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後日談2話『異空間にて』

今回は夜桜さん回です。

夜桜さんは強くて能力も弄りたい放題……最高ですね。

 ボロボロの布切れのような服にマフラーを身に纏った英雄が、焼け焦げた大地を歩む。

 異なる二つの神の力を持つ少女は、倒れ伏したままにその男を見つめる。


──それは遠い遠い、どこかの世界の話。


◇◆◇◆◇


「いてて……ここは?」


 確か私は……うん。あの時、磔と桜に殺されたはずだ。

 けど、復活した覚えもなければこんなところにいるっていうのも、変な話だ。

 ここは死後の世界なんてものじゃぁ、ない。少なくとも、私の知識の中では。


 そんな風に考えを張り巡らせていると、不意に背後から人影が迫るのが分かった。


「……君は?」

「俺か? 俺は(ツグミ) (タケル)。……巷じゃあ、神殺しの勇者なんて呼ばれてる」

「へぇ? 面白いね、神殺しか」


 その男はフードのついたボロボロの半袖のローブを身にまとい、マフラーで口元を隠している。

 短髪に揃えられた髪や、マフラーで隠されていない口以外の部分を見るに、容姿はだいぶ整っている方だろう。


「……んで、要件は?」

「いやなに、唐突に巨大な気配が現れたもんだからな。魔王を討ち、魔王に代わってこの世界を守る『勇者』である俺が確認するのも当然だろう」

「ふぅん……君の世界では、勇者とはそういう役割なんだね。魔王の役割はアルマに似ているようだが」


 そう言って、私は脚についた泥を払いながら立ち上がる。


「……()るかい?」

「望むところ」


 私の一言に目の前の男が応えて、戦いは始まった。


◇◆◇◆◇


「そうだ! ところでお前、名前は!?」

「私? 私は夜桜よ!」

「そうか夜桜! お前、空間のスペシャリストだろ!? この空間をどう思う! 俺が魔術で作ったんだが!」

「まったく君は! 空間なんてそんな軽々しく作っていいもんじゃないぞ! 磔たちは、しょうがないから私が関係各所に頭を下げて成立しているんだ!」

「そうなのか!?」


 剛と夜桜、それぞれの得物がぶつかり合う。

 夜桜の持つ不可視の刀と、剛の持つ炎を象ったかのような大剣。

 会話と剣を交え合いながら、しかしその意識のほとんどは剣に向けたっきりだ。


 夜桜がその怪力で剛の横薙ぎの一撃を防ぐ。

 そのまま頓着状態になるのはほんの一瞬の出来事、お互いに相手の次の一手を読んで動く。

 夜桜から放たれた霊力で作られた何本もの不可視の剣を、風の変化を感じることで避けながら剛は斬り込んでいく。


 牙を振るうように剣を振るうその姿、まさに百獣の王が如き苛烈さ。蹴りを交えた全身での攻撃は連打となって夜桜を穿ち、刻み、殺さんと迫る。


「この剣の名は聖戦の乙女(ラ・ピュセル)! この剣を持ってして、貴様を討たん!」

「ふぅん……聖戦の乙女(ジャンヌ・ダルク)ねぇ……」


 夜桜はそれに対してどこか達観するように、まるで「自分には関係ない」とでも言わんばかりの様子でそう言うと、自らの身を守るバリアを出現させる。


 バリアによって剛の剣は止まるが、その剣は成長する。バリアを切り裂き、剣は雄叫びをあげるようにその武勇を示す。

 その勢いのまま夜桜を斬ろうとして──夜桜によって食い止められた。棒状のものの両端を掴むようにして、その剣は止められた。


「君の剣に対してなら、これが合いそうだ」


 夜桜はそう言うと、棒をクルクルと回すような仕草を見せる。


「そいつは……槍か?」

「さてね」


 夜桜は答えないまま剛に突進する。そのまま右腕をふらりと振るう。剛はそれを食い止めようとして──ヒヤリと、首筋に悪寒がはしる。

 瞬間、超技術の"肉鎧"や"王鱗(キングスケイル)"にある『武装硬化』の力を用いて、剛は首の皮を、筋肉を堅くする。


「……ッ゛!」


 夜桜がこの応酬で得た戦利品は、薄皮一枚。

 だが、それだけあれば十分だ。


「……なんだその武器は、槍じゃないな。鎌か?」


 剛はそう言いつつも、バク転で空から新たに降り注ぐ槍や剣、矢の雨を回避する。


「さぁ? 久々に私の血も滾るよ」

「そうかい、そりゃあ結構」


 剛はそう言うと、回避行動をやめて夜桜の向かって突撃する。その瞬間、剛の右側の足元が消失した。


「……ッ!」

「あらあら。どうしたのかしら!」


 剛は左に転がりこむようにして消失を回避する。空間ごと、ベッコリと消え去ったその箇所。そのまま踏み込んでいれば、右側に転落していたか──もしくは足ごと消失は免れなかっただろう。

 剛の霊術、魔術に加えて能力も剛自身への干渉は無効化するが、何事にも例外は存在する。例えば、過去に戦線を共にした戦友である博麗霊斗。あるいは、その時に敵対した相手もそうだ。明確な危険を避けておいて損はない。


 ふと息をつく間も無く、柱状の空間が剛に向かって飛来してくる。なにかを操作するように両手を動かす夜桜の姿はまさしく念動力者のそれだ。

 手を使うことで自らも空間をより把握する──夜桜のある種の本気ということか。


「ハッ!」

「チィッ! ……ムゥッ!!」


 剛はそれを剣で受け止めようとして、剣は弾かれた。剣に対する空間干渉。剛は放り出された剣には目もくれず、両腕を己の首同様に武装硬化させて、向かってくる空間の柱の一本目を受け止める。


 十字に組まれ、黒く染まったその両腕──その防御力は霊斗本人の超技術肉鎧に匹敵する。

 剛は受け止めた一本目を使って、二本目の空間の柱を跳ね除ける。そのまま柱を夜桜に投げつけた。夜桜は両手を目に見えないその柱に向けて、能力で受け止める──が。


「うぉぉぉおぉぉおおおお!!」

「あぁぁぁぁぁああああ!!」


 剛の『成長』は夜桜の能力の力を、上回った。

 夜桜は敗北と見るやいなや、速やかに空間の壁を生成するが──その壁も打ち砕かれ、夜桜の肩を打ち砕く。


「──『───────』!!」


 夜桜はスペルカードを音にならない声で宣言……否、咆哮しながら、一瞬のうちに剛へと迫る。先ほどとは段違いの筋力からなる速度、攻撃力。剛は『成長』する暇もなく、その身体能力に追いつく前に、一瞬の間に変化した夜桜によって殺し尽くされた。


◇◆◇◆◇


「うむ……強いな。だが、次は負けねぇ」

「君ってやつは……。私が蘇生したから良かったけど、蘇生しなかったらどうするつもりだったのよ!」

「まあ、どうにでもなるだろ」


 剛はそう言うと、空間転移の術式を開く。

 リングのような魔法陣の先、幻想郷の原風景覗いていた。


「迎えはしなかったが、送りはしてやる」

「そう、ありがと。お言葉に甘えさせていただくわ」


 剛に対してそう言って、夜桜は名残惜しむ様子もなくリングを潜り、大和達の幻想郷へと帰っていった。


「──幻想郷か。今、どこでなにをしているんだ……霊斗」

「行けばいいんだよ」


 誰に聞かせるつもりもない、独り言のように呟いた剛。その言葉を後押しするように、剛と激しい身長差のある少女はそう言って剛に微笑みかけた。


「じゃあ──そうだな。面白そうなところを探すとしよう」


 そう言って、剛は数ある幻想郷の景色を覗く。その先に、まだ見ぬ強者がいて、懐かしい友がいることを望んで。

冒頭は別のお話の夜桜vs剛でしょうね。だってお話の本編と繋がってないんですもん。ごめんなさい。

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