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第30話『ハクレイ』

後半部分はSAN値に注意です

「くそッ! 霊夢、いったいどこにいるんだ……!」


 聖人は嘆きながら、霊夢を探して周囲を見渡す。何もない、白か黒で満ちた空間。それはいつのまにか一変して、爽やかな風の吹き抜ける草原となっていた。


「ここは……? しまった、迷ったな」

「ふぅん……。でも、霊夢の元まではあとちょっとだよ?」

「……言わなくていい」

「お前らは!?」


 そんな草原の中に唯一人、ぽつんと立ち尽くす聖人。それに対して、唐突に出現した2つの人影が語りかけた。

 その2人は、同一人物が2人いると見紛うほどにそっくりだった。双子でももう少し違いはあるだろう。それほどまでに瓜二つな……しかし致命的に違う部分を持った、少年と少女がそこに立っていた。


「……名乗る義理はないし、名乗るほどの者でもない」

「そうだねぇ。こっちは白嶺(しろみね) 霊宇(れいう)。僕も白嶺 霊宇」

「……殺すよ?」

「おっとっと。そんなにピリピリしないでよ」


 隣に立つ少女の殺気に、少年は戯けてみせる。


「……全く同じ、性別だけ違う人間? パラレルワールドの存在か?」

「うーん……惜しいね」

「……まったく惜しくない」


 少女と少年は正反対のことを言う。少女の殺気は相変わらずだ。


「……あの子の元へは行かせない」

「あの子? 夜桜みたいなことを言うんだな」

「……あの人に会って、切り抜けてきたんだ」


 少女は驚いたようにそう言いながら、巫女服の中からお祓い棒を取り出す。さらに、少女の背後には陰陽玉が無数に出現した。

 さらに言うと、少女と少年、2人の纏うコートには博麗の陰陽玉が描かれている。


「お前ら……博麗の縁者か」

「正確には逆だけどねん」

「お前は赤の他人だろうが……」


 少女は疲れたようにそう言いながら、コートを脱ぎ捨てる。少年はそれを面白そうに眺めるだけだ。

 2人の関係も、博麗との繋がりもまったく見えない。だが、聖人にはそんなことに構っている余裕はない。

 主犯格であろう霊斗といい、攫われた霊夢といい、今回の一件にはどうやら博麗の一族が深く関わっているのは分かるが、全体像はどうにも不鮮明だ。


 聖人はとにかくここを切りぬけようと、真楼剣に手をかける。それを抜きかけた次の瞬間、草原に突如としてこの空間に入った時のようなワープホールが現れた。


「ちょっと待った! 聖人、先に行け!」

「お前ら!」


 ワープホールからは、大和と白界の2人が飛び出してきた。

 そのまま、霊宇に向けて刀を振るう。

 霊宇はお祓い棒から光の剣を伸ばし、大和の刀の一撃を受け切った。


 聖人は2人の増援を受けて、とにかく前に出る。聞きたいことは尽きないが、今はそれどころではない。


「おおーっと。行かせないよ」

「そこを通せ」


 立ち塞がる少年を、白界は自らの全力をもってして跳ね除ける。少年はその力に、戯けながらも突き飛ばされた。


「おっと。行かせちゃった」

「どうせあの子には勝てやしない……」


 少女はそうあしらいながら、目の前で拳を振るう、霊衣を纏った完全武装の大和の攻撃を受け止める。

 


「クッ……!」

「認められていない、紛い物の霊衣使い……あなたに私は勝てない」

「あァ!?」

「それが道理。それが真理」

「彼女こそが、ありとあらゆる霊衣の生みの親だからね」

「なんだって!?」


 少年の言葉に、大和は驚愕の表情を浮かべながらもしかしその手を緩めない。


「だからなんだ! 俺は霊衣どころか、本物を使うぜ! 白界、この戦い勝つぞ! ここは(・・・)幻想郷だからな!」


 大和はそう言いながら、燃え盛る一振りの刀──草薙剣を構えた。

 白界もそれにこくりと頷き、拳を構える。

 今、戦いのゴングが鳴る──!!


◇◆◇◆◇


「はぁ、はあ……これは……!」


 聖人はそう言いながら、目の前に聳え立つ木造建築の家を見る。

 山にあるロッジのような建物で、景観は中々悪くないな、と聖人は思いながらもその扉を叩いた。


「だれかいないか!」


 その問いに返事はなく、しかし扉は開く。

 そして、聖人は一瞬の間に扉の中へと吸い込まれた。


「いてて……って、なんじゃこりゃぁぁ!?」


 聖人はそう叫びながら、周りを見る。

 そこにあったのは、家具のない床と壁だけのリビングにある大量のディスプレイ群。そして……その中心には、胸の中心で祈祷するように手を組んでいる、博麗霊夢の石像であった。


「これ……霊夢、だよな?」


 その頭のリボンも、特徴的な西洋かぶれの巫女服も、細かい部分までこと細やかに再現された、見事なまでの博麗霊夢の石像。

 なんていう悪趣味な置物だろうか。リアルすぎて、逆に気持ち悪い。


 霊夢が攫われたことや、この置物から察するに、どうやら真犯人は博麗霊夢のことを酷く愛しているらしい。

 そして──石像の周囲に置かれているディスプレイに映る映像もまた、どうしようもなく悪辣なものであった。


 過去に世界を渡り歩く中で何度か見た、幼い頃の博麗霊歌や博麗霊夢が映っているのもあれば、大人になった霊歌や霊夢が映っているものもある。

 他にも、さっきの少女──白嶺霊宇と名乗った少女の映る映像もある。

 その他に博麗に所縁のある……歴代の博麗の巫女たちの映る映像が多い。以前に磔や桜が会ったことのある霊斗の娘たちもいれぼ、自らの世界の先代博麗の巫女に、博麗霊夢の娘もいる。

 いや、僅かに違うところを見れば、パラレルワールドの少女達だろうか。


 これは一体なんなのか。それは聖人には検討もつかない。

 しかし、この映像が悪辣な理由は存在する。

 吐き気も催しそうだ。今すぐこの場に、胃袋の中身を全部ぶちまけてしまいたい。


 ──それは。

 ──全員、死んでいる、殺されているということ。

 ある少女は、五臓六腑が体の皮膚を突き破っていた。ある少女の頭は、目の前にいる妖怪の鎌によってか、真っ二つに分かれていた。

 手足がないもの、背骨が抜かれているもの、体が真っ二つに折れているもの。

 あるいは、体が石と化したものも多くある。


「う……おぇぇぇぇ」


 堪えきれず、聖人は胃の中身を吐き出す。いくらか人の死を見てきた自分であっても、ここまで畳み掛けるようなものはなかった。


 殺される映像が、延々と垂れ流されている。

 思わず少女達の慟哭を、嘆きを、感情を、想像してしまいそうになる。

 頭の中に流れる悲鳴に、思わず耳を塞ぐ。

 目の前に鮮明に描かれる情景に、目を閉じる。しかし、脳裏に描かれた惨劇は決して消えはしない。


「やめろ……やめろやめろやめろぉ!!!」

『歴代の博麗の巫女の死に様は、自らの死を代償に敵を殺すか、封印するか……そんなものよ。あなた達が戦っていた相手は皆、過去に博麗の巫女に封印された者たちか、博麗の巫女に殺された者たち』

「喋るな……! 聞きたく……ない……!」

『そしてこの少女たちは──私が救えなかった少女たち。見捨てるしかなかった少女たち。だから私はこの封印を解いて──全てを救う救世主を助け出す』

「やめろよ……! やめろって言ってるだろぉぉぉ!!!」


 聖人は神姫を殺された時の磔と同様に、自ら以外の全てを破壊するような衝撃波を、半分意識のない状態で爆発させた。

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