第22話『桜の暴走』
閲覧注意です。
グロテスクな描写が苦手な方はご注意ください。
どうしてこうなった……。
「やめろ桜! 落ち着くんだ!」
「あら。アンタ、喋れたのね。奴が何者なのか、大凡の予測はついたわ。大丈夫、私、負けないわ」
「そうじゃない! 君が今からしようとしているのは──!」
「そうね。私の魂に傷の一つや二つ、ついてもおかしくないわね。でも、私は癒すのに何万年何億年かかる傷を抱いても……奴を、許さない!」
そう言い放った途端、桜の肉体からオーラが放たれる。
桜はその状態のまま右手を高く掲げ、さらに宣言する。
「我こそは安倍桜が四つの欠片の一つ、アラミタマなり。これより、汝が罪を断罪す」
次の瞬間、桜の全身を光が覆った。
それは桜の肉体を補い、また衣として桜の身に纏われる。
「我が肉体、全力稼働。安倍桜4柱に承認要求──承認されました」
桜がそう言った瞬間、桜の持つソードブレイカーは桜同様に光をまとった。
次の瞬間、そのソードブレイカーは大剣へ変貌する。
「ハアッ!」
その声と共に剣を振るうとその剣先からおよそ200メートル先までが、一本の線によって分解された。
「当然、常に移動することでその肉体の姿を隠しているアナタは見つけられるわ」
「ぐっ……! なるほど、流石の実力か」
いつのまにか地面に散らばった肉塊は、やがて纏まって一つの形に戻る。
「再生能力まで完備とは、厄介ね。この幻想郷最初の人妖──屍殺 風香」
「褒めてもなんもでねぇぜ、嬢ちゃん。アンタ、俺を知ってるんだな」
「人妖……人から妖怪に成り果てたんだね」
「それくらいの知識はあったかい、おにーさん」
そう言って、男……屍殺 風香は茶化すように嗤う。
「アンタ。本気だしゃあ俺なんて一瞬で殺せるだろう? 本気を出さないのかい?」
「……そこの桜ちゃんが殺るって言ってたからね〜。任せたんだよ」
「そうかい。んじゃ、嬢ちゃん。最高の殺し合いを、再開しようじゃないか」
「アンタは絶対に──許さない!」
桜がそう宣言した途端、空間は停止する。
時が動き出すその瞬間、再び風香の肉体はバラバラと崩れ落ちた。それは先ほどと同様に積み木のように積み重なり、人の形をとる。
「おやおや、これは手厳しいな。んじゃ、そろそろ本気を出すとするか」
風香はそう言うと、再び動き始めた。
次の瞬間、桜は真正面を殴りつけた。
それは的確に風香を捉え、そしてその肉体を打ち砕いた。
「うぐっ……! なるほど、ただじゃいかないようだ」
風香はそう言いながらも、加速を開始する。
「……桜ちゃ〜ん。今のはどうやったんだい?」
「ま、色々とね。呪術の真髄、見せてあげるわ」
そう言った次の瞬間、桜は指を大地につける。次の瞬間、数多もの大地の剣が地面から迫り上がる。その内部には、風香が捕らえられていた。
「くそっ! 厄介な!」
風香はそうは言いながらも岩でできた剣を足場に上へと飛び上がることで脱出する。次の瞬間、風香の肩は魔力弾によって撃ち抜かれた。
「チイッ!」
風香はそれを受けながらも岩の剣という足場へと足を着けると、また圧倒的速度で桜へ迫る。が、桜は上段の回し蹴りによって風香の肉体を弾き飛ばした。
「くっそ……! なんてやつだ……!」
風香はムクリと起き上がり、もう一度桜へと迫る。が、今度は桜に顎を蹴り上げられ、その腹部に掌底を打ち付けられた。
次の瞬間、風香の全身に魔法陣が刻みこまれ、それと共に風香は掌底の一撃によって近くに残っていた民家へとぶつけられた。
「ガハッ……」
壁にもたれかかる風香は意識も絶え絶えな中、自らの首を獲らんと迫る桜の光る大剣の一撃を、重力に身をまかせることによって回避する。
その直後、風香は妖刀を振るって大剣を握る桜の右腕を断ち切らんとする。
桜は右腕を斬り落とされながらも、その膝蹴りは風香の顔面を打ち抜いた。
「グオォ……!」
桜はさらに、もう片方の手の二本指によって風香の眼球を貫いた。
「────!!」
悶える風香の首を掴み、自らよりも高い位置に投げる。
空中に放り出された風香を、超技術"指鎧"に、加速した状態での突き技である"楼花"によって蜂の巣にする。
「アハッ! アハハハハハハハハ!!」
最早、意識すらも手放した風香に対して桜は下顎を掴み、それを顔から強引に引きちぎった。
「ギャアッ────!!」
「まだまだまだまだまだまだァ! あの子の痛みは、あの人たちの受けたありとあらゆる痛みは、こんなんじゃないわ!」
桜はそういうと剥き出しの風香の上顎に対して、風香の犬歯によって自らの脚が怪我するのも気にせず、膝蹴りをする。
さらに、意識を失った風香のヒビの入った頭蓋を掴むと、自らの目の高さまで持ち上げ、その頭蓋を握り潰した。
脳漿がぶちまけられ、地面と桜の体は汚れる。桜が風香を手放した直後、風香の残骸は収縮をはじめ、やがて一つの個体に纏まり、目を覚ます。
「いや、いやだ、やめてくれ、悪かった、悪かったよぉ…!」
「遅い」
「ヒッ!」
次の瞬間、桜から逃れようとした風香は逃れる前にその腕を桜によって引きちぎられた。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」
すでにその先のない右肩を掴み、風香は大地にうずくまる。
「軟い」
そんな風香に対して、桜は後ろ髪を掴んで顔をぐいと起き上がらせると、その状態のまま首を引きちぎった。
「アガッ……!」
桜が風香の首を捨てると同時に、風香の肉体は集まり、統合を始める。
「いやだ……いやだいやだいやだぁ……!!」
風香は復元するや否やその場から離れようとするが、桜はそれを許さない。
風香の脚を踏みつけて動きを制限すると、そのまま風香の尻を蹴る。
「痛っ……!」
尾骶骨や骨髄がイッたのか、その場で這いずりながら逃げようとする風香の背に座ると、前方にある風香の頭部を無造作に殴りつける。
「アハッ! アハハハハハハハハ!!」
「ヒイッ! やめ─────!!」
桜は自らの拳が痛むのも、血に塗れるのも気にせず、ただただ怒りのままに目の前にあるモノを殴り続ける。
やがて頭蓋が砕け、桜の手は目の前にあるグチュグチュとした"何か"をかき混ぜ、その際奥に"何か"を押し込んだ。
最早声を上げる力すらも失った風香の"何か"を地面に撒き散らすと、飽きたのか風香の肉体を放り投げた。
宙空で爆散したそれは、やはり一つの形に戻る。
桜はそれをまたも殴ろうとするが、その拳は武製によって抑え込まれた。
「やめた方がいいよぉ。もう、死んでるから」
その死体はもう動かない。いくら肉体が元の姿を取り戻そうとも、その魂は、意識は、心は、圧倒的な暴力の前に無力に砕け散った。
「死んでるからなに? どうして"罪を償わせない"理由になるの?」
「─────」
武製は呆気にとられ、絶句した。
醜い笑顔を浮かべながらそんなことを言う、この少女を抑えるのは無理だ、と気付いてしまった。
……だが。武製の緩んだ拘束から逃れた桜は、次の瞬間にはその端正な顔立ちは醜く変えられた。
その意識は失われ、顔面は赤く膨れ上がっている。
「……ふむ。この少女は死んではいまいよ、気を失っただけだ。望めるなら、意識がはっきりしている間に拳を交えたかったものだ。……折角ここまで来たのだ、相手をしてくれるか、そこの」
「……桜ちゃんを止めたこと、感謝するよ〜。とはいえ……俺は強いよ?」
「お互いにそれはわかろう」
「君には……全力を出せそうだ」
次の瞬間、武製の口角は吊り上がった。




