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第25話『留置所にて』

──それから時は経ち、翌日午前1時。


「は? どういうことだよ!?」

「魔女との面会は許されない、と言っているのだ」

「ふざけんな、通せ!」

「磔、落ち着け」

「アルマ! けど……!」


 茶屋にて互いに情報交換を終えた3人は、約束通りに留置所へ来ていた。

 だが、中へ入ろうとしたその瞬間、それは門番に阻まれた。


「一旦引くぞ。面会できないならしょうがねェ、作戦を考え直すだけだ」


 アルマはそう言って、悔しさに唇を噛む磔の手を引いて元々予約を取っていた旅館へと向かっていく。


「いてっ」


 旅館に入る直前、何かが磔の頭にぶつかった。


「なんだこれ……紙飛行機?」


 磔は落ちた紙飛行機を拾い、その折り目を広げる。そこには極めて簡潔ながら、神姫からの手紙が書かれていた。


「これは……!」

「神姫さんからの手紙か、ギヒッ。あの人……どこまでお見通しなんだかなァ」


 アルマがそう言って見た、紙飛行機が飛んで来た方向には、高く聳え立つ時計塔があった。


「気流計算、時刻予想、仕組みの設置……恐るべし、神谷神姫ね」

「全くだな。そんで磔、中はなんて?」

「あぁ……これは凄え。これさえあれば、なにもかも解決できる!」


 磔がそう言って息巻いた内容は──留置所の中で聞いたであろう四ノ宮麗子という人物と、今回の魔女裁判の全ての概要だった。


◇◆◇◆◇


「……んで、裁判を起こしたのはここの人なんだな?」


 そう言いながら、アルマは目の前にある住居の呼び鈴を鳴らす。すると、家の奥からドタドタとすごい足音と共に大柄の男が現れた。


「お前か」


 その一言と共に磔が振り抜こうとした拳をアルマは受け止めながら、男の方を向いていった。


「こりゃ、すいませんねぇ。こいつぁちょっと気が立ってるみてぇで。パルスィ、ちょっと頼む。さて……俺は桐月アルマ。あんたに話を聞きたい」

「さては……例の行商人だな。悪いが、ウチの娘はもう別の村に移っちまったよ」


 無愛想に答える男の言葉を無視しながら、アルマは家の中を覗き込む。


「ふむふむ……劣悪な状況の家だ」

「何か文句でも?」

「いえいえ、とんでもない」


 ムッとした表情の男の問いに、アルマは人の良さそうながらもどこか影のある笑みを浮かべて否定する。


「ちょいと商談がしたくてなぁ……ウチのあの人は、俺らの中でも特別優秀な商人でね。失うわけにゃあいかんのよ。お前さん、金ならいくらでもだすから、ちょいと手を引いてくれんか」


 アルマがそう言った途端、アルマの背後に神々しい気配を纏う少女──四ノ宮麗子が現れた。


「なりません!」

「んん……聖女サマが、こんなところにどんな御用で?」

「私は裁定者として、人々を守る義務がある。アナタのような毒から」

「へぇ……そいつぁ良いや。んじゃぁ、俺なんか簡単に倒せるんだろうなぁ?」

「いいえ。倒すのではありません……まあ、この後に再び会いましょう」


 そう言い残して、四ノ宮麗子は消えていく。その様子にアルマ達は顔をひねりながらも、男の方を向いた。


「悪いが、俺ぁ麗子様の信徒だ。残念だったな、さっさと去れ」


 男はそう言うと、扉をバタンと閉じた。


「なぁ……あの男を殺して事件解決ってことは……」

「ないだろうなぁ。もし本当に魔女がいるのだとしたら、という恐怖に駆られた村民は否が応でも魔女裁判を続けるだろう。だから神姫は『村民全員を殺さなきゃいけねぇ』っつってたんだ。俺はそれでも構わんが……」

「いや、そんなことすれば幻想郷全体が乱れる。今度は幻想郷の上層部……紫や博麗一族が黙ってないだろう」

「だよなぁ」


 そう言って、磔とアルマは面倒臭そうにため息をついた。


「ていうかこの後って、何があるんだよ?」

「おや、あんたら……広場に行かなくていいのかい?」

「広場?」

「おう。あんたらのお仲間含め、数人が『浄化』されるって話だ」

「『浄化』? ……処刑のことか!?」


 磔達が村民に案内されて広場へと行くと、そこには火炙りのように磔にされて轟々と燃える幾人かの少女達と、ギロチンに括り付けられた1人の少女……神姫がいた。


「なっ!? 神姫さん!」

「なるほど……俺たちが行った時には、既に準備も終わってたわけだ」

「くそッ、冷静に分析してる場合か! 神姫さんを解放しろ!」

「止まりなさい!」


 磔が乗り込もうとした次の瞬間、それはまたもや突然現れた四ノ宮麗子に止められた。


「……くそッ! てメェ、さっきからなんなんだ!」

「私は私の為すべきことを為すのみ。アナタ達を通すわけにはいかないわ」

「くそっ! やめろ──!!」

「あ、ちょっと!」


 磔は無理やり麗子を越えて、磔は緊張のあまり動かない体を無理やり動かして処刑台へと駆ける。だが、磔が神姫を助け出す直前に、目の前で、その首を刎ねられた。


 ボトリ、とやけに生々しい音を立てながら、その首はギロチンの勢いによって磔の方へと転がっていく。

 そして、膝から崩れ落ちた磔の手の中に行き着くと、磔の方へ向けてニコリ、と微笑む。


「えっ、ちょっ、え……ええ!? ちょ、神姫さん! 神姫さん!!? 嘘だろ!? 嘘だって言ってくれよ!! おいっ、おいっ!! なんで再生しない!?」


 磔はわめきながら、必死に再生しようと何度も挑戦するが──それは叶わない。


「……ア、アァ……アアアアアア!!!」


 磔は絶叫する。その音は、空気の振動は、人を薪にして燃え盛る炎を、可憐な少女の血に濡れた処刑台を、磔を拘束しようとする鎧の騎士たちを吹き飛ばす。


 ──ただ、泣き叫んだ。

 ──何も、見えなくなった。

 ──その咆哮は、ほとんどのものを弾き飛ばした。


 その怒りは最後に処刑されるはずだった少女を助け出す以外には、何も残さなかった。


◇◆◇◆◇


 気づけば──磔は、暗闇の中に居た。

 動こうとして、ガチャリと手錠が鳴る。


「チッ……またお前か」


 目の前に現れた人の気配に、磔は舌打ちをしながら紅く染まった瞳で睨みつける。

 次の瞬間、その気配は急激に変化した。


「酷いなぁ、磔さん」

「な……何であなたが!?」


 磔の目が、驚愕に見開かれる。なぜ、だって──彼女は、彼女は。

 ──あの瞬間、死んだはず。


「あなたが、なぜここに、その格好でいるんですか! 神姫さん(・・・・)!」

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