第20話『始まりは唐突に』
今回から新編突入です。
それは、あまりにも唐突だった。
博麗神社の屋根が突き破られるような音がして、今までの喧騒は一瞬でピタリと止まった。
その直後、音の元へみんなで一斉に駆け出す。
「なんだおい、襲撃か!?」
「可能性はあるが……俺たちに挑もうなんて奴、相当だぞ!?」
大和がそう言うが、零は一瞬だけ難しそうな顔をして、神姫に確認を取る。
「……そうですね、可能性はあります」
「何が起こっているかわかるのか!?」
「ああ。言ってみれば……こいつは、後処理だ」
「後処理ぃ?」
「おう。おそらく、カオスの再臨によって世界の"何か"が変化した」
零がそう言っている間にも、屋根が突き破られた部屋にたどり着いた。……ここは……!
「どうした大和、顔色が悪いぞ」
「考えたくはないが……この場所をワザと選んだんだとすれば、相当厄介な敵だ」
大和はそう言いながらも、襖を勢いよく開けた。
「何者だ! って……お前は!」
「へっ、待ってたぜ……。犯人はもう行っちまった」
「お前は……!」
全員の目が、驚愕に見開かれる。
なぜなら……その男は、さっき死んだという話を聞いたばかりなのだから。
「久しぶり……いや、はじめまして、と言うべきか。俺は博麗霊斗。しがない一流救世主だ」
「霊斗……! でもお前、なんでここに? ていうかお前、生きてたのかよ!?」
「そうだな……それはそのうち話そう。それより、お前らにはとある任務を遂行してもらう。……今この幻想郷は、異変が大量に発生している。それを解決してもらいたい」
「異変?」
霊斗の言葉に、みんなが一斉に首をひねる。
「異変なんて、どこで起こってるんだ? 全然影響がないじゃねぇか」
「そうだな……お前らはここを拠点にしてるから知らねぇのか。今現在、主要な異変は3つ。南の里の魔女裁判の異変、中央街の辻斬り異変、東町にあるバベルの塔に施されていた封印の崩壊だ。それ以外にも、小さな異変はポツポツと発生している」
「辻斬り、魔女裁判、封印の破壊ねぇ……」
海斗の疑問に答えた霊斗の話を聞いた終作は、面白がるように目を細めた。
「今から、このメンバーを5チームに分ける。1チームは辻斬りの調査及び原因究明、できれば解決もしてほしい。1チームは魔女裁判の仲裁、停止。1チームは封印の調査だが……これは本当に強大な異変だ、解決はしなくていい。調査が終わり次第、速やかに戻って作戦を練る。あとは拠点となる博麗神社を守るチーム、小さな異変を解決して回るチームだ。チームはこちらで決めてもいいか?」
霊斗の問いに、アルマがだらけながら答える。
「ま、もめるのも面倒だし、考えるのも面倒クセェ。それが適切だろうなぁ」
「了解。じゃあ、勝手にチームを組み立てて行くぞ」
霊斗は一瞬だけ考えると、何もない空間からスケッチブックと鉛筆を出現させ、チームを書き込んでいった。
「じゃあAチーム、辻斬り異変。これは桜、白刃、シルク、あと武製真達」
「武製真達? 誰だそりゃ」
「なんだ、言ってねぇのかよ。自己紹介は……できねぇか。しゃーねぇ、じゃあ教えてやる。こいつは武製真達。ありとあらゆる窮極の1、を極めたものだ」
「へぇ……。強そうだな」
「ああ、俺たちと同じバケモンクラスだ」
霊斗はそう言いながらも、次のチームを張り出した。
「次は魔女裁判異変のBチーム。これは神姫、磔、アルマ、パルスィだ。比較的穏便にことを済ませられる奴を選んだつもりだが……」
「なんで俺も?」
「お前ならいけるかなって。んじゃ、次のチームを発表するぞ」
自らが指名されたことに驚きを隠せない磔が霊斗に聞く。霊斗はその質問に適当に返し、無理やり話を変えた。
「……なんか。霊斗じゃないっぽいな」
「そうか? 俺は分かんねえが」
「話してると分かんなくなるぞー。んじゃあ、次だ。次はCチーム、バベルの塔。これは終作、幻真、優一に頼みたい」
ひそりと磔が海斗と話すが、霊斗はそれを注意しながら次のチームを話した。
そのチームの内容に、今度は幻真が先ほどの磔同様に手を挙げた。
「え、俺かよ? この異変は一番大変なんだろ? だったら他の奴らに任せた方が……」
「お前が適任なのさ。やれるやれる。んじゃ、残りはあとで話す。今言ったメンバーは地図は渡すから、頑張ってくれ」
霊斗はそう無理やりに突き放すと、名前を呼ばれた全員を送り出した。
◇◆◇◆◇
──Aチーム、辻斬り異変
「うーん……なんだか今日の霊斗は変だったわね」
「そうでござるな。なんというか……武人であった彼の者とは、様子というか、精神が違うというか……」
「やっぱり白刃もそう感じる? 変だったわよねぇ。なんていうか……思いやりみたいなのもなかったし」
桜はそう言って、ため息をついた。
白刃はそれにコクリと頷きながら、そう言えばと思い出したように話を切り出す。
「……そういえば桜殿。貴殿は霊斗殿がいかにして死んだのか知っておるのか?」
「いや、知らないけど。どうしたのよ、急に」
「いえ。霊斗殿について、知らないことも多くてだな」
「まあ、なんか色々と複雑なことになってるわよね。死んでるのか死んでないのかもはっきりしないし」
桜がそう言った次の瞬間、山の奥から巨大な茶色い街が少しづつ見えてきた。
「あそこが今回の目的地……この世界の幻想郷の都、中央の街ね。……ところで、シルクは? 武製、シルクは?」
「……(否)」
「知らないのね。……ま、あんな変態別にいいわ。行きましょう」
◇◆◇◆◇
──Bチーム、魔女裁判異変
「見えてきましたね」
「うーん……なんで俺なんだ」
「ケケッ。まだ言ってんのか? いつまでもそんなだとハゲるぞ」
「ハゲねぇよ! ふっさふさだわ! 大体、お前らは感情を操れるし、神姫さんは人心掌握なんて簡単に出来そうだからいいよな! 俺なんて今回の件についてはなんもできねぇぞ!? 大体、今日の霊斗はなんなんだ! 俺の世界の霊斗とは全然違うぞ!」
磔のその言葉に、それはその通りだと一同は頷いた。
「確かに変だったわね。なんていうか……私たちに近いものがある気がするわ」
「そうですね。もう私の中である程度の推論は立っていますが……かの名探偵シャーロックホームズ曰く、推理が確定していないのに話すのはあまり良くないそうです。私も同感ですが……難儀なものですね」
そう言って、神姫は悲しく笑った。
「……そういえばあんた、零と一緒じゃなくてよかったの? 私はアルマと別々なんて嫌なんだけど……」
「私たちはそんな状態、とうの昔に卒業してますよ。お互いを信頼してるからこそ、安心して送り出せます」
「なるほど……。ねぇ、アルマはどう思う?」
「ギヒッ。俺ァパルスィとずっと一緒にいたいぜ?」
「……じゃあ、このままでもいっか」
「そうですね、それも1つだと思いますよ。……磔さん、元気出してください。何とかなります」
磔は自分の世界のことを思い出しながらも、神姫の言葉に勇気付けられる。
「……それは、未来予知の結果ですか?」
「いえ、ただの気休めです。けど、磔さんの豊姫や依姫を想う気持ちは本物ですし、お互いに愛し合ってますよね。なら、大丈夫です」
「……はは。やっぱり、神姫さんはすごいな。あ、そろそろ見えてきましたね」
「あれが……」
朝日が昇り始め、磔たちの目前には巨大な街のような村のような景色が広がっていた。