第31話『英雄』
今回少し短めです。グロはないです。
あー。
こうなっちまったか。
そうだよなぁ……やっぱりそうなるよな。
内側から見える景色に、俺は思わずため息を漏らす。
「やぁ」
お前か。この世界には関与しない……っていうか、白界に閉じ込められちまったせいで関与できないんじゃなかったのかよ。
「いやいや。僕もそうだけど、上位次元の連中を倒すには、ありとあらゆる抑止力を集める必要があるんだよ?」
は? 何言ってるんだ。全部白界の中にあるだろ。だって俺がここにいるんだ、それが何よりの証明だろう。
「いやいや。外の世界に君のゴミ箱があったじゃん。それに、霊乃にもまだ抑止力の加護は失われてない」
じゃあなんだ。お前は自由に動けるってことか?
「うん、まあ、そういうことだね。この世界を僕は気に入っているんだ。まだ僕は、この世界の議事録を書いていない」
つまり? 分かりづらいやつだな、ハッキリ言ったらどうなんだ。
「この世界を壊したくない……って言ったら信じるかい?」
いや、まあ……話を書いてないなら、そりゃまあ信じるだろ。お前の役割はただ一つ、記録を残すことだ。それもできてないのに放棄した世界もたくさんあるが、その度にお前は後悔しているだろ。そんなんだから人気が出ないんだよ。
「あ、その話はちょっと待って。泣きそう」
悪い悪い。んでまあ、何が言いたい?
「奇跡も魔法もあるってことを教えてあげなよ」
そのセリフだと救いはなくなるぞ。俺ら救世主を全否定か?
「ただし救いはないけどね、なんてことは言わないよ」
なんだ、言わないのか。まあ、それはいいや。で? 結局何するんだ?
「簡単な話さ。君を外に出す」
へぇ? 白界からは出ないで様子を見とくつもりだったが、世界の危機とあれば黙っちゃいられねぇからなぁ。
ていうか、そんなことできるのか……って話はさっきしたな。
「世界創世剣から漏れ出た抑止力は、必ずしも同じ場所に行くとは限らないからね。抑止力っていうのは、星と人の意思の力だ。それが次の救世主に向くのは、ある意味当然な話じゃないかい? 逆に、白界に向かったのが僕にとっては不思議な話さ」
そりゃ、そうか。なるほど、その理論で言けば納得だ。
「抑止力がまだ全て集まっているわけではないから、君は気づいていないだろうけど、多分君にも欠損はどこかしらあるはずさ」
能力のせいでその欠損がどこなのか分からない、と。なるほどな。
「じゃあ、外に出すよ」
え、ちょ、急じゃね!? ちょ、待て待て待て!
「せーのっ!」
ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
◇◆◇◆◇
「こうなりゃヤケクソだ!」
俺は白界のすぐそばに降り立つと、白界の近くにいた少年を吹き飛ばした。
「白界! 大和! 悪りぃ、俺は行く!」
「霊斗!? なんでお前が!?」
「僕の中身……」
「へぇ……僕を吹き飛ばしといて、君はそんなことを言うんだね」
ションボリとする白界の背後から、吹き飛ばされた霊宇──否、彼女の肉体を乗っ取った唯一神と呼ばれる者が俺に迫る。
唯一神は巨大な蛙や蛇を俺に向けて放つ……が、その程度じゃなぁ。
「往ね」
俺はそう言い、弾幕で迎撃しながら唯一神をさらに遠くへ吹き飛ばし、鎖の封印を施す。
「これでちょっとは持つか……んじゃあ、2人とも。達者でな」
俺はそう言って聖人の叫びが聞こえる家へ、飛び込んでいった。
◇◆◇◆◇
『フフフフ……! 良い嘆きだね』
「ぁぁぁぁぁ!!」
聖人が叫ぶ中で、ソレは屋根を突き破って霊夢の石像の前に降り立った。
「聖人ォ! しっかりしやがれ!」
飛び込んできた霊斗は聖人を一喝して泣き止ませる。
「霊斗……?」
「悪いな。お前らには、よくないものを残しすぎてしまったらしい。だが……安心しろ」
霊斗はそう言うと、霊夢の石像に抱きついた。
霊夢の石化はそれによって浄化され、生身の人間の肉体がそこに現れた。
その代償として、霊斗の肉体は段々と色が薄くなっていく。
「……くそッ、時間切れか」
霊夢の石像が霊夢へ変わると同時に、周囲のディスプレイの少女たちに救いがもたらされた。
「聖人。達者でな」
霊斗はそう言い残し、完全に消滅する。
それは、まぎれもない救いだった。
これが救世主、博麗霊斗の実力か。
不意に、もう1人の霊斗の言った言葉が思い出される。どんな状況でも把握だけは怠らまいと、それぞれがそれぞれの言葉を聞けるようにしたのだ。
英雄じゃない博麗霊斗は博麗霊斗ではない。
俺は何も英雄ってだけじゃないのに。
終作と霊斗の会話だ。あぁ、霊斗、間違っている。今だけは、正しいのは終作だ。だって──
「──霊斗、お前はやっぱり英雄だよ」
前半部分の解説は本編のネタバレが含まれますので、いつか語る、ということで。




