第23話『魔王VS武製』
魔王と名乗る、桜を気絶させた男の拳と武製の剣が何度目か分からない邂逅を果たす。
それは世界に衝撃波を生み出し、空間に亀裂を入れる。
「ふっ!」
「ふんっ!」
その衝撃に耐えられずに大地はへこみ、桜が破壊しきれなかった建物のことごとくを塵芥へ還す。
「ハハッ! これだ! あんな稚拙な戦ではもの足りぬ、この強者と戦う圧倒的な高揚感こそ、我が──この魔王、苑凱 岐南絡老が求めたもの!」
魔王という自称こそ嘘か真は判別はつかないが、しかし分かること……それは苑凱が圧倒的な強者である、ということ。そして、自らの求めるものを満たすものである、ということ。
自らの肉体は崩壊するし、筋繊維がほつれたりもする。だが、これをこそ望んで自分は今回、この場所に……どことも知らぬ世界に来たのだ。
「滾るなァ、同士よ!」
「ああ! もっともっと欲しい!」
苑凱と武製は、地をかける。武製の一撃は空を切り、苑凱の研ぎ澄まされた一撃は武製を穿とうとする……が、次の瞬間、苑凱の攻撃は苑凱自身によって捻じ曲げられる。
武製にもぶつからず、苑凱は即座にその場を離れた。先ほど苑凱が狙いを変えずにいれば、腕を貫かれていたであろう場所に紅き槍が生えていた。
「流石だ! それでこそ、俺の求めた勇士!」
「ワザと隙を作ったか! だが良いぞ! 貴様の行動はただ愚直に勝利と強さを求めんとするそれだ!」
互いに賞賛しあいながら、尚のこと2人はその両腕をそれぞれの武器に合わせて構える。
「──!」
次の瞬間、苑凱の周囲を無数の刀剣斧槍が取り囲む。が、次の瞬間、それらは一斉に砕け散った。
「へぇ……! それがお前の真の武器か!」
「左様」
手元に現れた剣を持って苑凱は肯定すると、その剣をすでにボロボロの大地へと突き刺す。
次の瞬間、苑凱の周囲一帯を斬撃を纏う風が取り囲んだ。
そして、その風は武製に向けて発射された。
「ぐぅぅぅぅ!!」
「フハハハ! こんなものではなかろう!」
「当然」
武製はその風に対して、手を横に振るうことでその全てをかき消す。
苑凱はそれを予知していたかのように距離を詰め、剣を振るう。
武製はそれを双剣──干将・莫耶を呼び出し装備して防ぐと、追撃とばかりに苑凱の腹を一閃する。
苑凱はそれに対して手首を無理矢理に翻し、剣によって双剣から身を守る。
苑凱はさらに剣に霊力を込める。次の瞬間、武製の腹は見えぬ斬撃によって一閃される。
「……ッ!」
「どうだい。自分の刃の威力はよ」
「……これは中々、効くな」
「そりゃあ良かった」
苑凱はそう言うと自らに向かって双剣を構える武製に対して、大上段から力強く刀を振り下ろす。
武製はそれをバックステップで回避すると、その状態のまま自らの手元に朱く巨大な魔槍を出現させ、苑凱に打ち込む。
苑凱はそれを自らの肉体で受け止め、全く同質のものを生成、射出した。
武製もそれを鏡写しに行って打ち消しあう。
次の瞬間、苑凱の剣はどこまでも長く伸びる如意棒へと変化して武製に打ち込んだ。
武製は数多もの盾を出現させ如意棒の攻撃を防ぐ……が、しかし。盾には魔力を吸収して規模を増す爆弾を設置され、それは連鎖的に大爆発を起こす。
「おいおい……バケモンだな」
「お互いにだろう?」
武製と苑凱は軽口を叩きあいながら、お互いに再び武器を構えた。
「……そろそろ、本気出そうかな」
武製はそう言うと武器を捨て、素手で構えた。
苑凱は如意棒を先ほどの武製の持っていた武器へ変化させ、迎え討つ構えをとった。
「フッ!」
「ハッ!」
2人は同時に走り出し、それと同時に武器を交えた。
武製は苑凱の双剣を超技術"肉鎧"のかけられた素手の皮膚で受け止めると、その状態のまま一瞬のうちに苑凱の顎を蹴り上げる。
さらに、武製は跳躍して空中に浮かぶ苑凱に追いつくと、苑凱をさらに高くへ蹴り上げる。
「ヌウッ……!」
直後、武製は苑凱から立ち去る。次の瞬間、苑凱に対してこれでもかというほどに大量の鎧武者が苑凱へと迫った。
苑凱は双剣でそれを捌き切ろうとするが、不意に苑凱を背後から剣を持つ鎧武者が貫いた。
「これも貴様か……!」
「いんや、こいつぁ俺じゃねぇ」
「何……?」
苑凱は剣を出現させる力の出所を探る。その直後、"ソレ"は不意に自らの前に現れた。
白い甲冑に身を包む少女は、自らの小太刀を振るって苑凱の腹を一刀両断する。
「小太刀で腹を斬り落とすか……!」
「お主も中々の実力。殿の家来には申し分ないが……」
そこまで言って、少女は苑凱を足場に大地へと戻った。
「裏切りはもう間に合っておる。これ以上は拙者も殿も御免被るのでな」
そう言って、少女──姫鶴白刃は刀を自らの腰にある鞘に納めた。次の瞬間、事切れた苑凱の肉体は大地へ落ちた。
「ヒュゥ……生きてたんだ」
「拙者が貫かれた程度で死ぬわけがなかろう。にしても、これにて辻斬り異変は終わりだろうか。全く、酷い目にあった……ゴフッ」
白刃は喀血しながらもそう言うと、近くに倒れていた桜へと歩み寄り、その状態を計る。
「……顔以外の損傷は少ないが、精神は分からん。……桜殿。私のために、あんな姿になってまで戦って……」
「"戦う"というよりは、"暴れる"が近かったけどね。さ、戻ろう。霊斗達が待ってる」
「そうだな。行くとしよう」
白刃はそう言うと、桜を担いだまま博麗神社へと歩を進めた。
◇◆◇◆◇
「──では、判決を言い渡す。被告人、お春、お妙、お市、お秋、お梅、お楼。以上の6人は、魔女のおそれがあるとして、火炙りに処す」
「そんなっ! 私は彼女たちに誘われて一緒にお遊戯をしていただけですわ!」
「ほう……聞いたか、皆の者。この醜女はこともあろうか、周囲を犠牲にして自らだけが生き残ろうとした! これを魔性と呼ばずしてなんというか! この女、お梅は火炙り前に刑罰を受けねばならない。この女には火炙りの他に特別重い罰を用意しよう!」
傍聴席のほとんどが恐怖に打ち震え言葉を発せずにいるなか、1人しか座らない裁判官席より判決が言い渡された。
傍聴席の人々は大いに悲しみに打ち震え、特に6人の親であろう人々は何かに縋るようにしていた。
その次の瞬間、傍聴席へと伝わる扉は大きな音を立てて押し開かれる。
「その判決、待ちなさい! その子たちは無実の民、死刑に処される謂れはありません!」
「ほう……貴様。名をなんと申す」
「私は神谷神姫。一介の行商人ですわ」