幕間─18話『己がメリクリ③』
今回から半分ぐらい本編に戻ってきます。クリスマス終わっちゃったよ…。
幻真達が行った後。
幽々子と白玉楼に忍び込んだ長命は、2人で盃を交わす。
「ふふ……死人と盃を交わすなんて、あなたも物好きなヒトね」
「ヒトって言っていいのか。ま、いいさ。坂本龍馬が自らの誕生日に死んだように、例え目出度い日でも悲しい奴ぁいるのさ」
「なんの話?」
「忘れてくれ、なんでもねぇ。俺はお前と飲みたいからここに来た、それだけで十分だろう?」
「あら、嬉しいこと言ってくれるわね」
そう言って、冥界の亡霊姫はクスクスと笑う。
長命もクツクツと笑いながら、自らの肉体に本来は不要なものである酒を流し込む。
「ごめんなさいね。あいにく、冥界じゃ金属なんて手に入らないの」
「気にすることぁないさ。俺が来たいから来たっつってんだろ?」
「そう……」
少し伏し目がちに、申し訳なさそうにそう言った幽々子に対して、長命はあっけらかんと笑う。
「俺みたいな気づいている奴の総意だが……楽しむときゃあ楽しんだかないと、な」
「あら、都合のいいこと。それで後回しにした課題に苦しめられるところまで読めたわ」
「その後に結局、何とかなるのがお伽話の世界なのさ」
「現実をお伽話と、そういうの?」
「変わらないさ。誰が死のうと、世界は一定の形を保ち続ける。生きてるのが害って輩はいるけどな」
そう言った長命に、幽々子は哀しそうな顔で訴えかけた。
「……今日のあなたは、少しだけ。ほんの少しだけ……いつもより、なにかを悟ってるわ。悟りすぎよ」
「俺が"世界の真実"に気づいたのも、アレから時間が経って、割と初めの方だからな」
「……世界の真実?」
「ああ。まあ、お前には関係のないことだよ、幽々子。今は……君だけを、感じさせてくれ」
長命の言葉に、幽々子は戸惑いを隠せないながらも長命のその言葉を受け入れた。
世界は暗転し、亡霊姫は今洛陽に到る──。
◇◆◇◆◇
主人が、私を振るう。
それが最下級の九十九神である私の、唯一の至福であった。
ただ、我が主人は私を振るう。時折、私を丁寧に手入れしながら、慈しんでくれる。
ああ。複雑な感情を得てしまってからは得られない喜びだ。きっと、これこそが私の求めていたモノなのだ。
ただ主人が『最強』の名をほしいままにし、ただ無心で私だけを宝として扱っていた時代。
主人が生まれ変わる前の、あの頃。
その頃こそが主人と私……当時は名もなき剣だった、姫鶴白刃にとって最も幸せであったのだろう。
その景色を、何度も見ている。いつまでも、ふわふわと漂う浮遊感の中で繰り返していた。
一つ一つ、始めるごとに少し景色は変わる。けど、どの世界でも主人は私を振るったし、どの世界でもその結末は変わらなかった。
ならば……なぜ、私は今、こんなにも虚しいのだろうか。心が苦しいのだろうか。
主人を慕い、その命に従うだけではなく。
主人とともに歩み、主人とともに感じ、主人を支え、時に叱責し、主人を主人で居させることがしたいのだろうか。
それは、私の幸せではないのだろう。けれど……私が、それをしたくて、それをこそ望んでいたのだろう。
クリスマスは、望みのものを送られる。のであれば……私は、人の道を歩むというこの上ない不幸をこそ、望もう。
◇◆◇◆◇
「ハハッ! アハハハハハ!! 楽しい、なぜこんなも……楽しいんだ!」
そう言いながら、摩天楼 辰は悠久の繰り返しを始める。殺して、屠って、殺して、屠って、殺して、殺して、殺して殺して殺し殺し殺殺殺殺……。
殺戮こそが彼の者の快楽。責務を果たし、その能を収め、ひたすらに殺す路を歩む。
イバラの道すら生温い。我にこそ……殺戮と地獄の道を。修羅の道すら、彼の快楽と愉悦にすぎない。
さあ。神を、殺そう。
◇◆◇◆◇
何度も同じ夢を見た。
俺の手のひらから、俺の大切なものをつまみ出して行く夢だった。
彼女は、誰かのものであり。彼は、俺を愛すことはない。
拷問だ。やめてくれ。泣き叫ぶ言葉は通じない。何度同じ路を歩んだことか。
神などいたなら……俺は、博麗海斗は、神を許さない。
◇◆◇◆◇
何もない虚空の狭間。そこで謎の青年とシルクは、会話をしていた。一方が思考を読み取るだけの会話と呼べるかも怪しいものだが。
「……」
「ああ、ゴメン。さすがに君には、なんの略歴もない君には、幸せを見せることはできないんだ」
「……」
「え? あんなのが幸せなのかって? そりゃあ、そうだろ。何を言ってるんだい。え、クリスマスで統一しろ? いやいや、僕はクリスマス自体はそこまで重要視してないのさ。でも、ある程度集中させた方がやりやすいからね。あとはまあ……御都合主義、ってやつ?」
「……」
「馬海斗? アレは僕が嫌いなだけさ。まあ嫌がらせだね」
「……」
「じゃあ僕の結論を語ろうか。僕らは結局、混沌には勝てなかった。だから、混沌が敵として君臨しない世界を作ったのさ。混沌なんてものは皆の知識には無く、ファミルも存在しない。それでいいじゃないか」
◇◆◇◆◇
「ねえ、──。いつまで逃げるつもり?」
桜の問いに、僕は少し困った。右頬をポリポリと掻き、薄苦笑いをただ浮かべるだけ。
「……そろそろ」
◇◆◇◆◇
「置いてきた課題を解決しなきゃいけない頃よね。ねえ、長命。私はあなたにサンタさんになって欲しいの。ほしいのは……気持ちよく終われるクリスマスよ」
「……そうだな。行くか。ありがとう、幽々子。目を覚めさせくれて」
◇◆◇◆◇
愛する妻の顔を見る……そこには、妻の顔などなかった。
妻だけではない。息子も、娘も、全ての顔が黒く塗りつぶされたように映っている。
ああ、分かってるさ。これがニセモノだっていうのは。
俺が行く覚悟を決めて立ち上がると、俺の妻だったものは哀しげな顔でこちらを見た。
「……行くのね」
「ああ。次元妖怪、大丈優一。幻想郷をあるべき姿に戻す時だ」
「……行ってらっしゃい」
その声は、その姿は、間違いなく俺の最愛の妻のものだった。けど、これ以上この場所にいたら……間違いなく、俺の心は侵される。
俺は次元の穴を開いて、今回の敵の元に向かった。
◇◆◇◆◇
妖夢に買ってあげた刀を、なんとなく手にとって見た。その瞬間、刀は大きな力を発生させる。
「え、幻真さん!?」
「そっか……全部、思い出した」
俺はその刀にどこからともなく呪符を貼り付けると、それはみるみるうちに刀の九十九神……姫鶴白刃の姿に変化する。
「……幻真殿」
「白刃、行こう。……妖夢ちゃん、楽しかったよ」
俺は虚の幸せすらも切り捨てて、前に進んで行く。
◇◆◇◆◇
「ねえ、シルク。いつまで逃げるつもり?」
桜の問いに、シルクは少し困った様子で右頬をポリポリと掻き、薄苦笑いをただ浮かべるだけだった。
「……そろそろ、終わりにしなさいよ」
世界が、歪んだ。次の瞬間、シルクと謎の青年の元、虚空の狭間に大量の戦士たちが現れる。
桜や終作も、同時にそこへ転移する。
「……僕らは結局、混沌には勝てなかった。だから混沌が敵として君臨しない世界を作ったのさ。混沌なんてものは皆の知識には無く、ファミルも存在しない。それでいいじゃないか」
「いいわけねぇだろうが!!」
誰が発したか、その意思は、叫びは、世界を──即ち、混沌を破壊した。




