第4話『羨望』
どうしてこう私はコラボでいただいたキャラクターを出すタイミングを逃し続けるんでしょうか。
コラボ更新です。
天空で光と光がぶつかり合う。
何度も衝突と離脱を繰り返し、その2人は天空で非常に高レベルの格闘戦を繰り広げていた。
血を流して地に倒れるアイリスは、失いかける意識の中でその激しさを増していく戦いを眺めていた。
──たしかに、ナイフは彼の首を掻っ切った。はずだ。感触はあった。それは間違いない。では……なぜ、倒れているのは彼ではなく私なのだろう。
そんな疑問を、彼女は隠すことができずにいた。ただ一つ、分かることがあるとすれば。
「バケモノ……」
そうとしか、言いようがない。形容のしようがない。奴は、大和は、確実に人知を超えたバケモノだった。
バケモノ、という点ではアイリスもアイリスの主人であるファミルも同じだ。だが、アイリスと2人の間には明らかに大きな壁がある。
──いつか、主人に聞いたことがある。
『不死』とは、永遠とは、どういったものなのかを。
そんないいものじゃないよ、なんて、主人は哀しく笑っていた。
君たちが羨ましい、普通に生きて普通に死ねる、そんな君たちが。
あの時言っていたファミルの言葉を、アイリスは強く覚えていた。
だが、アイリスはファミルが辟易するそれこそを望む。
誰にも負けない、強い力を。それがない限り、彼女は主人であるファミルにとって足手まといでしかない。
不死を、力を、無限の肉体を。アイリスの持つその権能の全てを天に返却してもいい。自らに、死ぬこともなく負けることもない肉体を。主人と、同じような力を。
その言葉は、想いは、誰にも届かない──はずだった。
『力を、授けようか』
その声は、アイリスの耳に突如響いた。
この場にはアイリスと2人以外は誰もいないはずだ。
『君には、天性の魔性がある。悪魔の王である資格がある。無限の命を得る権利がある』
その声にアイリスは恐怖する。だが、それと同時にそれを羨望していたのだと、強く思う。
この大陸……パンゲアにおいて、神はただ1人、我が主人のみ。ならば、この声の出所はどこだ。
そして、不意に気づく。
この声の出所は、他でもない彼女の、アイリスの肉体である、と。
幻想の声。幻想の肉体。そこにあるが、そこにないもの。
『力が、命が、無限が、権利が』
『欲しいか?』
その問いかけに、思わず頷いた。その瞬間、彼女は巨大な蛇に飲み込まれた。
その蛇は、アイリスで構成されたもの。アイリスの創り出すことになるありとあらゆる『魔』。
その、究極の姿。それが姿をあらわす。
彼女の名は、蛇の名である。
蛇の名は、彼女の名である。
蛇の巣は、彼女の全てである。
彼女の全ては、蛇の巣である。
もはや彼女ですらないソレは、神王ですら倒すに至らないもの。幻想郷の化身ですら、身にとどめておくことしかできないもの。
その名は──。
「フ……フハハハハハ! 愉快、実に愉快なものよな! こうも呆気なくいくか! よい! 実によいぞ! これでこそ、我は汝よ。のう……我が名を答えてみよ、アイリスよ。フハハハハ! そう、我は──神魔テュフォンにして、魔帝メドゥーサ足るもの。魔龍ヨルムンガルドの力をも持つ魔神。──龍魔眼ソロモンと、そう呼ぶがよい」
ソロモンはそう宣言すると、自らの背後から凡そ千にも及ぶ大量の龍を召喚し、天空で戦う2人に向けて解き放つ。
「フハハハハ!! 滅べ! 滅べ! 滅べェ!」
ソロモンの龍達が、閃光となって戦う2人に迫る──。
◇◆◇◆◇
──人里、とある居酒屋、白界視点。
「……やつは、これまでに千の星を滅ぼしている。やつの能力はバランスを司る。そうして生態系のバランスを崩して、そのまま星を滅ぼす」
なるほど、たしかに世界からしたらとんでもなく厄介だ。なにせ、あのガーゴイル達のように大量の生物が異常発生して、そのまま世界の命を喰らい尽くすことも可能だからだ。星の命を滅ぼすのに、ここまで厄介なものもそうはいない。
……けど、それだけなら。
「摩多羅様がいるだろ。なんで滅ぶんだ?」
同じようにバランスを司る摩多羅様の手にかかれば、生態系の崩壊など簡単に食い止められるはずだ。
「奴の能力の厄介なところは『不死殺し』が可能なところだ。不死身のやつは、なぜ不死身なんだと思う?」
「そりゃ、回復するからか、怪我をしないからだろ?」
幻真の当然だと言わんばかりの言葉に、終作は頷く。
「そうだ。奴は能力の権能をバランスの調整でガリガリ削ってくんだよ。それだけじゃねぇ、能力で回復とダメージのバランスを弄れば、敵は回復したくてもそれ以上にダメージを喰らい続けるような状況ができあがる」
その言葉に、みんなは思わず絶句した。そんなの、勝てないじゃないか。それが奴の……ファミルの能力だというのか。
「だとしたら、置いてきた大和はどうなるんだ!? それを知ってお前は置いていったのか!」
激昂する幻真に対して、終作は答える。
「だが、大和は話は別だ。あいつはこの星に生物がいる限りは生き続ける。大地の神の加護ってのはそういうもんだからな。だから、ここが守られている間は奴はなんとか持ちこたえてくれるはずだ。……危ないことに違いはないがな。それに、あいつは多分自分が適任だって分かってる」
そんな危険な賭けに、大和をさせてしまったのか。そんな空気が、終作を責めるような視線が自然と生まれ始めた。
「まあ、そうカリカリすんなよ。そもそも、なんで奴はこの幻想郷に来たと思う?」
「なんでって……分からないから困ってるんだろ」
幻真がそう言うと、終作はニヤリと笑う。
「いーや。分かるね。奴がこの世界に来た原因はただ一つ、奴が死ぬ前に奴の愛した世界をこの幻想郷に連れてくる必要があるからだ。そもそも、摩多羅翁が生まれてくるのはなぜだと思う? 答えは簡単、本来なら過去の世界……パンゲアにいる時点で、奴は死ぬからだ」
「ファミルを倒せるのか!?」
「正史でのファミルの死亡理由が判明すればな。大丈夫だ、まだタイムパラドックスが生まれていない以上、やりようはある」
終作のその言葉に、一同の間に安堵の空気が生まれた。