第28話『ゲート内部』
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「ふう……」
「おい、終作。本当に優一を置いてってよかったのか?」
「まあ、優一だしなんとかなるだろ」
幻真の問いに零は割り込んでそう答えると、ズンズンと道を進んでいく。
ゲートの中に終作によって呼ばれた人々──磔、桜に、霊斗が連れてきた零、聖人、吸の計七人は、闇の中に作られた道という、不思議な空間を進んでいた。
ただ景色だけを見るなら、一切の光源のない夜の道というのが近いだろうか。仲間たちの姿だけは決して消えずに見える、というのは印象的だ。
むしろ、仲間たち以外の全てを黒で塗りつぶされたような……そんな、不思議な空間だった。
霊斗の周囲を旋回する人魂によって照らされた道を進んでいくうちに、正面に何かが見えた。
次の瞬間、黒は白に置き換わる。
360度全てを白で埋め尽くされ、仲間たち以外の全てを白く映し出す。
役目を終えたと言わんばかりにウィルオーウィスプは霊斗の開いた空間の中に入っていくと同時に、目の前にいたその少女……比那名居天子は瞑っていたその眼を開き、こちらに向けて大きく宣言する。
「私は比那名居天子! 師匠の企みを成功させるべく、ここであなたたちを足止めするわ! ……あれ、師匠。なんでそっち側にいるの?」
「あのバカ……!」
天子がすっとぼけたようなことを言い、霊斗はそれに頭を抱えながら──磔を背後から貫いた。
「え……?」
みんなが呆気に取られる次の瞬間、霊斗の人差し指から放たれた、質量を持つ魔弾は桜の頭を貫き、その脳漿をぶちまける。
「なっ……!」
「分かったわ! ぶちのめせばいいのね!」
霊斗に呼応するように、天子は自らの剣で幻真と吸、聖人に斬りかかる。
霊斗は海斗の眼前に現れると同時、玉砕鎧拳と呼ばれる技術によって海斗の纏った鎧を破壊し、内部で爆発した波動によって海斗は喀血、その場に倒れる。
「倒れんのがみんな早えよ! ライ○ーキーック!」
終作はそう言いながら、飛び蹴りを霊斗に対して放つ。霊斗はその飛び蹴りを受け止め、そのまま押し返す。
「ぐっ……!」
「博麗闘術秘技『夢想封印』」
霊斗はそう宣言する。次の瞬間、音速を大きく超える速度で加速し、終作に攻撃を与えていく。
「う、っぐ……!」
最後の一撃。これを与えればこの化身は殺せる、というところでその攻撃は零によって受け止められた。
「チッ……!」
「はぁ……くそっ」
零はその状態のまま霊斗に追撃しようとするが、霊斗は零の腕に対して大量の剣を創造、射出することで回避をした零の腕から逃れる。
「……霊斗さんよぉ。英雄をやめた博麗霊斗は、あいつらにゃあ博麗霊斗じゃねーんじゃねぇの? 裏切りなんてらしくないことしてんじゃねーよ」
「迷惑な話だ。俺は何も英雄ってだけじゃねぇのに」
霊斗は終作と対話しながら双剣を構える。
次の瞬間、霊斗の背後からは2面4手の肉体が新たに浮かび上がった。
自らの纏う上半身の衣を脱ぎ捨てたその男は、計6本の刀を持って零と終作と対峙していた。
「なんだそりゃ」
「俺の"絶望"だよ」
霊斗はそう言うと、零へ真っ直ぐに突撃していく。
「紅夜」
零はそれに対して、たった一本の刀を呼び寄せた。一本の刀と六本の刀がぶつかり合う。そして当然のように、霊斗の刀は砕け散った。
「なんだその力はァ! 少年! 前よりずっと弱くなってんじゃねェかよ!!」
「るっせぇ!」
霊斗は零の激昂に反抗しながら全身を超技術によって武装し、構える。
「うぉぉぉぉぉぉ!!!」
雄叫びをあげながら突撃する霊斗に対して、零は冷静さを失わずに紅夜を構える。
次の瞬間。
ブゥン、と刀が空間を斬る音が鳴り響くと同時に、霊斗の肉体は腰の部分で真っ二つに分かたれた。
「そんなんじゃ……小細工すらも必要ねェよ」
「ヒュウ……かーっこいぃーい。今回は大活躍じゃねぇの? ていうか、らしくないねェ? それにしても……どうして霊斗は、天子を弟子にしたんだろうね」
「簡単だ」
霊斗に勝利した零を、終作が茶化しながら疑問を浮かべる。その質問に答えるのは……上半身だけとなった霊斗だ。
「あいつは暇を持て余していたが……なにより真っ直ぐなんだよ。真っ直ぐに強さを求めて、真っ直ぐに俺に弟子にしてくれって懇願しやがった」
「なーぁるほどねぇ。とはいえ、君ももう活動限界だろう?」
「あぁ……体を真っ二つに斬られたんだ。長くは持たねぇ。そうだ、最後に零。もうすぐ、お前の元に最強の俺が向かう。あいつはマジで強いぞ。楽しみにしとけ」
霊斗はそれだけ伝えると、義理は果たしたとばかりに光の粒子となって消えていった。
◇◆◇◆◇
「そんなもの!? 弱いわ!」
「チッ……! 聖人、吸、先に行け! ここは俺が食い止める!」
「分かった! 幻真……死ぬなよ!」
天子に投げ飛ばされた幻真は着地しながらそう言って、心配する聖人と吸を送り出す。
「あら、逃しちゃった。まあ、いいわ。幻真とか言ったかしら」
「おう」
「「覚悟ッ!!」」
2人はそれぞれ霊衣を纏うと、お互いの刀をぶつけ合った。天子の振り下ろした剣を幻真は雷刀ゼニシアと真神剣で防ぐ。
幻真は一歩引いて天子の剣を回避すると、そのまま天子に向けて居合斬りを行わんとする。
天子はそれに対して自らの肉体を鋼が如き硬度へと変える超技術──肉鎧を使用し、その攻撃を受け切った。
「なっ!?」
「その程度? 師匠にはまったく及ばないわね」
「当然だあんなバケモノと一緒にすんな! 感情爆発『殺意』」
幻真は感情を爆発させ、その龍を呼び出す。
それはありとあらゆる感情をねじ伏せ、時に意識すらも支配する極めて強い感情──殺意。
幻真がそれを爆発させると同時に、閃光が天子へと迫る。
「くっ……!」
天子は両腕を十字に組んで防御の姿勢をとるが、あまりにも呆気なくその肉体は閃光の一撃に吹き飛ばされた。
「カハッ……!」
「おらァッ!」
幻真はその隙を突き、全力の篭ったかかと落としを放つ。それによって、天子は地面へと打ち落とされる。
「クゥッ……!」
「なかなかの練度の超技術だった」
幻真がそう言う。天子はそれを聞き、ただ笑って──光の粒子となって消えていった。
天子の消滅に関してですが、この世界では敗者は消滅します。まあ、普通に復活させられますが。