第26話『さぁさぁ皆さま、お手を拝借。大団円といきましょか』
皆さま、お久しぶりでございまし。
更新です
「なんであなたが! 神姫さん!」
「ちょっと、静かにしてくださいよ。ここまでお膳立てして潜入したのが全部パーになっちゃうじゃないですか」
「あーっ……と、ごめんなさい。……んで、どういことですか?」
「予想はつくでしょう?」
「まあ、予想はつきますけど」
「なら、その予想通りですよ」
そう言って神姫はニコリと微笑むと、指をパッチンと鳴らす。次の瞬間、神姫の周囲に瞬間的に黒いベールが現れ、消失した。その途端、磔の手足は自由になる。
「今のは……? 零や神姫さんの力は、封じ込められているはずじゃあ?」
「上位次元者も外なる神も、ましてや抑止力も関与してないなら、ちょっと本気を出せば普段の能力が制限される程度の干渉力じゃあ私たちは抑えきれません。私たちの独壇場ですよ。本当なら霊衣で本気を出すまでもないんですが……まあ、色々仕掛けておきたいことがあったので」
神姫はそう言うと、自由になった磔の手を掴んでズカズカと留置所の外へ歩いて行った。
「……大丈夫なんですか? その、監視にバレたら」
「ええ。さっきの一瞬で認識改変もしましたし、アルマさんとパルスィさんに紙飛行機が当たるように機械も設置しましたし」
「すげぇ……」
留置所にいる間、ずっと計画を立てていたのだとしたら賞賛に値する。しかも、おそらく留置所に入ったのだっておそらくはわざとなんだろう。
普通なら自分から「自分は魔女だ」なんて説得力が失われるようなこと言わないし。
……でも。
「あの。霊衣が使えるなら、なんでこんなに回りくどいやり方を?」
「あー……それはですね。まあ、簡単に言えばこの世界に与える影響力が強すぎるからですよ。この世界を作ったのは、どこにでもいる普通の妖怪……まあ、妖怪と言うには優れた部類ですが。そいつが作ったせいで、上位次元者もこの世界を扱うのは慎重なんです。ちょっと乱暴に扱えばすぐにでも消滅してしまいますし」
そう言って、神姫さんは心底面倒臭そうにため息をついた。
「私たちの本来の力は上位次元者に匹敵する。だから、私たちもなるべく本気は出さないべきなんですよね。この世界を破壊しないためにも」
「だから……こんな方法をとったんですね」
「ええ。皆さんには色々とご迷惑をおかけしましたが……それもこれで最後ですよ」
神姫はそう言うと、留置所の外に降りていたグリフォンに跨った。
「さあ、行きましょう!」
グリフォンは嗎をあげると、天を駆けて今回の協力者の元へ向かっていった。
◇◆◇◆◇
「おいおい。何が起こるってんだあ? 奴らは余所者なんだ、行く価値はあるだろうなぁ?」
「分からないけど……行ってみたいわ、私」
「お、奇遇だね。じゃあ僕と行くかい?」
「おい! 俺の女に手を出すんじゃねぇ!」
三人組がそんな言い争いをしながら、教会へと入った。これでメンバーは最後のはずだ。
俺はパルスィと確認しあって、教会の扉を閉めた。
「さて。全員お集まりいただけましたね? こらより……誰が本当の魔女なのかを探りたいと思います」
神姫さんがそう言うと、部屋は一度暗転して神姫さんにスポットライトが当てられた。
「私共は行商人ですのでこんな商品も取り扱っております。この光は魔女に当てると、魔女の肉体はキラキラと輝きます。……ほら、分かるでしょうか? 私の体を光る粒子が取り巻いているのが」
もちろん、半分はデマだ。
光っているのは、神姫さん自身ではなく……神姫さんの衣服だ。
スポットライトは普通のスポットライトだ。
「なんだあ? あの魔女、俺らに呪いの道具を売りつけようとでも言う気か?」
「いえいえ。この道具で、実証してみせようというのです……誰が魔女なのかを」
神姫さんがそう言うと同時に、一斉に観客はざわめき始めていた。
「おいおい……マジかよ」
「わ、私は魔女じゃないわよ!」
「んなこと聞いてねぇ」
「本当に魔女を見つけられるのか? でも、あの嬢ちゃんは光ったしなぁ」
「静粛に!!」
うるさくなった観客を神姫さんは一喝して静めると口を開く。
「では……スポットライトを、この場の全ての人に順番に当ててください」
神姫さんが言った言葉に従って、俺とパルスィは順番に光を当てていく。そして──最後に当たった1人のみが光輝く。
「まさか……!?」
「そんな、嘘だ! 私は信じないぞ!」
「そうだ、まさか……四ノ宮様が魔女だなんて!」
数人の人々はそうやってこの結果に対して文句を言うが……大半の人は、どこか俯いている。
彼らもおそらく、この魔女裁判を止めたいと思っていたのだろう。誰が魔女なのかなんて、どうでもいい。もう数百〜数千は死んだのだ、これ以上自分や、自分の家族が死の恐怖に晒されることなど耐えられない。
「さすがぁ、神姫さんだな。人々の心理を的確に突いてる」
悪魔の王はそう言って、ケケケと嗤う。パルスィもそれに同意しながら、人の身であっても全てを支配する神谷神姫という女に羨望の眼差しを向けた。
「さあ……魔女、四ノ宮麗子。何か申しびらきはありますか?」
"神などいない"。そう宣う邪教の頂点に君臨する聖女、四ノ宮麗子──彼女に神より与えられた力は未来を見通すが如き直感力。
冴えすぎて第六感が、警告を鳴らす。そして彼女は残酷にも第六感で理解してしまった。どうあがいても、この場を切り抜けることはできない、と。
「……ええ、そうですね。私こそが魔女なのでしょう」
「あなたは何人をその手にかけたのかしら」
「さあ……ゼロかもしれないし、数千かもしれないわ」
「そうね、あなたはここにいるべきではないわ。封印に還りなさい」
神姫はそう言うと同時に、その右手を四ノ宮麗子へと向けた。その手から放たれるのは、博麗の力にも似た全てをかき消す霊力。
あくまで優しく、全てを溶かすように右手から放たれた霊力は……神姫たちと1人を除いてこの村にいた全ての人間を消滅させた。
「え……?」
「どういうことだ……?」
「お見事、と素直に賞賛させてもらうよ。神谷神姫」
戸惑うアルマやパルスィ、磔を他所に、壮年の男性は拍手喝采を神谷神姫へと贈った。
「全てはまやかし。ここに封印されたあなた1人が、異変とも呼べない、今回の騒動の根源にして正体……違いますか?」
「違わないさ。そう、私が今回の真犯人と言うべき人物さ」
「真犯人にして同時にこの事件の全て、ですね?」
「ああ、そうだとも。……よく分かったね」
「私は何よりも優れたる姫──この程度のことは。些細な異変、些細な違い、些細な違和感は全てこの結末への鍵でしたよ」
そう言って、神姫は不敵に笑った。
「ヒルコとアハシマ……彼らは、封印の中でこの世界の全てを見ていました。私はそれを受け取っただけ」
「そうか。あの幼子に全てをひっくり返されたか……。では、私も負けられないな。この最期の一幕で、全てをひっくり返そう」
そう言った、裁判長であり同時にこの村の村長であった男は、右手を掲げた。
次の瞬間、男の首は一刀のもとに斬り伏せられる。
「これで終わりか?」
「ええ。では、帰りましょう」
首を切り落とした男……白谷磔の言葉に頷いて、神姫はそう提案した。




