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第19話『混沌を分かつ者』

「……零。あの後、何があったんだ。状況を説明してくれ」

「ああ、そうだな。アーサー、クー・フーリン、ヘラクレス、ギルガメッシュ。彼らの協力もあり、俺たちはカオスの座する元へたどり着いた。だが……」


 白の問いに、零は頷きながら答える。


「呆気なく、敗北した」

「力の差は、多分そこまでないが……俺たちがいたのは、カオスによって生み出された空間だった。そのせいか、向こうさんは準備もバッチリでな。なんとかシルクを助け出すも、俺たちは全員カオスの攻撃によって倒された。シルクがその直前で霊衣を展開、発動してこんな風になったんだ」


 零が一旦話を切り、アルマがその続きを話す。

 内容は理解できる。が……カオスを倒すとは意気込んでも、その隙が見当たらない。


 少し悩んでいると、大和と白界が戦士達の目の前に出現した。


「……みんな、大丈夫そうだな。行ってけるか?」

「おう!」


 大和と白界の言葉に全員が頷き、混沌への道を開いた。


◇◆◇◆◇


 蠢く混沌が、破裂した。

 世界に突如として湧いた彼ら……大和達は、目の前に君臨する混沌に刃を向ける。


「なぜだ……なぜ貴様らは、ここにいる!? 否……なぜ貴様らは、立ち上がれる!!」

「御託はいい。ケリをつけるぞ、混沌」

「フ……フハハハハハハハ!! 何を言うかと思えば……天と地を分かつことのできない貴様らに何ができるというのだ!」

「だとよ。じゃあ、見せてやるよ、俺らの力」


 零がそう言うと、指をパチンと鳴らす。

 次の瞬間、謎の青年によって大量の赤い武器が出現する。それは各々の手に収まり、次第に回転して魔力を貯め始める。


「貴様……それはッ!」

「これなるは天地を分かつ剣。まあ、言わずとも分かるだろうが」

「くっ……こんなところでやられてたまるか!」


 混沌はそう叫びながら、その拳を振るう。


「柔い」


 次の瞬間、その拳は終作の持つ赤い武器から放たれる一撃によって肩から切り裂かれ地へと堕ちる。


「ぐうっ……!」

「天よ昇れ、地よ降れ。星よ、進み給え」


 その直後、混沌の全身はその場の混沌を除く全員によって放たれた大量の赤き天地を乖離する剣によって穿たれた。

 その中心から、一つの人影が堕ちる。


「……お前が、カオスの"核"か」

「如何にも。我が死んだ以上、この星は速やかに元の姿に戻るだろう。だが……このままでは、死んでも死にきれん。我が切望するものを、貴様らは分かるはずだ」

「原初の王の割には、随分と人間くさいな。だが、いいだろう。そこまで言うなら、俺が相手をしてやる」


 零はそう言って混沌からの挑戦に名乗りをあげると、混沌と零だけが入ることの許される世界を創り出した。


◇◆◇◆◇


 どこまでも、平坦な空間。大地はどこまでも続くコンクリート以外に一切存在せず、天空はただただ蒼い。

 そんな何もない場所に、2人は現れていた。


「根源の遣か。相手にとって不足無し」

「こっちも、混沌にして根源たる者が相手とあらば手を抜いてはいられないな」


 そう言って、零は紅い剣を手に取る。

 それと同時に、混沌も蒼い刀を出現させた。


「お前が強いことは知ってる。だから、全力だ」

「ふむ。悪くない」


 零と混沌はそれだけ言葉を交わすと、同時に剣を振るう。互いに尊大であり、自分の能力を信ずる故に一切の躊躇はない。


 剣と剣がぶつかり、一瞬の静止の後に再び互いの剣がぶつかる。


「貴様……やたら強いが、我流だな」

「まあ、否定はしねぇ。そうだな、技術に関しちゃてんで駄目だ。我流って言うのも烏滸がましい。だが……」


 零は霊衣を纏い、そのコートを白く染め上げる。次の瞬間、零の動きはがむしゃらだったものから急激に動きが変わり、その技術はまさに達人が如き力を得る。


「ふむ……なるほど。技術は七割程度と言ったところか。未だ十割に達せぬ、現在に生きる人の身からしたらそれでも実に脅威だろうが」

「誉め言葉と受け取っておこうか」


 零と混沌は軽口を叩きあいながら、止まることなく互いの剣を振るう。

 次の瞬間、混沌の足元から光の砲撃が放たれる。

 軌跡『流星の尾』。スペルを宣言する暇すらも与えられない中で放たれたそのマスパ状の一撃は、混沌を飲み込んでなお止まない。


 次の瞬間、零の首が切り落とされる。


「貴様……この程度か。回復封じの魔術に、貴様の捉えきれなかった者の再現。この程度で上手くいくとは……まあ、思ってないがな」

「へえ。よく知ってんな、あの人のこと」

「我は全なるぞ。知らぬわけがなかろう」


 そう言いながら、混沌は現れた零に対して再び剣を構える。

 過去に零が気配を感知することのできなかったある人物の力を引き出した混沌は、その力をしまうと身体能力を強化し、その上にさらに力を纏う。


 零の一撃は混沌の張った結界に防がれ、次の瞬間零の全身は結界の刃に埋め尽くされる。

 結界が消えると同時に再び現れた零に対して、混沌は剣の切っ先を向けた。


「貴様のバックアップ……いくつあるのだ。キリがない。だが、必ずや貴様を討ち果たして見せようぞ」

「へぇ。楽しみにしてるぜ」


 混沌はもう1人現れた零に対して、宣戦布告をすると同時に零に対して一直線に向かっていく。

 零は能力の自己強化によってそのスピードに対応しきり、混沌の攻撃を受け止める。


 次の瞬間、零の全身に向かって一斉に槍の穂先が向かっていく。


「おっと」


 零はそれを後ろに退がることで回避するとそのまま手を銃の形にし、混沌へその銃口を向ける。


「ばーん!」


 零の手から放たれた光の銃弾を混沌は自身の刀で真っ二つに裂き、低い姿勢で零へと突撃していく。


「こりゃお見事」


 零はバク転と浮遊の合わせ技でその突撃を回避すると、その状態のまま自身の前方に大量の弾幕を放出する。

 混沌は最低限を刀で受け流し、多少のかすり傷を受けながらも零へ向かっていく。


「追いかけっこかよ」


 なんて零は悪態をつきながらも、的確に自らの弱点である肉弾戦に持ち込もうとする混沌に向かって刀を構える。


「そんなにやりたいなら受けてやる」


 その直後、混沌の肩から腰にかけて、巨大な切り傷が生まれる。


「見事……」

「安らかに、眠れ」


 いつのまにか混沌の背後に転移した零はそう言うと自らの剣、紅夜を鞘に収め、空間の狭間にしまった。

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