謹賀新年与太話ー1『紅魔館の不倫男』
今回はちょっと、色々とお見苦しい回です。申し訳ない……。
「おい大和ぉ! なんかおもしれー話ねぇのかよ!?」
「俺かよ!? 一応言っとくが俺はひどいぞ!」
んじゃま、ここは僕が一つしようかな。
「お? さっすがは作者さま、ってか!?」
まあ、そうだね。とは言っても、これは僕がどこかの世界のどこかで見た話さ。
お題目は『紅魔館の不倫男』。
この間の詫びも兼ねて、君たちの要求に全力で答えられるように、やらせてまらうとしよう。
◇◆◇◆◇
「あれ。美鈴じゃないか」
「あ! これはヴラド様、お久しぶりですね!」
主人公はヴラド・スカーレット。とある世界の紅魔館の女主人の姉にして、真祖の吸血鬼さ。
そんな彼が話しかけたのは、紅魔館の赤い美女門番、紅美鈴。チャイナドレスに身を包んだ、非常に魅力的な女性さ。
「まぁな。今回のお勤めは長かったぜ、まったく……。それよりさ、今も花は育ててるかい?」
「ええ。あ、そうだ! この間ヴラド様に頂いたあの綺麗なお花! 見事に咲き誇りましたよ! 花壇にマリーゴールドとパンジーと一緒に植えたので、ぜひ見ていってください!」
「そうだね。美鈴、いつものように花のことを教えながら案内してくれるかい?」
「はい、私でよければ!」
花のように可憐に笑う美女、紅美鈴をとなりに侍らせ、ヴラドは花壇へと向かった。
紅美鈴のために作られた、小さなレンガの花壇。そこは美しい花々が咲き誇り、まさに百花繚乱の景色だったそうだ。
だが、そんな花の可愛らしさも紅美鈴の前では雑草と同じ。そんな花をもヴラドは慈しみながら、さりげなく美鈴の体に手を伸ばす。
美鈴はなんでもなさそうにヴラドにその身を委ねる。一通り花の説明が終わったところで、ヴラドの方に向き直った。女性にしては比較的高身長の彼女だが、ヴラドの身長はさらに高い。
そんなヴラドを見上げながら、美鈴は昂ぶったのか抱きつく。ヴラドはそんな美鈴を抱きしめ、その唇に自らの唇を重ね合わせた。
ヴラドはあまり深くは口付けせずに唇を外すと胸の前で手を重ねる美鈴に別れを言って、聳え立つ館へと歩いていった。
──なにかを伝えようとする美鈴の姿に、微塵も気づかずに。
◇◆◇◆◇
「やぁ、妹よ! 今帰ったよ!」
「あら、兄様。風呂の準備ができているわ、入っておいて」
「ああ、レミリア! そんな素っ気ない態度をとらないでくれよ」
「お兄様! お姉様のことなんて放っておいて、いきましょ!」
「ああ、フラン、君はいつも可愛いな。そうだね……って、どこに行くんだい?」
「もちろんお風呂よ!」
その言葉にレミリアとヴラドを一瞬固まるが、すぐに復帰してワタワタと少し慌て始める。
「どうしてだい? フラン、君も分かるだろう。君がもうお兄ちゃんと一緒に風呂に入るような年齢じゃないことくらいは。みんな一人で入っているし、フランも一人で入れるだろう?」
「うん。友達はみんな一人で入ってるわ。でも、お兄様は偶に美鈴と入ってるじゃない! この間は咲夜とも入っていたわ!」
なんということでしょう! ヴラドの悪行は、ヴラドのことを敬愛している妹君にバレていたのです!
「な、なんの話だい?」
「……兄様。ちょっと、お話しがありますわ。フラン、パチェと遊んでなさい」
「はーい!」
姉と違って素直なフランは、姉の凄みに対して逃げるが吉、と図書館の元へ走っていきました。
「さて。お兄様、これはどういうこと?」
「その前に……咲夜は?」
「あの子なら今は休暇中よ。明日帰ってくるから、それまでに話を終わらせるわよ」
怒るレミリアの前、真祖の吸血鬼ヴラドは正座をさせられておったとな。
「どういうこと?」
「どういうこと……というのは?」
「はぁ、尋問の意図すらも汲み取れないのね。まず、一緒に入ったのは事実なのよね」
「……」
「黙秘は肯定と受け取るわ。その上で、どういう目的で入ったの? 体を洗わせるため? 奉仕させるため?」
「……」
「はぁ。全く、ありえないわ。私、言ったわよね。あなたがここで暮らすのはいいけど、くれぐれも面倒ごとだけは起こすな、と」
「……ああ、言われたな」
すごい剣幕でまくしたてるレミリアに、流石のヴラドもタジタジだったそうな。
「……子供でもできてたらどうするの?」
「紅魔館で育てるしかないだろ」
「そんな話をしてるんじゃないわ。あなたは真祖なのよ。その子供となれば、その格は私やフランとほとんど一緒だわ。いいえ、私やフラン以上に高いわよ。後継者争いなんてしたくないのよ」
「……そうだな、軽はずみだった。すまなかった」
未来を見通して行動していたレミリアに、それをぶち壊しにしかねない軽はずみな行動を取ったヴラドは謝罪する。
「……ふん。謝って済む事態ならいいんだけどね」
なんてレミリアはそう吐き捨てるように言うと、自分の部屋へと戻っていった。
◇◆◇◆◇
翌日。
「申し訳ありません、お嬢様」
「あら。どうしたのかしら、咲夜」
「思いのほか、進行が早かったので早めにご相談をと思いまして。……その、子供を、孕んだようなのです」
「ふぅん……相手は?」
「その……非常に申し上げ難いのですが……ヴラド様……です」
案の定、十六夜咲夜は子を孕んでいた。
そしてその父親がヴラドだと告白した瞬間。咲夜とレミリアが話していた部屋に、美鈴が入ってきた。
「……えと」
「あら、美鈴。どうしたのかしら」
「その……私も、子供ができたみたいで。……その、ごめんなさい!」
「待ちなさい、美鈴」
泣きながら走って逃げようとする美鈴を引き止め、レミリアはニヤリと口角を釣り上げる。
「家族会議よ」
◇◆◇◆◇
「……はぁ。こうなるとは思ったけど……まあ、事態も事態だから、進行は私、パチュリーノーレッジがやらせてもらうわ。とりあえずヴラド、あんた自分の首刎ねなさい」
「いきなり!?」
「とりあえず、状況を説明するわ。十六夜咲夜と紅美鈴の妊娠が同時に判明した。そして……父親は、どちらもヴラド・スカーレット。異存は?」
「ないわ。続けなさい」
レミリアの言葉に、パチュリーは頷いて口を開いた。
「ヴラドの罪は不倫、不純異性交遊よ。この家をかき乱すようなその行いは万死に値する」
「え、ちょ、そんなに……」
「そんなによ。しばらくは……昔のフランと同じ道を辿ってもらうから。許可が降りるまでその身柄は拘束させてもらうわ。咲夜と美鈴の処遇はどうする?」
「……2人の子は、私たちが一丸となって責任を持って育てるわ。2人は、咲夜と美鈴は心苦しいかもしれないけど……生まれてくる子も、あなた達も、もう家族なんだから」
レミリアがそう言った瞬間、美鈴はブワァッと涙をボロボロと零した。
「ちょっと!? なんで泣くのよ!?」
「ありがたくて……追い出されるのを覚悟してたので……ありがとうございますぅぅ……」
「よしよし、泣かないの」
泣き出した美鈴を慰めて、紅魔館の結束はより強くなったとか。
そうそう、紅魔館にはこんな怪談話がある。
夜中に地下幽閉室の前に行くと、毎日ハァハァと何かに興奮する声が聞こえるとか。
◇◆◇◆◇
「……おしまい」
「ヴラド糞だな。なんだこれ」
「しょうがないだろ、無理やり1話に纏めたんだ。本当はこんな纏まらずに、もっとぐっちゃぐちゃになる予定だったんだ」
「……とりあえず言わせてもらうわね」
「どうぞ」
「ヴラド、やっぱりクソね」
「そうだね……。否定はできないな」
なんて会話をしていると、突然屋根がつきやぶられるような音がした。