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第21話『封印と辻斬りと』

「……あれ? 幻真、どこ行った?」

「うわ……本当に消えちゃったな。ま、しゃーないか」

「それでいいのか……」


 塔の最上階に降り立った終作は幻真が居なくなったことを適当に流す。

 その様子にため息をつきながら、優一はその後を追いかけていった。


「行ったか」

「んー! んー! んー!」

「静かにしてろ」


 その男はその姿を見届けると幻真の口を押さえたまま次元の穴を開け、別次元──何もいない星へと移動した。


「ん……ぷはっ。なんなんだよ、霊斗」

「なに、お前の想いに応えてやろうと思っただけさ。だからお前をこのチームに組み込んで、ここへ呼んだ。さ、構えろ」

「へ?」


 戸惑う幻真に対して、霊斗は若干呆れながらも声を発する。


「いいから」

「お、おう」

「とりあえずかかって来い」

「わかった。お前は強いからな。最初から……全力だッ! 終域『ソウルドライブモード3』」


 幻真がそう唱えた瞬間、その全身は赤と金のオーラに包まれ、額には赤と金の炎が浮かび上がる。


「さらにっ! 望龍『望みの双龍(ドゥ・スウェ)


 幻真は霊衣の名を唱え、白と紫の混じった禍々しい姿となる。


「──お前のくれた力だ、霊斗。この力で……お前を、倒す!!」

「やってみろ」


 幻真は宣言するや否や、縮地を併用しながら霊斗へ迫る。その速度と硬さののった一撃は、まさに砲撃のごとき威力を得る。


「……甘いッ!」


 だが。霊斗はそれを右手で受け止め、自らの斜め前方方向にその力を流すと共にその幻真の脇腹に対し、左手で一撃を打ち込む。


「なっ……! がふっ!」

「超技術とは本来、仙者や修業者が妖魔に対抗するために得る力のこと。当然、あくまで人の身で妖魔を退治するならその体力の消費はバカにならない。自らを削って利用するものだからだ」


 地に伏しながらも霊斗を忌々しげに見つめる幻真に対して、真摯に向き合いながらも霊斗はその嘲りの顔を隠そうとはしない。


「故に……お前のその使い方は、あまりオススメはできないな。もちろん、磔や他の奴らのようにその体力が無尽蔵ならば別だがなぁ」

「くそ!」

「おいおい。無闇矢鱈にやって上手くいくかよ」

「グアッ!」


 霊斗はそう言いながら、四つん這いのまま飛びかかってくる幻真をその脚力で蹴り飛ばした。


「はぁ、はぁ……やっぱ強えな、あんたは」

「それを望んだのだろう?」

「だが……俺は、お前をいつか超える! その為に、ここで停滞しているわけにはいかないんだ!」

「……お前も"あいつ"と同じ、守るものがあるのか」


 霊斗はそう言うと、敢えて幻真を殺さないよう手加減しながらも立ち上がった幻真の目の前に出現し、その頬を殴る。


「俺がどうやって強くなったか、それを教えてやる。俺には勝てないやつがいた。超えたい壁があった! 強くなる為に必要なのは守りたいものともう一つ……挫折だ! 磔を見ろ。あいつは日々挫折してるからな、メキメキ強くなっていきやがる。今も悪辣に耐え忍ぶ心は成長だろうよ」


 霊斗はこの場にいない宿敵を思い浮かべながら、この場にいない弟子を思い浮かべながら、幻真に語りかける。


「強くなれ、幻真! お前が真に彼女を守りたいと言うのなら、お前の手で守りたいと言うのなら! お前には超えられない壁(環境)がある、切磋琢磨する友(仲間)が居る、未来(時間)がある! なら精々、強くなってみせろ!」


 霊斗の、"今の"彼には失われたはずの情熱に、幻真は少し感動したように目を潤ませる。


「霊斗……! ああ! 俺はいつか、お前も超えるほどに強くなってやる!」

「その意気や()し!」


 霊斗がそう叫ぶと、幻真は起き上がった。霊斗は幻真に刀を渡す。


「……構えろ、強化は全て解いとけ。俺も解く。ここは、ただの一本真剣勝負だ」

「……あんたをいつか超えてみせる!」


 幻真はそう叫びながら霊斗へ走る。

 霊斗はそれに対して幻真を待ち構える姿勢を崩さないまま、静かに自らへ駆け寄る幻真を見つめた。

 幻真は、その刀を振り下ろす──だが、その刀は霊斗の二本指に受け止められた。──真剣白刃取り。ピクリともしないそれに、幻真は焦りを隠せない様子で霊斗を見つめる。


「いつかは超えろ。だが。今は俺のターンだ」


 霊斗は嗜虐的な笑みを浮かべながら、右手とその先にある刀を振るった。


◇◆◇◆◇


「……アレが、辻斬り異変?」


 桜と白刃、武製の目前にあるのは真の絶望。

 桜たちの前に霊斗によって助太刀として現れた傭兵の軍勢は、なすすべなく圧倒的速度によって倒されていく。

 傭兵たちを殺す者の姿は視認できない。それほどの速度であるというのか。


「くそッ! どうなってやが、ギャッ!」


 傭兵は斬られ、桜たちの目の前に倒れた。


「……わざととしか思えぬな。この惨い景色を見せつける為に、わざとこれだけの軍勢を加勢として呼んで、わざと私たちを襲わないでいるようだ」

「……そうね。あの人たちを助けるわよ!」

「承った!」


 桜と白刃は次々となすすべなく殺されていく傭兵を助けるべく、その軍勢の中に飛び込んでいく。

 不意に、桜の気配察知が異質な何かを捉えた。


「そこだっ!」


 桜は捉えた標的に向けて、クナイを投げつける。だが、次の瞬間には桜の肉体は容赦なく断ち切られた。


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」


 桜ですら捉えられず、再生の追いつかないあまりの速さ。常に斬られ続ける痛みに絶叫する桜を助けるべく白刃は刀を呼び出し、それを地面から生やす。


「クッ!」


 次の瞬間には白刃が標的となった。白刃は刀で身を包むが、その刀すら超えて白刃自身に折れた刀を伴った威力の剣がぶつけられる。


「殿……!」


 吹き飛ばされ、さらに自らに刀の切っ先が向けられたことを察した白刃は、死を覚悟した。

 その次の瞬間、白刃の目の前に武製が立ちふさがった。


「……!」


 刀に貫かれながらも、振り返って白刃に向けてグッドサインを送った武製は、自らを貫いた刃の持ち主の襟首を掴……もうとして、既にその男が刀を捨てたことに気がついた。


「……!」


 武製は桜に迫るその男に対して大量の鎖を、桜の目の前には巨大な盾のような壁を出現させた。

 男は身軽にその鎖を避けながら、それでもなお桜へと迫る。


「チッ!」


 桜はその男に向けて剣を振ろうとするが、それよりも速く男は桜の目の前の壁を足場に、高く跳躍した。

 その状態のまま、男は武製に向けて上から剣を突き立てようとするが、そうする前に男は桜によって蹴り飛ばされた。


「チッ! 殺りきれなかった!」

「拙者が仕留める!」


 白刃はそう言うと、居合斬りの姿勢で桜の蹴りの衝撃によって飛び込んでくる男を迎撃しようとした。

 だが、男はその居合斬りを刀で受け、逆に白刃を一突きにする。


「ガフッ……!」

「白刃! ……おのれ。よくも、よくも白刃を─────!!」


 狐の少女の瞳は紅く染まり、その咆哮は天を衝いた。

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