後日談1話『闘技場にて』
更新でございまし。今後しばらくは不遇キャラ救済大会です。
今回は辰VS大和です。辰くん色々とごめんね!
──それから数日後。博麗神社。
「ん……ここは……?」
「母さま!」
「霊歌? 八雲藍まで……どういう状況? 確か私は……」
あの時、あの場所、あの瞬間。
博麗の職務を全うし、彼を止めるために、私は自己犠牲の呪符を使ったはずだ。
その石化が解けている。誰かが治療した? いったい誰が? この呪符は、そう簡単に解けるようなものでもない。歴代の博麗の巫女もそうだけど、幻想郷でこの呪符を解けるものなどいるはずがない。この呪符が解けて仕舞えば、幻想郷の規律は乱れてしまう。……今はそんなこと、どうでもいいか。
「……そうね。記憶が曖昧なのも無理はないわ。母さま、まだ休んでて」
「……そうね。お言葉に甘えるとするわ。それにしても……霊歌、大きくなったわね。あなたのその姿を見れただけでも、私……」
「ふふ。あとでゆっくりお話ししましょ。だから今は休んでて?」
「……そうね。おやすみなさい」
「おやすみ」
私が布団に入ったのを確認して霊歌は……愛しい我が子は、部屋から出て行った。
◇◆◇◆◇
「ハッ!」
「オラァッ!」
拳と拳が衝突しあい、まるで爆弾がぶつかり合っているかのような爆音が鳴り響く。
「中々やるな! 摩天楼 辰!」
「そっちこそ、日向大和!」
人里の中心街から少し離れたところにある、西洋の施設を模した闘技場にて、2人の戦士が戦っていた。もっとも、その能力は戦士というよりは怪物同士というのが正しいような気もするが。
「何やってるのよ?」
「あ、霊歌さん。なんか辰さん、欲求不満んですって」
「……そう」
霊歌が観客席に座る吸に話を聞いている間にも、激闘は繰り広げられる。
「能力が効かない敵と戦うなんて、初めての経験だ!」
「へぇ。このレベルなら、まだまだゴロゴロいるぞ!」
「そりゃぁいい! 鍛え甲斐があるぜ!」
大和と辰は会話を交えながら、生き生きとそれぞれの武をぶつけ合う。やがて辰は、大和から少し距離を取る。
「俺の力……見せてやるぜ!」
辰はそういうと数多の弾幕を生成し、一斉に大和へ撃ち出す。その弾幕は見当違いの方向を向いているように見せかけて、途中でグニャリとねじ曲がって大和へ向かう。
辰の能力は"概念を超越する程度の能力"。簡単に言えば、対象に状態を付与したり、逆に状態を剥奪する能力だ。
辰が今放った弾幕に付与された状態は『絶対必中』──要するに、必ず当たるという状態だ。
そんな弾幕があますことなく、ほぼ同時のタイミングで迫った。大和はそれに対して、目に見えぬ速度で右腕を振る。その直後、弾幕は全て命中する……が。
「概念を付与された攻撃を……!?」
「当たりはしたぜ」
「ダメージだけ最小限に抑えたってことか。くそッ、こりゃあ強いわけだ」
辰はそう言いながら、同じような弾幕を大量に生成する。そして、右腕を振るうことで弾幕を一斉に発射した。
「そいじゃあ、ここからが本番だ。この弾幕には数多くの概念が付与されている……この攻撃を受けて立っていられるかな?」
「望むところ」
大和はそう言いながら、大地から巨剣を創り出す。その武器の名は──イガリマ。
「ラアッ!」
イガリマを持った状態で、体を一回転させる。すると次の瞬間ほとんどの弾幕が切り裂かれ、その効力の維持が叶わなくなった。
残った弾幕も、一つ一つを丁寧に大地から剣を打ち出して処理をする。やがてそこには……無傷の大和の姿があった。
「チッ!」
辰は舌打ちしながらも、大和に向かって駆ける。それと同時、右の拳を大和に打ち付けた。
大和はそれを右手で受け止めると、その状態のまま右足の回し蹴りを辰へ放つ。
辰は概念の力を用いてその攻撃を受けきると右手の拘束を解き、その状態のまま両手を使った掌底突きを大和に打ち込んだ。
吹き飛ぶ大和に対して、辰はただその場に立っただけのまま警戒して様子を伺う。お互いにこの程度の攻撃で倒れるような相手でないことは理解している。何撃と打ち合う中で、共に戦う中で、そんなことはとうの昔に理解した。
「……こんなんじゃダメだ。俺はこの世界を守れねぇ。俺より強い相手がいちゃ……ダメなんだ」
大和は寝転がった状態でそう宣言すると、立ち上がる。その両手には大地から、空気中から──否、地球そのものから物質が集い、段々と双剣のようなものが構成される。
「──霊歌」
「私?」
「ああ。とある世界のお前は、概念を武器に戦っていたらしい。その世界から紛れ込んだ素粒子が俺に教えてくれた。──その世界と縁を繋ぐ」
大和はそう言って、詠唱を開始する。
「縁よ繋げ、星よ開け、力よ通れ。これなるはとある星の力──終局の力の一端。或いは抑止の剣にも繋ぐものなり」
その剣は、滴のような形をした双剣であった。
その双剣を振ると同時に、何かが裂けた。
そこにあるはずの概念が──力が、砕けた。
「これは概念を斬る剣。名も知らぬ双剣だが、人々の叡智の結晶の剣だ」
「面白ぇ。やってみるか」
辰はそう言うと、どこからか剣を出現させた。
その剣を構えると同時に、お互いはお互いの間合いとなり、互いに動きはなくなる。
ビュウと、風が一筋吹いた。
「──ハッ!」
「セイッ!」
大和は辰の剣をかいくぐるように左手の剣の刺突の一撃目を辰の肉をめがけて放つ。
それを仰け反って回避することで体勢を崩した辰にとどめを刺そうと、右手の二撃目を放つ。
辰はそれを片腕だけで持った刀で受けるが刀は弾かれる。
大和が流れるように後ろ回りの左手の三撃目を放つ直前、辰が大和の視界から外れるその一瞬の隙をついて、辰は大和の剣閃の下に潜り込み、大和の顎を撃ち抜くように拳を振るう。
大和はそれに対応しきれず打ち上げられる──が、まるでそれが狙いだったとでも言わんばかりの様相で空中からの双剣の投擲が行われる。辰はそれに対して前方に転がって回避した次の瞬間、目の前に双剣が再び現れる。
それだけでなく、辰の周囲はどこを向いても双剣が迫っていた。
「な──!!」
全方向からの一撃に、辰は自身に透過の概念を付与して避けようとするが──その概念をも、双剣は斬り裂いた。
双剣が辰の肉体を斬り裂くと同時に、試合終了のゴングが鳴った。