げるように大上段に構えた剛が剣を振り下ろす。
次の瞬間、因果を切り裂き世界を切り抜く、巨大で力強い斬撃が幻真のレーザーとぶつかり合い──そして、全てが弾けた。
それでもなお、剛の斬撃は止まることなく幻真を飲み込んだ。
◇◆◇◆◇
「いやぁ……なるほど、確かにこりゃ強え」
「後遺症はないか?」
「ああ、すっかり大丈夫」
復活した幻真が、剛の不安げな問いにあっけらかんと答える。
「なるほど、じゃあ次は俺だ」
幻真との会話が終わるやいなやそう言ったのは宴会に来ていた1人──桐月アルマであった。
次回はあるまと剛、役割的には相容れないであろう2人の、とあるコラボの前哨戦です、多分。




